31話 無慈悲な救い
妖怪の匙加減が顕著に現れる部分ですかね。來嘛羅と雪姫が人間に対し手を下す。次の話も雪姫の本当の恐ろしさが垣間見えます。かなり怖い戦い方ですね。
あと2話投稿します!
來嘛羅は動く。『空間転移』を行い、宵河に転移する。自身の姿を『妖怪変化』である人物へ擬態する。
「やれやれ。こんな忌み嫌われる服をしおって。論外じゃが仕方がない。口調も全て真似ぬと不味いじゃろう。男言葉は苦手なのじゃがな…」
他者に擬態したのに文句を呟く來嘛羅はある地下空間に入る。
その姿を見た者達は酷く怯えた。自分で首を絞めようとする者。失禁して立つ力を失う者。髪をむしり殺意を向ける者。どれも目を疑いたくなる光景だ。それほどまでに、秋水によって虐げられてきたのだ。
支配して後は死ぬまで飼い殺し。いや、それ以上の扱いを受けていた。まさに畜生に等しい扱いを受けている彼らが地下空間に閉じ込められている。
「なあオマエら、オレ様が怖いか?」
來嘛羅は声帯も変え、彼らに問う。ここまで酷い仕打ちがよくできるな、と。そう彼らに同情した。
妖怪には様々な感情を抱く。それは人間と変わらず、人間に勝るとも劣らない。
妖怪は人間を餌としか見ない。それは間違ってはいないし、それを今更否定もしない。
しかし、そんな妖怪だって罪悪感を抱く。苦しむ者、それも人間であるならば尚更だ。
人間は餌である以前に………。
「オレがオマエらの力が欲しくなってな。試したいことがあるんだよ。オマエらには死んで貰う」
來嘛羅の言葉に周りが騒つく。
老若男女が閉じ込められている地下は狭く、劣悪な状況で数十年生きる者もいる。秋水に認められた人間以外はこの地下から出ることができない。自由などいつ見たかという者までいる。
來嘛羅は優しい言葉を投げかけることはしない。言葉によって彼らを変えてしまう恐れがある。優しさが仇となり、万が一にも躊躇うことがあるからだ。
完璧な人間も妖怪も存在する筈がなく、來嘛羅も感情に敏感な妖怪なのである。幸助に抱く気持ちの真意は不明だが、少なくとも、九尾狐として人間を食らった時ですら、苦痛を与えぬように全てを奪った。
他者を無碍に愚弄するなど、來嘛羅には許せぬ仁義。
秋水の弱点を抉るために仕方がなく。そして、幸助達に後を託すために。
せめて、地獄を見ることなく永遠に自分の中で眠ってくれるように……。
「……じゃあな」
悲痛な思いを胸に抑え、次々と人間達の魂を食らっていく。手で触れた者は生命活動が途絶え、その場で倒れる。触って数秒で一人ずつ死んでいく光景は、人間達に強烈なものを与える。
「うわあああああ‼︎」
最期まで生にしがみつくかのように、耳を遮りたくなるような悲痛な叫び。
死にたくないとばかりに來嘛羅に襲いかかる者も数人はいた。
しかし、來嘛羅は心を鬼にして生を奪った。
「憎い人に殺される…でも、天国へ行けるなら、どうか……私を殺して下さい…」
泣きながら頭を垂れる者。その者にも容赦なく生を奪う。
加護を受けずに駒とされ、命尽きるまで自由を奪われる筈だった者達は皆、生涯を閉じた。
加護を受けていれば殺すことはできなかった。加護を望んで破棄を願う者、加護を授けた妖怪を一度殺すことのみで破棄が行える。
來嘛羅は姿を解除し、死体と化した肉体を丁重に扱う。
「すまぬな。じゃが、妾の中におれば永遠に幸せな夢を見れる。辛い目に遭い、地獄に堕とされるというのは酷かろう。家族に会えると良いな…」
静かに笑みを浮かべる來嘛羅の目には、僅かにつたう涙が光る。
涙を払い、その表情に夜叉が宿る。
「さて……監視の妖怪を皆殺しにするかの」
金瞳の目は狐目へと変わる。この状況に加担した妖怪を許すつもりはない。
天罰を下す時が来たに過ぎない。
來嘛羅は宵河の遥か上空に飛び、強力な結界を張った。逃げることも隠れることもできず、善と悪を選別する。
人数は20人。來嘛羅が天罰を与えるのは20人である。
地に舞い降り、1人目に問う。
「あ、あなた様は⁉︎」
「其方よ。何故人間を虐げられた?」
その者は驚いて答えられない。
答えを求めているわけでない。來嘛羅は心を探っているのだ。
その者が人間に抱く心は『不快』。
見抜いた後、來嘛羅は魂を砕いた。
「人間を蔑む行為は許さぬ。機嫌を損ねた者には改心するまで、その心を砕いてくれよう‼︎」
宵河ではこの日、20人の妖怪が魂を砕かれ、その魂は輪廻転生して記憶が全て消えたのだった。中には、元々人間だった妖怪も存在し、砕けた魂は地獄へ送られた。
來嘛羅は人を無碍に扱う行動原理を嫌う。人間界で伝承として恐れられた彼女は人間嫌いにはなれなかった。
人間を嫌うつもりならば、とうの昔に、全ての人間を滅ぼすためにその力を振るっていただろう。閻魔大王は人間嫌いに等しい憎しみを抱く。それ故、地獄から一度も出ることが許されていない。
人間界に思わぬ存在がいけば災いとしかならない。來嘛羅もその一人であったが、国を滅ぼすのではなく、国を思いのままに傾けたかったに過ぎない。自由奔放に国を傾けることは罪であるが、それは彼女の価値観では全く異なる。
本当に人間を滅ぼすのなら、その時は、妖怪の命も尽きてしまう。
人間を滅ぼすという考えを抱くのは、閻魔大王や他の太古に生きる妖怪などが該当する。
來嘛羅は覚悟する。
「妖界に相応しい新風が入り込んだ。妾は一石投じただけじゃ。妖怪が人間を助け、憎き人間を滅ぼすことで憂さ晴らしになったのじゃろう。これで閻魔も黙っておれぬ。さあ己の業を恨むのじゃな閻魔よ。人間を蔑ろにしようとする業こそが大罪だと知れ」
人間同士の争いが行われたのは初めてだった。來嘛羅は初めから仕込んでいたのだ。
幸助という人物を視た時から、この結果に持っていこうと上手く動いていたのである。
枷から解放された妖怪の恐ろしさ。それは未知なる恐怖の始まりでもあった……。
俺は雪姫と一緒に30分で結界に干渉し、結界を破壊した。
暗い地下はとても広い。妖都の地下だから、それ同等に広いんだとか。降りた俺は、雪姫と一緒に秋水の奴を探し始めた。
かなり前に地震のような揺れがあった。悟美が既に侵入していることを見ると俺達はとっくにバレてるだろう。
できれば妖怪に会いたくねえな。殺すのはしたくない。
音がよく響く地面なのか、建物がなくても遠くの音が聞こえる。
この感じは、悟美達が暴れてやがるな?この調子だと……。
「問題なさそうだなあいつ。紗夜は兎も角、悟美は心配する要素ねえしな」
「そうね。幸助、この近くに誰かが潜んでる。気を付けて」
「バッチリだぜ。上手く隠れているようだがこの場所よく聞こえるんだよ!出てこい‼︎」
俺は気付いてた。あまりにも冷たい視線を感じた。尋常じゃない気配と人間離れした正体。
「幸助、声出したら余計に悪い」
「おい!てめぇが秋水ならぶっ飛ばしてやる‼︎出てこいっ‼︎」
俺は隠れている場所だと思う方角に向かって叫んでみた。
相手が痺れ切らしたみたいで、柱の陰から姿を現した。俺は秋水だと期待した。
「君が幸助っていう人ね?随分ガキ畜生な人間なこと」
開口一番、俺は女に文句を言われた。
「その口ぶり、俺の敵だな?じゃあ相手してやるよ!」
刀剣を構え、相手の出方を見た。
「そうでした!貴方様は秋水様に殺されるべき方でした。楽にするために絞め殺すと致しましょう」
俺の体が鷲掴みされたように宙に浮いた。女は得意げに笑ってやがる。
「ぐっ!てめぇ…」
「大人しく瀕死になってくださいな。そして、秋水様の生贄となれば良くて」
「ぐあああああっっ‼︎」
俺は握り潰される痛みに叫んだ。叫びが女を興奮させるみたい。
「良いですわ!もう少しで…ふふふっ」
女が俺に油断しているうちに雪姫が奇襲を仕掛ける。静かに踏み込み、刀は直ぐ女の首に迫っていた。
これで一人……。
キィーンと何かに遮られた。雪姫が驚いている。
「残〜念。雪女が私を殺せると踏んでたのでしょう?しかし、雪女如きに背後を取られるぐらい、最初から考えてましたわ」
読まれていたみたいだ。
「なるほどね。読まれてしまったみたい」
「お好きな人間は死にますわ。ばいっば〜い!」
一気に力が強くなった気がした。不味い…。
「ふざけっ—あっ………」
「幸助っ⁉︎」
俺は何かに握り潰されてしまったのだ………。
「うわぁ、あっぶね!危うく死ぬところだったぜ」
だが、潰されたのは俺の分身だ。
『雪分身』を予め発動させておいて、俺は雪姫に用意して貰った『雪鏡』に潜ませて貰い、雪姫が女の背後を取った時は遥か奥まで走って向かっていたのだ。攻撃してたのは俺の『雪分身』で潰されたのは本体じゃない。
あんな力、俺じゃあ対抗できる気がしなかった。寧ろ、あいつの方が強えんじゃねえのか?
幸助に騙された女である名妓は激怒する。
「ガキの分際でこの私を騙しやがったな⁉︎あー!巫山戯ないでくれないわ!あんなガキに騙されただなんて知られたら大変だわ‼︎」
名妓は頭を掻きむしり、途轍もない苛立ちを見せる。目が充血するほど、名妓には屈辱的だった。
だが、それは名妓だけに限らない話だった。
雪姫も同じく激怒していたのだった。分身とはいえ、幸助が目の前で殺されかけたのに酷く怒っていた。一瞬の冷気によって、目に映る光景を氷景に変えた。
「人の子、あなたは私の大事な人を殺そうとした。しかも、幸助を子供扱いして罵倒した。無闇に人を殺そうとするその姿勢、私が一番嫌いな人種ね」
辺り一帯の気温が氷点下へ移行。名妓は寒さで体が震える。
「雪女…伝承の通り嫉妬深いわ。あんなガキ相手に欲情する妖怪なんてたかが知れてるわね。秋水様があんなガキを自分の手で殺したい訳、よく理解できませんわ。妖怪は恋に盲目という言葉がお似合いですわ。特に、雪女なんかは嫉妬のあまり人を殺して生気を奪い、赤子を人に渡して抱かせるとか馬鹿みたいですわ」
名妓は気を散らさせるために言葉を並べる。精神的に煽るように雪姫に聞かせ、こちらが有利になるように目論む。




