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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
妖都征圧阻止編
31/265

30話 頼りの綱の2人

紗夜が恐ろしくも強いです。言葉では分からないですが、この作品の中でも最も恐ろしい異能の持ち主です。なんの異能なのかは、暫くは明かしません。


読んでくださる方が多くなっているのが最近の嬉しいことです。オリジナル小説を多くの人に見ていただけているのが嬉しい限りです。一部は予定よりも早く投稿は終わるかと思います。今日は気が済むまで投稿します!


 閻魔大王の加護を授かった一人、秋水は幸助達の襲撃の数時間前に目覚めた。

「お目覚めですか秋水様?」

 洗面用具を持って寝室の隅で名妓が声をかける。

「チッ、閻魔の野郎がオレ様の力を増幅しやがった」

「それは…どういうことで?」

「知ったことかよ。とりあえず、何か起きるんだと思えばいいだろう」

 秋水は嫌な表情で名妓から強引に奪い、個室で顔を洗おうとする。

 突如、秋水に激しい痛みが襲う。脳を蝕むような痛みに、思わず洗面器にしがみつく。直接頭に声が響く。その声の主は秋水に与える。

『秋水よ。貴様にワシの力を与える』

「こ、この声は……閻魔の野郎か?」

『そうだ。今日、お前のところに人間と妖怪が攻めてくる。それに備え、ワシの力の一部をお前に与える代わりに、攻めてくる者を亡き者にせよ』

「いや、待て!今日なのか⁉︎支配はできるが殺すっていうのは…」

 こっちに来てから人間の扱いは駒として見下し、多くの人間を宵河に閉じ込めている。能力の増幅としての役割を担う。

 価値観は簡単に変えられるものではなく、秋水は慌てる。その言葉に動揺を見せ、再度確認してしまう。

『口答えするか秋水よ。本来ならば、地獄に送られる罪人。お前はワシの情けで迷い人として死の直前に転移させたに過ぎない。畜生と餓鬼を犯したお前を許した恩、忘れたわけではないな?』

「また脅しかよ。30年経った今なら良いだろうが!」

『30年で済む話ではない。お前が犯した業は数千年経とうが消えることはない。妖界で生きられるのはワシが居るからだ。逆らえばどうなるか?展開を知るお前なら理解はできよう…』

 秋水は握られてはならない弱味を握られている。窃盗と虐待による数多くの者に手をかけた過去を持つ。動物を弱者として見下す性格を持ち、弱い者なら容赦なく自分の物になるまで強調する歪んだ人間性に目覚めたのが秋水なのだ。

 罪を咎める筈の閻魔大王が秋水を匿った。この事実が、來嘛羅が憤懣する要因にもなった。

 そんな秋水でも、力の上下関係を強制させている。閻魔大王の加護により、罪の重さだけ大罪という名の首輪を付けられ、支配する力を持つ。

 更に、秋水に対する感情は『殺意』だ。異能の力を向上させ、本来引き出される力の限界を超えている。

『ワシの力を持て』

 空間が捻れた場所から剣と首輪が落ちる。

『力を使え。でなければ、お前の命は地獄へ引きずり込む』

 閻魔大王の《契約》が発動し、強制的に契約を課すことができる。今、秋水に課された契約は『力を与える代わりに、力を使わなければ地獄に堕とす』というものである。

 つまり、秋水が与えられた力を使わなければ、本当の死として地獄へ堕ちるのだ。

 躊躇う意思はなく、秋水は力を貰った。

 地獄に蔓延る怨念が篭った呪剣。禍々しい力を帯びた首輪。しかし、秋水はある危険を感じた。

 首輪だけ、懐にしまった……。




 妖都に着いた俺達は地下の在処を探っていた。

 やけに静まった妖都の散策は危険だが、全員で分かれて探していた。烏天狗と女天狗は西と東で分かれ上空から。悟美と紗夜は北を。俺と雪姫で南を探す。

 俺も足と体力はかなり上がったので、全速疾走しても疲れねえ。寧ろ、走るのが退屈に思えるくらいだぜ。

「見つからねえな。地下なら地面壊すとかで探せると思うんだが?」

「特殊な空間を組み込まれているから、地面をただ破壊するだけじゃ見つからない。化け狐が言ってたでしょ?」

「確かにな。何か方法とかねえのか?」

「……ちょっと試してみる」

 雪姫は立ち止まり、地面に手を置く。手を置いた場所から冷気が染み込み、地面を凍土へ凍結する。

 悟美と紗夜は地下へ通じる場所の箇所を見つけていた。

 悟美と紗夜は探しものには非常に敏感だ。嗅覚、聴覚を駆使し、地下に通じる穴を探し当てる。

「紗夜、私から離れて…」

「悟美ちゃん…?ねえって⁉︎なんで地面を殴ってるの⁉︎」

 ドーンと爆発音を響かせ、三節棍で地面を陥没させていく。悟美は物理手段で不可侵の地下へ強行突破するつもりだ。

 その光景に、思わず隠れていた者達が外に出てくる。妖怪や人間もそうだが、中には監視している分華の分身もいた。

(あの女……まさかな?)

 分華は手裏剣と短剣を構え、影から悟美に目掛けて放つ。

 殺傷重視に特化した猛毒の手裏剣と短剣。擦りさえすれば象も死に至る。

 紗夜は殺気を感じ取り、その視線は既に隠れる分華を捉えていた。一瞬で武器を弾き、紗夜は消えた。

「なぁ………ほえ?」

 思わず声を上げた。それが分華の命取りとなる。

 分華の首は一瞬にして切断された。それを知る時間もなく分華は葬られた。

 音となく、移動した痕跡すら気付けなかった分華は絶命する。しかし、これが分身体であるのは紗夜も気付いている。

「だ!ダメですって。悟美ちゃんに手をだ、出したから悪いのです‼︎」

 言葉とは裏腹に容赦ない紗夜。その様子を見て、悟美は笑顔でお礼を言う。

「シシシッ!紗夜ありがとう」

 悟美は集中して地面を破壊していく。

 大胆に破壊しているように見えるが、実際は違った。

 悟美の《狂乱》には身体能力以外に作用する効果がある。あらゆる異能や妖術、結界に『攪乱』を与え、全ての力の正常を乱す力を有する。それがあるため、悟美は地面に付与される不可侵の結界を破壊できる。

紗夜はそれを邪魔させないように、次から次へとくる分華による暗殺を無効化し、確実に一人ずつ一瞬で葬る。

 信頼している者同士、その信頼度は常軌を逸する。

 僅か1分で結界を破壊した。悟美は紗夜を置いて一人で穴へ落ちていく。

 薄暗い空間に降りた途端、悟美は妖怪に囲まれた。悟美と紗夜に対し、妖怪は数百人。とても太刀打ちできる人数ではないと誰もが思う。

 支配された妖怪の戦闘能力は飛躍し、異能を所有する人間より厄介だ。しかし、その代償として、秋水による意識剥奪で自我が封じられている。今の妖怪達は侵入者を惨殺するための駒に過ぎない。

 悟美はそんな彼らに何も関心を抱かない。

 別に軽視しているわけでもなく、憐れみの視線を送るわけでもない。ただ、地下の更に先を見つめる。

 自我を封じられた妖怪など、自分達の相手にならないからだ。

「紗夜、ありがとう」

 悟美のお礼の前に、殺気立つ妖怪は次々と倒れていく。意識は消え、全員無力化したのだ。

 紗夜は悟美の影から現れる。

「あ、あの!私…ちゃんとできました…か?」

 弱々しく聞く紗夜。悟美は笑顔で微笑む。笑顔を見て、紗夜は胸を撫で下ろした。

「じゃあ行こうかしら?殺して良い人はなんだっけ?」

「あ、はいっ!秋水…と名妓。後は…貞信です」

「え〜?全員殺しちゃ駄目なの〜?」

「ヒィッ‼︎」

 不満げに笑う悟美、酷く怯える紗夜。二人の会話は不思議にも成り立つ。

「シシシッ!やっぱり紗夜はいいわ。分かった、三人だけ殺しちゃっていいのね?紗夜はさっきの人ともう一人を生け捕りってことで合ってる?」

「合ってる…大丈夫‼︎」

「えへへ!じゃあ幸助君達は置いてって、私達が殺しちゃいましょ。どうせ來嘛羅に頼まれちゃったことだし、今日は楽しんじゃお〜」

 悟美は來嘛羅の『契り』を自分から引き受けた変わり者であるが、彼女にはその程度のことで恐怖などしない。それどころか、この状況を心底から楽しんでいる。

 一方、紗夜はずっと怯える仕草をするばかりであるが、明らかに実力者としての力を持っている。下手をすれば、悟美よりも強い。

 異能の力を隠すのは、妖怪の妖術と異なり、願望から開花した力。その力を看破するには、特殊な存在または異能や妖術による解明が必要となる。來嘛羅のように見抜ける者は僅かしかおらず、閻魔大王ですら見抜く力は所有していない。

 異能は口にしなければ大抵は対処が難儀であり、伝承ある妖怪が持つ妖術とは異なり、伝承に基づかない力を持つ人間は厄介なのだ。妖術に対する対策は施せても異能の対策は困難なのだ。

 悟美と紗夜は互いの性格が噛み合わない。なのに、長い年月を共に過ごせるのはそれなりの訳があるのだ。互いに信頼し、互いを思いやる。

 互いに親しい感情を向け合い、互いを理解し合える唯一の姉妹のような存在。

 狂人な悟美と臆病な紗夜。この二人が仲違いすることがない限り、彼女達と敵対するべきではない。

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