2話 妖怪は冷たい
テンポはいい感じですか?
この作品の投稿頻度が少し増えてきましたが、文字数は少なめです。妖界の妖怪は実話や伝説、そこから見える想像図でキャラクターを構築しています。妖怪の範囲は伝承、都市伝説、神話、架空設定など広々なので、興味ある方はコメントをお願いします。
作品作るのがかなり楽しくて、つい書き進めてしまいます。
異世界に俺は飛ばされた。
それは、望んだ世界であるには越したはないが、異様なほど日本とは違う場所なのだと、周りを見渡してすぐに理解できた。
空気は澄み、車はない。自然な山と川、辺りに広がる草原の上に立つ木造建築。
煩い音も目障りで無駄な建物もない。
妖界と聞いたものだから、てっきり地獄のような場所を想像していたが、それとは違って良かった。
自然がものを言うように、緑が生い茂っている。気温は適温で、長袖でも半袖でもいられるほど心地良い。
空気は日本の都会どころか田舎に比べても断然にレベルが違う。
空気がうまい!
それでいて、自然が独自の進化を遂げているのか、見た事がないような大木や樹林まで遠くからでもはっきり分かる。森の中に町があるみたいで、まるで、太古の地に来たような夢心地になった。
そして、俺が一番知りたかった妖怪達についてだ。
目の前に普通の人間と変わらない様子を見せる妖怪に魅力を感じた。
異形種や妖怪そのものと判別出来る容姿を持つ者もいれば、全く人間と区別出来ないような姿をする妖怪までいる。
俺は、この光景に心の底から込み上げてくる感情で震えた。
「凄えぇ…‼︎マジで異世界に来たんだな⁉︎」
興奮して、辺りを駆け走る。
早速、俺は無名に言われた注意を忘れ、周りにいる者達に片っ端から声を掛けた。
「あ、あの‼︎あんた、天邪鬼だろ⁉︎」
俺は妖怪と話せるのだと分かり、衝動的に話しかけてしまった。
「誰だい?若えの、儂に何用かい?」
見た目は醜悪な爺さんで、歯と白い和服はボロボロ。完全に不衛生の生活をしているようで、鼻がひん曲がるような激臭が凄い。
髪もボサボサで白髪だ。下駄は履いているが、靴下は破けている。
この姿に、俺は凄く興奮する。
「ああ、こんな姿でいつも過ごしているのかが知りてえんだ!なあ、あんたはその姿—っ‼︎」
俺は姿について聞こうとしたが、急な殺気を感じ取り、後ろに引き下がった。
その様子を見て、天邪鬼は不思議そうな顔をしてその場から動かない。
だが、その目は俺を獲物として見ていた。
「んあ?若えの、何下がっとるんや?」
「いやなに、あんたから凄い殺意を感じた。その口調に醜態、擬態だろ?」
俺は天邪鬼を知っている。妖怪の特徴を熟知している俺がこいつを知らない筈がない。
確信ついた俺の一言に、奴はニヤリと不気味に笑みを見せる。
「ふ…この儂の芝居を知っている口だな。小僧、その口を引き裂いてやろう!」
そう言い、天邪鬼は片指から爪を剥き出しに伸ばす。
刃物のようだ。5本指全てから爪が数十倍以上に伸びた爪は凶器にしては十分だった。
俺は刀剣を取り出し構える。
ヤバいな…。浮いた心で接したのが間違いだったな。嘘巧みに操るこいつに気軽に話しかけなきゃ良かった。
俺は心の中で後悔した。無名に注意されていた事を思い出し、ただ後悔する。
「俺が悪かった。見逃してくれねえか?」
俺だってこんな醜態の天邪鬼が好きだ。
妖怪に好きしか抱かなかった俺は、正直、見た目がヤバいこいつを倒そうとは思わない。敵前逃亡というわけではないが、戦いたくない……。
俺に妖怪は殺せない。
「それは無理な話だな小僧。人間である貴様が儂に敵意を向けた。それだけで儂を怒らせたのだよ」
尖った爪を触りながら俺を睨む。完全にやらかした。
力も使い熟せない俺が刀剣を振るっても勝てる気は皆無だ。
妖界に降りてからこんな目に遭うとは……。俺って、つくづく運がねえな。
俺に選択肢があるなら……。
「怯えているみたいだな?その腑抜けな気持ちで儂に話しかけるべきではなかった。儂の血肉となって後悔せよ‼︎」
そう果敢に走り出す天邪鬼の動きは速い。
今の俺じゃあ、躱す事すら出来ない。
剥き出しに尖った爪は、俺の首を確実に切り裂こうと振り翳す。
俺はまたしても、死ぬんだなと軽い気持ちで思ってしまった……。
キーンという鋭い音が、目の前で響く。
目の前に、白く光る刀身から粉雪と冷気が舞う。
「誰だ⁉︎」
天邪鬼は目の前の相手に焦りを見せた。俺と天邪鬼の間を擦り抜けるように、フードを被った者が割り込み、刀で受け止めたのだ。
その彼女は冷たく口を開く。
「覚悟がないのなら立ち去りなさい。その未熟な覚悟で挑む者を、私は助けたくはありませんので」
俺に言った、そう思い俺は後ろに下がる。
「貴様……またしても人間に手を差し伸べるか⁉︎」
「さぁ…早く下がって」
彼女は天邪鬼を完全に見ていない。冷たい声が俺に言われたと理解し、すぐさま距離をとる。
天邪鬼は俺を狙うべく、女性を避けようフェイントをかける。
だが、それよりも早く動き、彼女は刀で威圧する。
「チッ!雪女、その小僧を渡せ‼︎さもなくば殺すぞ‼︎」
二度も邪魔をされ、天邪鬼は醜態な顔で凄みのある眼光で睨む。
だが、雪女と思われる彼女は刀を両手で頭上に構え、一言言う。
「狙うなら、相手を選びなさい。凍りなさい」
一瞬の間合いに容易に踏み込み、雪女の瞬く間の一振りに天邪鬼が妖気ごと凝固させ凍結した。
「がはっ……」
間合いを見えなかった天邪鬼は、その場で雪女によって肉体活動を止められてしまった。
雪女は刀を鞘に収め、少し離れた幸助に歩み寄る。
「相変わらず雪女は人間が好きだな」
「何人氷漬けにすれば気が済むのかね?人間にだけには熱心だが、俺達には容赦ないからな」
周りで見ていた者達は嫌みったらしく口にする。
そんな声に雪女は耳を傾ける様子はなく、幸助の元に来てはフードを外す。
その容姿に俺はドキッとさせられた。
「あなた、随分諦めが早い子みたいね?死ぬ気、だったの?」
喋り方は冷たく感情的に感じない。
顔は白肌で美形、顔付きは細い。
雪のような水の結晶の色をしたロングストレートの髪。眉は若干雪色に白く、目はシリウスのような青白い。
服はフードが消えた事で死装束。
センスは疑ったが、意外にも似合う。
息は冷たく、目も冷たい。身体が凍える。近づく度に冷たさが凍みる。体温が無いかのような冷たさが触れなくとも感じる。
俺の目の前に、とんでもない妖怪が無表情でこちらを細い目で見ている。
可愛いは本物だ……。
「雪女……ですか?」
俺は訊いてみた。