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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
妖都征圧阻止編
29/265

28話 嘘も時には必要

順調に4話目投稿です!

もう書き終えていますので、あとは投稿できるだけ投稿するだけです。二部と三部はかなり設定を入れ込んでいこうと思っていますので、4月以降で落選したら投稿再開します!

 3日が経過した。亡夜はいつもと変わった様子はないみたいだし、気分転換に外を歩いてみた。

 だが、俺が外に出て歩いていると、あからさまに違う光景が俺の目に映った。

 俺を見る妖怪達が土下座で出迎えていたんだ。

「なんだよこれは…?」

 妖怪達に理由を聞こうと思ったのだが、頭を上げてくれる様子がなく、それどころか震えてやがる。

 得体が知れないと思った俺はこの場から去って、雪姫と來嘛羅に聞いてみた。

「なあ、俺が歩くたびに皆んなが頭下げてくるんだ。何かあるのか?祭り事でも始まるのか?」

 來嘛羅は俺の話を聞いて考えていた。

「一度、妾が様子を見てみるかの。もしかしたら、只事ではないやも知れぬ」

 來嘛羅連れで再度外へ出て行く。

 これが間違いだった。

 俺がやっぱり来ても土下座が続いていた。しかも、さっきよりも震えが速くなっているようにも見える。

 妖怪がここまで震える姿は見たことがねえ。何か、嫌な事でも……。

「幸助……。あなたに加護授けたよね?」

「そうだけど?俺を加護してくれるっていう」

「化け狐の加護あるでしょ?多分、それのせい…」

 気難しそうに雪姫は言った。ん?來嘛羅のせい。だと?

「なんで來嘛羅がなんだよ?理由とかは……あっ‼︎」

 俺もなんとなく分かった気がする。そうだ、來嘛羅は……。

「九尾狐様‼︎このような粗末な町に足を運んで下さり、恐縮でございます‼︎我々のようなものに何か御用でしょうか?」

「ちょいとな。この町には数日滞在すること許してくれたまえよ。急な故、其方らには迷惑をかけてしまうじゃろう」

 「ははっー!」とまるで王に逆らわない意思を示しているようだった。來嘛羅は堂々たる姿でその光景を見下ろす。

「うむ。其方らに気を遣わせる迷惑、すまぬ。この者は妾が加護した故、其方らには恐縮じゃの」

 亡夜にいる妖怪達は、太古の妖怪を拝んだことがないが、來嘛羅の神々しさに心が萎縮してすぐに九尾狐だと理解したみたいだ。

「あの…九尾狐様。この町は如何なさいましたか?」

 一人の妖怪が声を震わせて聞く。口を聞けない存在だからなのだろうか?この町の評価を聞きたいみたいだな。

 來嘛羅は高く飛び、町を見渡す。

 俺も少し気になるな。來嘛羅の徳の意が。

 ゆっくり地に降り、頭を下げた妖怪達に近付く。その際、妖怪は生きた心地がしなかった。

 わざわざ近付いてくるのだ。怒りを買ってしまったのではないかとヒヤヒヤしていたからだ。

 太古の妖怪と自分達の隔ては天と地の差がある。気を狂わせれば災禍様さいかさまの名の下に巻き込まれる、と。

目を瞑り、死を覚悟までした。

「素晴らしいのじゃ。良い環境を維持しておる。山河が妖力のみならず自然の恩恵で肥え、建物も従来より質が高くなっておる。これほど心地良い場所は指折り数えられるぞ!」

 來嘛羅の評価は絶賛だった。この場に集う妖怪達の震えは消え、安堵の息を漏らす。

「それは!誠なのですか⁉︎」

「嘘は言わぬ。数百数千の町を見尽くしている妾が保証する。この町はいずれは富をもたらす町となろう」

 大袈裟に聞こえるかもしれない。だが、太古の妖怪の言葉は口は災いの元となると同時に言い勝ち巧妙ともなる。

 災いが起きると言えば起きる。富がもたらされると言えば起きる。他の妖怪は太古の妖怪の言葉を疑いなく信じるのだ。

「随分と晴れた物言いね。化け狐だと崇められるのは当然…みたい」

 こちらは随分と態度が冷たいものだ。雪姫は來嘛羅の言葉を丸呑みするつもりはねえみたいだ。

「そうか?來嘛羅が言ってることは合ってる筈だ。俺は信じてるがな!」

「惑わされるのは良くない。幸助、化け狐に惹かれてる。自分で分かってる?」

 俺を心配してんのか?惑わされるって言われると……。

「別にいいぜ俺は。來嘛羅に心奪われたのは昔からだからな。好きな妖怪に身も心も奪われるんだったら構わねえよ」

「…本気で言ってるの?幸助…」

「俺がこんな気持ちに嘘吐くわけねえだろ。妖怪好きを舐めるなよ!」

 俺は正直に言った。何かに夢中になれるものを見つけられたんだから、そのために頑張りてえんだよ。

 妖怪が好きだが、ずば抜けて來嘛羅が好きだ。

「そうだったね。幸助は化け狐に恋をして…」

 何処かと物寂しそうな表情を浮かべていた。

「なんか不満か?」

「……そうね」

 雪姫の様子が気になったが、俺の背後から背丈を超える尻尾に包まれ、思考がリセットされた。

「嬉しいぞ幸助殿。これはご褒美ではないが妾の尻尾で気を緩めるがよい。明日あすは決戦の時。持つ力をすべて発揮できるようにするのじゃぞ〜?」

 言葉よりも尻尾に埋もれた心地よさに浸った。




 腹ごしらえをするということで、一度雪姫の住処に戻る。

 烏天狗達に料理を振る舞えと、來嘛羅が雪姫に言う。

 そして、雪姫は腕によりをかけて魚料理?を振る舞った。

 料理を見た烏天狗達の顔は顰めっ面を披露していた。料理を出され、暫しの沈黙で険しさを増す。

「なんだ?このピチピチしているものは?」

 烏天狗は苛つきを抑えながら雪姫に問う。

「川魚で作った刺身。生きてるから美味しい筈」

 逆に聞く。川魚でどうやって刺身作ったのかが知りたい。生きまくった魚を刺身と呼べるか?

「巫山戯るのも大概にしろ雪女。俺にこんなゲテモノを食わす気か‼︎」

 大変お怒りの様子……。雪姫の対応に感服するぜ、逆に。

 俺は烏天狗の反応が只事じゃないのを理解し、來嘛羅にそっと聞いた。

「なあ來嘛羅、なんで雪姫に作らせた?あいつらの反応的にヤバいんじゃねえのか?」

「…のうお主よ、逆に問う。何故なにゆえ、雪姫の料理を食えると思うのじゃ?」

「はい?」

「食えるかと申したのじゃ」

 ちょっとキツめに同じことを言う來嘛羅。もしかして……。

「やっぱり、あの料理は不味かったか?」

「う、うむ…不味かったの。指折り三本に入るぐらいは…」

「あ…俺の価値観が可笑しいかと思ったぜ。來嘛羅が堂々と生きる存在の方がいいって言ってたから俺が間違ってるかと…」

「すまぬ。アレは立派な嘘じゃ。刺激したら彼奴あやつの冷気で空間が凍土してしまうからの。妾なりの嘘で難を逃れたかったのじゃよ」

 來嘛羅曰く、雪姫が怒りだすと力が暴発して、あらゆるものを凍結させてしまうとのこと。以前の雪女だった状態ではあり得ない力を持ったらしく、刺激したら住んでいた空間が凍結してしまうだそうだ。数千年も住んでいた空間が凍結してしまえば、元に戻すまで数十年掛かるだとか。

 どうやら、俺が容疑者と犠牲者になり得る可能性があったらしい。雪女に名前付けしたので力を得て、キレて凍結させたら俺が凍っていたとさ……。

 俺の能力《名》って、俺が描いていた夢と似た物なんだよな。

 妖怪の名前を呼び、友達や恋人みたいになってみたいし、なんなら手助けがしたい。俺はずっとそう願っていた。

 來嘛羅が言ってた通り、俺の能力は妖怪に名をあげ、力を与えているのかもしれない。

 見返りを求めていねえ感じで、俺は自分の能力がいい物だと、心底から感謝した。

「ちょっと聞きたいんだけどさ?來嘛羅はどうやって食べたんだ?」

「入れる前に完全に生命を絶ち、焼いて口に入れたぞ」

 言い方…。でも、アレは食えた気がしないのは納得だ。そんな芸当、教えて貰いたいな。

「これから食事…俺が作るか?和食ぐらいなら、作れるんだが」

「うむ!それは名案じゃ‼︎幸助殿の手料理ならさぞ安心じゃろう」

 余程あの料理が嫌みたいな反応だ。なんか安心した。




 雪姫と烏天狗が喧嘩する間、取り残されていた女天狗は幸助と來嘛羅が楽しく話しているのを羨ましがっていた。

(來嘛羅様と堂々と話す態度に親しみ方と言い、この人間は距離の詰め方が怖い。太古の妖狐と恐れられている御方に、気軽に話しかけることすら強靭な精神がなければならないのに……。悟美ちゃんと紗夜ちゃんとは違うものを持ってるのかも)

 と、同時に幸助の不思議な魅力に興味を持った。

 今後、雪姫は料理禁止命令を多数決で可決され、雪姫はこの日、ずっと不機嫌だった。

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