27話 打ち砕かれる反撃の狼煙
一応、強さの基準でマイナーの妖怪を出しています。針女、悪女野風、人狼、送り犬を出してみました。知っている人いますか?
一応、妖怪の部類でもあまり名の知らない妖怪として知って貰いたいから登場させました。
容姿は皆さんで想像にお任せします。
秋水は椅子にくつろいで考える。
彼等の動きも活発になるにつれ、妖都内の反発が大きくなったからだ。抵抗する妖怪や人間が増え、その度に秋水本人が出向いていたからだ。
疲労は溜まり、最近は眠りについていないことに気付いた時には遅かった。
「秋水様?食事に喉は通らないのですか?」
名妓は秋水の様子に気付き、心配を装って声をかける。
「なんでもねえ。オレの計画はどうだ?進んでるか?」
「進んでいますわ!ですが、分華の情報では太古の妖怪及び雪女は逃げたそうです」
「逃げた?」
秋水は九尾狐を見たことがない。だが、どんな妖怪なのかはある程度知っている。
しかし、秋水にとって妖怪は手駒でしかない。
「ええ。それと幸助という人間もまだかと…」
名妓の言葉で気を悪くしたみたいなのか、秋水は席を立ち上がり寝室へと足を運ぶ。
「どちらへ?」
「知ったことだ。オレは一旦眠る。3日は起きないから任せた名妓」
そう言って寝室へと姿を消す。
地下に久方ぶりに揃った四人は困惑する。
「おいおい、秋水のヤツ眠りやがったのかよ‼︎マジでなんだよアイツはよ」
「分華うるせえよ!少しは黙ってやがれ‼︎」
「うるせえって言ったヤツがうるせんだよ‼︎」
「舐めてんのか?あっ⁉︎」
双子で喧嘩を繰り広げ、名妓と貞信は呆れ返る。
「困ったものですわね。秋水様が眠ると妖怪と人間の支配が弱まるというのに」
「そうだな。名妓や、貴様は逃げぬのか?」
貞信は名妓に問う。
「何をおっしゃいます?私は女として利用されている身。逃げたら死刑が確定よ」
実は、秋水の異能は並ならぬ力を持ち、常時発動型の支配系異能である。長時間使用し続けると抗えぬ睡魔に襲われるのは全ての異能に共通する。
一度、睡魔に襲われてしまうと数日は目を覚まさず、秋水の場合は支配力が眠っている期間は著しく弱くなる。
人間は既に逃げる意思を奪っているから問題はないが、妖怪はそうもいかない。
妖界に生きる妖怪の精神力は人間を遥かに超越し、精神は支配できない。更に妖怪は異能の強弱を見抜く術を持っている。
秋水が眠りについた途端、妖怪達は大きく動き出した。
「人間が寝たぞ‼︎やるなら今だぁーーー‼︎」
数百いる妖怪の数だ。暴れたらひとたまりもない。
そこで必要なのが、秋水の幹部四人だ。
「まあ折角なんですし、全員で準備運動をしておきましょう。攻めるのはあと3週間後だけど」
「そうだな。ワシも逃げる選択はできぬし、一度敗れた身を管理してくれた秋水やには多少なりの恩があろう。王の寝床を騒がす妖怪を黙らせるとしよう」
名妓と貞信はそれぞれ準備をし、暴れ始めた妖怪に敵意を剥き出す。
「俺もやらねえーといけねえタイプかよ。ったく…なんでコイツらは妖怪を怖くねえんだよ」
「黙れよ。アタシの分身を殺させた恨み、後できっちり返させて貰うから」
分華は愚痴を言いながら、九華は愚痴言う分華を恨みながら、すぐに動かせるようにする。
秋水が寝た今、彼等が妖怪を支配する命を与えられている。
「ガキどもが‼︎舐めると潰すぞ‼︎ウガアアーーーッッ‼︎」
男性から一気に人狼になり、遠吠えで妖怪全員に戦意を奮い立たせる。
すると、妖怪達は彼等を目の敵として襲い始めた。
しかし、四人は沈着する。
「散っ‼︎」
貞信の一喝で全員が単独で飛び散った。
300の妖怪の群れはそれぞれ妖術を行使し、あちこち動き回る彼等を指標に攻撃を繰り出す。
まず、妖怪達に狙われたのは名妓だ。
彼等の中で1番動き辛い着物を着用し、体力もない。おまけに元病弱だったこともあり、名妓は立ち止まっていた。
「ハッハッハ!やはりお前は最弱。その身に受けた病に今も尚侵食されている身では逃げれまい」
針女は指先から無数の針を発射する。
名妓はその場から動かない。だが、その表情に絶望は見えない。虚無の顔をした名妓はニヤリと肉体に似合わない笑みを浮かべた。
「私が最弱?最強と違ってかしら?」
名妓に発射された筈の針が、名妓に突き刺さることなく目の前で止まった。
針女は分からなかった。目の前で起きた防御に理由が思い付かない。
「私は秋水様のお気に入り。そんな柔な妖怪に狙われるほどの女でなくてよ」
名妓は余裕で立ち尽くす。針女はその態度に激昂する。
「ハッハッハ!‼︎じゃあその喉笛を貫いてやる‼︎」
針女が敵意を向けた瞬間、結果は決まった。
「じゃあ死んで下さいな」
名妓が笑みを浮かべると、針女は空中に持ち上げられるように身動きが取れなくなる。
「ギャ‼︎…が…ガァ‼︎」
体がミシミシと絞めつけられる。必死の抵抗もするが、針女になす術はない。
「昔は妖怪も強かったのかしら。ここ最近、有名妖怪以外の力は微塵もないぐらい弱いわね。でも、妖怪は死なないから凄いわね」
死なないと分かっている名妓は針女の全身を砕き、しばらく身動き取れなくした。
だが、背後を取った妖怪達が名妓を襲う。
化け狸と化け猫の二人は同時に名妓の首を引き裂こうとした。
しかし、徒労に終わる。
「残〜念。私はあのお馬鹿な二人とは違って異能は言わないの。だから、妖怪は私を真っ先に殺そうとする。異能を知らない妖怪は私を狙う。それが当たり前のことと知って油断する筈がないわ」
またしても、名妓の当たる直前で攻撃が通じない。
見えない壁のように、それでいて何か意思を感じるものが名妓を守っているのだ。妖怪には見えない何かが……。
まだ襲ってくる妖怪はいた。異能が開示されて既にバレている分華と九華に狙いを定めている。
悪女野風は全身の口から異臭を放つ。
「臭い息吐くなよ口女‼︎風遁:大風傷干!」
分身の九華の攻撃程度はたかが知れている。だが、今の九華はそんな程度では収まらない。
「ぎゃあああああっーーー‼︎」
断末魔と共に、他の妖怪諸共裂き切れる。
分華も九華の戦いに絆され、活力を漲らせる。
「やってやるぜ‼︎あのガキにやられたのは腹たったからな‼︎影分身‼︎」
分華の影から数十人の分華の分身が姿を現す。瞬時に4人の分華は秋水、名妓、九華、貞信の姿となり、
「これで十分だ!俺は触れた相手を記憶し、俺または他者の劣化能力を分身で使えるんだよ。テメェーら妖怪にはこれで十分だ‼︎」
逃げの一手だった分華は反撃の牙を向ける。
分身の分華達は妖怪を次々とケチ散らしていく。逃げる妖怪、怒りに燃える妖怪で分かれ、分身に挑んだ妖怪達は全員が返り討ちにあっていく。
逃げた妖怪を担うのは、貞信の役割だ。逃げた先に当然の如く堂々と立つ姿は鬼門。
「あやかしよ。このワシから逃げれると思うならば、その身を賭けて挑むがよい」
刀を構え、獰猛な顔は異様なほどの威圧感を漂わせる。
他の者とは格が違うのだ。貞信の闘気の前に、逃げ腰の妖怪達は立てなくなる。
送り犬が牙を剥き出して貞信に噛み付く。
貞信は「愚かだ」と吐き捨て、噛み付いてきた送り犬を斬り捨てる。
斬撃が見えない。刀身すら拝んだことがない妖怪には、これは恐怖に該当する。
「あやかしや。貴様らはこのワシに牙を向けるか?それとも、死を望む痛みを延々と刻んでやろうかのう?」
妖怪が死なないと知る貞信からの言葉で、妖怪達は震え上がる。
死を体験できない妖怪にとって、痛みは死の痛みは激痛そのものなのだ。
死なないからこその痛みを背負う妖怪にとって、彼等の恐怖による支配は地獄なのだ。
一度目を付けられたら逃げられない。定められた時点で、傀儡となるのが定められているのだ。
秋水は妖怪の力を支配し、地下の王として君臨する迷い人。身勝手な思想を夢見る愚か者だ。
他人を支配することを強く望んだことで、妖界に迷い込んだ際に《王》を獲得した。
元々自堕落で贅沢な人生を送っていた者であり、不都合を嫌い、他者を嫌い、力を欲する欲は侮れない。
死戦を潜り抜けた故に純粋な力を得た貞信。
病弱だった肉体で欲した願望を得た名妓。
憧れや心酔によって一時的な欲望で得た分華と九華。
この4人を勝る欲望を秋水は秘めていたのだ。
人間の願望というものは抑止ができない。抑えられない欲望は力となり、異能となって人間を変貌させる。
善と悪の願望など全て同等の欲望。人の欲を導く者とは誰なのか?
それがどんな存在であっても欲望は潜んでいる。自然、人間、物質、妖怪、世界、概念に欲は芽生える。己が知らないだけで、実は奥の奥では常に強欲が揺らめているのだ。
ふとした瞬間に求めたものであるほど、その欲望は歪んだものになる。
自分は選ばれた人間だと自負し、数多くの人間と妖怪を支配し、多くの存在を不快にした秋水の足元から刻一刻と、最強の脅威が波のように迫っていた。




