22話 新城悟美
遅くなりました。
多分、pixivの作品を見てくださっている方なら知っている人物です。『転生したらスライムだった件 ショウゴ(性格)が良いやつだったら』から引っ張った1年前以上から転すら二次創作において登場させていた彼女を引っ張ってきました。
一応、このキャラクターはpixivの時から別の作品のキャラクターとして扱いたいぐらい気に入っており、この作品で遂にこの作品のキャラクターとして登場させました。もう分かる人はいますが、今後の物語が荒れるというのは予想出来るかと思います。愛着湧いてしまうと、どうしてもキャラクターをオリジナル小説で1人の独立した人物として活躍させてあげたいと思う自分がいます。
2週間の月日は各駅停車に乗っているかのように過ぎていった。充実したようで、俺は來嘛羅と雪姫にしごかれた。
俺らは妖都に出て二人の人間が隠れ住むある神社へ向かう。
町に異様な程の静けさで、妖怪も人間も見当たらない。
來嘛羅はまるで手当たり次第で探している。
「そろそろこの辺りかの…。魔避けの結界を張り巡らせおって、少しは目印でもあれば楽なのじゃがな」
「仕方がない。あの二人は妖都でも特別な人間。それでいて私達妖怪を上回る異能を持ってるからね」
「そうじゃな、烏天狗と女天狗を超える者じゃからな。彼奴らは対異能にも優れているというのに敗れたと渋々語ってたわい」
「そう…。余程凶悪な異能を獲得したということね」
「無論じゃ。寧ろ、それらを悪用せずに今日まで潜んでいる方が恐ろしいのじゃがな。妾に及ばなくとも、幸助殿と雪姫では太刀打ちは敵うまい」
嘘ではない。來嘛羅は二人の人間を知っている。
力を知っていても尚、彼等を褒め称える來嘛羅の度量が窺える。
「俺よりも強えのかよ。その異世界人は」
「そうじゃろうな。今のお主でも触れることすら叶わんじゃろう。戦闘狂と人格者の二人が組む事自体が面白うなんじゃがな」
なんだよそれ。戦闘狂と人格者って、一人は絶対にヤバい奴だろ。
戦闘狂だったら狂戦士しか思い付かねえ。
「面白いじゃねえよ!流石に俺これからそんな奴と会うんだろ?行って戦闘になります〜ってならないよな?」
俺はそんな奴らとは御免だ。仲良く出来そうな人に殺されるなんて。
「でも幸助、戦闘になって女だからって手を抜いたら駄目。二人は強いからね」
「二人ともなのかよ…」
てっきり男かと思っていた。女だからって手加減するかと言われるとそれはないな。
「まあいいや。俺が戦闘に巻き込まれても大丈夫ように、來嘛羅達が特訓してくれたんだ!今の俺なら足手纏いにはならねえよ」
雪姫は嬉しそうに言う。
「期待、してるね」
「妾もじゃ」
來嘛羅もそう言ってくれて俺は心の中で叫んだ。
暫く周りを警戒しながら歩いていると來嘛羅がある神社で立ち止まった。
「やれやれ…やっと辿り着いた。随分、厳重に結界を張っておるな」
見た感じは普通の神社で、よく近所で見かけるようなちっぽけな建物と庭の広さ。とてもではないが、人や妖怪が住むには相応しくないほど質素だ。
來嘛羅が目的地を見つけたようで、呪文のようになものを唱え始める。
「呪鎖を解き放ち、我らを受け入れることを承認したまえ。懇々申す妖狐の言い伝えを聞き入れなければ結界を破壊する事を厭わぬ」
否、來嘛羅は強行突破をしようとしているのだ。
來嘛羅の応答に中からは何も反応がない。
「いないのか?」
俺は留守だと思ったのだが、來嘛羅はそうでないみたい。
「いや、妾を試しておるのじゃよ。全く困った天狗だこと」
そう言っている來嘛羅は得意げに笑っていた。
「妾も本気で行くとするかの!幸助殿、雪姫、妾の傍から離れておれ」
「えっ?」
俺が聞き返そうとしたが、なんでか雪姫に襟を掴まれ、数十メートルぐらい引っ張られた。
その直後、俺はとんでもない光景を目にした。
「はぁーっ!」
拳に妖力を込め、袖を捲り上げた來嘛羅が凄まじい速度の平拳を放った瞬間、何もない空間が一気に崩壊した。
空気が震えたかと思えば風の圧が襲い、俺は吹き飛ばされそうになった。
マジで死ぬかと思った……。
「…お?なんか綺麗な建物が見える。神社の中にこんな空間があるとはな。よく考えたもんだ」
神社があったと思われる場所は吹き飛び、代わりに岩山と川、一軒の古小屋のような建物が広がっている。
「なんだよこれ?神社が消えたかと思えば妖都とは違う景色が見えるんだが」
「『固有結界』じゃ。己の妖力で独自の空間を生み出し、自身の都合の良い空間を築く結界なのじゃ。太古の妖怪もしくは眷属のみに許された特権じゃがな。妾も使っておるのと一緒じゃが、こちらは住処となる場所を指定しなければ使えぬ」
來嘛羅の持つ結界は他の妖怪とは異なり、どんな場所からでも空間に出入りが可能な代物。
結界を持てる妖怪は多いが、その殆どの妖怪は住処となる場所に依存する。
「あの…これ破壊しちゃって大丈夫…です?」
さっきから烏の「カァーッ!カァーッ!」が聞こえてくるし、何か迫ってくる気配を感じる。
來嘛羅は悪びれない表情で、
「うむ、大丈夫ではないの」
「しれっと言わないでくれよな!絶対にヤバいだろ!」
俺の心配を他所に來嘛羅と雪姫は空間内へと入ってしまった。俺もそれに続いて敷地内へ踏み込んだ。
その瞬間、殺意が一気に接近した。
「伏せるのじゃ!」
來嘛羅の声と共に体を低くした。
伏せた途端、俺の背後から大砲のような轟音が響いた。
間一髪で潰れずに済んだのだ。
「ひえ……」
俺はビビった。
殺意込めた挨拶をしたと思われる人物が、俺達の目の前に現れた。楽しげに喜びを抑えられない女が俺らを見ていた。
「シシシシッ!私達を捕まえようと来たのかしら〜?」
「あんたがここの住人か?」
「そうね、貴方達を始末しちゃっていいって言われて来たの!殺しちゃおうかしら〜」
女はニヤニヤしながら俺達を見ている。
一言で言うと、こいつは危険すぎる。そう俺の勘が言っている。
軍服でミニスカート。俺よりも長身で異様なほどの可愛らしい容姿と來嘛羅には劣るが妖しい笑顔。純白の白髪が束ねることを許さないのか、腰の辺りまで綺麗に伸びている。美女に見えるし、美少女とも言えるぐらいの容姿端麗。
歳は俺よりなさそうに見えるが、白髪と真紅の瞳、不気味なほどの歳に相応しない程の言動。俺より幼いと言われてもいいぐらい、声はやや高い。
「それは烏天狗にか?烏天狗の加護を受けし人間の新城悟美よ」
來嘛羅は臆さずに悟美に問う。
「烏天狗と女天狗の二方に言われてきたのか?だとすれば、妾に対する無礼であるのは存じ上げぬか?」
「あは!私の事を知っているみたい。てことは、私達を狙っているのだわ」
話を聞かない。会話は困難だと分かり、雪姫は瞬時に悟美に襲い掛かる。
「大人しくしなさい」
雪姫は悟美の首に峰打ちを試みる。その速さは來嘛羅でも認めたほどだ。
キィーン!と澄んだ音が響く。
「くっ…これで倒れないなんて…」
「シシシ、私を傷付けないで倒すなんて。本当に殺さないと!」
容易く刀を止められ鬼相浮かべる雪姫。それに対し笑みを崩さない悟美。
悟美が手にしている武器は、鎖などで三つの棍棒を繋いだ漆黒に塗り染められた三節棍。
空中に飛んで襲った雪姫の攻撃を容易く見切る。その実力は本物だ。
(殺すつもりはなかった。けど、この人間、手加減いらないみたい)
雪姫は気を変えた。
刀身に切り替え、悟美を殺す覚悟を振るった。
「あなたは強い。だから本気で行かせて貰う」
服が白無垢へと変わり、その目はドス黒い青へと変色した。
「変化?違うわね。もしかして……」
悟美もその強い意思を感じ取り、改めて相手を見極めることにした。
その姿を見た幸助は驚きを隠せない。
「雪…姫、なのか?あれは…」
あんな雪姫を見たことがない。見たことない姿に畏怖する。
知らない姿。初めて見る妖怪としての雪姫。今までのが嘘のように……。
なんであんな姿で笑ってるのか?どうして殺意を剥き出しにするのか?
悲しさが込み上げてくる。
躊躇わず雪姫の助太刀に入る。
身体能力はこの中では一番低いと俺自身がよく知っている。
人間だからという理由で放棄するなら楽なものだ。
だが、俺はそんなことを望まねえ。
「雪姫!一緒に抑えるぞ!」
「幸助!」
突然の参戦に驚く雪姫。そんな事をお構いなしと言わんばかりに武器を振り撒く悟美。
「シシシシッ。私の遊び相手が増えたわ!良いわ、貴方達と遊んであげる!」
殺意から快楽へと変わり、悟美の表情は怖いぐらい不気味な笑みへと入る。
「遊ぶより止まってくれると助かるんだが?俺はあんたと遊びに来たんじゃねえし、あんたと対立もしねえ。なあ、聞いてるか?」
不満げに悟美は駄々をごねる。
「やだ!折角、烏天狗が遊んで良いって言ってたのよ?遊び道具が遊ばないってあり得ないわ!妖怪は駄目だけど貴方は別にやっちゃって良いって!ねえ?貴方はどれぐらい耐えられるかしら〜?」
俺の頼みはどうやら聞いてくれねえようだ。それどころか、俺らを玩具と見てやがる。
俺と雪姫が手を組んで悟美に初めて挑む。
「俺とあんたならやれる!倒すぞ!」
「うん、幸助」
人間と妖怪が取り合えば、最強に違いねえ。




