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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
妖都征圧阻止編
21/265

20話 ただ認められたいがために

今日は早めに投稿します!

ここからは、九尾狐が何を求めているのかが見えてくるかと思います。古事記や伝承を参考に書き進めてはいますが、これは解釈の違いが発生するかと思います。


あと2話投稿します。時間はバラバラになりますが、きちんと投稿します。まだ一部半分近く残っていますので。

 2週間あるし、俺はどうしようか?

 秋水の奴は強さが桁違いだとさ。分華や九華の奴らが強かったのは事実みたいだが、あれは劣化版らしい。

 分身の強さは半分以下になるらしく、俺はそいつらにギリギリ勝ったに過ぎないのだ。

「幸助?思い悩んで、どうしたの?」

「あいつら強かっただろ?俺も何か手を打たねえと、って思ってた。何か修行とか特訓に打ち込みてえんだ」

「それだったら私がしてあげる。2週間で伸ばせるかは分からないけど、あなたなら大丈夫」

 フォローしてくれるのはありがたい。けど…。

「2週間ごときで賄えるわけがなかろう」

 來嘛羅が峻厳を言う。

「無理だよな……。2週間程度、ゲームとかじゃねえし。都合良く力を格段に上げる方法なんかこの世界にないだろうし。仕方がねえ、自力で鍛えるしか」

俺は刀剣を引き抜こうとすると、來嘛羅がある提案をしてくれた。

「待てお主よ。まさかであるが、誠に2週間を乗り切るつもりかの?」

「だって、仕方がないんだろ?少しでも役に立てるように剣を振るえるようにしときてえんだよ」

「2週間など、人にはとても無理じゃ。天才でなければそれも不可能じゃろう」

「天才は別だろうが。俺は凡人だ。あいつらから妖怪を救いたいんだ。元は人間だから、気合いでなんとかしてやる!」

俺の意気込みに容赦なく來嘛羅は厳しめに発する。

「気合いなど、まやかしに過ぎぬぞ。そんなものが筋で通せるほど、人間の世は甘かったのかの?妾の見てきた人間は気合いではなく、それに見合う努力の賜物と欲望故の願望があったからじゃ。幸助殿、気合いという気迫は人一倍あるが、それは単に根性論に過ぎぬ。天に吼えても天に届かないようなものじゃ」

「化け狐。幸助のやる気を削がないで!あなたの言い分は正しいかもしれない。けど、それは昔の話。今はそれで乗り切れることだって—」

 雪姫の形相に臆さずに來嘛羅は笑い出す。

「削ぐならとっくに折っておるわ。其方はお節介にも程がある。人間に思い入れる感情を抱きながら先を恐れて進化をせず、やっとその壁を乗り越えたと思えば…ンフフフ。やはり妖精の思想とはみっともないぞ?」

「純妖がそんなに偉い?人間は弱いから、それを克服して強くしようと汗水垂らして頑張ってる。化け狐は努力なんかしてない身で、よくも幸助を蔑めたものね」

対抗意識がぶつかる。雪姫と來嘛羅の温度差が激しく見える。

「努力をしておらぬと申すのじゃな?」

「勿論。純妖なんか人間を餌としか見ない哀れな種族。相容れない関係と手を結んだのが間違いだった。私は500年以上、迷い人を助けるためにこの身を鍛えた。なのに…」

 悲痛さを顔に浮かべる雪姫。來嘛羅が抉るような言葉を投げかける。

「結局誰も救えておらぬではないか。いや、ただ一人救えたのが唯一の救いかの。手を伸ばしたところで離しては他人の物と同然。其方は望んだ者が人間だからと、半ば諦めかけておったのだろう?」

「化け狐の分際で…」

 何も言えない。悔しくて言えないと、雪姫が泣きそうに見えた。

「人間は弱い種族なのは間違いじゃ。幸助殿が証明したであろう?其方の代わりに人間を葬ったところを。それが弱いというなら軽薄も甚だしい」

 俺は人間だから。だから弱い。そんなことはないと來嘛羅は言った。

 でも、雪姫の気持ちも汲んで欲しい。

「なあ來嘛羅、俺は雪姫の負担を減らしてやりてえ。ずっと前から人を助けようと頑張ってたんだ。人が弱いのはそれぞれの価値観だろ?価値観で決めてるなら勝手に決めて構わないぜ?」

 俺の決め事は俺が決めなくちゃならねえ。

「幸助…」

「大体、人だからって心配し過ぎなんだよ。言い方悪いが、秋水は妖怪より強いのなら余計に心配はいらないって。俺がそいつよりも強くなれば心配ないだろ」

 人間が弱いなんて定義した奴は誰だって言いたい。無名もそうだし雪姫もそう思ってやがる。

 人間が妖界で弱者。この定義自体がそもそも間違ってる。

 人間界だったら妖怪が弱いのか?違うだろ。

 妖界だったら人間が弱いのか?違うな。

「伝承とか読み漁ってて思ったけどさ?なんで妖怪が人間より強いばっかり書いてるのかが分からねえんだよ」

「ほう?それはどう意味じゃ?」

「俺の勝手な物言いだけど、怖いから生まれたんじゃなくて、好きだから生み出されたんだろ?妖怪って」

 多分、妖怪に詳しい人を怒らせる発言だな。俺はそういうのに拘るタイプじゃねえ。

「幸助殿。お主が考えていることは分かっておる。じゃが、それもお主の私観じゃろう?」

「だからこそだよ。人の思い描くものは自由だろ?雪女、そして九尾狐。人の想像力、つまり伝承から生まれた妖怪が現在もこうして妖界ここにいる。誰かに存在を望まれていなければ、俺は雪姫と來嘛羅に会えなかったんだ。ないと思ってた世界に転生したこと、俺は滅茶苦茶幸せに感じてる」

 來嘛羅は面白そうに俺を見ている。俺を試すような問いを投げてきた。

「なら一つ問おう。幸助殿は、妖怪と人間はどのような存在と心得る?先程申したことがお主の答えではなかろうて。妾や雪姫に名を与え、力を賜った。見返りを求めぬお主の真意、述べてみるがよい」

 來嘛羅の目が本気だ。体が萎縮し、心臓を鷲掴みにされている気分だ。答えを間違えば命がない。そんな気さえする。

 



 幸助の勘は間違っていなかった。來嘛羅は本気で質問を授けたのだ。これに答えなければ魂を食われる。

 來嘛羅…いや、九尾狐は人を化かすのと同時に人を食らう妖怪だ。人の姿をする妖怪は人間に友好的。だが、それは決して善意だけではない。

 興味本位、討伐、拘束、支配をしようと愚かにも棲家に侵入した人間は多数いた。人間界でもまた、多くの人間が討伐のために九尾狐に敵意を向けた。

 その結果、多くの人間が九尾狐に食われた。

 それは伝承に過ぎない言い伝えとされる。だが、伝承が偽りとも言い切れない。

 しかし、伝承が妖界では具現化し、顕現する。九尾狐が人間を食らうのは当たり前の認識になり、その力を持っている。

 伝承に伝えられる力を全て使える九尾狐。『千里眼』・『妖怪変化』・『繁栄』・『破滅』・『強欲』・『神獣』と知られる力は勿論、知識による戦略と篭絡を得意とする。単なる人間など、騙し食らうのは造作もないのだ。

 金瞳で見透した未来に幸助を見た。在り方を気に入り、懐にしまっておきたい。だが、品定めはしなければ落ち着かないのも九尾狐の性根だ。

 他人の懐に漬け込むような伝承により、自分自身もそうでなければならなかった。能力や行い、容姿、智恵すらも伝承に影響に左右される。

 性格すらも人間によって生み出された憐れな存在。それが妖怪の正体なのだ。

 望み、恐れられ、偏見を植え付けられ、人格も力も伝承により左右された妖怪の運命に終わりはなく、永遠の時ともいえる時間を妖界で過ごす。

 唯一、心は思うがままに望める。心は本音を語れる。來嘛羅が本当に望む回答を幸助は既に持っている。公言してくれることを望む。

 だからこそ、九尾狐…いや、來嘛羅は幸助に問う。




 俺は嘘を吐かない。吐けば悲しませ、俺は食われる。俺が望んだことは……。

「あんたらに対する愛だ。俺は九尾狐が恋したかった。だから分かったんだよ。俺は妖怪と人間で幸せになっていい世界があっても良いんじゃないかと思った。人が人に恋するように、妖怪が人に、人が妖怪に気持ちを伝えても良いんじゃねえかと。今は、來嘛羅にちゃんと想いを伝えたいんだ!」

 言い切った。俺はちゃんと言えてる。好きな奴に告れてる!

「それで、妾に何を求めるのじゃ?好きというのに嘘はないのは分かったが、真実と求めているものを答えておくれ。聞いた上でお主を扱おう」

「好きな奴のために……俺は何かをしたい。好きな気持ちを何かに繋げてんだ!來嘛羅が俺を強いと言ってくれたように、俺は応えられる男でいたい。あんたを守れるぐらいの強い男にだ!妖怪に認められるほどの人間になって、もっと頼られたい‼︎」

 逃げ出したくなるほど恥ずかしい台詞セリフだったのを悔やんだ。

 だが、これが俺の本意なのだ。

 好きな奴のために、一度も頑張った記憶がない俺にとって、誰かを好きになって頑張りたいのは憧れであった。

 俺の告白に、來嘛羅は口を塞ぎ込んでいる。雪姫も何か言いたげであるが口に出そうとしない。

「妾を守る。と申したか?」

「ああ!俺は女のあんたに本気で好かれた人間としていたい。それだけだ」

 これで認められなければ俺は食われる。まあ、食われて泣く奴は雪姫だからな。流石に嘘一個もない言葉はキツ過ぎたか……。

「そうか。妾をおなごと見るのじゃな?…フッフッフ…フハッハッハッハッ‼︎お主は面白う存在じゃ‼︎」

 吹き出すように來嘛羅が笑った。

 面白いと笑われたのか?でも、俺は嬉しかった。ちゃんと、俺の気持ちが届いてくれているみたいだから。

「そうかそうか!妾がお主のおなごか。うむ!その話、とても愉快じゃ!妾をこよなく愛そうとするその想い。傲慢なほどの妖怪信者ときて妖怪に認められたいか‼︎蔑む人間は数え切れぬが……お主の欲望は簡明直截そのものじゃな。その胸の内、しかと受け取ったぞ‼︎」

 気持ちが昂ったのか、來嘛羅が上機嫌だった。

 俺はモフッとする感触に体が包まれた。

「化け狐‼︎」

 と、雪姫が声を荒げているのを耳にしていたが、それどころではなかった。凄え尻尾けもうに撫でられ、容赦なく体中が尻尾に包まれる。

 俺には來嘛羅が喜んでいるように感じた。

「見込み通りの男じゃな⁉︎では、妾が全身全霊かけて応えようではないか!」

「マジか⁉︎」

 俺は期待を胸にした。來嘛羅に認められたことで、俺は何かして貰えると。そう思わずにいられない。

「外に出るまで2週間、妾がお主を世話するとしようぞ!妾に目を付けられたお主が逃げる事は許さぬぞ?」

 俺はこの日より2週間、來嘛羅による特訓が始まった。


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