19話 料理の概念とは?
これで投稿完了です。
遅い時間帯に投稿してしまいすいません。
あと、15話ぐらいありそうなので、かなり加速したペースで投稿します。宜しくお願いします。
帰りを待つ秋水の元に分華と九華が現れる。
二人は頭を下げ、片膝をついて無言で挨拶を交わす。
「遅かったな?どうだ、奴は捕まえられそうだったか?」
「申し訳ございません。俺達では捕まえるのは困難と判断し、影分身を二体使わざる得ませんでした」
分華は淡々と伝える。
分華は《分身》を扱い、自分と九華の分身体を生み出して幸助達の目を欺いたのだ。
仕込みは早く、幸助達を最初に見つけた時から《分身》で監視していたのだ。尚、この分身体が死んだとしても本体に影響はない。
「そっか…悪かったな。流石に死ぬのは期待してなかったが、お前の分身が殺されるとなると武が悪いな」
特に感情は籠っていない。視線だけは向けるが、特に悪びれることをしない。
(分華を二体を簡単に倒されるとなると、単なる女誑しというわけでもないか)
爪を噛みながら考え込む秋水。
「しかし秋水や。今回は手の内を明かされてしまったのと同然。幻術で他者の思考を操ったのだろう。ワシらは拠点を移り変えた方が良いだろう。話を聞くに、太古の妖怪である九尾狐が情報を洗いざらい得てしまったことだ。この拠点を捨て、宵河に落ち延びるのも良かろう」
拠点を捨てろと強要する。
考えるまでもなく、意外にも秋水はそれを承諾する。
「分かったぜ。テメェらの案を受けるさ。だが、此処にいる妖怪共はどうしよっか」
200いる妖怪の処遇を決めかねている。手を打たなければ、後で反発を受けるかもという危険が頭に過る。
考え込む秋水に名妓は悪魔の囁きをする。
「秋水様、陽動で妖怪共をお使いすればよろしくて?」
「ん?それはどういう意味だ?」
「この妖都を壊滅出来るかを試してみてはどうでしょう。混乱に乗じ、瞬間移動を使える異世界人を使い、私達は宵河に向かえば良いのでは?」
名妓の案を理解した秋水は不敵に笑う。
「いいぜ。じゃあ1ヶ月後に始めるか。それまでに、この妖都にいる妖怪を捕まえてこい!分華テメェの影分身で九尾狐と雪女を出来るだけ監視しとけ。名妓と貞信、俺様で妖怪狩りを進める」
今日より1ヶ月後、秋水達の妖都征服が行われる。そう決断を下す。
秋水達は、片っ端から定めた妖怪を手にかけていく。
「貴様らかっ‼︎我が同胞を狩る者とは⁉︎」
妖都にも有数の妖怪である見上入道は身体を巨大化させ、見上げる秋水を見下ろす。
「よく吠えるぜ妖怪の分際で。オレ様が従えてやる」
秋水は見下ろしてくる見上入道に駆け走る。
手に青い光を灯し、触れた途端、その光は魂のように揺らぎ始める。
「アウトだぜ?これでオレ様に従うしかないぜ」
手に持つ魂を握り潰すと、あまりの激痛に見上入道が巨体を維持出来なくなり、指程度の大きさになる。
「俺様の超能力は支配だ!テメェら妖怪なんざオレ様の敵にすらねえーんだよ‼︎黙って駒になれ‼︎」
秋水に敵う者がいないと言わんばかりに、次々と妖怪達を休む事なく狩り続き駒にしていく。
その噂を聞きつけた妖怪達が次々と秋水達を襲うが、全て返り討ちに遭う。
「ギャッハッハ‼︎オレ様に勝てるわけがねえーんだよ雑魚共が‼︎いずれ世界は俺様の物になるんだ。新たな妖怪の王として君臨してやるんだ、感謝するんだな‼︎」
秋水の計画の為に妖怪は狩られ、今までにない程の速度で妖怪は秋水に跪く。
これを容認出来ない者達が、密かに現れ団結する。
妖怪を駒としか見ない仕業に積怒を抱くのは、なにも幸助達だけではなかった。
あれから5日経った。目が覚め、雪姫と來嘛羅にその後を聞いて驚いた。
俺は立て続けに妖怪が失踪しているというのだ。
「俺達を襲った奴らが暴れ始めているのかよ?」
「事実じゃ。妾の目の行かぬ場所で被害が出ておる。どうやら、妖都の六割近くが連中にやられてしまっているのじゃ。道行く者が減り、今は妖都に相応しくない程の静けさじゃよ。妖怪達も店を畳んで顔を隠しておる。さて、どうしたことかの…」
俺は妖怪の方が強いのは理解している。俺が持つような能力と違い、初めから持つ妖力を使った妖術は強力だ。だからこそ、狙っている奴らに負けるとは思いたくない。
「俺は能力って言っているが、來嘛羅と雪姫は異能と呼ぶ力は確かに異質でヤバかったが、來嘛羅なら余裕だろ?なんで好き勝手に狩られてんだよ」
俺の疑問はどんどん浮かび上がる。
「幸助、あなたは勘違いしているかもしてる。この妖界で生きる妖怪に戦闘能力はあるけど、それは妖術に対してであって、異能には敵わない妖怪が大半。人間と過ごす事が多かったから分かるけど、あなたみたいに被害が出ないような異能が珍しいだけ。後は凶々しい異能でしかない」
「それで、其方は人間を切り捨てたというわけじゃな?」
來嘛羅は揶揄うように雪姫の心を掻き乱そうとする。
「なに?化け狐が知った口をして」
「言い方が良くなかったかの?じゃがそれも事実であろう。人間という種族は未知なる可能性を秘めている上にその力を見誤る。幸助殿は特別だけじゃったと。それさえ分かれば、其方にも聞き貰えるじゃと思ったが」
そういえば、俺の疑問はこれだけではない。
俺自身の身体能力と扱っている妖術が飛躍的に上がったというところだ。
どうやら、俺が眠っている間に雪姫達に弄られていたみたいなんだよ。思ったよりも力が漲ってくるんだ。力を持て余すような何かが……。
「今の俺だったらやりあえるんじゃねえのか?二人死んだんだし」
俺は九華を殺した。それに関しては後悔もない。雪姫達を侮辱した奴らを生かす理由もないしな。
「幸助殿、実はあの者達は死んでおらんのじゃ。分華を取り込んだ際に違和感を感じ、一度戻ったのじゃが…どうやら、妾の目を欺いておったのじゃ」
「マジかよ⁉︎」
「嘘ではないぞ。幸助殿が凍らせた九華を調べたら分身じゃった。最初から妾達を試すつもりで放ってきた忍者のような奴らよ。お陰で、こちらの動きを監視されておる。動きを封じ、他の妖怪を狩る所業を繰り返しておる」
「くっ、許せねえな…。いっちょ、あいつらを絞めあげてくるか」
「気を立てるでない。今は行動するには時期が不味い。妾が出向いて滅ぼすことも可能じゃが、その場合、妖都が半壊してしまう。力を抑制すると負けてしまうからの」
流石最古の妖怪であり、俺の好きな來嘛羅だ。異世界人達を倒せる力は持っているんだな。
「じゃあなんだ?あいつらを野放しにするわけにはいかねえし、妖怪達を解放する手筈は整えるべきだろ」
「それなら安心して幸助。私達以外にも動いている妖怪や人の子はいる。まずは、その者達に協力を要請するべき」
「そうなのか?」
「うん。幸助と同じように、正式に加護を受けた人間はいてね。妖都にひっそり住んでいる人間が二人に心当たりある。2週間後、私達が化け狐の空間から出て説得しに行く。その際、幸助にも手伝って貰うけど、大丈夫?」
雪姫が意外な提案をしてきた。
俺は迷わずに頷く。
「うむ、決まりじゃな。その者達は100年の時を生きる迷い人じゃから、その強さは保障出来よう。烏天狗と女天狗の加護を受けし者故、その力は強靭じゃ。もう妖都にいる協力者はその者しかおらぬ」
「そうなのか。じゃあ、そいつらに協力を貰いに行こうぜ!」
暫くは來嘛羅の空間内で身を潜めないといけないのか。こういう時に暇潰せるものがあればな……。
「ところで雪姫、あんた凄く変わったな?」
「……気付いてたんだ」
「ああ、当然だ。表情というか喋り方か?後は雰囲気自体がこう…柔らかくなった感じがしてな?滅茶苦茶喋りやすいんだ。俺が眠っている間に何があったんだよ?」
喋っている時もそうだったが、俺と会話する時は人間らしい仕草が多かったもんだから気になった。
「そ…そうなのね。私の事、意識してくれてくれるんだ。ユフフ」
「表情が冷たいお姉さんじゃないしな。何か、來嘛羅に影響でも受けたのか?」
すると、雪姫が頬を膨らませジト目で、
「知らない……」
そんな一言で雪姫にプイッとされた。
「なんでだよ?俺とあんたの仲だろ?それぐらい教えてくれよ!」
「駄目。私の恩愛を受け入れないと言わない」
「知らねえよ、あんたにしか分からないだろうが、俺に聞かせてくれよ」
「無理。私の料理、食べてくれるなら話してあげる」
「うっ‼︎」
急に吐き気を感じた。“料理”という言葉に酷く反応してしまう。
「なんじゃ?其方が振る舞ってくれるのかの?それは誠に楽しみじゃ。是非作っておくれ」
「分かった。化け狐にも食べさせる、楽しみにしてね」
なんでか不敵に笑う雪姫がてくてくと台所に向かいやがった。
「おい待て!おいっ‼︎」
俺は無理やりでも辞めさせようと台所に向かう。
「これお主よ、何故止める必要がある?幸助殿と妾の為に命を提供してくれるのだぞ?何故、そんな不愉快極まりない顔をする」
「アレを料理とは言えないんだ!來嘛羅が食べて良いものではない!直ぐに止めてくれ‼︎」
俺は弁明する時間が欲しかった。なのに……。
「お待たせ。化け狐の空間内だと楽、材料が全て揃っているから」
そんな時間は存在しなかった。
「ほう?妖術でも使ったのかの〜?随分早う仕上がりじゃな」
「料理なんか簡単、3分あれば出来る」
それは料理と呼べるのか……?3分で出来る料理なんか聞いたことがない。俺の認識不足か?
「なあ雪姫…ちなみに何作った?」
なんで作った物に布を被せる?そこからツッコみたいんだが。
「これ?若鶏の生け料理だけど」
「おお!それは大層なご馳走じゃな!」
來嘛羅が目を光らせて喜ぶ。
若鶏の逝け料理なのではないのか?そもそも、名前からして3分は少な過ぎるだろ‼︎
「俺、生食えないんだけど」
「大丈夫、幸助のお腹に合うから」
「俺に死ねと言ってんのか⁉︎」
冗談じゃない。こんなもん食ったら腹下すレベルで済む筈がない。
「何を喚く?お主の為に丹精込めて作っておるじゃろ。それを口にしないとは命を侮辱するのと同じ、妾とてお主の感性を疑う」
こればかりは否定したい。食材を侮辱しているのは雪姫の方だ。
雪姫は俺の目の前に大皿が来てしまい、思わず腹痛が襲う。布を被せられているが、これは料理じゃない。
「はい、これ食べて精をつけてね」
布が取られ、俺の目に映るのは生きた鳥だった。
生きてる、というか痙攣しているように見え、内臓剥き出しの状態だった。
羽根は全部抜かれ、中途半端に生きていて、それでいて血と肉が見えるから吐き気が誘う。
必死に吐き気を押さえ、その料理に俺は文句を言いたい。
「うむ……これはなかなかの見栄えじゃな。雪姫も良い腕じゃ」
「そう?私の料理を褒めるのね」
「久方ぶりに人の物を食べるからの。これも新鮮味があって良いぞ!」
え…?
來嘛羅が褒めてるのか?あの見た目も食感も最悪なゲテモノをか……?
なんでそんな美味しそうに料理を見れるのかが不思議でたまらない。
「こんなこと…間違ってる!なんで生きてる動物が良いんだよ⁉︎」
間違っているつもりはない。下処理も殆ど無い物を料理とは言わないし、俺は認めない。
「え?でも、幸助は生きた魚、食べたよね?」
「あれは食べるのが魚だけしか無かったからだろうが!お陰で毎日踊り食いで口の中を冷やさないと食えねえんだよ‼︎」俺が何度口を怪我したことか。妖術で口を凍らせながら砕かないと魚が暴れて口の中が滅茶苦茶になる。実際になったし!
「幸助殿、妾妖怪は生きた状態の方が栄養を摂れると考えておる。生きてる血肉が妖力となり一部となる。死んだ生物じゃと大して栄養が摂れぬ。死体を食べるよりは聞こえはいいと思うのじゃが?」
俺が真剣に否定してるんだが、來嘛羅が耳を疑う事をサラッと言いやがった。
俺が間違ってるのか?
俺は自分の価値観が可笑しいのではと錯覚し始めた。
「死体食べるのと生きた体食べるのはどっちがマシ……聞こえは良いの、か?」
「分かりきった事じゃ。死肉を食らう方が穢れておる。新鮮な血肉は生きたものしか持たないからの」
なんだろう…。俺の今までの常識がヤバいのか?
牛や魚を焼いて調理して食う事になんの躊躇いもなかった。
來嘛羅や雪姫の反応を見ると生きた状態が新鮮だという。妖怪は生きた状態、人間は死んだ状態のものを口にする。
ヤバい、今ヤバいことに気付いちまった。
俺の方が滅茶苦茶気持ち悪いじゃねえか⁉︎
「分かったよ。俺も今日から生で食ってやる」
幸助は環境や状況に馴染むのが早い。
好き嫌いがない性格で、どんな物でも食べてしまう考えを持ち、見た目に何があろうと食べる事を優先的に考える人間だ。
決して貧しい環境にいた訳でもないが、どんな見た目のゲテモノでも食べてしまえる。
決心すれば問題ないと、幸助は覚悟した。
案外、こういうところが來嘛羅が気にいる部分でもある。
(すまぬ幸助殿……。雪姫の料理は壊滅的じゃ)
尚、幸助を唆した來嘛羅は雪姫の料理を認めていなかった。




