15話 双子の来襲者
お待たせしました!2話目です‼︎
先程、第一部書き終わりましたので、短期間で一部全て投稿します‼︎
3話目はこの後すぐに投稿します!
そして、幸助の異能が判明?はしましたが、これは果たして……。
俺は來嘛羅と雪姫と共に、空間から妖都へ戻っていた。
俺の服を見た來嘛羅が落ち着かないみたいで、俺は本来の目的である服を探し求めていたのだ。
正直、この世界に求められる格好にしては似合わないと思っていたから良かったし、俺も妖界に馴染みたいと考えていたから助かった。
來嘛羅に見られるものだから、俺は凄く緊張してしまう。
「來嘛羅、さっきから俺の服を探してくれているのは嬉しいんだが。その……」
「うむ?幸助殿は嫌かの?」
「なんで、來嘛羅はそんな質素な服装になったんだ?尻尾が一本だし、髪が黒髪に変えちゃってるのが気になって…」
來嘛羅の美貌が欠片もない、というわけではないんだが、尻尾が一本はな〜。
物足りないんだよな。
「なんじゃ幸助殿?妾の尾が恋しいかの?」
思考を読まれる。それは、他の奴からしたら不快にしか思わない読心術であるが、俺は寧ろ、嬉しい限りだ。
來嘛羅に覗かれている感じが堪らないのだ。
「物足りないかな。折角、純金のような神々しい尻尾が一本しかないのが勿体無くて」
俺が願うように言ってしまった事に対し、來嘛羅はにんまりと笑みをする。
「ンフフフ、お主がそこまで言うなら……ほれ!」
気前よく、三本に生やしてくれた。そして、俺の首に巻き付けるように一本尻尾を肩に乗せた。
凄く良い匂いがする。眠らされた時に比べると、抑えめの甘い匂いで、鼻にくる匂いが妙に落ち着く。
匂いを表現するのは無理だな。どんな匂いなのか分からない。鼻にゆっくり染み込むような、濃厚な……。
俺の頭に強い衝撃が襲う。
「なんだよ⁉︎雪姫!」
雪姫が容赦なく手刀で頭を叩いてきやがった。
僅かに、雪姫が嫌そうな表情をして俺に聞く。
「匂い、好き?」
「……ん?」
「幸助、匂いに興奮してるから。もしかして、そういう事に興味ある?」
ここまで真剣に視線を向けてくるのかが分からない。とりあえず、刺激しないように聞くしかない。
「俺は匂いフェチじゃねえよ。來嘛羅の匂いが俺好みなんだ。もしかしたら、雪姫にも出来るかもな」
俺の考えに対し、なんでか來嘛羅が呆れ返っている。
「のう幸助殿。妾を褒めてくれるのは嬉しいのじゃが、そんな都合の良い事は出来ぬ。妾が見定めた男以外には通用せぬのじゃよ。お主が死ぬまで、妾の美貌に平伏せられる男は幸助殿だけじゃ」
「マジなのか⁉︎俺が死ぬまで、俺以外を誘惑しないという意味で受け取って良いのか⁉︎」
俺はこんな美女に目を付けられたんだな……。死んで良かった。
あっ…これ、マジで冗談になってないから逆に凄えな。
「化け狐、あなたは幸助をどうするつもり?一度虜にした人間が命潰えるまで依存させる、そんな事、幸助に許容しないで欲しい」
「仕方がないじゃろ?妾の多面性の一つなのじゃ。目を向けてしまったからには、責任を果たすべきじゃろ?」
「それはあなたの都合。私と幸助だけでもやっていける」
「それは不味かろうて。お主達は既に狙われておる。妾が傍におれば心強い筈じゃ」
「それは嫌。勝手に連れ去ろうとした、化け狐の言葉は信じられない」
雪姫はきっぱり断った。
雪姫は來嘛羅を敵視している、という感じには見えないが、なんで張り合うのかが分からねえ。誰かと絡む度に、冷たいのを巻き上げるのだけは勘弁して欲しいんだが。
そんなやり取りをしている内に、建物が密集する内の一軒で足を止めた。
気にはなっていたが、文字は日本語だな。途中、うどん屋とか寿司屋とかもあったし、日本と全く違うというわけではなさそう。
散々歩いて見つかった服屋で俺の服を調達。俺は試着室で着替え、着ていた服は雪姫に渡した。
購入を済まし、装備を身に付け、俺は試着室を出た。
俺の姿を見た二人の反応はというと、
「うん、似合ってる」
「より愛くるしくなったの。和洋折衷とは、随分好みが分かれるところじゃが、目の保養には十分じゃな」
雪姫は軽く両手で拍手しながら褒め、來嘛羅は俺の格好をじっくり眺めている。
和服や着物が多い妖界で目立たず、尚且つ現代風に近い服装を俺は選んだ。
シャツの上に紐無し羽織。パンツに革靴。ちなみに、店員らしき妖怪に薦められたがハットは要らなかった。
妖界にもこんな服があったんだなと安心した。てっきり、かなり着込むのを想像していたから、予想外れて良かったと思うな。
「うむ。もっと服を仕入れてみるのも良かろう!」
來嘛羅は気に入ったみたいなのか、今度は別の店に尻尾で引っ張られる。
その後は凄いものだった。どうやら、來嘛羅に火をつけてしまったみたいなのだ。
來嘛羅の着せ替え人形のように渡された物を全て着せさせられ、俺の服をチョイスしていく。
最初は嬉しいのだが、容赦なく俺の裸まで見られて、俺は危機を感じた。
「ほう?筋肉はやや付いておるみたいの。黒髪に似合う(におう)服は多いから選びやすいの!それと……ちっこいのは?」
俺は構わず魂から叫んだ。
「雪姫!ヘルプっ‼︎」
俺の服を持ったままの雪姫は、なんでか、微笑ましい笑みで服を見つめたまま何も言わない。
雪姫はそんな俺の助けを拒否しやがった。
「おいっ‼︎ヘルプって言ってんだろうが‼︎」
強めに叫んだら、ようやく反応してくれた。だが、
「幸助、ヘルプ?って何?」
と、シラを切りやがった。
服を着せ替えさせられた俺は、いつしか來嘛羅に主導権を握られた。
俺は思った…。二度と來嘛羅に服を選ばせたら駄目だと。
結局、俺は最初に選んだ物を私服として着ることにした。
妖都を回り続けて六時間ぐらい経過したかな。そろそろクタクタで座り込みたい。
なんで、こんな妖怪混みの中を延々と歩く事になってるんだ?
俺はよく分からないから聞いてみる。
「來嘛羅、買い物は済んだしそろそろ戻らねえか?」
俺は本音を漏らした。來嘛羅は振り向く事なく言葉を言う。
「お主を狙っておる輩がいるのじゃ」
俺は背筋にぞっとする寒気を感じた。
「それは、どういう意味で…?」
「それ以上話題にするでない。人目につかぬ場所に行っておる」
冷たくあしらわれた。だが、來嘛羅の表情が笑っているようにも見えた。
妖都は広く、数時間程度では抜け出す事は不可能だ。乗り物はあるが、俺を狙う奴が襲ってくるかとしれない。だから、乗り物には乗らないのかと思っていた。
自然体の成り行きのまま、俺達は妖都で妖怪や人が居ない場所に来た。
流石の俺も、何かが狙っている気配を感じた。雪姫は戦闘に入るつもりなのか、刀に手をかけて辺りを凝視している。
人気がないといっても、かなり場所が開けた所で、逆に人目が付かない方が可笑しいぐらいだ。
「此処は既に妾が手を施しておる領域じゃ。妾の許可無しには出入りが出来ぬようになっておる。仕留めるなら、此処が最適じゃな」
來嘛羅は得意げに言う。
來嘛羅は最初から出会う事を想定していたのだ。俺と雪姫と出会う前から仕込みを開始し、俺達がその領域に踏み込んだ瞬間に、來嘛羅の結界が起動するように。
つまり、敵が來嘛羅と出会う(せっしょく)する事は最初から決まっていたのだ。好きな妖怪ながら、油断ならないな。
どんな行動を起こすのかを最初から知る程の予知能力。
出入りを禁止にする強度な結界。
俺を虜にする美貌。
未知なる力を兼ね揃える太古の妖怪。
この勝負……。
俺が最後まで考える間も無く、突然、爆音が響く。
爆音と共に砂煙が舞って、破壊された瓦礫が飛び散る。
「くっ…」
俺の前から、飛んできた瓦礫の破片が俺の耳を切った。傷口から微かに血が滴れる。
俺は妖術で止血を行う。
「…来たようじゃな」
「そうね…」
巻き上げられた煙が消える。そこに二人の人間がいた。
男は腰に剣を刺し、動きやすさを重視した軽装なデザインの服を纏い、短髪で普通の高校生ぐらいの顔付きに見える程に若く見える。
女の方は髪を後ろに巻き、ツインテールのように縛っている。服装は忍者をイメージしての服デザインを着こなし、体格は俺より長身でやや細身。
見た感じ、二人は兄妹か姉弟のどちらかの血縁関係だと思われる。もしかしたら双子なのかもしれねえ。
二人は男と女で、どちらも不敵な笑みで俺達を見ていた。
「クヒヒヒヒ、わざわざご丁寧に待ってくれたんだね?お陰で人間だけじゃなく妖怪もおまけ付きなんて」
女が最初に喋った。それに続いて男が名乗る。
「よう、随分俺らを歩かせてくれたな。礼の代わりにそこの男を差し出せ。そうすれば、テメェら二人は見逃してやる」
俺が目的のようだ。
俺は丁重に聞くのと一緒に断った。
「なあ、なんで俺が必要なんだ?悪いが俺は付いて行く気はないぜ。俺は好きな奴等と一緒にいたいし、勧誘するとかなら別の奴にしてくれよな?」
俺の返答に満足しないのか、女の方がキレ出した。
「はぁっ⁉︎ふざけんなよアンタ!散々アンタを捕らえろと言われてんのに手を引く馬鹿がどこにいんのよ!」
キレた女を男が宥める。
「おい、九華。口走ると情報が漏れる。それ以上口を開くな」
宥めるよりかは威圧に近い。女は九華と言うんだな。
「あんたは俺を知っているみたいだな?何故狙う?」
俺は男に聞く。知りたい事はあるし、來嘛羅の話していた組織(黒幕)が気になるしな。
「あーそうか。お前、自分の能力を知らないのか?それとも何か?お前は自分の能力は知っているがしょぼい能力だったのか?」
男が俺を馬鹿にするように言いやがる。
「あーそれだったら悪い。俺が訊いたのが悪かったな、謝るよ。妖怪に名を与えてしゃしゃるお前を引き抜こうとした俺らが馬鹿みたいだったな、謝るよ」
「くっ!てめぇ…」
こいつの話し方がうぜえ。この世界で初めてキレそうだ。
俺は刀剣を握り、奴の首を刎ねようとまで考えた。
だが、俺よりも怒りに駆られた雪姫が男に刀を振るった。
「チッ!」
男は舌打ちし、咄嗟に背後に下がった。服を掠めただけで無傷だった。
「なんだよ妖怪?この俺に牙を向けるか。妖怪の分際で」
雪姫は俺が見たことがない程、青白い目と表情が殺意で満ち溢れていた。
妖気がお構いなしに漏れ出て、刀身と服が吹雪ではなく凍てついている。足元までも影響を及ぼす。
俺も…寒さで身震いしてしまう。
さっきまで疲れていた筈なのに、こんなに力を引き出せるんだ?なんの力なんだ?
「ねえあなた。幸助の嫌味を躊躇いなく言うのね…。幸助が怒ってる、なのに、あなたはそれをヘラヘラと……。人間だから殺したくはなかったけど…」
氷が割れる音がする。それと共に雪姫は決意を示す。
「私が愛する人間だけには手を出させない。もう決めた。他は容赦無く……殺す」
雪姫が俺のために怒っているのは直ぐに感じた。
だけど、一つ言いたい。雪姫のその言葉だと、俺も殺される気がするのは気のせい…だろうか?
でも、嬉しいな。俺のために怒ってくれているんだ。
俺も応えなければな。
「雪姫、ありがとうな。俺も覚悟決めてやるぜ」
俺は刀剣を構え、九華達に刀身を差し向ける。
「なあ、あんたら。俺は雪姫、來嘛羅が好きだ」
「なんだ急に?告白を咬ましやがって」
「俺はかなり可笑しい奴だぜ?人間よりも妖怪が好きなんだ。好きな奴が妖怪なら、俺は雪姫達に付く。あんたらに付くメリットを感じねえし、俺はあんたらみたいなタイプ、大っ嫌いだ」
俺は歯を見せ、笑って返してやった。
「そうか……。じゃあ道具でしかない妖怪と一緒に、この俺、分華に殺されるんだなっ‼︎」
分華はそう言って、両手に握る短剣で俺を真っ先に狙ってきた。
速いっ!
身体能力は分華に武があるみたいだ。
俺は刀剣で弾いていく。
「ふん、ガキくせえのにやるな」
「煩え!」
俺は見極めて攻撃を仕掛け、突いてくる攻撃を躱す。
雪姫の相手は九華だ。
雪姫が先制をとり、九華を追い詰めていく。体力と妖力はなくとも、人間と妖怪での身体能力は違う。疲れているとはいえ、雪姫に武があるのだ。
「嫉妬女が!舐めてると潰すぞゴラッ‼︎」
雪姫はそんな言葉に耳を傾けない。ただ殺意を向けているだけだった。
「侮辱したあなた方には死んで貰う」
雪姫の凍結した刀と九華の片手剣がぶつかる。
雪姫は刀身に冷気を流し込み、武器の無力化を図る。
(妖力を付与しないなんて、私の攻撃を舐めている。幸助が特別。妖術は簡単に習得できないから)
九華が異能を使ってこないのが不思議に感じるが、冷静さは保つ。幸助の勇姿を見て奮い立たされる。
刀に付与された凍結により九華の片手剣を凍らせ、使い物にならなくさせた。
「クソが‼︎武器がこんな早く凍るなんて知らねえよ!」
九華は愚痴を叫ぶ。
(この程度で幸助を奪うなんて、勝手な思想を抱いたのが馬鹿ね)
雪姫は九華の実力に落胆していた。
戦闘に参加しない來嘛羅は、出入り禁止の結界を最大限の強度にするまで、手出しが出来ない状態。
二人の戦闘を見て金瞳を細める。
(油断するでないぞ雪姫。名を貰って驕れば……滅ぶぞ)
來嘛羅は幸助の能力の半分は看破している。
幸助の異能は《名》。そう來嘛羅が幸助に伝えた。
來嘛羅だけが幸助の異能の根源を知る。
能力の名前は看破したのだが、その詳細は秘匿状態。
知らないというよりも複雑過ぎる故、その秘めた能力を伝えることをしない。
名付けと言ったのは異質だからである。
その異能が発揮する力が未知数。もしかしたら、弱い部類なのかもしれない。
一方、九華と分華の異能は分かっているからこそ警戒しているのだ。




