表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖界放浪記  作者: 善童のぶ
碧落奔走編
151/285

150話 雪姫の喜び

150話達成しました‼︎


待ち遠しく待っていると、定員さんが笑顔で作業場から出てくる。

「仕立て完了致しました。サイズの方は、雪女様の採寸に合わせてありますので」

「雪女って名前じゃねえよ。あいつは」

俺が否定すると定員さんは暗い顔して尋ねてくる。

「もしかして……あの噂と事実は本当…でしたのですね?」

「まぁな。俺が名付けて変わったんだ」

そう返すと店員さんは顔面蒼白になり、俺に仕立てた服を渡し、目を合わせずにそそくさと離れていった。

渡された服を持ち、数時間も待たせてしまった雪姫の居る個室へ入る。

「……随分、時間使ったのね?」

そこには目を瞑って微動だしない雪姫が待っていた。

「時間使い過ぎて、3時間使っちまった。待たせて悪かったよ。お陰で良い物用意して貰えたぞ」

俺は謝りつつも雪姫に渡した。しかし、一向に目を開けようとしない。

「コレね?幸助が私の為に……」

「そうだな…俺が定員さんにデザインして貰ったんだ。製作は定員さんだけど、俺が色々と決めたっていうか…」

「そう…幸助が決めた物なら別に良い。早速、幸助の服を試着してみる」

「じゃ、じゃあ俺は外に出てるぜ」

俺は個室から出て、渡した服を雪姫が着るを待った。その際、何故か雪姫が目を開けようとしないのが気掛かりで仕方がなかった。

似合ってなかったらどうしよう…。

………。

……。

…。




服を受け取った雪姫は目を閉じていた。

幸助から貰う品を見ようとしなかったのは訳があった。

受け取った品を見て、自らが思ったことを口にしないように気を遣ってのことで、悪意があるわけではない。

ただ、男からの女性へのプレゼントを受け取る際、女物の品であるのが違和感を感じ、幸助のセンスを疑っていた。口を開き、ただ悲しませ怒らせるような言動をしないように注意をしての異様な態度だったのだ。

自分が思ったよりも口にしてしまうのを気にし、個室に入ったのと同時に目を開く。

手にしている衣装を見て、雪姫が凍り付く。

「……え?」

予想外の反応をする。雪姫の思考が数秒停止し、手に持つ衣装に目を奪われる。

服のセンスがないと言いたかったのだが、思わぬ才能を見た様に言葉を失ったのであった。

突然の贈り物で、雪姫が驚くことなどあり得ない。そもそも、貰う側に相応しい妖怪ではないと自負していたからだ。

誰からも貰えないとばかりに無関心になり、他者との関わりを持とうとしなかった。呪いをかけられたのが加速し、一段と思い込みが強くなってしまい、とうとう私物や私生活にすら関心を抱けなくなっていた。

元々は雪姫も料理が出来ない訳ではなく、単に関心が無に等しくなったことで放棄していたに等しい。

幸助との接点を得て、漸く本来の自分を見つめ直すようになった今、彼からのプレゼントは心から震撼させるものだった。

「私の為に用意してくれたのね。どうせなら、適当に安い首飾りでも渡してくれても喜んであげたのに。そうすれば気を遣わなくても済む話だったのにね。そんなに私に気を遣って……本当は1年を迎えたからなのでしょ?」

衣装を抱きしめ、満足そうに愚痴をこぼす。

偶然にも、幸助との出会いから1年が過ぎていた。その結果、雪姫は幸助からのプレゼントの主旨を勘違いしている。

幸助なりのささやかな衣装なのだが、雪姫はそれ以上の受け取り方をしてしまう。

気持ちが籠っている品であるのは間違いないのだが、受け取った本人の方は違う。

「口で言ってくれれば良いのに。私が好きじゃないなら贈らない筈。だけど私にくれた。淫乱狐の婚姻を断ると言って揺るぎないのかと思ったけど……フフッ、化け狐に勝った…!」

押し殺す様に震え喜ぶ。自分が優先されたという結果に喜び、心の底から本音が出た瞬間だった。

自分でも理解が及ばない。何故、感情が壊れたように笑みを浮かべ、大事に抱える衣装を花を愛でるように丁重に扱うのか。

理解するまでもなく、雪姫は幸助への信頼を勝ち取った。それが事実であり、その対価としての礼を受け取った。

「妖魔水を使ってる。これ、古都より先の海でしか得られない深海の……。生地も氷鳥ブリザードを媒体とした糸で縫われてる。妖力の質が桁違い。どれもこれも、私にとって亡者には勿体無いわね。もしかして、適当に材質を選んでいた可能性も……」

自分でも嫌になる勘の鋭さ。

幸助が妖怪以外に詳しいとは思えず、ただ高価だから選んだ可能性もあるが、雪姫にとっては特に気にするものでもない。

「いいえ、これは幸助が私に贈った最初の賜物。今はこの装束を通してみるしかないね」

ここ最近、雪姫が独り言を言う事が多い。特に、幸助が絡むと増えている。

正面から礼を伝えたいが、彼女の意思はそれを躊躇している。

だから、せめて幸助が喜ぶ顔が見られれば良いと、雪姫はこそばゆさを感じる。

渡された衣装に、いつにも増して緊張と愉悦の感情を向け、表情に出ぬように袖通しをゆっくり行う。

随分と時間が経った気がする。

この世界にも時計があるからよかったが、確認するにも感覚で測っている。大体20分っていうところだろうか。

俺の腕時計は雪姫に預け、その他も全部雪姫に預けたんだが、いつの間にか無くしたらしい。

こんなに着替えるのに戸惑うものなのか?

とは言っても覗くのは俺の心が許さねえ。

女性の着替えなど見た事がない。いや…妲己の時はチラリと……。




「お待たせ幸助」

そう言うなり個室から出てきた。雪姫の声が少し恥ずかしそうだった。

俺は待ち侘びて雪姫を見た。

「待ったぞあ……な?おおっ………」

声が唸るように漏れた。

雪姫が用意した服を着ている姿を見て、俺は言葉を失う。


死装束ではなく、そこに立つのは俺が用意した服を着衣する雪姫。

和服とは違い、西洋風の服を身に付ける雪姫の醸し出す雰囲気が大きく変わっていた。

死を連想させる死装束に代わり、青紫色ロイヤルブルーのドレスに似た肩が露出したデザイン。來嘛羅の和服を見たのを少々意識しているが、雪姫は過剰な服を嫌うと思ったから肩の一部だけ露出させた。

美女の肩出しは魅力的だからな。雪姫には是非して貰いたかった。

ただ露出させているだけではない。

首元はしっかり襟リボンと上着で縫われていて、本当に肩部分だけの露出。他は袖も手首まで隠れている。その代わり、死装束で見えづらかった白い手が隠れなくなったから寧ろポイントだろう。

動きづらい下駄に代わり、白いブーツを履いて貰い、細い足が良く目立つ。

全体的に身体のスタイルも分かりやすくなって、細身であるのだと判明した。腰回りも細く、結晶のような髪も含め非常にマッチしている。

極め付けはスカート。これは悩んだ点だが、太もも辺りまであるスカートだけでは物足りないと感じ、青紫色ロイヤルブルーの服の下に青藤色の服を縫い合わせ、二重のスカートに作って貰った。内側と外側のスカートの長さに差をつけ、ちょっと変わった風の服装。

刀を持つ雪姫には似合わないかも知れないが、現代風の格好で似合っていると思う。てか、この世界ならカナっていう奴も精霊風の露出度の高えヤツだったから、雪姫の方が清楚なイメージがあるな。あいつ歳行ってるからな……。

妖怪は別だぞ?俺的には雪姫はお姉さんか母親ぐらいの認識で思えるからな。無名は告白してくれた後輩で、妲己は我儘なお姉ちゃん、すね子は可愛いペットで、來嘛羅は言うまでもない。

他にも、夜叉と褒姒は苦手だな。殺しかけてきたし、雪姫達の命を賭けようと言ってきたしな。正直苦手としか言えない。残念だが、印象としては最悪だ。

とまあ話は置いといてだ。雪姫の西洋風に包まれた格好は正直……いける。

訂正だ、お母さんとは見えねえ。マジでお姉さんだ。

俺は未知の妖怪を目の前にした気分になり、思わず見惚れたように言葉が出なかった。

「どうかな…幸助?ちゃんと着こなせてる?」

それに加え、普段見せない火照る雪姫のうぶな仕草に何処かむず痒い思いを抱いてしまう。

あの冷酷で冷たい目をする雪姫がたじろいでいるような。それを普段見ている俺からすると、雪姫の変わった様子にギャップを感じてしまう。

「き、きぃ…綺麗で可愛いと思うぞ⁉︎前より怖い態度も感じねえよ!寧ろそっちの方がいいと思うぜ?」

「っ‼︎そう…なのね。あなたがそう思ってくれたのならそれで…」

俺とやたら目を合わせてくれない雪姫。それでも、なんだか嬉しそうな感じに見えるから安心感はある。

俺は初めて雪姫を喜ばせられてあげられた。これは大きな収穫だと思い、誇らしげに会計に立ち会う。




告げられた金額を知り、俺は服という恐ろしさを知る。

「えっとぉ…アネモネ染色三度漬けが一点。妖魔水ようますい漬けが一点。妖糸ようし百メートル一点。純正長靴が一点。ブルーダイヤモンドが一点。シルクとウール、その他諸々の生地を八十五点。『氷虎ヒョウコ』の毛皮と『氷狼フェンリル』の毛皮一点ずつ。装飾及び刺繍も込みで……お客様は妖都出身ですので金額は二千三百円となります」

……詐欺かな?

これ、普通に妖都の金額とは変わらねえよな?だとすると高過ぎる。財産の五分の一が消える事になる。

「あの、それはちょっと高い気がするんですが。何に一番値がいったのか教えてくれませんか?」

俺は喧嘩売りにきたわけじゃない。丁寧に聞き、その詳細を教えて貰う。

「お客様がご注文した品を完全再現するには、産地であるデスバレーは極寒の地の故、多くの“災禍様”がおられ、この素材は“太古の妖怪”の御方が討伐して連れて来たとされる代物です。大変希少種ですので、残念ながらコレで値がいってしまうのは仕方がないのです」

納得するしかなかった。

「そういう事か。ならいいよ。ちゃんと払うし」

雪姫にお金を出して貰い、自分の所持金からしっかり払った。

デスバレーは褒姒も言っていたが、『メデューサ』や『キマイラ』がいる死の山脈。そりゃあ商売において命賭けられるのは強者だけだろう。

ギリシャ神話の怪物も妖怪になるとは、俄かには信じ難い。

神の血を引く妖怪が“災禍様”に属するとなると、悪魔や精霊もいるよな。流石に天使が妖怪に堕天するなんて知らないから、それはあり得ないと思いたい。

人間界か妖界で僅かでも誰かに囁かれると生まれてしまう。しかし、大抵は名のない妖怪が生まれるのが普通であるのだが例外・・がいる。

ギリシャ神話に属する妖怪は異界の妖怪と認識されている。

彼らは怪物として処理される筈の伝承なのだが、時代が進んだことで妖怪と囁かれるようになってしまった。

地獄で生まれた妖怪もいるが、『メデューサ』のように妖界に生まれ堕ちたケースがある。

神話上の生物が荒野にいると分かって、俺はもの凄く身震いした。

買った後、雪姫はその服を着たまま店を出た。

「それ、嬉しかったか?」

率直に聞いた。

雪姫は表情を柔らかく答える。

「うん。コレが幸助から貰った三つ目の初めて。大事にさせて貰う」

「ん?俺まだ一個だけだぜ?…あー!加護の件と…後なんだ?」

なんか含みある言い方だったが、二つは知っている。

「それは……ううん、幸助が思い出せないだけ」

本当に変わったぐらい、雪姫の表情に生気が見られる。それに今日は俺の服を着てくれてるだけで最高の気分だ。

あと一つはどうでも良いぐらいの気分だから、俺は忘れる事にした。

「ま、いっか!腹減ったし、もう法律も改正されたし飯食おうぜ!」

「そうね……淫乱狐も誘って、ね…」

妲己がいる方を見る目は、とても鋭い目付きをしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ