145話 藤原陽輝
今日は忙しく、訳あって現在埼玉にいます。明日の投稿ですが、予定があるので、投稿出来るかは分かりません。明後日はきちんと投稿できるので、明日は休む可能性があります事をお知らせいたします。
酒呑童子が、その一人にこれまでにない熱情を向けた事が起因し、階級の序列が一新されることとなった。
過去に加護を授けた者から現在までに至る庇護者であった者、総勢200人を集め、自らが数ヶ月掛けて全力で挑んだ。決して容赦せず、自身に次ぐ実力者五名を選抜した。最も、西園寺朱音のような希少な逸材だけは別待遇として、免除された。
内容は以下のようになる。
・自身が敵として立ち塞がり、直径100メートル内の円型結界に一人で挑む。
・武器や異能、毒物を使用が可能。但し、他人の持ち物や助力を一切借りてはならない。
・1時間という時間内で行われ、一部妖術を封印し、全力で酒呑童子が襲いに掛かる。それを、挑戦者達は全力で跳ね退けなければならない。
・耐えきり、見事酒呑童子を頷かせた者を庇護下に入る義務を与えられる。
・酒呑童子に傷を与えられた者は、第一の庇護者として約束し、この以上にない待遇を約束する。
・死亡した場合、再起不能と判断された者は、全てを捧げ、酒呑童子の一部となる。つまり、死を意味する。
皆が対等に対戦を行い、持ち前のすべてを賭して挑んだ。中には、圧倒的に弱くなった者を興味なく殺した。そして、前から食おうと思っていた人間も幾人か食うという暴徒すら行われた。恐怖政治にも等しく、惨たらしく最期を遂げた人間もいた。
そんな中、残った者でも恐怖のあまり、自刃した者さえいた。戦闘不能になった者、気に入らない人間を排除し、選ばれた者はこれまでにない待遇を与えられた。
選ばれた者は僅か五名。幸い一人を除き、酒呑童子の庇護者は変わらなかった。
入れ替わるように、新たに加護を受けた人間が庇護下の一人に名を挙げた。
その名は藤原陽輝。
性別不詳。年齢不詳。酒呑童子と四天王以外はその姿を見た者がいない。
一度だけ町を出た姿を鬼や人間は見たが、容姿が幼いとしか印象がなかった。下手すれば、まだ童子なのでは、と噂されている。
しかし、それに似合わぬ強さも印象を見せつけている。
デスバレーを住処とする『メデューサ』と『キマイラ』、新たに住み着いた『サテュロス』を単独で討伐したのである。
三体の妖怪のいずれも“災禍様”であり、神の伝承も持つ怪物。それをたった一人で討伐を果たした。
妖怪が手を抜いた?それとも最初から仕組んでいた筋書きがあったのか?そういう根暗な憶測が飛び交う。
だが違う。その者が実力行使で妖怪を祓ったのだ。紛れもない事実であり、認めざる得なかった。全員の前で、酒呑童子の腕を吹っ飛ばしたとなれば、誰もが認めるしかなかった。
一番最初に挑戦者として挑み、始まって数分で負傷を負わせた猛者である。
100年程変わらぬ状況を変え、古都と怪都の行き来が出来るようになったのだ。それも半年程前の出来事である。
褒姒だけがこの事実を知っており、平然と古都の住民や妲己、幸助達にすら黙っている。
その実力を見た者は、その者を神と平伏し、強い従順の意を示したとされる。
それ故、酒呑童子はその者を我が子のように扱い、厳重に監視下で生活を送らせている。それ故、誰も藤原陽輝という人物が何者なのか知らない。
ただ、“災禍様”以上ではかなり危険人物と見られてしまい、噂として古都へ流れていた。
酒呑童子は四人とは違う人間のいる部屋へ伺う。
その部屋に、鬼童丸と“大江山四天王”の『熊童子』・『虎熊童子』・『星熊童子』・『金童子』の五人が一人の子供を囲っていた。
その子供こそが、最も謎に包まれている藤原陽輝である。
「おい赤鬼、白鬼。その子を泣かしていないだろうな?」
彼らは本名以外で呼ばれる事があり、熊童子が青鬼、虎熊童子は白鬼、星熊童子は肌鬼、金童子は赤鬼と呼称されている。それぞれがその色に見合った姿をしており、伝承でもその名で呼ばれる事が多々ある為、この名称が定着した。
尚、四人とも男である。
指摘され、二人の鬼は挙動不審の態度を取る。
「いえいえ!ワタクシ達は何も‼︎」
「そうですよ酒呑童子様。我々は何も…」
二人揃って言うものだから、酒呑童子は怪しむ。
「怪しいな。貴様ら、また余計な事を教え込んだのか?」
そう鬼童丸が意味深に聞く、と二人は黙り込んだ。横にいる鬼童丸は呆れたように首を振る。
「なんだ?陽輝に要らぬ知恵を吹き込んでいたのか⁉︎」
雷が落ちそうな怒りが空間に漂う。先程では見られなかった態度を露わにする酒呑童子。
赤鬼と白鬼は必死に弁明する。
「これには訳がありまして!陽輝様はとても好奇心旺盛で勉強盛りの年頃。勉学に打ち込む機会に良い知識を教えようとしたわけでして!」
「そうですよ!とても12歳とは思えないぐらいの呑み込みなのです!今後、この調子で勉学を学ばせていけば…」
大変な英才教育の熱心な二人の発言。だがしかし、酒呑童子はそれを気に入らない。
「何をさせている⁉︎貴様ら、本当は破廉恥な吹き込みをしている事は息子から聞いているぞ?」
すると二人は顔が真っ青になり、目を合わせずに黙り込んだ。
「父様。この二人は隙あらば吹き込みかねない。俺がこいつらを追い出しておきますので」
「頼んだ。陽輝の教育に悪いしな。暫く接触は禁ずるとする」
「「そんなぁ…」」
二人は絶望し、鬼童丸に部屋から摘み出された。本当に如何わしい事を吹き込もうとしており、のらりくらりに陽輝に躱されていた。当然、その現場を目撃していた鬼童丸だったので、この後、二人はこっぴどく叱られる羽目となった。
酒呑童子は機嫌を直し、陽輝に話しかける。
「1年経つが、どうだ?こちらの生活には慣れたか?」
その会話の入り方は父親のような話し方であった。
本物の親のような気味の悪さがあるが、子供はもっと凄かった。
「慣れたかな?もう一年…早いね。ところで酒呑童子、さっきは何話してたの?」
子供らしく話すが、特に酒呑童子に気を遣うような様子はない。
他の四人は何かしら敬う発言や敬意を示す。しかし、この子供からは敬意というものが感じられない。敬意というか、対等な話しをしているようにも取れる。
「相変わらずの沈着、状況の呑み込みは早いんだな。童にしては随分とこの世界に馴染んだようで何よりだ」
肩に触り、その巨躯で押し潰さないかと心配してしまう。酒呑童子が人間の姿であるものの、身長は人間離れしているので、並の子供なら泣き喚くところだ。
「仕方ないでしょ?駄々ごねて帰りたいと言っても帰れる訳じゃないの。それに、こっちの世界の方が普通に楽しいから良いの」
しかし、陽輝という幼子は、そんな酒呑童子に畏怖すら表情に出さない。完璧に感情を制御しており、12歳という年齢にしては悪戯でも恐ろしい才能である。
諦めているのではなく、妖界という世界を満喫しようと心掛けているようだ。
普通、人間がこの世界に迷い込んだ時に感じるのは恐怖だ。見ず知らずの土地に迷い込み、怪異や妖怪を見れば誰もが恐怖に駆られる。幸助のように全く妖怪に畏怖しない人間は非常に稀である。
現に、陽輝は妖界に迷い込んだ怪都で、その日のうちに四天王に攫われ、事情も知らぬ間に酒呑童子に強い敵意を向けられた際には怯んだりはしたものだ。
連れ去られた身としては理不尽な目に遭った。酒呑童子の身勝手な怒りがぶつけられた記憶がある。
それは、陽輝がとある先祖の血を引き、その力が眠っていた。
陽輝自身は知らなかったが、酒呑童子にとっては最も感慨深い因縁の相手。人間界に身を置いていた頃にその悪業を特定され、配下諸共が滅ぼされた要因を作った陰陽師の一族であったからだ。
負の遺産である子孫の陽輝を見て、最初はこの手で殺そうとまで苛立った。
しかし、陽輝は気が強い子供だった。
一度怯んだものの、その子供とは思えない強気な態度で酒呑童子に言葉で牙を向けた。
幼い言動であるが、その感情は子供とは思えない気迫を持ち合わせており、酒呑童子が舌を巻くほどだった。
子供ながら見事に肝が据わっていた。自らの『妖怪万象』を見ても尚、一切の震えもなかった。
その為か、酒呑童子は陽輝を好奇的な感情を抱き、今後の成長に期待を膨らませることにしたという。




