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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
碧落奔走編
142/284

141話 イレギュラー

幸名が盛りに盛られる進化をする一方、幸助の謎がどんどん深ばる。彼の異能の正体を嘘と他人に漏らし、《名》ではないというのが完全事実となり、意味が深まるばかり。嘘でやり倒す幸助の才能もありますが、來嘛羅が虚偽する理由はなんなのか?これも物語の上で重要となります。


新規投稿ですが、ひとまず区切りを見て投稿を切り替えるつもりです。どんどん出してしまうと、ストック自体も無くなってしまうので、pixivや他の小説作品とかを合間に投稿することにします。また忙しい時期となっているので、落ち着くまでは新規とpixivへの再投稿となります。

來嘛羅から本題が語られる。

幸名を再び呼び出し空間に招き、彼らにも協力を促す。

「ふふ〜ん!來嘛羅姉ちゃんが呼び出したってことは、やっとお兄ちゃんに会えるの⁉︎」

楽しげに尾を振り、待てない子供のように無邪気に笑う。

來嘛羅は母性満ちる笑みを向け、幸名へ耳の良い話を聞かせる。

「そうじゃな。其方は幸助殿に早う会いたいのじゃな?いいとも、その願いは数年後に叶えてやるとしよう!」

「うん!さっすがお姉ちゃんだ!ゆきな頑張っちゃうよ‼︎」

幸名はたった3ヶ月で『九尾狐キュウビキツネ』の妖力・妖術をものとした。信じ難いが、これには來嘛羅も驚いた。

更に、幸名は全ての妖怪においてあり得ない異形を果たした。

天逆毎は自信が抱く疑問を來嘛羅へする。

「狐神よ。お前が何かしたのか?その孤娘こむすめに」

「さあ…どうじゃろうな?妾は何もしておらぬ」

明らかに隠し事をしている來嘛羅だが、天逆毎は真実を突き付ける。

「嘘を吐け!どう見ても可笑しいぞ⁉︎その娘、数時間も『妖怪万象ヨウカイバンショウ』を解いていないではないか⁉︎」

幸名は『妖怪万象ヨウカイバンショウ』を解いていない。それどころか、常時開放状態を平然と行い、普通に居座っているのである。

膨大な妖力を消費し、伝承全てを体現した姿となる。純妖にしか扱えないものを混妖の幸名は使用している時点で不可解である。代償を払い、その強大な力を我が物として扱える切り札。

來嘛羅や天逆毎でさえ、容易に晒すことなどない。

しかし、幸名は成してしまった。

実は、幸名はこの状態を既にひと月維持しているのである。

これは史上最大の謎である。それも、『妖怪万象ヨウカイバンショウ』の限界を超えていた。

來嘛羅はその理由を既に解き明かしていた。

「案ずるな天逆毎。幸名は妖界史上初の神業を超越した妖怪になったのじゃ。妖力と代償を払わずとも半永久に解放出来るようになっておる。試しに、此奴にひと月維持出来たなら会わせてやると、『契り』を結んだのじゃ。ンフフフ、まさか本当に果たしてしまうとはな…」

驚愕の事実をサラッと言う來嘛羅の発言を理解し、その成功者である幸名へ視線を向ける。

「お前の仕業か?そんなもの、お前ぐらいしかこんな芸当出来ないと思うんだが?」

「そう見えたのなら節穴じゃ。妾は一度たりとも弄ってなどいない。全ては幸助殿が齎した産物じゃ」

「なんだと⁉︎あの人間がだと⁉︎」

天逆毎は來嘛羅の発言を二度疑う。

当然だ。これが普通に受け入れているのが可笑しいとしか思えない異形。

幸名の存在は、妖界において異質で異常イレギュラーなるもの。


これまで、幸名を除く名のない妖怪は幾千万と絶え間なく生まれてきた。その中に、生まれてから間も無く“災禍様”へ至った妖怪はごまんといる。別に大した異常ではなかった。その時代、その時期、季節、事変という特殊な条件で生まれてくる妖怪など多かった。

妖界に妖怪と僅かでも囁かれれば生まれ堕ちる。たとえ神だったとしてもだ。

妖怪としての伝承はなくとも、その脅威を人間界で発揮するか、妖界で身勝手生み出されることで出現を許した。

特に、現代妖怪のように突拍子なく溢れる事だって過去に数え切れない。

それらを全て滅し、暫しの安定を目指すのが“太古の妖怪”に与えられた使命。

しかし、今回は根絶やしにされるべき妖怪を摘んできたに過ぎない。

それが偶然にも、幸助が密かに理想としていた自分の本音を伝承とした『幸名ユキナ』だった。

生まれてすぐは、妖怪としては格下の“無妖”だった。力はなく、別に大した異常でもないと思われた。

だが、幸助が名を与えた事により、その成長の可能性を解放してしまったのだ。

一瞬にして“災禍様”へ至り、『妖怪万象ヨウカイバンショウ』を獲得した。

妖怪万象ヨウカイバンショウ』を獲得した妖怪は数は少ないがいなかったわけではない。当然、來嘛羅も猛者との激戦を演じる事だってあったのだ。それらの妖怪を祓い、自らの眷属に従わせる事も幾度もしてきた。

今回も幸名自体を滅ぼすに超したことがない。


そう思ったのだが、來嘛羅は“変化”を望んだ。


幸名は愛を持って生まれた妖怪。その可能性を摘み取るのではなく、成長させたらどうなるのか?

試したい気持ちが勝り、進化の可能性を待とうと踏んだ。

來嘛羅はただ観察していただけ。特に手を貸さず、自力による進化を遂げてくれるのを心底で待った。


その結果、幸助達が旅去ってから2ヶ月後に、その可能性を現実にしたのだ。

來嘛羅ですら成れなかった『妖怪万象ヨウカイバンショウ』の進化の先を実現させてくれたのだ。

暴走する妖力を制御し、純妖の力を限界突破させ、覚醒させた状態を常時意識ありで成し遂げてみせた。

これに近しい異業を成している妖怪は『八岐大蛇ヤマタノオロチ』と“四神”の妖怪のみ。

彼らは人間としての肉体を獲得しない代わりに、『妖怪万象ヨウカイバンショウ』を消費なく使用出来る特異体質と縛りを持って成している。異形の妖怪だからこそ、彼らには許されていた。

それを幸名は、その概念そのものを崩壊させた。

人の妄想から生まれ、純妖でない混妖が『妖怪万象ヨウカイバンショウ』を我が物とし、彼らの異業を越してしまった。

噂で広まっても可笑しくないが、そこは來嘛羅が秘匿し、人々の記憶を書き換えているからである。

《守護者》の特権の一つを行使し、妖都全土から幸名の存在が異常という真実をない事にしている。

閻魔大王にその事実が暴かれれば、來嘛羅は秘匿の罪に問われる。

しかし、來嘛羅は罪を恐れなかった。

「幸助殿の異能が、幸名を特異なる怪異へと至らせた。彼奴には《名》と思い込ませ、閻魔にも偽りを認知させてやった」

嘘ではない真実を吐いた。

天逆毎への信頼は厚い來嘛羅。それは長年の付き合いもあるが、彼女にしか出来ない事があるからである。

度々無理難題を押し付け、それを嫌味言いながらもやってくれるという絶対の信頼を置く。

「やはり掻い潜っていたか。しかし、松下幸助と閻魔大王を欺くとはな…両者とも、情報を偽ったと知れればタダでは済まないぞ?」

「その事も抜かりはないぞ。妾の権限で帳消しにすれば良いからな。それと、玉藻前を捕えるまでは不始末の契約を結んでおるから有り得ぬ」

不始末の契約により、來嘛羅が守護者の地位を降りることがなければ罰を下されない。大抵のことは許され、多少の悪行も目を瞑る。妲己にも施行されており、隠れて人間や妖怪を殺したとしても罪に問われないほど。

「やはりその地位は妾が貰いたいものだな。狐神キツネガミが潔く譲ってくれれば悪戯はしないんだが」

天逆毎は來嘛羅の持つ守護者の地位を欲する。それで協力しているのがある。

最都を含む四大都市を守護する妖怪に与えられる《守護者》は、他の異能とはかけ離れた権能と絶対行使権を有し、他者を容易に支配する事も可能。

下手すれば、都市そのものを我が物と出来る。故に、基本的にその器に足る妖怪であることが必須となってくる。

最低条件として、その妖怪が“災禍様”以上であり、純妖という種族に至っている者でなければならない。

しかし、それさえあれば誰でも守護者の地位に就く事が出来る。

守護者の地位は閻魔大王より最初に与えられ、來嘛羅・妲己・始祖・玉藻前は、それぞれ都市が誕生したと同時に守護者の特権を与えている。

その後は、自らの後継者または死亡する事で別の妖怪に引き継がれる。

來嘛羅と妲己を狙う輩は大抵がその目的である。

「そうかの?別に妾は守護者で居なくとも良い。寧ろ、今回の件を完遂した暁に異能と《守護者》の地位はくれてやっても良いぞ?」

來嘛羅は気前よくする。

その真意は本物で、天逆毎は内心喜びを噛み締めた。

「それは喜ばしいな⁉︎お前が妾にくれるという話、決して忘れるでないな!」

しかし、表情には表さず、俄然と振る舞う。

約束を取り付け、ほぼ与えられると確信した事で、更に協力を惜しまないと天逆毎は優位にたった。

「分かっておる。妾も一千年近く守護者をしてきた。数多の厄祓いにも飽きてきたのじゃ。“妖怪大戦争”は特にじゃ。その火種を断つために、其方の強力な妖術は無くては困る。“太古の妖怪”と知りながら、妾を心底ですら恐れぬ其方の剛胆な精神に助かっておる。以前、話したじゃろ?」

“太古の妖怪”で唯一守護者を担う來嘛羅は、その絶対的な強さが故に誰もが膝と頭を地面に付ける。

彼女から放たれる妖気オーラは心身を屈服させる作用があり、これに一度屈すれば二度と立ち上がることは出来ない。

しかし、天逆毎や烏天狗、女天狗と言った『天狗テング』に属する眷属は違った。人間に接点を持つ者が多く、膝をついても尚、彼らは來嘛羅と対等に関係を結ぼうとしてきた。

今はそのお陰で、來嘛羅との会話に敬いの呼称はなくても許される関係となった。

特に天逆毎は異質な妖術を持ち、実は來嘛羅と全力で実力を確かめ合った事もある。手合わせをし、天逆毎が候補として上がった。

記憶に関しても、日本妖怪の中で唯一、天逆毎にのみ真実を話しており、段違いに信頼を託しているのが明確なのである。

その為、本当に守護者を譲渡するという約束までした。

「謙遜するな狐神キツネガミ。千年続いた妖怪は貴様と妲己だけだ。しかし、妲己も褒姒へ位を授けた。今や狐神だけが古き守護者となったぞ?今変わるなら晴れて自由の身になるのだろ?」

「フッフッフ、その言葉が実に叶えられれば、こんな楽な事はないじゃろう。残念ながら、妾は“三妖魔”をこの地へ導くまで降りる事は無理じゃ。今まともに動けるのは其方を置いて他はない」

解放を望めない身として振る舞い、來嘛羅は妖しく笑う。

この状況を楽しんでおり、守護者の地位を譲るまでは退屈を娯楽に出来ると喜んでいた。

漸く、昔の自分を取り戻したように、その内心は、幸助の影響を受け始めてきた。

決して感情が芽生えないわけではない。だが、長き年月ともなると、感傷に浸る事さえ無駄と思ってしまい、無の感情になってしまう。

“太古の妖怪”の領域に立つ妖怪は強者が故に孤独となる。

群れる事はなく、単独で都市を滅ぼすなど出来る。その気になれば、妖界そのものを手中に収めてしまう事さえ容易であると豪語する。

「よく言う。貴様は常々この状況を視て楽しんでるな?気色悪い趣味め」

「口が悪いの天逆毎。そこは妾の極められし趣味と申して欲しいの〜」

「やはり剃りが合わないな。だが、その孤娘を連れてきたからには理由がある、で間違いないな?」

「そうじゃな。幸名は玉藻前さえ未来を見通せぬ怪異。妖都までの事情を把握するほど、彼奴は情報を掌握し切れぬからな」

そう言って、幸名を指で招き、自身の膝元に座らせる。頭を撫で、娘を撫でる母親の光景が完成する。


時間は経ったのか、來嘛羅への抵抗はなく、寧ろ幸助に似てきている。その理由に、幸名は満面な笑みで尻尾を振っている。

「ふふ〜ん!フワフワ〜」

子猫のように擦り、喉をゴロゴロと鳴らし、満悦に擽られるのを快楽として堪能している。

「愛いヤツじゃまったく。ほれ、菓子も欲しいじゃろ?」

「うん!」

あやされる幸名の姿を見て、天逆毎は呆れつつも苦笑いする。

「これが異才というものか。それで、どうするんだ狐神?」

天逆毎の問いに來嘛羅は己が考える計画を伝える。

「幸名を怪都へ跳ばす。それに興じて、天邪鬼、烏天狗、女天狗の三人にも赴いて貰おうと考えておる」

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