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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
古都・妖狐救済編
135/281

134話 怪都の現状

これは意外な情勢です。怪都が重大な危機に陥っている。妲己は何してるのかという疑問はありますが、妲己に悟られないように隠していました。少し本性が現れる褒姒は幸助に何をするのか?今後の見どころです。

全ての感謝を打ち明けた褒姒、自らの異能を開示する。

異能を開示する意図は謎。しかし、幸助という人間を信用している証拠でもある。

「わたくしめの異能は《形骸》です。精神・肉体・生命・記憶に干渉し、そのうちの一つを切り取る事が出来ます。形だけ、つまり、わたくしめに関する記憶を全て奪い、その者は永遠に忘却する術に行使しました。精神ならば感情の一部を。肉体ならば臓物と骨を。生命ならば寿命と年齢を。人間及び妖怪の肉体が完璧である状態の者に作用し、魂の器さえあれば行える異能です」

一歩後ろに退く。

あまりの異能の恐ろしさに喉が苦しいと感じる。

妲己の異能よりも凶悪だと感じた。事実、この力は使い方次第で生物に苦しまぬ死を与えられる。それどころか、殺戮すらも容易に成し得てしまう。

それを持っていると公言され、なんとも言えない恐怖を抱く。

褒姒は優しく作り笑いをする。

「怖がらないで下さい。わたくしめは人を弄ぶ非道は永遠にしないと誓っております。都合よく異能は使わず、黙かす時にしかお使い致しませんのでご安心を」

「っ……ふざけた能力だな。マジで言ってんだよな?」

安心を覚え警戒心を解く。

「はい。この力で幸助様を導き、ここまで来てしまわれたのは予想外でしたが、障害はありますが、無事で何よりです」

「妲己は仕方がないだろ…。ちょっと過剰なだけで」

「妲己殿は心が狭かったのです。それを幸助さんが救ってくださった事で新たな心のゆとりを得たのです。ですが…流石にあれほどご態度変わってしまうとなると、わたくしめも幻滅してしまいました。感情の拗らせ方が野性の獣になってしまい、見守るしか……」


褒姒は心の中で冷めた思いを妲己に向けていた。

近頃までは暴君な彼女が、救ってくれた男を貪ろうとする強欲さは目に余る。

しかし、それを不快とは感じていない。

目の前の男を見れば見るほど、その衝動的な気持ちになるのも納得してしまう。

自分もまた惹かれるからこそ、幸助に救済を求めたのだ。

(どうした事でしょうか。來嘛羅様、妲己殿…そして、四人目の加護者:玉藻前も……クスッ。『九尾狐キュウビキツネ』に名を連ねる者同士、欲する者が共通して……)

思わず笑った。

普通の人間や妖怪は笑う。それは嘲笑や微笑、破笑、爆笑など多種多様に笑う。


何かに誘われるように笑い、自己的に笑い、駆られるように頬を緩ます。


それは笑顔であった。


褒姒は自己的に笑みを作り出す事が出来ないのだ。


伝承に刻まれた人格は残酷過ぎる。

人格形成のされない者は妖界では自由に意思を持つ事が多いのだが、彼女のような稀に人格形成された妖怪は自ら心を閉ざしてしまう。


その為、褒姒は笑える筈なのに笑おうと意思を持たなかった。


自分は笑えない妖怪。そう思い込み、冷たい心が形成された。

「えっ?褒姒さん…?今、笑った?」

「あれ……可笑しな事ですね。わたくしめが笑うなど…」

「いや、どう見ても頬が緩んでるぜ?」

褒姒は頬を触る。

僅かだが、自分の口が緩んでいたのを確認した。

「……あり得ない」

目が震え、自分の感情が激昂しているのを感じる。

作り笑いではなく、自分が無意識にした頬の緩み。

褒姒からすれば、予想だにしなかった事態。

妖界で初めて笑みを溢した。幸助に見られ、胸から込み上げてくる感情が荒れる。


徐々に“笑わない美女”の仮面は剥がれていく。

「ほ、褒姒さん⁉︎」

幸助の声が耳に入らず、枷が外れたように心が開く。

豪快ではないが、彼女の心境が笑いとなって吐き出される。

「ウフッ…フフフ…フッハッハッ、フハハハハハ!ハッハッハッハッハッ‼︎」


初めて心の底から笑いに口が止まらない。

その場にいた幸助には爆笑を理解することは出来ない。

褒姒は幸助を喜ばしく思ったと同時に、本気で誑かしたいと心底で望んだ。

自らの手で手籠にし、絶望するその瞬間を拝みたいと……。

相手の尊厳や人望を奪いたい。密かに孕んでいた欲望が褒姒の本性を開花させた。


自分の笑いを知り、守護者あるまじき笑みが茶の間に響く。

幸助は歴史的瞬間に立ち会った。ではなく、『褒姒ホウジ』の笑みそのものを拝んだのは、幸助ただ一人。

伝承のしがらみを忘れた褒姒は、初めての笑いを晒した。




1時間、褒姒は窒息しかけるまで笑い続けた。

笑い続けた褒姒は酸素を求める。

「無理すんなって。たく…1時間笑えるんだな」

「ふぅっ、ふぅっ、ふぅー!も、申し訳ございません。なにぶん、大声で笑うのは初めてでしたので」

俺は背中を摩り、褒姒さんが落ち着くまで寄り添った。

しかし良いものが見れた。

“笑わない美女”の大笑い。録音か映像なんかに残せれば良かったんだが…。

「むせ過ぎだ。てか大丈夫か?」

「ゴフッ…笑った事がないので失礼しました。ですが、幸助さんに見られたと思うと…」

尻尾が小刻みに揺れる。

「あれ……?ちょっと頬が赤いですが、大丈夫か?」

「…はい。これは初めての喜に触れ、感情の制御が出来なくなっただけですので」

そう言う褒姒だが、俺を見る目が儚げな女性のようだった。

俺を特別視するような。來嘛羅と妲己と同じ何か求めている。


気を取り直して、俺と向かい合う褒姒だが、その頬は紅潮して口が緩んでいる。

妙に悪巧みを目論んでいる怪しい微笑。さっきまでの褒姒とは異なる感じがする。

野生味は感じないが、少し褒姒の見方が変わった。

「笑いで話すっぽかしてるが、そろそろ“三妖魔”の所在を聞かせてくれねえか?」

「分かりました。幸助さんのお聞きしたい事を全てお話し致します。今後、放浪の旅は数年は掛かりましょうから、わたくしめの支援も出来るかと」

「それは心強いな。古都の守護者から援助されるってのは」

「それでは……」

褒姒は持ち得る事を明かす。

怪都の現状について知る今の情報を。




今の怪都:天霧は危機に瀕している。

そして、まもなく壊滅への猶予もないという。


“災禍様”は秩序を乱し、多くの犠牲者を古来より都市に被害をもたらした。特に、遥か昔より恐れられていた元“太古の妖怪”である『メデューサ』や『ヒュドラ』、『キマイラ』などの獣神の血を持つ妖怪は都市の機能を拒否し、幾度も侵略を繰り返してきた。


知性を欠いた獣神は凶暴で、都市の機能を保つことすら敵わないほどに神話に属する妖怪は恐ろしかった。

しかし、ここで阻止に名乗り出たのが『九尾狐キュウビキツネ』を筆頭に人間を友好と考える“太古の妖怪”が彼らを討伐したのだ。


“太古の妖怪”が滅ぶことで一度退いた者を永遠に剥奪される。討伐された彼らは“災禍様”へ降格されたが、定期的に都市を狙う。

古都と妖都は『九尾狐キュウビキツネ』である來嘛羅とその血を引く妲己が護っている為、迂闊に手が出せない。強靭な妖怪の後ろ盾をつつけば自滅を意味する。


“災禍様”は自らの領土を持たない。否、“太古の妖怪”が支配する都市に住むという縛りを受けるしかない。

当然望まない彼らは、必然と都市を滅ぼす為に地盤の緩い都市に目を付ける。


最悪にも、僅か300年前に誕生した第三の都市、怪都:天霧を標的とした。

守護者が頻繁に変わる怪都ならば奪えると目論んだ妖怪は、まず妖都と古都の援助を遮断し、移動手段と連絡手段の妨害に走る。そして、怪都へ出入りする者を食らい始めた。

それにより、虚偽の噂や情報が混乱した状況が発生する事態となり、怪都は他の都市との物流すら滞らなくなった。

更に状況は混乱し、現代妖怪も怪都を攻め始めた。

知る情報の限りでは、怪都の“災禍様”と“厄災”は数人と『魔女マジョ』を除いて全滅した。




褒姒は真剣な眼差しで俺に妖界の危機的状況を伝える。

「現在、怪都:天霧とは100年連絡が途絶え、古都及び妖都からの支援物資や交流及び侵入が一度も成功しておりません。唯一、來嘛羅様だけがその地に辿り着き、100年前に真祖と出会われた一度きり。それ以外、わたくしめの情報を駆使したとしても何一つ情報が得られておりません」

その静かな態度から怪都の最悪がひしひしと伝わる。

正座し、褒姒が話終わるまで姿勢を崩さない覚悟で挑む。

「マジかよ…⁉︎現代妖怪と獣神の妖怪が都市を滅ぼす為に怪都を……」

褒姒は頷く。

「はい。間違いなく“災禍様”と“厄災”の仕業で御座いましょう。こちらから、『天女テンニョ』と『不死人フシジン』・『妖犬ヨウケン』・『妖虎ヨウコ』・『バク』・『キョンシー』を怪都へ向かわせましたが、不死人を除き全滅致しました。逃げ延びた彼から聞いた言葉通りであるならば、怪都を阻む者は『キマイラ』・『メデューサ』・“四凶”の名を連ねる『渾敦コントン』・『窮奇キュウキ』・『檮杌トウゴツ』・『饕餮トウテツ』がデスバレーという死の山脈に棲みつき、山に入った妖怪と人間は食らわれてしまった。そう聞いております。したがって、怪都への物理的な侵入は困難な状況。正気ではありませんが、幸助さんの今後の旅の行方は道を閉ざされてしまわれています」

かなり古い妖怪やギリシャ神話に出てくる妖怪が阻む死の山脈。意外と悪くない名所だが、それが楽観視出来ないものと直ぐに妄想を振り払う。

「俺、“三妖魔”を捕まえなきゃならねえんだよ。なのに向かえないって詰んでねえか⁉︎」

「仰る通り。しかし、“三妖魔”は怪都の付近と最都に潜んでいるのは間違いないと確信しております。仮説ですが聞いてくださいますか?」

俺はコクリと頷く。

褒姒はある仮説を説いた。

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