131話 守護者の継承
明日は朝に投稿します。昨日は疲れたので、早めに寝ようと思います。
残り1週間で3章も終わるかと思います。終わったあと、1月20日までは投稿はするつもりはありません。卒業論文が終われば、次は転すらの作品を投稿します。漸く二次創作の方も久方ぶりに起動させます。妖界放浪記は、転すらの作品を投稿する頻度も考え、3日に1話を投稿します。
妲己は正式に古都:霊脈の守護者の地位を降りる。
地獄へ赴き、全てを褒姒に委ねると閻魔大王と《契約》を交わした。
そして、全ての権力と地位を引き継いだ者は褒姒であり、その地位を補佐する者として夜叉が選抜された。
正式な継承が古都で行われ、その日のうちに妖界全土に伝わる。
守護者が代わるのは100年ぶり。怪都:天霧に住む吸血鬼の神祖が守護者になった以来の出来事だ。
古都:霊脈は実に1000年ぶりだという。
古都に住む者は皆、突然の引退に驚いた。
その訳を古都の住民に説明する事になった。
姿を見せることはない。だが、妲己という音声は住民全員に初めて聞かされた。
『1000年の間、太古の妖怪であるこのワレ妲己が古都:霊脈を守護者として見守ってきた。だが、ワレは一人の人間に敗れた事を機に、古都:霊脈の守護者を降りる事を告げる』
映像はなく、ただ声だけが脳に響くなど気色が悪いのだろう。
1000年前にも、來嘛羅が同じようにしていた。
人は不快に思うが、妖怪には当たり前のように聞いている様子。
俺や雪姫、悟美達、カナ達は妲己の引退演説を聞いていた。妲己と褒姒は城の頂上から演説し、俺はその声を眺めるように城下から人混みに紛れて聞いた。
『これから行う継承に嘘偽りなどはない。この場を借りて、古都:霊脈及び周辺に住む者すべてに今後を告げる。まずは、ワレの守護者である力を褒姒に全ての権限を譲渡する。褒姒殿、ここへ…』
姿は見えない。だが、俺はなんとなく想像する。
褒姒は妲己に劣らない礼装を身に付け、揺れることなくゆっくり足を進める。
華やかな装飾に身を纏い、実に権力者たる者の堂々たる佇まい。全てを覚悟した顔をする。
一度頭を下げ、妲己の前に現れる。そして、妲己に対して深く頭を下げ、丁寧に膝をついた。
今から始まるのは、《守護者》を継承する儀式。
守護者の妖怪は《守護者》という異能を与えられ、正式な継承でのみ譲られる代物。
妖都・古都・怪都・最都の守護者が所有し、それぞれの都市の機能を維持する為になくてはならない。
《守護者》を持つ者が消滅した場合、その都市は崩壊してしまう。
だからこそ、この場で全員に告げたのは、褒姒の身に何が起きても全力で守れという意味合いもある。
古都に住む妖怪は“災禍様”に属する妖怪は多く、“太古の妖怪”も味方してくれる。褒姒を死しても守り抜くと誓う者がいるならば、その者は絶対的な妖怪であると妲己は言った。
思念と自らの行動を流したまま、二人だけの一瞬の継承を行う。
「これより、守護者の地位を褒姒に継承する。……褒姒よ、ワレが泥に堕とした地位を与えることを許してくれ。『妲己』の名の下に、多くの人間妖怪は罪なき裁きを与えられ、多くの怒りと憎しみを募らせてしまった。怨念とも言うべきか…それは既に消し去ることが出来ぬ。ワレはその怨念を背負い、罪人としてこの地を離れよう。そして、我が同胞である褒姒にはワレなき後、後継者として《守護者》を任せる。これを快く受け取ってくれるならば……ワレの勝手を許してくれないか?」
妲己に正統な言葉は認められない。
「はい。前任者で在らせられる妲己様より《守護者》を譲り受ける褒姒は、貴女様に科せられた大罪をこの身に引き受けましょう。この地を統べり、この地の平和を護ることをここに誓います。虚偽はなく、我が『九尾狐』に恥じぬ守護者たる地位を築き上げ、古都:霊脈を更なる磨きかかる都市へ導き、この命尽きるまで守ることをここに誓います。古より現存する古都:霊脈の文化を守り、共生する種族を守り、豊かな大地を尊き、恵みを与える天を敬い、亡き者を悼み、生きる者に慈悲を与え、罪を犯し者に罰を下し、侵略する者を排除することをここに誓います。全ての始まりは人から生まれ、全ての終わりは人で死ぬことを心に刻み、最期の刻が来るその時まで。我が名を守護者として名と《守護者》を呈示し、神の下に誓います。この地に永遠の繁栄をここに宣言します」
褒姒の受諾が認められた。
それを証明するように、この言葉の後に全員が祝福する拍手が起きた。
全員が褒姒の守護者を認め、妲己の引退を認めた。
この時より、褒姒は新たな古都の守護者『褒姒』として、その心身を捧げる。
そして、妲己は守護者を降り、“災禍様”の一柱『妲己』として、地位を退いた。
新たに守護者となった褒姒は、妲己から担った守護者の権威を掲げる。
「今日この日より、わたくしめが古都:霊脈の守護者として統治させていただき、妲己殿に恥じぬ都市を築き上げ、“三妖魔”に侵されない神聖なる地域として護り続けてゆきます。この『褒姒』、その名をもって誓わせていただきます」
敬称が変わった。
この時点で、妲己は《守護者》を譲渡し、格下となった事で敬称が改められる。
「妲己様」から「妲己殿」へと言い改めたのは、今後、妲己を守護者としてではなく、国賓のような扱いとなる。
「ワレは褒姒殿に全てを委託し、今日より罪人として放浪の旅をする事とする。その罪が晴れるまで、『妲己』はこの地の守護者を放棄すると誓う。幾千と掛かる長旅でも、この地をいつまでも想う…」
決して国の方針に口を挟まない。定められたルールに従い、妲己は古都の機密情報を他言してはならない。
しかし、今の妲己ならば問題ない。
それよりも、優先にするものが存在するからである。
「ククククッ。漸くだ!貴様の全てを曝すのだぁ!」
「やめろぉー‼︎てか、雪姫の目の前ですんなよ⁉︎」
「ほう?舐めた口をするではないかコゥ…貴様。ワレは貴様に断られたことに腹を立てている。そんな女など気にせずとも、ワレが愛でてやると言っておろうが」
「絶対に可笑しいだろ⁉︎妲己、演説が終わって直ぐに連れ去ろうとしやがって!流石に守護者の立場だった奴としては駄目だろうが!」
俺は演説を聞き終わった途端、妲己に連れ去られた。
人がいるというのに妲己は遠慮せずに俺を掻っ攫った。そして、俺とセットで雪姫が追いかけてくる。
醜態を晒され、俺は恥ずかしさのあまり古都に居たくなくなった。
「心地よい……貴様がワレを名で呼んでくれるのは⁉︎これはもう我慢しなくて良いだろ?ワレは貴様の言葉に胸が高鳴るのだ!これは貴様を欲する証だ。さあ、ワレが貴様に極上の——」
「淫乱狐‼︎幸助に不埒な誘惑で惑わすな!私の前でよくも…‼︎」
連れてかれそうな俺を引き剥がし、雪姫の怒りを感じた。
そんな怒りに目もくれず、妲己は俺を欲する邪な視線を向けてくる。
「貴様の前じゃなければ良いのだろ?ワレは貴様に気を遣って連れ出そうとしているのだよ。何故それを止めようとする雪女?まさか…ワレに嫉妬しているのか?」
「っ…黙りなさい。そんな戯言言うのなら、次は骨の髄まで凍らせてあげる」
「今のワレは油断しないぞ。既に『未来視』も『千里眼』も容易に扱えるまで気が落ち着いているのだぞ?それか、子であるその男に痛ぶる趣味をこの場で晒すか?」
「……もういい。あなたと話が合わない」
雪姫は静かに溜息を吐く。
俺の目からすれば、雪姫は冷静なお姉ちゃんのような態度をし、妲己はちょっと危険なお姉ちゃんに思えてならない。
もちろん、俺が妲己が嫌いになるわけがないし、この過度な誘惑に思考が惑わされることもある。
雪姫がいなかったら、俺は正常に気を保てなかっただろう……。
「ありがとな雪姫」
「幸助、あの淫乱狐は如何わしい事をしようと誘ってる。きちんと断って」
「いやいや…見てただろ?俺はちゃんと…」
「断りなさい」
「はい…すいません」
眼力と発する声の圧が怖くて、俺は即答で謝った。
やっぱ雪姫は冷たい。
俺を想っての行動なのは分かるが、ちょっと過保護なんだよな。
20歳は独り立ちするんじゃねえのか?
俺がまともに一人で行動出来るのはいつになるのだろうか。先が視えなくて思いやられるぜ。




