129話 妲己の加護
今回はすみません。少し分は少なめで投稿しています。
繋げてしまうと面白みがないというものなので、分けさせて貰いました。
11月までなんとか投稿を続けられるみたいで少し安心しています。ですが、この3章が終わり次第1月中旬まで休ませていただきます。色々卒論も立て込んでしまうので。
だが、俺にある悩みがあった。
「……なあ、この世界に…重婚は許されているのか?」
俺は來嘛羅が好きと言った。
だが、ここに来て俺の気持ちは純粋なものではなくなっていた。
『九尾狐』の血を引く妖怪が好きなのだと知ってしまった。
一人を好きになりたかったのに、俺はあまりの連続した『九尾狐』の美貌に心底から惚れちまっていたんだ。
不純極まりない。日本じゃあ許されない気持ちだ。
「クッハハハ!今更聞いてどうする⁉︎この世界に定められた規則に重婚は許されていないぞ?貴様はワレの気持ちを受け入れるしかないのだぞ⁉︎」
「っ……マジか…」
俺の不純はやはり許されなかった。
そして、ここで答えなければならない。
俺は來嘛羅を選ぶか妲己を選ぶか。
二人とも『九尾狐』の血を引くし、何よりも、俺に好意を示してくれた。
それを両方受け止めたかったのだが、この世界は許してくれなさそうだ。
俺はここで決心するしかない。
選択肢は一つ………。
ある妖怪が頭を過ぎる。
一番身近なあいつの顔を浮かべてしまった。なんで思い浮かべた?馬鹿だろ……。
俺は思い留まってしまう。
「ちょっと…待ってくれねえか?」
「ワレの告白を待てと言うのか⁉︎」
妲己は俺が答えるかと待っていたのか、凄く腹を立てている。
「そう……うん、そうなんだが…。俺、雪姫と約束されられちまってな……」
雪姫との約束を思い出した。
この旅が終わるまで、邪念を抑えないといけない。そう約束した。
そんな事、破れば良いのかなと何度も過ぎる。
約束さえなければ、俺はすんなりと承諾出来ただろう。
こんな機会、二度とない。
好きな妖怪と結ばれるというなら、俺は快く受け入れたかった。
結婚してくれるんだ、断りたくはなかった。
だが………。
「貴様…ワレの気持ちを全て受け入れる気は無いのか⁉︎」
「受け入れたい!だが…俺の我儘だ。俺はまだ結婚は約束出来ないんだ!」
冷静になったら、まず結婚は可笑しいと誤魔化す。
こういうのは手順が必要だと思うと言い聞かせる。
それに、まず根本的な問題があると理由を考えた。
「なんだと…?」
「確かに結婚は良いんだが、雪姫と気不味くなるのが怖いっていうのがあってだな。関係を壊してしまうのが怖くて、あいつが俺の傍で笑顔を見せてくれなくなるかも知れねえ。そうなっちまったら、俺は雪姫と居られなくなるのが嫌で……。それと、あんたを養える力は持ってねえんだ。そもそも、“放浪者”の身の俺じゃあ罪を背負った妻みたいになっちまうし。それに…お金がなくて……」
そう、これは俺の価値観の問題だ。
雪姫と共に、この旅は始まったようなものだ。
折角見守ってくれると雪姫は約束してくれた。約束を破り、俺との関係にヒビを入れたくない。
それを投げ出すような行為をすればバチが当たると思った。
恋愛感情はないと思う。だが、『雪女』は人間に好意を抱く妖怪。
他の女と仲良くしているところを見たら溜まったものじゃねえだろ。
雪姫は、助けた人間が結婚するところは見たくはないと思う。
情けないが正直、雪姫が俺から離れていくのが怖いだけだ。
他の理由も本音だが、特に気に理由には思っていない。
こんな理由、妲己はなんと思うだろうか……。
「クククク…そうか!貴様は雪女に恐怖するか⁉︎そうかそうか!茶目で可愛いところがあるな!ワレの告白を受けても尚、あの女の恐怖に怖気付くか⁉︎ワレの畏怖に恐れなかった貴様が雪女如きに……クッハッハッハッ!実に笑えるではないか⁉︎」
笑われるぐらい、俺の選択は馬鹿げてる。妲己が大きく笑ってくれるのはある意味幸せと思わなければならない。
冷めた目で見られれば、俺はあっという間に首を刎ねられるからな。
機嫌に触れたが、どうにか思い留まってくれたようだ。
「婚約は保留…か。まあ良い。その代わり、必ず果たして貰うぞ!貴様にはワレの加護を授けてやろう。安心しろ。ワレが貴様を拒絶する事がない故、いずれは婿としてワレが迎え入れてやる。決心が付くまでワレの攻めが止む事がないと思うのだな」
悪女らしく笑うその笑みは魅惑に歪む。しかし、妲己が俺を娶るのが本気であるのは言うまでもない。
「ありがとな。そして悪いな。どうしても決心してからちゃんと答えてぇんだ」
「もう言わなくともよい。貴様の欲情を受け止められる者はワレしかおらぬであろう。ならば、この心身を貴様に委ねてやるぞ!」
そう意気込むなり、妲己は俺を離さんとするばかりに尻尾を生やして絡めるように拘束する。
「おい!これが今から加護をくれる奴の態度かよ⁉︎」
「今なら雪女もめそめそ泣いているであろう。この光景を見せ付け、ワレの物と誇示してやろうと」
「趣味悪りぃよ!そんなわざわざしなくても…」
「ほう?ワレを受け入れてくれる準備が出来ておるのだな⁉︎ククク、早く貴様の心を見透かしてみたいものだ」
腹黒ギツネだ。雪姫に見せたら絶対にヤバい。
俺は逃げようとしたが、生憎にも拘束されてその場から動けない。まあ気持ちが良いから抵抗しないんだがな。
尻尾で拘束されるのは慣れっこだ。この際、俺は尻尾に溺れるかも知れねえな。
俺の胸に手を置き、妲己は掌から眩い黒い光を発光させる。
危険な色だが、妖怪によって加護する光は変わる。雪姫の時は雪結晶の薄青で、來嘛羅の時は純金の色だった。無名は白く輝いていた。
「我が心を拐かした人間よ、死より生まれし妖狐に情欲した事を幸運と受け止め、我が加護を受けよ。妖怪を好くう事を生き甲斐とするその運命に介入する事を許したまえ。曇天の運命を覆し者に尽きぬ仁徳を。悲憤慷慨するばかりの者に大いなる激愛を。ワレは誓う、この者に『妲己』は転生してもなお愛を捧ぐとしよう」
黒い光は俺へと入っていく。
心地が良く、どれほど想ってくれているのかが伝わる。
しかし、妲己の加護を受けた瞬間、真髄が凍るような今まで味わった事のない感情が向けられた気がした。




