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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
妖都征圧阻止編
13/267

12話 初恋に出会う

意外と早い登場と早い回収ですね。

彼の生きてきた中で一番泣いているのかもしれません。ここまで崩れるほど恋焦がれていたということです。

この先はさらに話の内容が濃くなってきます。様々な情報が混雑しますので、難しい方がいましたらコメントお願いします。気軽に答えられることには答えますので。

「うっ…。頭が、ボヤッとしやがる…」

 俺は頭を押さえ、状況を判断する。

 確か、口論してたら眠らされたんだな。それから…。

 耳に聴こえる鋭い金属音で、俺の意識は覚醒した。

 その音の方に目を向けた。

 俺はまさかの出来事に顔が真っ青になった。

「雪姫っ‼︎」

 寝起きの体を動かし、真っ先に突っ込んで行った。





 本当に衝動的だった。

 九尾狐と雪姫の間に、幸助が割り込んだ。雪姫は突然の出来事に対応出来ず、力を込めた刀をそのまま幸助に振り下ろす形になってしまった。

(嘘……)

 急な事態に雪姫は困惑する。手を止めようにも、力んだ力が制御できない。必死に心の中で叫ぶ。

(止まってお願い‼︎)

 幸助は背中に背負った刀剣を抜き、瞬時に受け身に入る。

「お主、目醒めてしまったのかの?」

 九尾狐は微笑む。

「こ…幸助?」

 受け止めた幸助に、雪姫は驚きを隠せない。幸助を見た瞬間、白無垢から死装束へと戻り、目も光を取り戻す。

「何やってんだよ⁉︎逃げるって言ったのに、あんたが戦ってどうすんだよ!」

 状況の整理出来ていない幸助は文句を吐く。それを聞いた雪姫は、イラッとした。

「幸助。あなたに警告した。なのに、私を無視した。自分勝手に動くからこうなった」

 雪姫は冷淡に言う。だが、幸助も言い返してくる。

「あそこで襲われるだなんて思わねえよ!っていうか、俺にだけ非があるみたいに言っているが、雪姫にだってあるだろうが!」

「幸助…‼︎」

 雪姫は怒りに発展しそうな勢いだった。

 このままだと埒が明かないと判断した九尾狐は、軽く扇子で風を起こす。

 その風に二人は反応し、気持ちは沈静化する。

「これ!妾を差し置いて、随分賑やかな事をしおるな?痴話喧嘩をする暇があるのか?」

 わざと声を大きくして、自分に目線を向かせる。

 幸助も視線を向けた。

 その瞬間、幸助の心情に大きな変化が起きた。





 俺は声を出した彼女の姿を見て、心を鷲掴みにされた。

 心臓がドクンと強く打ち付けられた。

 一目惚れ。いや違う!ずっと前から会いたかった故のもどかしさだ。

 居るのは知っていたが…まさか、こんなところで…‼︎

 ああ…俺は何を見ているんだ?これは幻じゃない。

 俺が一番会いたかった。この世界で最も会いたい妖怪が、俺の目の前にいる。

「なんで、貴女が……」

 駄目だ、駄目なんだ!胸が苦しい!

「どうした?何故震えておる?」

 雪姫が俺の様子が可笑しいことに気付く。九尾狐は優しい口調で聞いてくれた。

 そんな優しく、俺に聞いてくれるなんて。そんなに優しい妖怪なんですか⁉︎

 この気持ちを知っている。胸を締め付けるこの感情を、初めて味わった。

 刀剣を落とし、片手で目元を隠す。膝からガクッと崩れる。涙の滴が落ちる。

「幸助⁉︎化け狐、何をした‼︎」

 雪姫は九尾狐に何かされたと思い、もの凄い形相になる。

 抑えてるのに涙が止まらない。苦しい……。

「……っ、違う、そうじゃねぇ…んだよ」

 下を俯いて、俺の気持ちを訴えた。

 九尾狐は近付き、膝をついて俺に触れようとする。

「触るな!」

 雪姫はその手を払う。

「雪姫。そんな事をしないでくれ」

 啜り泣きしながらも立ち上がる。

 そのまま、目に浮かんだ涙を手で拭い、九尾狐に目を向ける。

だが、俺の目から再び涙が溢れる。拭ってもまた滴れる。

「あ…ああっ!もう、こんな…こんな人の前で情けねえ…」

 声が上手く出ねえ。俺は胸糞悪い気分にいた。

 でも、胸糞嬉しくて。あまりの光景に、凄い優しく包み込まれた気分で。

 人の告白でたじろがなかった俺が、こんな出会いに心が絞めつけられる気分を味わうだなんて。思うわけがねえだろ。

これが恋する気持ちか………。





 俺には、好きな妖怪がいる。

 幼稚園児のある日、ある伝記でその妖怪を知った。漢字が読めず、先生に解読して貰いながら伝記の内容を説明して貰った。

 様々な妖怪の中で、俺は九尾狐が目に止まる。

 多くの人々の命を奪い、人の世を終わらせようとした傾国の美女と呼ばれた人間に化けた狐。国の頂点たる者から寵愛を受け、その者を虜にする。

 俺はそこに好感を抱いた。

 目を付けた者を全て虜にする程、その姿は美しいのだと。

 もしも、こんな美女なんかに俺が目を付けられたのなら……。そう思うことは少なくなかった。

 これが恋になるには、そう時間は掛からなかった。

だが、それが叶う事はないのだと、心の中では理解していた。

現実とフィクションを合わせるなんて烏滸がましい。俺はそう思い、心の奥底に、想いを封じた。

 叶わない恋なら、もう苦しみたくない。

 だが、それは目の前の彼女を見て、気持ちが抑えられなくなった。涙が溢れる程、俺は苦しんでいたのだと、初めて知ったんだ。

「嬉しい……です」

 俺は彼女に、思わず抱きついてしまった。



 雪姫は目を見開いて驚き、身体が硬直してしまう。九尾狐は幸助を胸で受け止めだが、呆然として身じろぎもしない。

「はて…何があったのじゃ?」

 九尾狐の疑問に幸助は涙ながらも答える。

「会いたかったんだ……あんたに!」

 純粋な眼差しを九尾狐に向け、会いたかった気持ちを伝えた。

 九尾狐は沈黙に入る。そして、思案を巡らす。

(好きだと心理を読んだから知っておったが、まさかな……。ここまで情熱的な子じゃとは)

 九尾狐は、動揺していた。

 数百年ぶりに味わった気分だった。

 長生きすると表情に出なくなるのだと、九尾狐は静かに悟り、幸助を自身の胸に引き寄せる。

 幸助は九尾狐の胸に倒れ、再び涙が滴れる。

 九尾狐は幸助の頭を撫でて、愛嬌を見せる。猫を撫でるように撫で、迎えるような温もりを放つ。

「煩悶する気持ち、よく分かった。人に言えぬ恋を抑える、それは並ならぬ苦痛を伴うものじゃ。人に隠し事をしてまで貫いた恋はさぞ苦しかろう。妾に恋心を抱き続けたお主よ、胸を貸してやろう。なに、遠慮する事はないぞ」



 その言葉に、俺は人に見られたくない程、九尾狐に縋って泣いた。

 この世界に来て初めて、俺の願いが実現した嬉しさが込み上げ、自分の感情を素直に発露したのだった。






 数十分泣き続けた俺は疲れてしまい、座り込んでしまった。

 そんな様子に驚いた雪姫は、心配そうに声を掛ける。

「大丈夫?落ち着いた?」

「ああ…。もう大丈夫だ…」

 俺は息を吸って落ち着く。泣き過ぎた。

「幸助、怪我や痛み、大丈夫?」

「怪我?何もないが」

「違う。私の攻撃、止めたから冷気が…」

 俺は両手を確認する。なんともないと表情で伝える。

 雪姫はホッと胸を撫で下ろす。

 俺達は九尾狐に聞きたい事を聞いた。

なんで、俺達に目を付けたのか。なんで、俺を拐ったのか。この二つが俺にとっては謎過ぎた。

 でも、九尾狐に目を付けられて拐われたのだと思うと、俺は嬉しさを噛み締めた。

 俺の質問に、九尾狐は答えてくれた。

「順を追って説明するとじゃな。お主のその類稀なる奇行とそこにおる雪姫という雪女じゃ。お主、妖怪に名をくれてやった事で噂になっておった。それ故、妾はお主の存在を知っておったのじゃ。名をくれる行為、目にした事がないのでな」

九尾狐は思慮深く考えながら説明してくれた。

「でも、俺以外にも居たんじゃないのか?あっ、いや…居たんじゃないですか?」

 どうしても、九尾狐には敬語を使ってしまう。この人ばかりには、気を遣ってしまうな。

「なんじゃ、喋り難いじゃろ?敬い言葉は使わなくてよい。心言葉で話してくれれば妾も口を挟まなくて済む」

 そんな俺に気遣ってくれるのか、九尾狐は微笑んで言ってくれた。

「ありがとうございます。じゃあ、気を取り直して語らせて貰う。俺以外に名前を付ける人は居たんじゃないのか?名前って、そんなに珍しい事なのか?」

「うむ。妖怪相手に名を与えるというのは浅ましき行為。常なら、誰もが妖怪として定着した名で呼ばれておるし、誰も名を欲しがらないというのが適当じゃな。じゃが…」

九尾狐は真剣な表情をして、ある事を口にした。

「それは一般的にそう認知されているだけであって、本当は誰もが、その付け名を恐れておるのじゃ。畏敬に近しい故、誰もが禁忌としておる。人間からの愛の結晶とも呼べる賜物、それが名じゃ。人間は赤子に名を付けるのと同様、それに値する価値あるものなのじゃ。同時に“ある禁忌(タブー)”を犯す事態にもなる。そんな事を出来る人間は、本当の意味で妖怪である妾達を人と思っておる証。じゃから不思議なのじゃ、お主という人間の存在は」

 九尾狐は覗くように俺の顔を見て、不思議な表情を浮かべていた。

 この話を聞く限り、俺は妖怪に愛を持っている意味なのだと理解した。

「うむ。お主の異能も大体検討できたことだし、妾が面白う話を語ってやろう」

 そう言って椅子を出現させ、九尾狐は腰掛ける。

 九尾狐は重大な事を言い出した。


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