128話 強引な申し出
このストーリーも終盤へと向かっています。あと1週間ほどで終わると思います。
明日pixivで投稿するのでこちらはお休みいたします。
妲己は夜叉から辰元を受け取り、辰元から得られる玉藻前に関する記憶や能力を解き明かそうとした。
しかし、そこから一つも出てこなかった。
まるで人形のようだと妲己が言う。
「息してないが、こいつはどうなったんだ?」
「既に死んでおる。ワレが調べる前に……。どうしたことか。これでは何も分からないではないか」
妲己は苛立ちを隠さない。そのまま、不機嫌に玉座に座り込んだ。
辰元は自ら死んだようではなく、魂自体が消えたようだったそれより誰かに喰われたと言った方が正しい。
つまり、この仕業は玉藻前ってわけだ。
「幸助、やはり玉藻前は危険過ぎる。人間を切り捨てる妖怪、あまり深く関わらない方が…」
雪姫は玉藻前の行動を異常と捉える。
確かに雪姫の言う通りだろう。
人間の魂を遠隔で奪ったともなれば、その強さと冷酷さは恐ろしい。生きていた人間が、突然、音沙汰もなく死亡するのは恐怖に値する。
だが、この世界の妖怪の価値観に則れば、玉藻前の殺生が普通の事と思えてきた。
「関わらない、それは無理だな」
「やっぱり……行くしかないの?」
「当たり前だろ?玉藻前は俺が連れて帰らないとならないだろ?それに、俺は玉藻前が恐ろしい妖怪とは思えないんだよ」
「どうして?」
「妲己を知った今だから言えるが、玉藻前も何かあって妖都に顔を出さず、最都の何処かに潜んでるのも訳があるのだろ。悩みって、意外なものだったりするしな」
「……そう」
雪姫は納得しない表情を浮かべる。
「納得、しないよな?」
「……」
俺から目を逸らす雪姫。あからさまな態度を取り続け、不機嫌そのもの。
俺は溜息を吐く。
「あんたは俺が早く放浪の旅を終わらせる為に協力してくれるって約束したんだろ?絶対に避けられない運命を背負わされているんだし、玉藻前達を連れ出すまで辛抱してくれ。雪姫がいないと勝てる気がしねえんだ」
「っ…それって…?」
僅かに期待に満ちた目を向けてくる。さっきの不機嫌な様子はなくなり、俺はひとまず安心する。
「妲己の時、あんたが俺を守ってくれてただろ?実はな、雪姫が守ってくれると信じてたから臆さずに言えたんだよ。一人だと絶対に言えなかった。誰かに助けて貰い、守ってくれると思えたから説得出来たんだ」
少し戸惑い、雪姫は口元を手で押さえる。
「私を頼って……」
目が僅かに潤い、何かを噛み締めているようだった。
表情が見えなくなり、俺はちょっと心配になった。
「あれ…?大丈夫か?」
「うん……幸助はそう思ってくれていたのね」
雪姫は何処か嬉しそうだ。
「あはは!なんだよ⁉︎そんな事で喜んでくれるのかよ!随分変わったな」
「そ…そうね。以前よりもこんなに笑えるなんて…私も、驚いてるの」
「ま、あんたの純粋な笑みが最高だったけどな。それに劣らずの笑みも見れて嬉しいぜ」
雪姫は変わった。
本当に俺と話す度に声や仕草が人間らしくなってきた。
なんでこんなに喋りやすいんだろうな。
最近、旅の途中でも分かるぐらいに感情が豊かになってきている。怖い時もあるが、それを気にしなければどうって事もない。
「っ……‼︎」
耳の端が赤くなり、雪姫は目を背けて動揺していた。
「ん?雪姫、なんで赤面するんだよ?」
「ち、違う!そんな風に優しくされると………勘違い…するでしょ?」
最後の方、喋り辛そうに声が微かに小さくなって聞こえなかった。
「最後聞こえなかったんだが…もう一回言ってくれねえか?」
「……もういい。聞こえなかったのなら言わない」
不機嫌になり、雪姫は玉座の間からそそくさと出て行ってしまった。
俺が変な事言ったのか?別に、いつも通りに笑顔見た時に褒めたぐらいなのに。
「愚かだな。貴様、あまり余所者に情をくれてやると痛い目を見るぞ?」
座る妲己はまるで俺の心に問いかけてくるものだった。
「なんでだ?別に雪姫と俺はそんな関係性じゃねえぞ?」
多分だが、妲己は俺と雪姫が付き合っていると思ってる。
しかし、俺は否定した。
「不甲斐ない。歳月は短くはないだろ?1年あれば、そういう関係になるのでは?人間ならあり得なくはない」
まるで俺が悪いように言われる。
「いやいや、もう1年近くはなりそうだが、そんな仲じゃねえよ」
そもそも、雪姫は俺を好きかも知れないが、あくまで保護者目線だあいつは。
それに、俺は雪姫に最初の頃に言ってやった。
一番好きなのは雪姫じゃないと。
それがあるから、俺は雪姫に恋愛感情は向けていない。
「ワレは貴様が不意に見せる言葉が恐ろしいと思っておるぞ。そのお陰でワレは貴様が欲しいと思ったのだがな」
「恐ろしいって…」
「事実だろ?貴様がワレをその気にさせたのだ。これから先、死が訪れる日まで責任とやらを取ってくれるな?」
妲己は怪しく笑う。煙管で叩きながら、俺を見下す。
あれ……?脅迫されてないか?
「責任…って?」
「“災禍様”であるワレを口説いたのだ。コレはあり得ない事態なのだぞ?貴様がしでかしたことの重大さは常識を覆している。故に、貴様はより多くの者に狙われるであろう」
重い圧のある威厳。紅い目は俺を強く睨み、俺が犯した罪を挙げていく。
「まず、『雪女』、『すねこすい』、根源的妖怪である『九尾狐』への名付け。秋水らが手中に治めようとした妖都の制圧阻止及び壊滅。【浄玻璃の鏡】での不祥事。“放浪者”の烙印。古都の守護者たるワレを懐柔及び地位譲渡。“災禍様”であるワレを手籠にした。貴様は妖界で犯してはならない業を六つも破っている。これが意味する事を貴様は真に理解しておらん!」
そんなに罪を重ねてました?
てか、普通英雄扱いされる部分とかあるだろ‼︎
「待て待て待て!俺は壊滅させようなんて思ってなかったぜ⁉︎大体あれはな…」
「既に閻魔大王のクソジジィに決められた罪であるのだぞ?今更、貴様の口から誤解と提訴しても覆せないぞ」
閻魔大王が言い渡した罪は絶対というのがこの世界のルール。
それに異を唱えられる者は“太古の妖怪”である者のみ。
“災禍様”の地位である妖怪では、閻魔大王に逆らう事は出来ない。
俺如きの人間ではまず無理だ。
「っ…じゃあ、俺は“放浪者”で済んだのはマシだってことかよ」
「そうだ。だから不満ある者が派手に暴れ始めるであろう。“三妖魔”はこの期に及んで表舞台へと姿を晒す。今動けばヤツらは現れるが、その状態では瞬く間に殺されるであろう」
俺が地獄へ堕ちない事を心底から許せない。そんな奴らが俺を襲う。
恨み持つところ違うだろ。そんな風に思うが、今更仕方がない。
「また食われる話かよ……。じゃあ、どうすれば良いんだよ?」
妖怪に襲われて食べられるのは、人を選びたいもんだ。
せめて、來嘛羅か雪姫、妲己とかに食われるのがマシだな。
まだ死にたいとは思わないけど。
かといって強くなりたいと願っても限界はある。この旅で俺の技量は大して上がっていない。
修羅場という戦場を走った覚えがない。
「だから言っているだろ。ワレが貴様を婿として娶ってやると。そうすれば、大抵の者は迂闊に寄り付かず、容易くヤツらを見つけられるぞ?」
「っ‼︎なん…だと⁉︎」
急な婚姻の申込み。
思考が追い付かず、妲己の妖しい笑みを見てハッと気付く。
俺は思わず引いてしまう。
「クククッ!貴様、ワレから逃げるつもりか?それはさせぬぞ?」
俺の背後へ瞬く間に移動する妲己。
「なんで俺と…?大体、俺には來嘛羅がいてな!」
精一杯アピールする。それで妲己が止まることなどない。
「無視してやる。あの女への求愛など抱かせない程に穢してやろうか?」
俺の首を触り、俺の体をじっくりと舐め回しながら見てくる。
「そ、そもそも…あんたは俺に協力する為に降りたんだろ?何故俺を婿に娶りたりたがる⁉︎」
「クククッ、付いて行くだけじゃないぞ?貴様の妻として、貴様の生涯を添い遂げると申しているのだ。断るならば、貴様をこの場で食らってやるがな」
「っっーーー⁉︎」
俺はあまりの衝撃に、顔が信じられないぐらい青褪める。
この妖怪…本気だ‼︎
俺を自分のモノにしたいと強い独占欲を感じる。
人に告白されるよりもストレートで、俺にしか眼中にない告白は嬉しい。
こんな俺を認め、更には俺を欲してくれる気持ち。
初めて味わう堂々告白。
うわぁ…ヤバいマジで。マジでヤバいって!
脅迫されているのだから、なんて答えれば良いんだっけ⁉︎
「可愛いヤツだ。ワレが妖界で初めて欲しいと望んだものは地獄の快楽。だが、今は貴様を殺してでも欲しいのだ。誰にも取られまいと思うまで…な。この気持ちを貴様が全て受け止めよ。渇望する心に貴様の欲情を注いでくれ。人間を諦めたワレはもう一度、この人生を歩みたいのだ!」
いつの間に俺の目の前に現れ、長身と装束で俺が覆われる。
俺より顔二つ身長を持つ妲己は、まるで人間が妖怪に化けたような様。
それが事実なのだ。妲己は正真正銘の妖怪に転じた人間である。
そんな妖怪が、俺に『契り』を持ち掛ける。
「必ず“三妖魔”の捕縛を果たす事を約束しよう。ワレの全てを貴様にやる。その見返りとして、ワレの花婿になる事を契りせよ」
願ってもない契約だ。
だが、俺にはそれに応えることは出来ない。




