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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
古都・妖狐救済編
128/281

127話 精霊の断罪

2話で退場…妲己戦が長い分、こちらの方は短縮されています。まあ、少し咬ませ犬だと思ってくれれば良いです。しかし、まだ死んではないので……。


“三妖魔”の玉藻前が動き出した理由、浅はかに見えますがかなり手札を余らせているからの行動です。“一尾”の意味は次の章かかなり先になるかと思います。

夜叉の心は取り乱す。

その取り乱し方は大袈裟なものだった。

「カナ様⁉︎い、いけません!こちらに来てはなりません‼︎」

普段の冷静な夜叉ではなく、開けてはならない箱を止めるように。まるで地べたに這い蹲り赦しを乞うような勢いだった。


芯から襲う恐怖。冷たい憎悪を知る夜叉だからこそ感情を乱す。


本当に恐ろしいのは悪人ではない。


真に恐るべきものは………。




華名は横たわる死体を見て、ガタガタと震え出す。

恐怖で震えているのではない。自分の知る世界ここで、あってはならないモノを見て心が揺れる。

「これ……死んでます…よね?」

壊れたロボットのように夜叉に問う。

夜叉は口を開けない。

「っ……」

「何か言って下さい夜叉。死んでますよね?」

「カナ様……」

夜叉が「死んでます」と言えば済む話。

だが、華名に死を認識させてはならない。

この都市が無法地帯であるならば華名は受け入れる。それは致し方がなく、秩序を乱した行為ではないと納得させられる。

しかし、この都市は殺生を許さない古都。

目の前でその掟を破られ、自分の安全のぞみが望まれない時、華名は誰よりも怪異の存在と化す。

「言わない、ですか。つまり、この人は殺されたのですね?そこの図体のデカい人に」

華名は辰元に指を指す。

それを挑発と捉えた辰元は気味が悪い睨む。

「私に指を向けるなよ女。この男のように死にたくなければ、その敵意を向けない事を勧める」

華名はゆっくり指を下ろす。

「間違いないのですね……夜叉?」

夜叉は口を開かず頷く。

夜叉は思った。

——彼は生存権を失ったと。


悟美も到着する。

「あは!人が殺されてるわ!シシシッ、誰かしら〜この人やっちゃったの」

周りの騒ぎにも華名達にも目もくれず、横たわる死体に近付く。

しかし、華名の異常な静けさを見た途端、本能が彼女の歩みを止めた。

踏み込んではならない領域を知覚し、悟美の表情に一瞬険しさと冷や汗が同時に襲う。

悟美は馬鹿ではない。

勝てる相手と勝てない相手には果敢に挑み、自己の犠牲を省みない。快楽の為に殺戮をするには強者でなければならない。

圧倒的な強者を前にしても悟美が警戒する事もあまりない。

悟美の本能は鋭く研ぎ澄まされており、純情に従う習性を持つ。


無意識に溢れる華名の静かな気配の奥に眠る殺意。


悟美はその場からすぐさま立ち去る。

「アレはヤバいわ、ヤバいわね。私が拒否してるわ。見落としていたわね……あの華名って子、『九尾狐キュウビキツネ』に匹敵する何かを味方に付けてる。恐ろしいけど、面白いわ!シシシッ‼︎」

上機嫌に見えるが、そんな余裕などない。

初めての感覚に、悟美は理解が及ばず、戸惑うように逃げていた。

勝てる負ける以前に、関わってはいけないと本能が訴えていた。


華名は、この妖界における“太古の妖怪”を味方に付けている。

その名に恥じない確固たる根源妖怪。

自然界に存在する精霊の原点にして頂点に君臨する“太古の妖怪”『精霊スピリット』。

華名は『精霊スピリット』と会っていた。そして、『契り』を結んだ。

その身を『精霊スピリット』の受け皿となる代わりに、『精霊スピリット』が持つ妖術と異能、全ての能力を自由自在に扱うことを条件に結んでいる。

妖術を使える一人として、華名は無自覚だが、妖術に長けている。


華名の意思はある。だが、その意思は『精霊スピリット』とほぼ共通するからこそ、解き放たれれば、人智に留まらない怪異が起きる。

似た者同士、同化してしまうとその強さは誰もが信じ難いものとなるだろう。


秩序を乱した不届者に裁きをくれる。


夜叉は頷き、華名は辰元に異質な殺意を向ける。

その敵意はあからさま過ぎる。辰元は身構え、剣を華名へと向ける。

「私も甘く見られたものだ。先程戦った女は退き、私の相手をしてくれる者は幼女と来たか。これでは、この都市も地に堕ちたものだな」

余裕を見せる辰元。脚に力さえ入れればひと突きだと隙を窺う。

それとは別に、静か過ぎる霊気オーラを漂わせる華名。

「どうでしょうね?私などそんな一人に過ぎませんので。理解は出来ないです」

「クッケケケ!小娘一人に何が出来る?」

辰元の煽りを完全無視し、呪文のように詠唱を唱える。

「秩序乱し悪者に生きる肉体不要なり。愚かなる愚者に慈悲は要らない。精霊…私…人間…妖怪を蔑む罪は深く、許容してはならない大罪。尚して法に守られし人間ヒトを二度も殺めたは極悪と定めた。相応な罰をもってその穢れを禊ぎ祓え」

華名は冷めた目で辰元を睨み付ける。その雰囲気の違いに夜叉は見守るしかない。

何故なら、彼女の逆鱗に触れた者に裁きが与えられたからだ。

「そんな分かり易い殺意、私に意味は……なぁっ⁉︎身体がァ⁉︎」

辰元の体が石へと変わる。

精霊の力を使い、『石化セキカ』を発動した。

華名が睨んだ瞬間、勝負は着いている。

「どうですか?石の精霊にお願いして貴方の身体に働き掛けてみました。石になる感想…どうでしょうか?」

「出鱈目な異能だな…」

「はい。人殺しにはお似合いだと思います」

睨み続ける時間に応じて、足元と指先の感覚を失っていく。『石化セキカ』を防ぐ術はなく、辰元の肉体は瞬く間に石へと変化する。

辰元は抵抗しない。

「折角いい肉体を得たというのに……儚い時間だったな」

特に畏怖する様子を見せない。その笑みは更に歪んでいく。

「では死んで下さい。私の気分を害した部外者さん」

辰元は成す術なく、『石化セキカ』によって肉体活動が停止した。

華名はトドメを刺す為に、予め掌に象る妖力玉エネルギーを石化した辰元へ放つ。

木っ端微塵となり、原型すら見られないほどに破壊された。


ビシュウの肉体が石にされたのと同時に、殺された筈の男が立ち上がる。

死んだと思った男が起き上がり、華名は無警戒に近付いた。

「良かったです!さ、喉は深い傷を負っていますので治療を……」

「その必要はない」

男の手には辰元が握っていた剣が。華名へ目掛けて突こうとする。

しかし、夜叉が空かさずに阻止する。

「その異能…人の死骸を利用する《悪憑》ですね?その技でカナ様を欺こうとしないで貰えないでしょうか?」

夜叉は辰元の異能を看破した。

すると、辰元の表情は苦いものとなる。

「これは驚いた。私の異能をこの短時間で見抜かれるとは⁉︎」

「保険を賭けていたようですが、貴方の異能の弱点も何となく見抜きました」

夜叉は分析して答えを導き出していた。

辰元が《悪憑》を持っていることを見抜き、その性質を自己分析し、完全にこの場で亡き者にする算段を考えている。

逃せば厄介な異能。それを持つ辰元は危険だと夜叉は動く。

「カナ様、私に力を下さい!」

「分かりました!つるぎの精霊よ、夜叉に必殺の加護をお与え下さい!」

唱えると、夜叉の長刀に異様な光が燈る。

その光を見て、辰元の顔が強張る。

「不味い‼︎」

勝てないと瞬時に判断したのだ。

辰元は直感で察した。この光には敵わない。

(あの光は駄目だ。悪魔に属する種族を滅する聖なる光だ!私の《悪憑》があの光だけは受け入れられないと拒絶反応を発している。馬鹿な…あの女、あの女は危険だ‼︎)

戦気を翻し、迷わずに逃亡を選択する。


辰元は相手の実力を見誤っていた。夜叉という妖怪を知らず、華名という人間が妖怪を宿す事例を知らなかった。

その時点で、辰元はある玉藻前の思惑がぎる。

辰元は50年前に玉藻前から加護を授かった。漸く勝ち取った“一尾”の力は他の加護とは群を抜いていた。

実力を認められた者に与えられる寵愛であり、辰元は無我夢中に尽くした。

そして、『九尾狐キュウビキツネ』の適合にも選ばれた猛者と自負している。

九尾狐キュウビキツネ』に選ばれる人間は限られている。その中の一人を象徴する“一尾”を授かったのだ。

だが、剣を交え、久方ぶりの戦闘中に薄々は気付いていた。

全盛期には遠く、劣る動きだった。

自分は捨てられた。そう思ってしまうのも無理はない。

事実であるからこそ惨いものだ。最後まで自分は“一尾”だと思い込みたい。

辰元は自身の背中を見る。

その時、辰元は正気に戻らず、自身の感情が滅茶苦茶となっていた。

(そうか………玉藻前様はお見捨てになったか…)

逃げていた筈の足は止まり、逃亡を捨てた。

背後からは夜叉が迫って来ている。

「私から逃亡を諦めましたか。では、貴方が持つ情報を全て頂戴致します」

自分は裏切られた。否、捨てられたのだと思い込み、自分が“一尾”ではないと心は荒んだ。

しかし、玉藻前を嫌いになれなかった。

初めて、玉藻前と出会った時、彼女の魅惑に取り込まれた。その時から、辰元は一種の精神支配に陥る。

玉藻前に心奪われた時から、辰元は運命に従うしかなかったのだ。


辰元は振り返り、夜叉へ向かって叫びながら突っ込む。

夜叉は慌てず、辰元を拘束する為、峰打ちの準備をする。

「ウォオオオーーーっっ‼︎」

「……」

感情を読み取れる妖術を持つ夜叉からすれば、辰元が何を考えているのかを把握する技術を持つ。

突発的な行動に理由が必ず存在する。それを一瞬で読み、夜叉は対応を変える。

長刀をしまい、ただ突っ込んでくる辰元の握る剣を蹴りで払い、抱擁するように拘束する。

「ガァ⁉︎は、離せっ‼︎」

「貴方の処分は妲己様に下されるでしょう。光栄な事ですよ?この国の守護者に手を出そうとした罪を受けるだけではなく、貴方が恋慕う玉藻前にもその断罪はくだされますから。その愛を恨みたければ、玉藻前を恨むと良いでしょう」

必死にもがく辰元を夜叉は腕の力で締め付ける。

その力は凄まじく、辰元の肋に食い込んだ腕が肋骨を押し潰している。

骨から悲鳴が上がり、辰元は息をするのでさえ困難になってくる。

よだれと泡が汚く口から溢れ、目が赤くなる。苦しさのあまり

、夜叉に蹴りをかますが意味を成さない。

「フフフッ、その息苦しい顔は可愛いものですよ。カナ様の秩序を乱した罪人をこうして死に絶えずに生け殺しにするのは楽しいですから。折角、覚悟を決めたその精神も、こうしてしまえば…」

そう嗤うと夜叉の締め付ける力が強くなる。

妖怪の筋力は、人間よりも遥か上。辰元が抗えるものではない。

「あ……ぁぁ…」

息が何度も途切れ、意識が遠退く。

手脚の血の気が引いていく。

辰元は何も出来ないと絶望する。

(私は……玉藻前様を信じたい。もう一度チャンスを……)

心の中で手を伸ばす。

手が伸ばしても届かない。

自分の奪われた心は戻って来ない。

(あぁ…返して下さい。お願いです玉藻前様。私が費やした心を…どうか……)

意識が絶える直前まで、辰元は心の底から切実に願う。


その願いは玉藻前に享受された。見捨てられたかと思いきや、辰元に神の手綱が落ちる。

『辰元。あなたの熱望をいただきました。その願い、叶えて差し上げましょう』

一度奪った心を、玉藻前が手放す筈がない。

玉藻前が自身に微笑んだという顔を妄想する。

期待しているような笑みだと思い込んでいたが、それは違う。

妖しい笑みをしていた。

何よりも、その笑みと目は自分に向けられているとは思えなかった。それでも神秘な微笑みであるのに変わりない。

(ありがとうございます……この汚名、いずれかに晴らさんと致しましょう…‼︎)

想像でしかない笑みに心奪われた辰元は、一時の肉体と別れを告げた。




玉藻前によって、彼の魂は古都より消えた。

辰元は夜叉によって絞められた。

「これで鼠は懐に落ちたと。妲己様に献上しなければ」

「あー‼︎夜叉が男の人を抱き締めてる‼︎酷いですよ!」

さっきの様子とは変わり、華名は強請るように夜叉へ近付く。

ふてくしているようで、頬を膨らませて夜叉の背中にしがみつく。

「あのカナ様?もしかして、ご嫉妬されてます?」

そう聞くと、華名は涙目でモゴモゴ何かを言う。

「どうして……」

「聞き取れませんよ?」

「男の人が…好きになったのですか?嫌です…夜叉が男の人に抱き寄せているのは。私だけにして下さい…」

華名の性格をよく知る夜叉は、申し訳ない事をしてしまった。

捕まえる為とはいえ、華名が不快に思うことを平然としてしまった。

夜叉は辰元を離し、背中にしがみつく華名を抱き締める。

母性溢れる笑みで頭を撫でる。すると、華名は泣くのをやめた。

「えへへ!夜叉は私を離さないでくれるのですね!」

「……」

夜叉は華名を好意的に思っている。しかし、華名自身が宿している精霊への恐怖からきた感情であった。

様々な根源から生まれた夜叉であるが、同時に、種族から離れることが出来ない首輪という枷を付けられてしまっている。

機嫌を大きく損ねれば、“災禍様”の自分でも手が付けられない。

出会って最初に気に入られてしまった以上、彼女の機嫌を損なう行動は慎まなければならない。

(困ったものです。カナ様は『精霊スピリット』に魅入られ、その身を捧げた方。私など、単なる妖怪である限り、彼女には敵いません。『雪女ユキオンナ』が羨ましいです。私も何か……彼から施しでも。……いいえ、そんな事をすればカナ様はお怒りに。考えるだけで肝が冷えます)

逃れられない。

そう思わなければ、自分が滅ぶと分かっている。


この地位と今の関係を取り持ちたい夜叉にとって、華名は重要な人間なのだ。

華名に認められるは即ち、『精霊スピリット』に魅入られるのと一緒。根源的妖怪に認められることで、その強さを確実としたものと出来る。

最強格の“災禍様”の地位を維持するには、華名に愛され続けなければならないのだ。

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