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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
古都・妖狐救済編
127/281

126話 動き出した情勢

今日はネット環境がおかしく、上手く文字が打てません。反応が可笑しいので、ご了承下さい。

妲己は今後の方針を話してくれた。

“三妖魔”を妖都へ連れて行くまでの間、俺や雪姫に付き人として付いて来てくれること。

その間、褒姒に古都の守護者代理人を務めさせ、妲己は守護者の地位を失う。守護者を失ったことで、妲己は古都へ立ち入る事が出来なくなる《契約》を閻魔大王より受けなければならない。

しかし、これから閻魔大王に赴く為、処分で済むなら猶予があるとのこと。

俺と話した後、妲己は地獄門を渡り、閻魔大王のいる地獄へ行く。

地獄門は、妖界と地獄を繋ぐ唯一の場所で、常に地獄門は場所を変える為、守護者のみにしかその場所は知らされない。守護者を継承する者、守護者を退位する者にその場所が告げられ、足を踏み入れる事が許される。

既に地位を譲る事を事前に知らせ、明日にでも行くとのことだ。

本来の守護者の継承とは大きく違うそうだ。

本来ならば、手続きに時間を有し、1年の歳月を待たなければならない。

形式な継承ではなく一時的な仮継承ならば今すぐ承諾すると、思念を通じて了承されたそうだ。


だが、事態は急変を迎える。


「待て…。残念だが招かれざる客が急かしているようだ」

妲己は何かを感じ取ったのか、古都の異変を告げる。

俺は力になりたいと思い志願する。

「ちょっと外に行ってくるぜ。狙われるんだったら俺の責任だしな!」

俺は外に出て迎え討つと訴えた。

しかし、妲己は冷静な様子で俺を止める。

「待て貴様。貴様が出向いてどうこうなる相手だと思うな」

「でもよ!あんたが死ぬのはごめんだぜ。せっかく仲良くなれたのに‼︎」

俺はどうしても助太刀をと望む。

妲己が攻めてくるような誘惑で承諾するかと思えば全く違った。

その顔は真剣な表情であり、俺に対し制止を促す。

「そう慌てるでないぞ。既に手筈は済ませておる。ワレの最優の二人と貴様の仲間が街を探索している。直に報告が入る」

「それって……」

俺はそれを聞き安心した。

悟美と夜叉なら問題ないな、そう確信した。




妲己を抹殺する為に送られた辰元とビシュウ。古都に潜入し、妲己のいる城へと向かっていた。

言葉は発さず、ただ沈黙の暗殺者の如く、その気配を消していた。

辰元とビシュウは仮にも覚醒者。その実力は侮れるものではない。

(何処にいる?霊脈の中にいるのは分かるが、どの辺りにいるだろうか…)

霊脈とは城の名であり、都市の名前は全て城から名付けられている。

辰元は思慮深く、暴れたがりのビシュウとは相反する。とてもとは言えないが、辰元とビシュウでは相性が悪い。

沈黙を忌み嫌い、今かと今かとビシュウは積怒の表情ですれ違う者に睨み付ける。

ビシュウは我慢ならず、沈黙を破る。

「はぁーだりぃ!何が好きで陰気臭え場所に飛ばされなきゃならねえんだよ!」

「黙れビシュウ。お前は口を閉じられないか?」

「だってよ〜オイは沈黙がキンだって言葉知らないもーん。早く妲己っていう妖怪を殺そうな」

「黙れ…」

口滑らすビシュウに感情を震わせて怒りを露わにする辰元。

二人の目の前に長身の女性が立ちはだかる。

「聞き捨てならない言葉と重ね、気色の悪い怒りを感じ取りました。お二人が、妲己様の命を奪おうとする輩で間違いないですか?」

立ちはだかるは夜叉。その目は彼らを敵と見抜いた。

辰元は平然とした態度で対応する。

「そんなことありませんよ。私達はただ街の住民に過ぎない人間です。この男は私の友人ですが、少々妲己様に恨みを吐いてしまったに過ぎません。どうか、お許しを」

ただの住民。そう名乗ることで、自分達は無害であると主張する。

しかし、辰元達の怪しげな様子に、夜叉は芝居を打つ。

「では住民である証拠を提示して下さい。都市の住民の証明として配布される勾玉を見せて貰いましょうか?」

「貴女は誰でしょうか?勝手ですが、私が貴女に提示する理由があるとでも?見知らぬ女に証拠はお見せしません」

辰元は理由を付けて見せようとしない。しかし、それは簡単にビシュウによって意味を失せる。

「はぁ?別に隠す必要はなくね?ここで連れてって貰えば」

「だまれぇ…‼︎」

隠し事が出来なくなり、辰元は咄嗟の勢いでビシュウの喉を剣で貫く。

「ゴフッ⁉︎」

「黙れと言っているだろうが狼藉者め!私の言う通りに動けば良いんだよ馬鹿者がッ‼︎」

浅はかな仲間殺し。

喉を貫かれたビシュウは痛みに悶え、喉から汚く唾液と血が滴れる。

しかし、一発で仕留めきれず、更に一発。喉を抉り、ビシュウの命を絶命させる。

夜叉は笑顔になる。

「フッフッフ、そうでしたか……やはり刺客でしたか?」

「それがどうした?私が来たのは承知済みのよう——」

言い切る前に夜叉が長刀を握り、辰元に向けて一振り。その速さは見切れない太刀筋。

バシュッと辰元の首は刎ねられ、地面へと転がる。

あっさりとした最期に、夜叉は不思議に思うものの、邪魔者を排除した事を確認する。

「まずは一人…自分の仲間すら殺してしまうとは、馬鹿は貴方の方……」

鞘に納め、夜叉は斬り捨てた辰元を見下ろす。

後はビシュウのみ。夜叉は喉を貫かれたビシュウに目を向けたその時だった……。

鋭い刃物を避け、夜叉は大きく引き退る。

「チッ…しくじったか」

血だらけのビシュウが生気を帯びた表情をしていたのだ。

死んだ筈の彼が生きてる。異常事態だと目の当たりにする。

「おや?これは一体…」

目を疑う。ビシュウは剣を強引に抜き、血塗られた剣を舐めとる。

せせら笑いし、首をゴキゴキと鳴らす。

「クケッケッケッ!やっぱりこの肉体からだは最高なものだ。私に相応しい…。我が君にも魅入られるに違いない。前の肉体からだでは出来ない事が叶いそうだな…!」

手を確認し、何か喜ばしい様子。

その人物がビシュウではないと気付くには、少し時間が必要だった。

「誰ですか?」

「あー私か?我が君、『玉藻前タマモノマエ』様に仕えし“一尾”須藤辰元すとうたつもとであるが?如何かな?」

夜叉の衝撃は恐ろしく、背筋が凍るものだった。

どんな都市でも『玉藻前タマモノマエ』という噂は広まり、少なくとも、300年以上は音沙汰すらなかった。

目の前の男が出鱈目を言っているにしては冗談では済ませられない。

夜叉の体は勝手に力が入る。

「玉藻前……1000年、その存在の足取りも探れていない玉藻前の部下……」

相手を探り、その真実を見定める。

嘘である事を祈りたいが、感情を読み取るが真実を言っている。

(本当の事を言っているようですね。だとすれば、“一尾”とは一体何でしょうか?探る必要があります)

再び長刀を抜き、夜叉は警告をする。

「妲己様に危害を加えると言うのならばその首を刎ねます。この古都から逃れたいのならば、貴方が持つ情報を置いて行きなさい」

尚、辰元達に接触した瞬間から、警備を任されている者に思念を送り、逃げ道を塞ぐ。


悟美と華名が駆け付けている。その速さは異常なものであり、数分さえあれば到着する。

それまで、夜叉が辰元を抑え込めれば良し。逃げられたとしても、都市には多くの異能を持つ人間や太古の妖怪・災禍様が潜んでいる。自力で逃げるならば、多くの危険を潜らなければならない。


「警告…か。くだらんな、私がその程度のコケ脅しに尻尾を撒くとでも?」

しかし、自信があるのか、辰元が焦る様子はない。

「敵意ありと捉えました。では、その首を頂戴させて頂きます‼︎」

夜叉は真正面から辰元の首を狙う。

さっきは辰元と思われる肉体を斬り捨てた。なのに、辰元と思われる男が目の前にいる。自分で偽名を名乗れば直ぐに嘘と見抜ける。

だが、死んだ筈の辰元は生きている。それだけでも異常だと夜叉は警戒する。

「貴方は先程、首を刎ねました。しかし、今別の個体で生きているのはどういう状況でしょう?」

無言で襲う辰元。

辰元が答えるという期待はしない。

「よく考えるんだな?その大層な余裕もいずれは追い込んでやる」

異能であれば明かしてはならないのだ。

秘匿するということは即ち、その異能の恐ろしさを把握出来ない。

戦闘次第では、自分が倒されかねないと常に警戒していなければならない。

「答えませんか。いいでしょう、貴方を拘束すれば問題ありません」

「私を捕まえるか?それは無駄なこと…誰かは知らないが、我が君の命を邪魔する者は排除しなければ」

長刀と剣は一合二合三合とぶつかっても両者は退かない。

「クケッケッケッ!やるな」

「お生憎様。ですが、そろそろ限界なのでは?」

「言うな女。だが、私の実力はこの程度ではない」

「そうですか。憑依しか使えない貴方が?」

辰元は人に憑く異能を持っていると決めつけ、夜叉は多少の余裕があった。


しかし、その認識は大いなる間違いであった。


辰元は剣に異様な光を発光させる。

夜叉はその輝く剣に向けて、長刀を全力でぶつける。

キィーンと金属音が響く。

「馬鹿め!」

「っ‼︎」

夜叉の攻撃を受けた途端、発光する光がレーザーのように拡散する。

ゼロ距離での攻撃に、夜叉は紙一重で避ける。服の端が切れ、髪も一部がレーザーによって焼かれる。

「よく避けたな?」

「簡単な小細工です。その異能、他者の攻撃に応じた反撃効果カウンターを持つと見ました。それは、貴方が持っている異能ではないですね?」

夜叉は能力を探る。

「簡単なものだな。こいつの異能は《相撃》でな。私自身が攻撃と認識すれば、如何なる攻撃に相応のカウンターを与えられる。お前が私に攻撃と思わせる攻撃をする限り、一方的な勝負になる」

辰元は笑い、能力を詳細に語ってくれた。


ビシュウは《相撃》を持っていた。しかし、辰元の不意打ちにより、その異能を行使する事なく死んだ。

辰元は《悪憑》を有し、一度自身の手で殺した相手に憑依し、肉体を奪う異能を使う。


異能は魂に宿り、肉体をただ奪えば異能は行使出来ない。通常、死んだ時点で異能は消えてしまう。


《悪憑》は死んだ相手の肉体に宿っていた異能を完全再現し、覚醒者として異能の情報を瞬時に把握する。

覚醒者として異能を熟知すれば、異能の効力は向上し、加護があれば、更なる強さを増す。

夜叉は不利に立たされたかのように思われた。

覚醒者に達しておらず、異能よりも妖術に長けている。

未覚醒者と覚醒者では、強さに差が付く。

だが、それが人間であればの話。妖怪、それも太古の妖怪と崇められる夜叉なら話は違う。

「フフフッ‼︎面白いです!私がそんな小細工に手が出ないとでも思いですか?」

夜叉は自信ありげに笑う。

「なんだと…?」

「人間とは血気が盛ん、異能如きで勝ち誇るなど言語両断!その程度の能力でしたら、カナ様に比べたら塵芥に等しい。そんな塵、カナ様であれば容易く再現どころか応用すら考えてしまいます」

主人を棚に上げ、辰元を煽る。

己を比喩しないのかとばかりに、辰元は込み上げる怒りを覚える。

「舐めた口だな⁉︎私に手出し出来ないではないか‼︎」

攻撃に反応して反撃する性能を掻い潜るのは不可能と断言する。

そんな異能にも、穴という弱点が存在した。


夜叉は長刀を横に構える。綺麗な佇まいは空気を澄んだものに変え、一切の邪念が消えていく。

本気で異能の弱点を突こうとしているのである。

「では……参ります‼︎」

夜叉の姿を失う。辰元は僅かな気配を感知しようと神経を研がす。

(何処だ⁉︎あの女は…⁉︎)

空気が静まる。気配はなく、住民の声に紛れて夜叉は疾走する。

(余程の異能……ですが、彼はその目で見た攻撃にしか反応していない。ならば、最速で斬り込むのみ!)

勝算を導き出した夜叉は勝負に出た。

辰元の背後に現れ、長刀を見せびらかせていた。

ワザと気配を放ち、辰元に周知させる。

「いたか‼︎逃げようとしたわけじゃないだろうな?」

何故背後に?一瞬取り乱すが冷静を装う。

しかし、そんな焦りは夜叉に見抜かれてしまう。

見えぬ太刀筋は辰元の肉体に数百の太刀を斬り込んだ。

「焦燥は死を早めます。貴方如きが、カナ様の爪先すら及ばない事を証明致します」

「お前、何言って……ぐはっ‼︎」

夜叉の言葉通り、辰元の体は斬撃で刻まれた。

足と指の爪が全て剥がされ、背中と胸元に数十の斬り傷が模様のように浮かび上がった。

血飛沫はなく、ただ絵を描いたように血が滴る。


何が起こったのか理解出来ない辰元に、夜叉は怒りを促すように答えた。

「反射神経を試したのですよ?カウンターが発動するかどうかを細かく斬り刻んでみました。不思議ですね、攻撃と認識すれば勝手に機能する筈では?……それでは何か?貴方の異能は攻撃が見えてないと使えない鈍間ノロマですか?見えない攻撃に使えないとは、あまりの欠陥品。カナ様と比べては可哀想でしたね」

美女が笑う時、それは美しいものだ。

しかし、その笑みには意味があり、人の心理を狂わす要因になる。

「このばばぁがぁ…‼︎」

「フフッ、この私を老婆呼ばわりとは、失礼にも面白いです。ですが、間違いではありません。私はこう見えて、3000年は生きていますから」

「なぁっ‼︎……お、お前…まさか…⁉︎」

辰元は足元が竦む。夜叉の正体が妖怪であると知り、胸が圧迫される。

「フフッ、恐怖していますね。貴方がお相手している私は『夜叉』です。半神半鬼の血を引く純妖。精霊・悪魔・妖怪の力を持ち、“太古の妖怪”には及ばずとも、実力は確かです。まだ続けますか?」


辰元に勝機がなくなった。

“太古の妖怪”を相手に生きた者を知らない。

(なんでだよ!この女が玉藻前様である“災禍様”の上の地位にいる妖怪なのか⁉︎あ…あり得ない!この妖怪から逃げる手を考えなければ‼︎)

周りに人が集まりだし、騒ぐ者も現れる。都市内での戦闘は珍しくはなく、大抵が戯れ。まさか、本当の戦闘をしているとは思わず、簡単に夜叉達に近付こうとする。

この都市における戦闘は危険がないと定められ、許可が下らなければ公的戦闘は起きない。

「来ないで下さい‼︎この者は危険です。この場から離れなさい‼︎」

夜叉は人集りのできた集団に強く告げる。

しかし、好奇心とは抑え難いもの。夜叉の忠告を無視し、辰元の方へ近付こうとする。

男は辰元に声を掛ける。

「なあにいちゃんよー?」

「死ね!」

状況が理解出来ずに声を発した男は、辰元の隠し持っていた短剣によっていとも簡単に喉を貫かれ、その命は理不尽に奪われた。

夜叉は動揺する。

「殺す必要はなかったのでは…?」

動揺は態度に露わさないが、その表情に雲が掛かる。

辰元は人を殺したというのに罪悪感はない。

「人なんか知ったことじゃない。運がなかった、それで済むだろ?」

人間を殺したとしても、辰元の心は動じないのだ。鋼の精神ではなく、歪んだ精神が辰元の倫理観を狂わせている。人が死んだとしても、彼に罪悪などない。


同時に、夜叉は不安が過ぎる。


古都では、人の殺生は御法度。來嘛羅に定められた掟があり、この都市及び町にいる限り、身の危険の為の正当防衛以外は認められない。

罪を犯せば妲己によって断罪を受ける。そう定められている。

それが破られ、無慈悲に奪われた男が横たわる。この現場を見て、心乱す者がいる。

好んで従う華名の心情を狂わせることになる。

こんなところを華名に見せたくはない。夜叉は死んだ男をどう隠すかを思案する。


そう思った時、既に遅かった……。

「あ……夜叉……これは一体…?」

人混みの中に華名がいた。

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