115話 妲己の決意と望み
妲己がとんでもない事を言い出しました。これはつまり……。しかし、本当に彼女の性格を考えると……不安しかない。
来週、1日だけ別の作品を投稿する為、こちらの方は休ませて貰います。分かり次第、こちらで共有します!
しかし、ここまで話していると、雪姫が話に割り込んだ。
「妲己。あなたは何の話をしてる?私はそんな事実、生まれて400年の間に経験した覚えはない。出鱈目を言っているつもりなら虚偽を述べたとあなたを斬る!」
雪姫はその場に立ち上がり、妲己の話に少しばかり苛立っていた。
「それは……そうだったな。低俗な妖怪の域の者は記憶を消されておったな。まあどうでも良いのだがな。ある妖怪共が関係しているんだが、貴様らにはその事だけは口を開いてはならないとあの女と『契り』を結ばれていてな。残念だが、この記憶を語り聞かせたところで思い出せないだろう」
「意味が分からない。あなたは“妖怪大戦争”を知っている。だけど、私はそんな記憶などない。それが記憶消去というなら、何故話した?」
俺は意味が分からず、雪姫と妲己の話を最期まで見守る選択をする。
妲己は微笑する。
「それは分かっておるだろ?ワレは許した人間に嘘を吐きたくなくなったまでだ。消された記憶の貴様が足手纏いになるのも気分が悪いからな。ワレを斬りつけた褒美として受け取れ」
妲己が嘘を吐いているようには思えない。だからこそ、雪姫にはあったという事実を包み隠さないで話したのだという。
「欲しいと言ってない……」
雪姫は納得した顔をしないようだが、大人しく姿勢を戻した。
そもそも、守護者に対する態度が雪姫にはない。普通なら、無礼と妲己に粛清されても文句が言えない。
それをしないのは、妲己の心情変化なのだろうか。
「それでいい。怪都:天霧の妖怪共をあの女が支配下として手懐け、今後一切の宣戦布告及び開戦を禁ずる契約を閻魔のジジィと共に結ばせた。しかし、戦争は100年超と長く続き、それによって失った妖怪や伝承は凄まじかった。ワレすら記憶から消えた妖怪も幾千万とおったからな。特に西洋妖怪の中には惜しいヤツも居たとだけ憶えているがな」
記憶から消えた事で、戦時中に敗れた妖怪は“太古の妖怪”を除いて妖界から消え去った。それは偶然にも、人間界でも多くの伝承が消え、この世から消滅した。
人間界では17世紀〜18世紀に差し掛かっていた。その時、ヨーロッパの方では様々な惨事や消滅が起きた。
ヨーロッパ各国を巻き込んだ30年戦争、イギリスのピューリタン革命、フランスのフロンドの乱、スペインのカタルーニャの反乱、ロシアのステンカ=ラージンの反乱、ヨーロッパ全土に見られた“魔女狩り”、 小氷期によりヨーロッパの気候が寒冷化し、ペストが大流行して飢饉が起こり、英蘭戦争や三十年戦争をはじめとする戦乱の多発によって人口が激減した事で民間伝承は途絶えた。
悲運にも人間界と妖界で惨事が重なり、妖怪消滅の理由も嫌々ながら納得出来た。
しかし、この時期に生まれた妖怪も多くいた為、あまり重くは考えていないようだ。
妲己は西洋の事情に詳しかったのか、彼らに敬意を払っていた。
しかし、西洋事情を話した後、妲己の雰囲気は変わった。
「情勢をリセットした。だが、100年前…第二次世界大戦が始まる前からある変化が起きた。世界恐慌、聞いた事があるだろ?」
「あ、あぁ」
「人間界でそれが起きた辺りから世界の均衡は変化した。戦争に関する妖怪を始め、多くの噂が世界で囁かれた。するとどうだ?ヤツらは新人類と言わんばかりに人間界に出没するようになった。機械文明がより発展する事で、戦後の世界は妖怪がより身近になったのだ」
それだったら問題ないのではという疑問があった。
しかし、よく思うと妲己が言いたいことが理解出来る気がした。
心当たりがある。日本における変化だ。
「インターネットという情報社会が身近になったことで、多くの伝承が生まれた。つまりは、それらが現代妖怪として生まれたんだろ?」
俺がそう聞くと妲己は少し黙り込むが彼らについて思う事を話した。
「……そうだ。ヤツらは人間が記載という伝承がない代わりに、その依代として情報である口承でも記承でもないものに記したことにより増殖した。それもあってか、ヤツらに知性がない。伝承に通ずる者は、書いた人間によって書物や魔導書などを受け皿に、その妖怪を封印する。しかし、ヤツらには封印する受け皿がなく、世界中へ瞬く間に広まってしまったのだ」
拍車を掛けるように、100年前の現代妖怪の誕生と恐ろしい脅威が都市を襲うようになった。
幸い、古都は無事だが、今後の噂の拡散によっては窮地に立たされるかも知れない。
俺が知っている現代妖怪の中で、絶対に会いたくねえ妖怪がいる。そいつと出会ったら、間違いなく死ぬ。
だって、その妖怪には弱点らしき弱点がねえし、出会った瞬間、誰もが死ぬのが確定している。
あいつが……絶対に現代妖怪でない事を祈るばかりだ。
「現代妖怪…ヤツらは存在などしてはならなかった怪作。人間が勝手に生み出した妖怪の本当の恐ろしさは死よりも恐怖するぞ!知性が感じられないぐらい酷いものだ。ワレは一度、『テケテケ』という妖怪を古都の外で出会したことがあるのだが……あれは恐ろしいものだった。ワレの異能を容易く無力化し、ワレの片腕をいとも簡単にもいでいったわ。下半身を切られれば死に至る伝承を持つヤツは、兎に角強かった。仕方がなく、封印して逃げかえる始末だ。封印は何者かによって数日で解かれたが、な…」
俺は唖然とした。
『テケテケ』ってそんなに強えのかよ⁉︎
その強さ以前に、妲己が敵わないという時点で不味い気がするんだが。
確かに海外でも日本でも有名だけどさ。それでこの強さなら、定番の都市伝説はもっとヤベェだろうな……。
「ワレが太古の妖怪などにならなければ、貴様の負けに喜んだのだが…どうやら、逆に貴様を苦しめてしまったみたいだ。その事で、ワレはこの場である決断を告げる。心して聞け!」
妲己は玉座を立ち、俺の方へ向かってきた。
「妲己様のお立ちです。御二方、ご起立を!」
褒姒は堂々とした態度で俺達に言う。
スッと立ち上がり、俺達は妲己の言葉を待つ。
腹を決めたような真剣な目。
その言い出す言葉にどのような意味があるのか、俺は妲己の意思に耳を傾ける。
「ワレは今後守護者の称号を永久に破棄する。その地位を褒姒へ譲り、ワレは無放浪者として連れてってくれないか?そして、貴様の果たす勇姿とやらを見させて貰おうか。ワレが貴様を危険に晒し、多くの者に命を狙われるであろう。ならば……あの女が貴様を選んだ事情が分からない。何故、ワレをその力で救ったかを傍で見ていたいのだ。その力…この目で、この妲己が見たいと魂が求めるのだ。貴様の言葉が偽りでなければ、ワレに見せてくれぬか?」
俺に近付き、俺の手を優しく握る。その手は覚悟したように震えなどなく、拭い切ったとばかりの力強い眼差しが向けられる。
「貴様という人間に今後出会わないだろう。紂王…ヤツ以上の惚れましい魅力とやらを貴様は魅せてくれる筈だ。決してワレの失望するような醜態を晒すではない。貴様はワレの恩人…そしてワレに臆さぬ真者なのだからな」
その言葉は俺への期待を寄せていた。
頼るのではなく、妲己は俺に何かを信じている。不純な感情などでなく、揺るぎない信念というものを感じた。
俺は待っていた。
本当の意思というものを知る事ができた。
妲己は俺を信じてくれる気持ちを見せてくれたんだ。人間を嫌いと思っている妲己に信じて貰えたのなら、俺もそれなりの答えを出さないと。
「俺で良ければ。だが、あんたの期待に応えられるかは約束できないかも知れねえぞ?見たい俺を見せれないかも知れない、あんたが望む俺じゃないと知って失望するかも知れねえ。俺も人はそんなに好きじゃねえんだ……。だから妙な親近感もある。だけど、俺の勇姿ならきちんと見せてやる!妲己が俺に失望しないで見せられるのは、これが唯一だからな」
「それもよい。貴様が役目を果たすまでの間、お供する!“三妖魔”…ワレも一目見ておきたい。玉藻前がどんな憎い女か、確かめてやりたくてな。代わりにだが、ワレを連れて行くなら貴様にワレの寵愛をその身で受けるのだ。断れば…分かるな?」
俺と妲己には似た部分がある。
互いに、人に嫌悪感を抱く部分があり、妲己をよく知りたいのもそれが理由だ。
これから先、俺の実力だけで“三妖魔”に勝てる気がしない。協力は不可欠。
人間相手に協力するにも、森で会った奴らを見て気が変わった。
所詮は妖怪を蔑ろにするクズだ。俺は自分に付いてきた悟美と紗夜、俺と同じく妖怪好きのカナだけは許してやる。それ以外に情緒する意味がない気がする。
俺を殺そうと動いている奴らがいるなら、そいつらは俺以外の奴も殺すつもりで襲ってくる。
せめて、俺は対等に話せる強者を望んでいた。
妖怪の方が余程信頼できる。
妲己に認められ、俺は報われた気がした。
「勿論だ。あんたからの加護は欲しい。妲己が俺が困っている時は助けてくれるか?」
「ククククッ、良いだろう!」
「それなら良かったぜ。俺も、あんたのピンチには駆け付けてやるからよ」
「惚れ言葉を吐くか。だが、それも面白い!ワレを期待させてくれる‼︎」
妲己は俺の顎を持ち、そのままゆっくりと口を近付ける。
「お、おい…」
「クククッ!舌を入れてやろう。欲しいのだろ?」
魅惑の誘惑。妲己は俺を欲する。
これ、アレだよな?キスの流れだよな?
そっか……初めては妲己になるか。
俺はそう覚悟した途端、雪姫が凄い殺意で刀を振り上げた。
「気安く奪おうとするな‼︎」
妲己の手首を切断し、一喝する。
仲違いも可笑しくない。雪姫の行動は度が過ぎる。
斬られたというのに、流暢に笑いながら切断された手首を拾い治癒する。
「刀をこの場で引き抜いたか?しかし不思議なものだな、異能は継続している筈……。まあ良い。貴様は相変わらずスキンシップというものを学べ。こうでもせねば、この男に欲情されないぞ?」
しかし、妲己は怒りを見せない。それどころか、気楽な気分で雪姫を煽る。
腕を再生させ、堂々たる態度でニコリと笑う。
感情乱れる雪姫だが、刀をしまう。
「っ……駄目ね。本気で淫乱狐を殺してしまいたい」
自制心が効かなくなると判断したのか、雪姫は怒りを口で吐き発散。
元に戻ると、雪姫は妲己を睨んで終わった。
いや、今殺そうとしてたのかよ……。
雪姫には難しいっていうか、そもそも伝承自体がなぁー、差があるんだよな。
『雪女』と『妲己』で言えばどっちも有名だろうけど、『九尾狐』の名を持つ妲己には敵わない。
妖怪である限り、雪姫には勝ち目が少ない気がする。
「クククッ、貴様の憤怒、とても心地良いぞ?それと…コ、コウスケ…ん?こうすけ?だったか?そんな狂犬を飼い慣らすよりも、野良猫のワレを飼い慣らした方が面白いと思うが?」
俺の名前を呼びにくそうにし、俺にまた誘惑をかけにくる。
しかし当然、雪姫が俺に警告する。
「幸助駄目。淫乱狐に欲情しない」
また始まるのかよ……。
「なぁ…俺今は欲情はしないし、選びもしねえよ。兎に角、妲己が俺に用があるんだろ?時間もないんだ、早くしようぜ?」
俺が原因で揉み合うのも見てられない。そう思い、俺は目的を話して欲しいと促す。




