122話 “太古の妖怪”と“災禍様”
漸く太古の妖怪と災禍様の違いに触れました。後、一応設定した方なのですが、『妖界放浪記・長編』の方の設定を少々改変していますのでご了承下さい。基本的に、こちらの方がストーリーの速度は速いので、こちらの軸を優先としています。
それと、10人の妖怪が根源的妖怪として出しましたが、納得しますでしょうか?
これは少し自分なりに組み込んでいます。それぞれ意味ある根源として設定しています。特に生贄が出て?となる人もいるかと……。
知りたければ、答えられる範囲で答えます。
自然と目から涙が溢れてくる。
クソッ…妲己が改心したと分かっただけで涙が止まらねえよ‼︎
頭を下げている間、俺の目は潤い続ける。頭を上げても、涙は止まらない。
「良かったなぁ……助けられて」
なんで俺はこういうので涙しちまうんだよ。
こんな涙脆い性格じゃねえ。これじゃあ弱虫って言われちまう。
嬉し涙でありたい。でなきゃ、こんな嬉しいなんて感情が湧かねえよな?
「泣くとはな、貴様の感情変化は不思議なものを感じる。ワレにそこまでぶれずに熱情するか……。そうかそうか!ワレを受け入れてくれるのだな⁉︎」
上機嫌に笑みを絶やさず、俺をまじまじと凝視める。
妖艶に微笑する。
「淫乱狐、それ以上言うなら凍らせる‼︎」
雪姫は刀に手を添え、もの凄い剣幕で睨み付ける。
「いいだろ。最も、その方がかえって都合がいい。ワレがこの男を貰うからな」
「黙りなさい!幸助はあなたのモノじゃない!」
「貴様など単なる付き人。貴様がワレとこの男の関係に口を挟む道理はない。貴様らは恋仲ではあるまい。よって、この男をワレが好きにして良いとのことで間違っていない」
俺は口を挟もうとしなかった。
流石に、女性同士の歪み合いに緊張感を待って待つ以外何も出来ない。
しかし、妲己は俺が好きなのか。
來嘛羅とは違った魅力だし、俺はそっちもいけるタイプだ。
でもな、雪姫が欲情するなと言いやがった。現に、腕が冷たく痛え。
俺は欲を封印し、別のことを考えた。
雪姫の感情は昂まり、その口から焦ったかのように言い出す。
「関係ない。幸助にはあなたは相応しくない。そんな性欲を拗らせるあなたに幸助は嫁がせられない!」
「あんたは俺のお母さんか⁉︎」
つい突っ込んでしまった。
しかしながら、焦ることはなく笑う妲己。
「ククククッ!貴様がワレを否定するか?まあよい、それも一興で楽しみが増える。せいぜい、親気取りする雪女でいるならば、ワレが本気でこの男を婿に娶ってやる。欲しいモノにはつくづく手が出したくなる性分なのでな。親と名乗るなら、貴様はワレの母上となるだろ?こりゃあ笑える話ではないか!」
遊んでいるのか、揶揄って雪姫を煽る。
「淫乱狐が……あなたは自分で何を言っているのか、理解していないみたいね」
これ、収束しないな。
俺は頭を抱えたい。
しかし、そこへ救いの声が仲裁に入った。
「妲己様、雪姫様。熱中されているところ申し訳ございませんが、松下幸助様の古都御滞在時間が迫っております。早急に要件と今後の対策のお話をしなければなりません。ですので、今は御止めになった方がよろしいかと…」
天使のように割り込む褒姒。
でも、なんだろうな…?この人、妙な感じがするんだよな。
優しさと謙虚さ、それ以上に謎めいた雰囲気を微小に漏らしている不思議さ。
不思議とあの女性店員と似たものを感じる。
「褒姒よ、すまなかった。では雪女よ、この事は後ほどに決めるとしよう」
「……そうね」
妲己と雪姫は言い合いをやめ、改めて、此処に呼ばれた理由を話してくれた。
一切の嘘は吐かないと約束し、妲己は今の情勢に詳しく聞かせると。
「さて、昨日の一悶着によって古都はある勢力に狙われていると思われる。玉藻前や他の人間の集団が活発に動きみせるだろう。ワレが人間に敗北したというのは既に古都に漏れ出ている故、いずれは全ての都市にも伝わるであろう。実に不愉快だ……人間に敗北することで情勢が変わるとはな」
昨日の戦闘の後、ある変化が起きていた事を話すが、あまりの事態に俺は驚愕してしまう。それは、俺にとっても妲己達にとっても、非常に不味いものだ。
「それはつまり?俺達は他の勢力に狙われる事を意味するのか?」
俺は申し訳なく聞いた。
妲己は顔色を変えず、俺の問いに頷く。
「十中八九そうなるだろうな。『九尾狐』という肩書きを持つ妖怪は高位な種族。だからこそ、人間如きに屈したワレを古都の民と“三妖魔”が目に付けてくる。野に放たれた浮浪者もワレを襲いにくるのも明白だ。しかし…以前に比べればマシかもな」
以前にも、同じようなことがあったという思い話があるみたいだ。
「そんなことが……俺が悪い事をしたようで悪い…。それと、以前ってことはどういう事件があったんだ?」
妲己は褒姒に目を向ける。目でアイコンタクト取っているようで、口にして良いかを確認している。
褒姒は頷き、事件とやらを話し始めた。
「その昔、褒姒と華陽が人間の侍によって滅された時、“妖怪大戦争”が起きたのだ。あらゆる種族、あらゆる神具、あらゆる因縁、あらゆる名を持つ妖怪がぶつかり合い、人間界の戦争や革命が引き金となり、両の世界の多くが命を失い、妖怪もまた伝承を失い、名を消失した。太古の妖怪も今や数が少なくなり、以前より、この世界は歪なものと化している。それ故に、最都:新来が100年ほど前より誕生した事で、現代妖怪が太古の妖怪すらも滅ぼす事態となった。通常、太古の妖怪は不死の存在として崇められた。……だが、褒姒達が倒された事で全てが変わった。常識を覆された世界の摂理、一度崩壊すれば二度と戻らぬ。それら全てが悟ってしまった」
妖怪の中でも地位はあるように、その妖怪の名に応じた呼び名がある。
俺が当たり前に思っていた常識だが、“太古の妖怪”と“災禍様”という呼び方には深い意味があった。
「貴様らも……いや、もう一部の者しか知らないことか。耳にしたことのある言葉があるだろ?“太古の妖怪”・“災禍様”と呼称する者が多いが、あれは今や混雑していてな。もはや“太古の妖怪”そのものの呼称は低迷している。だが、その地位を多くの者が神と謳うが、それも少し認識が変わるがな」
何か考えている素振りだったが、妲己は話を続ける。
「頂点たる地位に君臨するヤツらは、遥か昔より文献や史実、伝承に記された紀元前に存在した妖怪を指す。だが、建前であり、それを起源とした妖怪を“太古の妖怪”とする。原点を司る妖怪共の名は、『妖怪』・『九尾狐』・『鬼』・『獣』・『精霊』・『悪魔』・『天使』・『生贄』・『病魔』・『人間』といったただ唯一の根源。これを古より“太古の妖怪”と呼ぶ」
“太古の妖怪”の定義というものは、遥か昔に定められ、絶対的強者として崇められていた。
十人存在する妖怪の呼称であったが、彼らを原点として様々な妖怪が生まれてきたという。
日本妖怪は紀元後である事が多いが、中国妖怪は紀元前に伝承として誕生している。その為、『妖怪』という種族以外の血筋や伝承を持つ者も“太古の妖怪”と結び付けたという。
その大半は神が堕落した妖怪で、神話の神々の多くが“太古の妖怪”に属している。
「この者達は根源をその名で刻み、その存在は人間の常識や無意識に存在する事で生きる口承から誕生した妖怪。如何なる方法を持っても滅ぼす事は不可能。人間が滅ぶまで、存在が消える事がない。ワレや褒姒、大半の妖怪はその紛い物に過ぎず、この妖怪達には特に呼称はなく、ただの太古の妖怪として崇められていた。だが、呼称もなければ面白くないと閻魔のジジィが申したことで、ワレらを“災禍様”と定めた」
“災禍様”は元々存在しない種族。
この世界における地位は、元々は“太古の妖怪”だけに与えられていたそうだ。
しかし、閻魔大王は不屈だったのか、“災禍様”という領域を制定した。
突然の制定により、多くの妖怪が“災禍様”に至った。
だが、これにより“災禍様”に至る妖怪が秩序を乱し始めたという。
「“災禍様”の本来の地位は、その強さが異常な妖怪、伝承が強過ぎる妖怪を呼称する。あまりにも危険な妖怪が多く、『玉藻前』・『酒呑童子』・『大獄丸』は妖界に厄災を振り撒く“災禍様”と恐れ奉られておる。その時代時代に名を馳せた妖怪共が力を増す特性を持っている。妖怪の最盛期と知られる平安の世、諸悪と崩壊を繰り返した暗黒の時代と消滅の時代、妖怪の概念が捻じ曲げられた現代。驚異的な生まれた妖怪、特に玉藻前は九尾に属するヤツは厄介でな。少なくとも、ワレが足元に立つことすら許されないだろう。ワレとヤツとでは伝承の格が違うというもの。貴様がこよなく欲情する妖怪とはそんなもんだぞ?」
俺を見る妲己は自分を格下呼ばわりしながらも、その表情には妖艶な笑みを浮かべていた。感情が読めず、その真意が分からない。
だが、『夜叉』や“三妖魔”達の“災禍様”にも納得出来る。彼らはいずれも『鬼』か『人間』、『九尾狐』、『鬼』に属する妖怪。だから“太古の妖怪”には入れない。
それと、“災禍様”というものは“太古の妖怪”に引けを取らない強者の域だと分かった。
そして、その時代に妖怪の知名度が広まることで、個人の妖怪が強さを増し、人間界と妖界での脅威と恐れられる。
“太古の妖怪”から引き摺り落とされた妖怪又は伝承が広く濃く広まっている妖怪を“災禍様”と位置付け、時代毎に最も入れ替えが激しい領域だそうだ。
玉藻前をはぐらかしてはいたが、とんでもない妖怪なのは聞いていて理解した。
この世界の強さ的なものがあるようなので、俺は一旦聞いてみた。
「妲己、話の途中で悪いんだが、なんか…強さの基準とかってあったりすんのか?」
「…?勢力の事を聞いているのか?」
「ちょっと違う。個人差の力とかだな。“太古の妖怪”や“災禍様”以外の呼称される呼び名とかあるのか?例えば、大妖怪とか天変地異とか」
妲己は難しそうに考え込む。
「そんな詳細は知らぬ。だが…そうだな。そう言えば、人間共が使っていた呼び方があったな!」
心当たりあるようで良かった。
正直、“太古の妖怪”と“災禍様”では理解出来ていなかった。
「パッとしなくて困ってたんだ。あるなら助かるんだが」
「面白いな。別に妖怪を識別する必要がないというのに。一応、ワレが人間共から聞いた話だが……」
妲己は思い出せる範囲でその領域教えてくれた。




