121話 心からの礼
まだ物語は続きます。しかし、かなり書いているので、今回は予定の尺より長くなってしまいます。
10話ほどオーバーしてしまっていますが、見ていただけると嬉しいです!
俺は1日寝込み、既に古都に連れてかれてから3日も経った。今は長い城の廊下を雪姫と歩いている。
すね子も同伴で、俺の肩に乗ってる。
「お前は相変わらず肩が好きなのか?足元に擦り寄っても良いんだぞ?」
「にゃあ〜!」
すね子は俺の頬に体を擦り寄せる。軟毛でふわりとした感触を押し付けられるも、すね子のやりたいようにやらせた。
「あはは。くすぐったいぞ!」
甘えん坊なんだなと、こいつの可愛さに癒される。
1日目は罪人のように町中を歩かされ、2日目は妲己との激戦の末に和解。
とてもとは言い難いが、俺が死なずに済んだのも凄いな。
妲己と雪姫のどちらかに殺意を向けられた時、俺はすんなりと死を悟ったぐらいだし。
城の中にはあまり人気を感じない。
雪姫から聞かされたのだが、妲己が褒姒を除いた者を外へ追いやったと言う。
雪姫がいるのは、俺に危害がないかを感じするためだったそうだ。寝ている間、ずっと俺は雪姫に監視されていたわけだ。
雪女が雪男じゃなくて良かったぜ。男に監視されるのは趣味じゃねえし。
「そう言えばさ?昨日、妲己になんか話されたか?」
「これから淫乱狐と会う。その時に分かる」
酷いネーミングセンスだな。
「なあ、妲己を呼ぶ時にそんな付け名はあんまりだぜ?キレてもいいか?」
俺がそう言うと、雪姫は冷たく返す。
「私は変えない。名前を何度も変えるのは嫌。馬鹿狐が良いと思ったけど、幸助が危険に晒されたから淫乱狐にした。それだけ…」
ボロクソに言う。俺、寝ている以外に何かされたのかと嫌な感触を抱き、体のあちこちを触ってみた。あったら雪姫が居ない時にでも聞いてみよ。
玉座のある部屋に連れられ、俺と雪姫は用意された座椅子に座らされる。
「こちらになります」
「あ、ありがとう…」
俺達を案内してくれた褒姒は美女だ。
改めて見ると、來嘛羅に劣らずも勝らずと言うところか。
美玉の美女と崇められるのは当然か。凄い冷静沈着な雰囲気で、來嘛羅に似た部分が見える。
妲己は個性派で、清楚イメージの強い黒髪とは裏腹に野生味の美貌を意識しているように思える。
來嘛羅の性格は優雅で上品、おまけに妖艶さのフェロモンが凄い。
何しろ、あの黄金に勝る尻尾は知らねえからな。
「……」
おっと…危ねえ。雪姫が凄い目付きで睨んできた。
危うく気持ちが昂るところだったぜ。
俺達が席に座るなら、褒姒はお盆のようなものを持ってくる。
「大紅袍です。御口に合わないようでしたら取り下げします」
よく分からないお茶を出され、高級そうな陶器のコップを持っている。
匂いは土みたいな香り、知らないお茶だな。そう思いつつ、お茶を口に運ぶ。
味はほうじ茶だな。妲己もこういう日本の味が好きなんだろうか。
余す事なく一瞬で飲み干した。
うん……少し違うくらいしか分からん。
雪姫はお茶を啜ろうとしない。それどころか、お茶を見た途端に硬直していた。
「おい、どうしたんだ雪姫?」
「幸助…今、このお茶を迷いなく飲んだ……?」
「だからどうしたんだよ?変わったお茶だろ?」
俺が疑問を問うと、雪姫が深刻そうな顔を浮かべた。
「これ…私達妖怪でも希少と言われる茶葉を使ってる。生産数が少なく、皇帝に属する者でなければ飲めない薬味としても知られる。人間界にしかないと言われていた茶を…此処で……」
かと思えば、急にお茶について語り出した。
これ、大層なお茶なんだな。
俺は食べられる飲めるものなら構わない。てか、そこまで気にする必要がないんだが。
困惑する雪姫に、褒姒が大紅袍について解説をする。
「よくご存知でいらっしゃいます。その通りです雪姫様。本物の大紅袍を妲己様が直々に民の者に摘ませ、御出し致しております。人間界では高級茶葉として、宋代より歴代の皇帝への献上の一つとされ、皇帝が頂く献上茶とされてきたお茶。岩韵とも呼ばれておりまして、日本の国でいうほうじ茶と似たものです。幸助様は畏れず、当たり前かのように御飲みするものですから、雪姫様は困惑なされたのでしょう」
「げぇっ…マジかよ⁉︎」
お茶を再度見る。これ、そんな高えヤツなのかよ⁉︎
俺はそんなお茶をいつものお茶のように飲んだ。
馬鹿だ……。
「ククク…クッハッハッハッ‼︎」
俺がそんな風に驚いていると、背後から大袈裟なぐらいの笑いが聞こえる。
腹を押さえ、笑いが抑えられない妲己。
威厳ある態度ではなく、テレビを見て笑っているような爆笑だった。
その笑いに、褒姒が少しばかりか、微笑んだ気がした。
「よいよいよいっ!よい反応を見せてくれるな?やはり貴様の人間性は面白いものだ!」
昨日の殺伐とした態度は完全に失せた。
俺を笑う妲己が、少しばかりか人間味あるような態度を見せてくれて、俺は心底から嬉しく思った。
そして、俺はある違和感に気付いた。
「笑ってくれてありがとな、恥ずかしいけど……」
「そうか?貴様には欲しい刺激だっただろ?」
「かもな。……ところでさ?あんた、耳と尻尾はどうしたんだ?」
「ほう?流石はワレを好くう心で気付いたか‼︎」
妲己は誰から見ても人間にしか見えない。耳と尻尾は消え、人間の容姿を装っている。
妖力はあるようだが、昨日に比べるとかなり微弱になっている。妖力を抑え、自分で力操作でもしたのだろうか。
「自分で抑えられるようになったのか?」
多分、俺と出会って制御する術でも身に付けたんだろう。俺は妲己に聞いてみた。
妲己は嬉しそうにニヤリと笑う。
「そうだな、何から話をすれば良いか?そうだな〜貴様にはワレの変化を教えてやるとしようか?クククク、まさか、本当に貴様がワレを見ていてくれるとはな?言葉通りで嬉しいぞ」
「なんか…ヤケに嬉しそうだな?」
「そうだぞ!貴様はこの上ないワレの望みを叶えてくれた。こうして、『九尾狐』のしがらみに呪われず、ワレは『妲己』としてこれからを歩めるのだからな!」
滅茶苦茶良い笑顔。
マジで昨日の妲己とは違う。
雰囲気といい、妖力といい、調子者みたいで接しやすい。
俺は特に気を張る事もせず、妲己と普通に会話を始める。
「俺の言葉、ちゃんと向き合ってくれたんだな」
初めて説得した妖怪が改心したようで何より。
と思ったのだが……。
「そうだな、ワレが堕とす事があっても堕とされる事は一度も経験した事がなかった。貴様が言い放った数々の欲情とワレを人間みたいに叱った存在は貴様唯一だけだ。非常に心に響いたぞ?」
「堕とした憶えは……」
「言うなよ貴様。ワレを前にして、ここまで頑なに意地を張れる者などいなかった。ワレが一言言えば死に絶え、ワレが拷問すれば命乞いをする。だが……貴様はワレを救ったのだ。こんな憎たらしく忌み嫌われる存在のワレを嫌いと言わなかった。ワレの目を覚させ、本来の己を取り戻せた事に…まずは心からの誠意を込めて謝罪させて貰う。………感謝するぞ」
その気品ある誠意は、守護者に相応しい謝罪だった。
多くの人間を殺め、それを娯楽と称した恐ろしき存在を遺憾なく発揮した『妲己』。
人間としての恐ろしさと美貌を持つ一方、その快楽に委ねた性格は誰もが畏怖し、彼女が許せなかった。
しかし、そんな妖怪ですらも苦しんでいる。
俺は妲己を知っていたから説得出来たが、もしも、俺以外だったらこの先も苦しんだのだろう。
そして、心からの感謝と謝罪が俺に向けられた。
その態度に誰が文句言えようか?




