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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
古都・妖狐救済編
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119話 温度差

ますます來嘛羅の思惑が謎のまま。そして、この会話の意味は3章と4章で深掘りしていこうと思います!

“妖怪大戦争”聞いたことあるフレーズだと思います。

悟美は退屈し始め、我慢ならずに口を開く。

「考える暇はないでしょ?そんな脅威に感じるなら、倒しちゃえば良いじゃないかしら?場所が分かれば、後は私がやっちゃうわ」

この状況を理解しないで能天気に言う悟美。

來嘛羅は呆れ、悟美の愚かさを指摘する。

「悟美よ、その程度で倒せる者なら誰も恐れる必要はなかろう。苦労せずに探せただけでも、収穫は十分過ぎるぐらいじゃ」

「そんな程度?」

「あまり先を探るものじゃないぞ?漸く場所を把握した、これ以上に今は情報がないのじゃ。詮索過ぎれば、悟美と言えども無に帰するじゃろう」

悟美にそんな言葉は意味がない。

何故なら……。

「へぇ〜⁉︎そんな強い妖怪なのね!じゃあ…シシシシッ!もっと遊べるって事でしょ⁉︎」

狂人のようにその美の顔は歪む。目は紅く、頬が紅潮する様を見て、怯えているとは思えない。

寧ろ、悟美にやる気に満ちる。

「先程は無様に負けた娘が偉そうに。貴様程度が玉藻前に勝てるのなら、ワレでも十分だ」

「そうかしら〜?私が力を解放しちゃえば、貴女なんかコロッと倒せるわ」

「娘が偉そうに。ワレに傷すら与えられなかった貴様がよく言う」

悟美は負け惜しみのように言うが、悟美の実力は出し切れていなかった。

妲己に《獄罰》を言い渡される前に《狂乱》を使用していれば、状況はかなり変わった。


そうなれば、幸助が一番望まない結果となっていただろう……。


悟美の実力を知れば、妲己が煽る事はなくなる。

それまでは、妲己は強気でいられる。

「まあ歪み合いも程々にするがよい。玉藻前は動き出し、古都は様々な者に目を付けられるであろう。なら、妲己よ」

「なんだ?」

「現れた敵は容赦なく迎え入れよ。但し、死の危険を感じるならば妖都へ逃げよ」

嘘はもう要らない。來嘛羅は妲己の身を案ずる。

妲己は一度、來嘛羅を疑う。

「それを貴様が言うか…?」

來嘛羅は妲己に近付き、耳元に語る。

「事実であろう。其方が死ねば、他の妖怪が動き出す。九尾狐の血を引き継いでいる限り、あの者達を地獄から解放しては全てが滅ぶ。用心に越した事はないじゃろうて」

「っチ……“三妖魔”以前に、そちらの方が危険ではないか。褒姒、華陽が死んだ時、何も起こらなかったが?」


以前、佐藤貞信によって、二人の『九尾狐キュウビキツネ』が倒されたことがあった。


妲己が古都を留守にしている隙に颯爽と現れた貞信が、当時は伝承の薄い二人を単独で倒してしまったのだ。

今や彼女達は確固たる強さを得ているが、当時は強さを持ち合わせておらず、歴戦の武士や騎士なら倒せたぐらいの弱者だった。

妲己は伝承が古く、鉢合わせていれば瞬殺だったのは明白だ。


偶然の重なりで起きてしまった悲劇だった。


古都の留守を任されていた褒姒と華陽夫人は呆気なく討伐され、死後、転生して生まれ変わってしまった。

転生するには、死後100年を有する。それは、如何なる上位に君臨する太古の妖怪であったとしても、転生には長い年月に縛りを受ける。

褒姒は古都で転生を果たすが、華陽夫人は今だに行方が知れず。

華陽夫人は中国伝承から生まれた妖怪ではなく、他の国で生まれた妖怪であった為、転生場所が不確定なのである。


そして、二人の『九尾狐キュウビキツネ』が死亡したことで、妖界における秩序が乱れ始めた。


太古の妖怪であり、『九尾狐キュウビキツネ』の血を引く者が人間に倒された事で、怪都の妖怪が戦争を仕掛けてきたのだ。

人間界の乱れた時代、戦国の世、奴隷制度、革命が重なり、多くの妖怪が破壊の限りを尽くした。

約100年という長期の“妖怪大戦争”により、多くの者が犠牲となった。

人間界でも、妖怪にまつわる伝承が大量に消滅し、多くの人々から忘れ去られた。

伝承のない妖怪が殆ど消え、人間界でも多くの伝承が消失した最悪な時代。今は語られない既存した伝承の妖怪の名は消え、この時代を“消滅の時代”と呼称された。

“消滅の時代”に消えた妖怪は、力を失い、様々な都市や村落、荒野でひっそりと生きている。

中には、太古の妖怪も名を失い、現代に生きる名を持つ妖怪に及ばなくなるほどに力が消失した。

今の世に何かを求め、今も彷徨う。


「暗黒の時代、それも“消滅の時代”を迎えたいかの?お陰で、妾の配下も狐も消え失せた。戦火に焼かれ、人間に破り捨てられた者の嘆きを再び聴きたいのかの?」

危機的状況は常に潜む。

いつ、自分が忘れ去られるのか分からない妖界に住む妖怪。

來嘛羅は妲己の身も心配する一方、自分の消失も心配している。

「ワレは言ったであろう?既に『九尾狐キュウビキツネ』には囚われないとな。あの男が『妲己ダッキ』とワレを見る限り、その縛りは受け入れないぞ!」

「構わぬ…構わぬが、其方は悲劇の引き金じゃ。それを重々承知しておれ」

警告する。

妲己の身に何かあれば、“妖怪大戦争”は免れない。

他人事では済まない。他人を巻き込まないように、自分の安全を守れと。

だが、妲己にそんな危機に興味がなかった。

未来に対する恐怖に屈しないほど、今の心は高姿勢なのである。

「気遣うのなら、それは有難く頂戴する。だが、ワレがそんな事にはならないと断言しておいてやる。コウスケがワレをずっと見てくれると言った。こんな妖怪を受け入れてくれると荒れ狂う大波のように言ってくれた。それは即ち、ワレに嫁ぐいう意味だ‼︎」

妲己が発した最後の一言に場が凍り付く。


來嘛羅に肉体行使権を与えている褒姒ですら、感情を乱す一言だった。

誰もが沈黙し、その発言に暫し思考が停止する。


沈黙から口を開いたのは華名だった。

「あのぉ…妲己さん?それって、ご結婚…ですか?」

恐る恐る聞く。華名は周りを黙らせる発言をした訳ではないのに、周りに人がいないかのように静まり返る。

「聞いただろ?ワレに罵詈雑言の如く叱って告白してきたあの男の言葉の数々を。あれはワレに惚れ込んでの発言として捉えてよい。なら、ワレがあの男を貰ってやろうと」

妲己はその静まりを壊すように、上機嫌に発言する。

「いや…それは違う、じゃないですか?いや、合ってるのですかね…?」

「クククッ!アイツがワレを欲する。なら惚れたワレが娶っても問題ないだろ?」

あまりの勝手な言動に、雪姫は冷気いかりを抑えられなかった。

「化け狐…いや、馬鹿狐。その発言は見過ごせない」

嫉妬心から漏れた妖力が部屋の一部を侵食する。

妲己の発言に許さないとばかりに怒りは滾る。

蓋がなく、誰も止められない。 

「落ち着くのじゃ雪姫よ。其方は何か誤解しておろう」

來嘛羅は宥めようとするが、そんな甘くはない。

「黙りなさい!この馬鹿狐が幸助を婿に娶ろうとしているのに黙るわけがない。散々殺そうとほざいた馬鹿狐に幸助は渡さない!」

強く睨む雪姫。その心は複雑で、妲己の言葉にかなり動揺していた。

それに対し、妲己は涼しげに笑みを見せる。

「そうくるか⁉︎だが、あの男はワレに欲情の意をふんだんに向け、ワレを見届けるとはっきり申した。その責任を罪として償うべきではないか?」

妲己の笑みは、雪姫の感情に火を付ける。

「言葉のあやという言葉を知らない?あなたは幸助に本気で言われたと勘違いしているけど、それは間違っている」

雪姫は幸助が誤魔化していると言う。

実際は、幸助が嘘を吐いていると思いたい自分がいた。

九尾狐が好きと言い続ける幸助を否定したくはない。それでも、妲己にそんな感情を向けてはいないと否定したい。


しかし残念なことに、妲己は幸助があたかも本気で自分に惚れていると思い込んでいる。

「どうかな?貴様が都合よくあの男の言葉を解釈しているみたいだが?」

「ふざけないで…‼︎」

怒りで声が震え、雪姫は凄い剣幕で睨み付ける。

それを妲己はただ面白げに笑う。

両者は譲らんと、その形相を崩さない。



「……さて、悟美と華名、そして夜叉にすね子よ。其方らには後であの二人にも伝えておく役目を担って貰おうかの」

來嘛羅は抑えても無駄だと切り捨て、二人を置き去りに残った華名達に話を振る。

「構いません來嘛羅様。私達に被害が及ぶのでしたら、その火の粉は払うべきでしょう」

妲己が幸助に敗れた事は隠し通せない。そして、妲己が玉藻前に狙われている未来は変わらない。

夜叉は仮にも中国妖怪に属する妖怪。守護者が狙われる事態があれば、それは戦争の火種にならないと阻止する。

忠義ある夜叉になら、この話は伝えても問題がないと來嘛羅は信用する。

「今回の件は、妖界全土に広まる。玉藻前が情報を何かしらの方法で掴み、其方ら守護者の始末に走るであろう。数日…否、明日かも知れぬ。警戒を怠らず、其方らには妲己の護衛に回ってくれぬか?」

喧嘩に没入している二人にこの会話は聞こえない。

盗み聞きしているなら構わないと思ったが、聞いている素振りがない。


妲己の身の安全を願い、次なる悲劇を引き起こさない為には、妲己の生存はなくてはならない。

夜叉はこの件を重く受け止める。

「承知致しました。妲己様があのようなご様子では、まともにこの話を受け入れる筈がございません。私の方からも説得を心掛けてみます」

必ずとは言わない。

妲己は非常に人間味を持つ妖怪。故に、他人に指図される事が堪らなく嫌悪感を抱く。

扱いを心得る夜叉に一任することにした。

「よろしく頼むぞ。剣技において、其方の右に出る者はおらぬ。その人を守る為に得た技量、誇りに思うのじゃ」

「……はい」

來嘛羅は今後における必要な情報を華名達に授けた。

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