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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
古都・妖狐救済編
118/281

117話 妲己の変化

遅くなりました。

ここで久しぶりの妖怪の登場です。まあ、少しだけ出てましたが。


お知らせです。この3章が終わったら、暫く休載いたします。卒業論文の進行度が少し遅れてしまうので、力を使いたいということで、休ませていただきたいと思いまして。次の投稿は1月になるかと思います。大変申し訳ございません。

褒姒は突然の頭痛に襲われる。

誰かに頭に訴えかけられているようで、褒姒は涼しい顔でその言葉を受け取る。

『終わったみたいじゃな?』

『來嘛羅様。お久しぶりでございます』

声の主を聞いて、信仰する來嘛羅だと知る。

『全て見ておった。それに、妲己に良い感情しげきを与えられて嬉しく思うぞ。よく、幸助殿を導きてくれた』

『謙遜です。わたくしめは來嘛羅様に言われるがままに従ったのみ。幸助様が來嘛羅様のご期待に応えたに過ぎません』

『さて、早速で悪いが其方の肉体を貸して貰えぬか?』

來嘛羅の要望に褒姒が断る理由がない。

『はい、構いません。その為に幸助様の容態を操作したみたいですので。今日は目を覚ましませんので、來嘛羅様が雪姫様達に言伝をしても問題ございません』

幸助が急な熱に襲われたのは、來嘛羅による肉体操作が原因である。

一切の言伝や助力は禁じられている中で、來嘛羅は幸助に重要な事を伝える手段を思考していた。

その中で、幸助に伝えられる手段の一つとして、褒姒に協力して貰う。


褒姒は肉体の支配権を來嘛羅に譲り、自身は一度眠りにつく。


「これ!其方らよ。妾の前でそのようなしょうもない愚痴を言い合うのではないぞ?」

來嘛羅の大人びた声が発せられ、妲己と雪姫は会話を止める。

「化け狐…」

「九尾の親玉が何を考えて褒姒の体を…‼︎願わくばここで切り裂いてやろうか⁉︎」

褒姒から聞き覚えのある声に、互いが褒姒を睨む。妲己は褒姒の肉体を奪われている事に腹を立てる。

華名と夜叉はその声に従うように頭を下げる。

夜叉が來嘛羅にへりくだり、挨拶をする。

「我ら中国妖怪の神族で在らせる來嘛羅様、久しくお会いできて光栄です」

「うむ。夜叉も変わらず人間を守っておるようで何よりじゃ。今回は其方が加護を与えておるようじゃな?娘よ、名はなんと申す?」

來嘛羅は華名に問う。

緊張しつつ、華名は答える。

「は、はい!夜叉に加護を頂いた泉華名です。よろしくお願いします‼︎」

勢い余って90度を超えるお辞儀を見せた。

「ンフフフ、面白い子じゃ」

笑みをもたらし、華名の緊張を解す。

しかし、そんな來嘛羅に緊張感を抱き、敵意剥き出しの二人がいた。

「九尾!ワレを愚弄しにきたか⁉︎」

「私なら兎も角、幸助まで騙すなんて……‼︎今すぐ本体で来なさい。その首を刎ねる!」

化かされた事を棚に上げ、刀が引き抜かれ、今にでも斬りかかる勢いを感じさせる。雪姫の怒りは収まることを知らない。

來嘛羅は呆れたように笑う。

「やれやれ、幸助殿は罪づくりな男の。まさか、ここまで心が彼奴に委ねておるとは実に面白い。見事、妾の我儘に付き合ってくれて何よりじゃ」

自分の都合が片付き、來嘛羅は安心する。

來嘛羅の目的は、まずは妲己の蟠りの解消だった。

妲己の抱える心の闇を見抜き、解消するに適した幸助によってその闇を明かし、それを認めさせる事で自分への敵意を失くす事だった。

九尾狐キュウビキツネ』に悩まされている事を初めから知り、数千年の歳月をかけて、漸く妲己の闇を消し去る事ができた。

しかし、妲己の態度を見て心情の変化に驚く。

(ふむ…呪いを無事に受け入れ、己を見つめるようになったのは幸いじゃが、思ったよりも幸助殿に心を持ってかれておるな。異能のお陰じゃが、それがなくとも……いや、幸助殿の打ち解け具合は恐ろしいものじゃ。これならば、本来の目的を達成して貰える)

妲己の変化が良い方向に行き、心のモヤの無くなった妲己を見て心底安心した。

だが、別の問題が発生してしまい、なんとなく申し訳がなさそうだった。


雪姫と妲己を説得させ、この度の件を來嘛羅が謝罪する。

「其方らを騙す形となってすまなかった。妲己の素行の悪さを鎮める為に、幸助殿には古都へ向かえと嘘を吹き込んだのじゃ」

褒姒の姿で深く謝るものだから、妲己は何も言えなかった。

この言葉に嘘はない。雪姫も怒りたくても怒気を堪える。

理由がくだらなかったら即刻首を刎ねるつもりだったが、雪姫も無闇に褒姒にくたいを斬るのは癪だった。

雪姫は怒りをグッと呑み込み、冷静を装い、來嘛羅に聞いた。

「化け狐に聞きたい。妲己を助けるとはいえ、幸助に嘘をいたその身勝手な行動に私は不快。それで、どうして“三妖魔”が古都に居ない事を私にも言わなかった?」

「実は妾も足取りは掴めておらぬ。玉藻前を除いてじゃがな……それならば、まずは古き都市を任せた其奴の蟠りを解くのを優先したまでじゃ」

「そう…あまりにも勝手な物言いね。それで幸助が死んだらどうするつもりなの?」

空気が凍り、雪姫から怒りが漏れ出る。

來嘛羅は平然と振る舞う。

「死にはせぬ。妾は未来を司っておるのじゃ。じゃから安心するがよい、幸助殿が“三妖魔”を妖都へ連れてくるまでは死なぬ」

未来を見透す故、その発言に嘘を言う必要はない。

未来が変わるが、少なくとも、幸助が死ぬという未来は視えない。

雪姫は疑問が尽きないという顔をするが、來嘛羅の言葉を信じる事にした。

「そう……ならいい。幸助に嘘を吐いた事、今後同じ事を吹き込めば、あなたを殺す…‼︎」

凄まじい殺気で場を威嚇する。

抑えていた怒りが逃げ場を失い、怒りに囚われ刀を鞘から抜こうとした。

此処は、妲己がいる御前。あからさまな無礼に妲己は指を差す。

迷わず、妲己は《獄罰》を告げる。

「ワレの前で武器を見せるな愚か者!」

そう一喝すると、雪姫は刀を強制的に鞘へ戻される。

体を支配され、雪姫はぶるぶると体を震わす。

「っ……妲己。あなたが出る幕では…」

それでも抵抗を続け、殺気を隠さない。

「憎き相手とはいえ、ワレの玉座で刃物を見せるな。今日より、この城で武器をワレの前で見せることを禁ずる。ワレもこの掟を破れば、相応の罰を受けるがな」

妲己は自分にすら罰を与えると宣言する。


《獄罰》は自他に作用させる異能であり、自らの身も危険に晒すというのは、以前の妲己からはあり得ないものだ。


全員が信じられないと驚いた。


特に、來嘛羅からすれば、妲己の成長を感じた。

「ほう?其方は成長したようで何よりじゃ。しかと、その在り方を認めよう」

「貴様に言われたくはない。ワレはもう『九尾狐キュウビキツネ』ではないのだ。そんな獣じみた妖怪に成り下がった覚えはない」

「言うではないか。妾に敗北した事を忘れたかの?」

空気が重い。來嘛羅と妲己の睨み合いに殺意すら感じる。

「貴様の勘違いだろ?ワレが負けを認めたかと思うか愚か者めが!」

「ふむ、面白いの。実に。少しは大人しくなったと思えば……それも面白いの」

雪姫の殺意の比ではない睨みがぶつかる。

九尾狐の根源たる來嘛羅と最初に名を受けた妲己の間に入れる者はいない。

悟美は止める気はサラサラなく、すね子は萎縮して見物、華名と夜叉も動かない。

太古の妖怪同士のいがみ合いに加入は許されていない。

雪姫ですら、この状況に立ち入る勇気がなく、鎮まるのを待つしかない。

二人が最初から仲を和解出来るとは、誰も思っていない。


しかし、夜叉の目には違うように見えていた。

(妲己が笑ってるとは……怒りが全く感じられない。嘘のように消え、喜の感情が全面的に漏れている。不思議とこの会話の意味を感じないですね)

この二人が度々衝突しているのを見ている夜叉からすれば、以前より微笑ましく感じてしまう。

妲己が恨みを含まない会話をするのを初めて見て、彼女の変化に驚くものの、あり得ない心情の変化に心が報われた気がする。

そして、夜叉は察した。

(そうでしたか。來嘛羅様は随分と狐に情を向けるお方でしたか。始めから、マツシタコウスケを古都に向かわせたのは、彼の持つ異能をよく理解した上での判断。嘘を絡めた愛情というわけですか)

親近感で行動し、始めから妲己の為に、自分が最も興味を持った者に加護を与え、苦悩する者を救う。來嘛羅の計算通りに自分達が動かされていたのだと推測した。

事実、來嘛羅はここまでの状況は見透していた。

流れはどうあれ、妲己を救える結果を視ていた。

『未来視』で視た未来は確約なるものとなる。

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