116話 虚言
お久しぶりです。
4日ほど期間が空きました。
今回は事後のところからです。來嘛羅の目的は一体なんなのか?幸助が明らかに不憫になってきましたね。まあ、これも幸助なりの扱いということで思ってくださればいいですが。
妲己は、俺達を客間に招いた。
中国皇帝らしい服を着こなし、俺達の前に現れた。
そして、座る前に今日の不祥事を謝罪する。
「ワレの我儘で、放浪の身の者を傷付けてしまった事かたじけない」
玉座に座り、堂々たる態度を知らしめる。
來嘛羅よりも重厚な様を感じる。
そうだ。さっきまで殺し合っていたのは太古の妖怪。あの恐ろしい気配を漂わせていたのは、紛れもなく妲己だ。
改めて思い出し、俺は姿勢を直した。
妲己の隣には、妲己とは別の九尾の姿をした褒姒が立っている。
褒姒が妲己の代わりに語り出す。
「この度は古都:霊脈を守護する大妖怪で在らせられる妲己様の勝手な振る舞いにより、多大なご迷惑をお掛けしました事、謝罪させて下さい」
深くお辞儀をする褒姒。
笑わないと有名だが、かなりの美貌だ。
華陽夫人は中国妖怪じゃないから、もしかしたら別の都市にいるんだろうか?
しかし、本当に立ち姿だけでも妖艶な容姿が目に入ってくる。
來嘛羅と妲己、褒姒ときて、九尾狐は美女揃いだな。
「つきまして、この度の御無礼な出迎えとなった謝罪をさせていただきたく、“放浪者”松下幸助様、雪女改め雪姫様、すねこすい改めすね子様、新城悟美様、十六夜紗夜様には、この場での発言の自由及び妲己様からの厚遇を約束致します。それから、泉華名様、ならびに夜叉様。御二方のご協力により、このような事態に収束した事を御礼申し上げます」
最都を除く三大都市では、守護者からの許しがなければ発言ができない。
來嘛羅の時は、俺が勝手に喋っても咎めがなかった。
しかし、俺が許されていただけで、実際はこのような場で口を開いてはいけない。
褒姒に許しを貰い、俺は発言する。
「ありがとうございます。じゃあ、喋らせて貰います」
「構わないぞ」
「分かった。で、俺との勝負の結果はどうなったんだ?」
俺は賭けの勝敗を聞いた。
微笑が妲己の口角に浮かぶ。
「ワレの負けだ。貴様の望むものに糸目は付けないから、存分に申してみろ」
後悔も無念もない。妲己は快く聞いてくれる態度だ。
俺は“三妖魔”について聞いてみることにした。
「古都に“三妖魔”の妖怪の酒呑童子が攻めていると聞いた。奴の居場所とか知ってる事があれば聞きたい」
古都や怪都を攻める“三妖魔”は既に聞いている。
この都市も被害を受けていると聞いて、俺は妲己に知ってる事を聞いた。
しかし、妲己は不思議そうな顔をして、俺を可笑しいと睨む。
「…?何を言っている?“三妖魔”の酒呑童子はこの場所に現れていないぞ?」
「……は?」
予想外の返答が返ってきた。
俺は、何を言われたのか、直ぐには納得できなかった。
「あ…あはは、ちょっと待ってくれよ。酒呑童子に度々襲われてるんだろ?來嘛羅が言っていたんだ、“三妖魔”はこの都市にもいるって……」
俺は聞き間違いだと思い、もう一度聞いた。
しかし、俺の言葉が嘘のように、妲己に否定された。
「いや?ヤツが古都を攻めた記録はないぞ?そもそも、“三妖魔”のあの三人が尻尾を掴ませてくれる筈がなかろう。ワレの感知にも引っ掛からず、用意周到な妖怪をどう探せようか」
妲己は素で話しているので、到底嘘とは思えない。
可笑しい……。
話の辻褄が合わない。
來嘛羅は心当たりがあると話していた。俺はそれを信じ、古都へ来た。
しかし、来たかと思えば妲己との戦闘になり、なんとか和解した。
俺の頼みで、“三妖魔”の潜む場所を割り出せれば完璧。
そう思っていた計画は、脆くも崩れた。
あれ…?俺、何のために頑張って……。
気持ちが崩壊し、俺は大きなショックを受けた。
いつの間にか、俺は膝から崩れ落ちていた。
「幸助⁉︎」
「…あ、悪い雪姫……」
疲れが鉛のように重くのしかかる。
熱が出てきたのか、俺は急に気が重くなってきた。立つのがやっとで、俺はショックで熱を出したようだ。
俺は雪姫に支えられた。
妲己は俺の様子を見て、心配してくれた。
「貴様は異能を酷使したのであろう。ワレとの賭けに勝ったとはいえ、大量の生気を消耗している。異能は《名》と聞いたが、消耗が激しいぞ?ワレの寝所を貸してやるから、後は他の者に話しておく」
最近の俺は、こんなに疲れた覚えがない。
雪姫や悟美が襲ってきた妖怪達を相手にしている間、俺は特に何もしていなかった。
妖怪に剣を向ける覚悟がない俺は、相手にする事がなかった。
唯一、森の中で出会したあいつらを倒す際のみ。
他に疲れた事をしたといえば、俺は悟美達に半殺しにされた時だ。
まあ、妲己に助けて貰ったから意味はないんだが。
だとすれば、俺は妲己との勝負の際、能力か妖術を使ったことになる。
でも、今回は敵意を剥き出しにした覚えがない。
その証拠に、『妖怪万象』を使用していない。
一体、俺の身に何が起きてるんだ……?
褒姒に案内されるがままに連れられ、重い体がベットに沈んだ。
幸助がいなくなった後、悟美は幸助を嘲笑う。
「シシシッ、頑張り過ぎだわ。自分を知らずに異能を使い過ぎたらいけないのに」
異能は生気を消耗し、その代償に力を行使する。
悟美は覚醒者である為、力を使っても消耗は激しくない。
しかし、生気が枯渇しないわけではない為、迂闊に使用すれば行動不能になる。
秋水はそれを理解しておらず、数多の妖怪と人間を支配したことで、その数に見合った生気が搾取されていた。
閻魔大王の加護がなければ、異能自体が本領発揮せず、相手を支配するのも程度が知れている。
名前を知っているだけでは意味がない。
その能力を理解することで、本当の覚醒者となる。
「さ、悟美ちゃん…。眠くなってきました」
紗夜は異能の名を知らず、力を使い過ぎたことで疲労を訴える。
「じゃあ影に入って。後は話は聞いといてあげるから」
そう伝えると、紗夜も静かに影の中で眠りについた。
夜、毎回幸助達を移動させ、少しでも辿り着くのに貢献してきた紗夜は、常に疲労状態。その為、日中は殆ど悟美の影で眠っている。
少なくとも、能力は理解しているから秋水ほどの消費は起きていない。
「幸助……」
雪姫は心配で堪らない。
褒姒に連れて貰って大丈夫と分かったが、どうしても隣にいてあげたい。自分が看病に徹さないと、強く拘る。
雪姫の表情を読み取った妲己は、意識をこちらに向けさせる。
「雪女、アイツは問題ない。1日休息すれば元に戻ろう。ワレがアイツの代わりに聞いてやる。遠慮せずに話せ」
雪姫は幸助の方向に目を向けた後、妲己へと直ぐに視線を変える。
「分かった。さっきの話、“三妖魔”が古都を侵略していないという話について、詳しく聞かせて」
「口は悪いがまあよい。それは簡単なことよ、あの女が嘘で煽ったからだ」
「……そうみたいね」
静かに怒りを露わにする雪姫。しかし、その答えに薄々はそうではないかと気付いていた。
それは当然の話だ。古都が攻められていると言っていたのに、その要因の妖怪の姿を確認できない。
幸助を安堵の地へ帰す為に信じた心が砕かれ、雪姫は來嘛羅に騙されたと憤りを感じたのである。
「騙されたのだよ。所詮、あのガキも貴様も大した価値などない。詐欺紛いに騙され、まんまと古都へ導かれたってことだ。化け狐に化かされた、とも言えるであろう」
來嘛羅の性格をよく知る妲己。
1000年近く傍で従い、その裏のある性格にもよく嫌悪感を抱いていた。
平気で人間を騙し、人間を都合よく利用する事を躊躇わない來嘛羅の価値観を理解している。
嫌いになったのも納得だが、妲己は來嘛羅の嫌な部分しか見ていない。
だが、雪姫もそんな性格を見てきた。
そして、二人には共通点が存在した。
「そう……古都には“三妖魔”は居なかった。化け狐は私と幸助を騙しただけではなく、無駄足をさせられたのね」
「実に腹立たしいものだ。あれ程、純粋に『九尾狐』に心酔し、命すらも賭けられる。ワレを救えるか分からなかったというのに、あの男はよくやった。無茶に異能を使い、命を危うくする状況だと言うのに見事果たしてしまった。ここまで他者を思う人間は見たことがなく、まさか、懊悩煩悶を解消してしまうとは……愛とは不思議なものだ。騙されていなければもっと良かったがな」
妲己は來嘛羅への怒りを再度沸騰させる。
雪姫もそんな妲己と同じ気持ちを抱く。




