114話 言動張る覚悟
お知らせがあります。
明後日の月曜日と火曜日は事情によりお休みさせていただきます。水曜日から投稿は始めますが、pixivの方で2日ほど投稿しようと考えております。こちらの方で活動再開は金曜日からです。
ちなみに、投稿するのはオリジナル作品となんでも短編集でランダム投稿します!久しぶりの投稿になりますね。
ちょうどキリがいいので、タイミング的には良かったと思ってます。
正気に戻ったのか妲己は微動だせず、何かを考え込んでいるようだった。
俺は語りかけるように妲己に聞かせる。
「あんたが九尾狐を嫌っているのは分かった!俺、ブチ切れた時からあんたの伝承を反復してたんだよ。そしたら、『妲己』が九尾として認識されたのは最近だと思い出したんだよ‼︎『武王伐紂平話』、俺何度も見てたんだよ‼︎」
昔、小学の頃に見つけた複製の小説を読んでいた。
内容は非常に簡単なものだ。
妲己が殷の紂王を悪逆無道の君主へと堕とし、多くの人間を快楽によって殺害していく胸糞な物語。そして、周の文王と武王が悪政に異を唱え、討伐軍を率いて殷王朝を滅ぼした。
その内容に、妲己が『九尾狐』という伝承が記載されている。
「本当は…実在したんだろ?小説の中じゃなく、本物の蘇妲己として」
妲己が反応して狐耳を動かす。
すると、妲己は何かを口にした。
「……あ。ワレを……知っテェ……くれて…ヌゥノカ?」
カタゴトだが、妲己は俺の声に反応してくれた。
人間の怨念に取り込まれていたようだが、意識が戻っている。
俺は嬉しくなった。
「やっぱり‼︎じゃあ、あんたは……」
だが、次に発した声は、妲己とは思えない酷い鴉声だった。
「だからどうした?ワレが『九尾狐』であるのは変わりないのだろ?」
腹の底から怒りを感じる声。妲己が酷く毛嫌いしているのが分かる。
まだ妲己は自分に戻れていないのか?
だが、それに気を向ける暇はない。今の俺は命懸けの説得をしているんだ。気を抜けば地面へ直下するのは避けられない。
「そうじゃねえよ!あんたは元々、俺と同じ人間だった。純妖じゃなく、混妖だったんだろ⁉︎」
「黙れ…。そんな事実など…既に知っているだろ。ワレがそんな低俗なことで悩むことなんてない!」
よく聞くと、妲己らしさが戻ってきた。
だが、喜ぶわけにはいかない。喜ぶ暇があるなら、意思疎通のできる今を攻めるしかない。
「だろうな。だって、史実にはあんたの事がほぼなかったんだ。探したさ、あんたが書かれている伝承の元をな」
「……」
妲己は俺の言葉に哀しげに黙り込んだ。
妲己に関する伝承は、死後数百年してから作られたものが殆どだ。否定するようになるが、史実を改竄されている可能性がある。
俺は妲己の沈黙を破る。
「確かに殷の国、周の国は存在している。そして、悪業や滅ぼしたという内容も。だが、それが事実って捉えるには違う気がするぜ?」
それは、俺が伝承を否定すると言うことだ。
俺は伝承に記されている妖怪が好きだが、苦しむ妖怪の元となった伝承を否定することもする。
現に、妲己は目の前で苦しんでいたからだ。
「っ…貴様、人間に記された歴史を否定するか?」
「ま、そうなるよな?人が残した歴史を貶す事は悪いと思ってるさ。けどな、あんたが苦しみ、人に恨みがあるのは、人が『妲己』を見なかったことにあるんじゃねえのか?勝手に解釈されて記されたせいで、あんたは『九尾狐』として妖怪になっちまったんだろ⁉︎この世界、妖怪が住む世界は俺達の世界と連動している。本当の自分を見て欲しかった。だから恨んでるんだろ?」
歴史は偽りだらけだ。
アーサー王伝説やピラミッド宇宙説、奇跡の階段、これらを今だに解明ができていない。
人間が昔の技術や国を理解するなど無理な話だ。
そこで、人は伝説や伝承に頼って人間像や説を解明しようとする。
解明できたものはかなり少ない。その中で、目を疑うような説を唱えるものがあった。
『九尾狐』についてだ。
妲己は人間として書かれていた。なのに、中国の伝承に妖怪というものが追記されていき、気付いたら妲己は妖怪に仕立て上げられていた。
運命と言えばそれまでだが、それを本人が望んだとは到底思えない。
口を噛み締め、妲己は言葉を選ぶ。
「そうだ……。誰もワレを人間として見てくれない。人間が勝手にワレを描き、伝承に記し、人間の尊厳すら失った!誰が好んで妖怪になる者がいようか?狂ってる…こんなの出鱈目も良いところだ!人間など無様で醜い!地獄を恐れ天に縋り、紛いものに救いを求める人種が書いたものにワレは穢された!こんな尻尾、こんな耳、こんな顔など……醜悪に穢れた妖狐の異名を着せさせられた。何を思ってワレを記した人間を。ワレは憎い…‼︎」
泣いているように怒り散らすその姿は、妖狐には思えなかった。
自分の容姿を呑めず、ただ畏怖するその様子は、妲己本来の性格を表している。
獣の肉体に支配され、自分の弱さを晒す人間の女性に見えた。
「うるせぇんだよ……」
こんな我儘で手を焼くような妖怪は知らなかった。
伝承は、俺を裏切ってくれた。
その瞬間、俺は自分の中でホッとした。
「目障りか?なら、貴様も所詮は同種。期待はずれも良いところだ」
「うるせぇって言ってんだろうがぁっ‼︎」
憎い憎いと喚く駄々っ子の弱音に文句を言った。
「っっ⁉︎」
「あーだこーだ言えば恨みが晴れるのか⁉︎なあ、俺はあんたが何に怒っているのかを知ってるが、それを他人に恨みを向けても意味がないと思うぜ?」
妲己が歯をギリッと噛み締める。
「何を言う!ワレが憎き人間を恨んで何が悪い!」
「駄々っ子みてぇに言いやがってよ!あんたの境遇は知った‼︎で⁉︎あんたは人間を皆殺しにすれば気が済むか⁉︎」
助けたい一心だと?違う。
こいつの気持ちの本音が知りたいだけだ。
そう思うと、俺の口は勝手に動いた。
雪姫に言うように、俺の口は罵倒が飛んだ。
開いた口が裂けるように俺は言う。
「そ、それは……」
狼狽える妲己。
「ホントは人間を皆殺しにする気がないだろ?本気で殺したいなら、まず手始めに俺を殺してみろ!」
「っ‼︎し、しかし…」
「どうした⁉︎俺を殺して一族諸共殺すんだろ⁉︎古都も“三妖魔”も殺すとほざいたあんたが今さら怖気付いたか‼︎」
俺は人の叱り方を知らねえし、加減も分からない。
勢い任せに言った言葉は取り消せない。
「ただの苦し紛れの戯言なら今すぐに殺すぞ‼︎」
妲己の顔に怒りが宿る。
妲己の怒りは身勝手、そして、恨みが深い。俺を殺さんとばかりに吠える。
普通なら、妲己の業に恐怖し、しっぽを巻いて逃げるところだろう。
俺は違った……。
妲己の苦痛を受け止める。
「へへっ、やっぱな‼︎」
「なに⁉︎」
正直に言ってくれる奴だと思えば、妲己が怖いとは思わない。
「普通、そういうのは冷酷に振る舞うと思うぜ?人道に反する刑罰なんか、恐ろしくて言えねえ。けど、妲己はそれを言える奴だ。それを躊躇う奴じゃないなら、ちゃんと自分を持ってるってことだ!」
「バッ、馬鹿を言え!ワレは欲望の為、快楽を追い求める惨忍な性格だぞ⁉︎こんな妖怪、他にはいない程、ワレは穢れている…。今、貴様の顔を切り裂いてやる!」
俺を脅すが、それが空元気だと分かるぐらいの嘘だった。
自分を卑下なし、自分では隠し切れていない。
「あんた、さっきから単調になってるぜ?自分を誇示したいのか自分を蔑めたいのか滅茶苦茶だ。妲己、あんたは自分を見ていない。だから文句やストレスをぶつけているんだろ?俺を本気で殺したいと言うなら、ここで存分に食い裂けばいい!」
俺は自分の命を天秤に賭けた。
妲己は過去で自分を受け入れていない。『九尾狐』に付き纏われる人生を歩んできた妲己が、自分を本当に見ていない。
もしも、自分を理解していたのならば、俺は確実に死んでいた。
一度たりとも、妲己は俺達に妖術を行使していない。
そこに賭けるしかなかった。
「好きに言うではないか…‼︎なら!貴様がそれを身をもって示せ‼︎」
突然、俺へ目掛けて、妲己の手が襲う。巨大な狐の足が俺へ向かってくる。
死を彷彿させる重量に圧殺される。爪も鋭く尖り、触れた瞬間、俺の肉体は木っ端微塵に吹き飛ぶこと間違いない。
もう死ぬ覚悟は出来てる。
俺は目を開き、頭から離れずに堂々と待ち構えた。多少の迫り来る足には恐怖するが、それを超える覚悟で立ってみせた。
押し潰されるなら逃げた。
だが違う。俺はその先を視た。




