105話 見えない本音
最近、色々行き詰まっています。疲れたとかだと思いますが、かなりキツイことが多いです……。卒業論文や就職などもあるので、かなり疲れる理由は検討ついてますが、皆さんは大丈夫そうですか?
10月ですが、数日投稿の方休ませていただきます。流石に毎日投稿はキツいので、なるべくは無理せずに投稿したいと思います。
卒業論文が行き詰まりそうで大変になってきましたら、暫く休むこととします。その際、事前に連絡します。
妲己が俺に言い放った宣告は、明らかに最悪なものだった。
「死と同等の価値を持つ何かをワレに与えよ!制限時間はこの場で貴様が死ぬまでだ。貴様の命が潰えた時、古都の妖怪と人間、貴様を慕う者を皆殺しにしてやる。貴様が出会った者全てを滅ぼし、貴様の血縁を探し出し、血縁すらも根絶やしにしてくれる‼︎」
覚悟が並ならぬものだと感じた。
笑っているのだが、それは本物の狂気には見えなかった。表面上では畏怖するようなのを隠そうとしていて、辛そうに見えた。
俺の勘違いか思い込みでも言えばいい。そう俺の目には見えた。
分からねえ。妲己が俺にこんな刑を言い渡した理由が分からねえんだ。
俺を本気で殺したいのなら、なんでこんな回りくどいことをしたのだろうか?
『妲己』は最初に名を持ち、現れた九尾狐。妖怪が故に、その強さも確かなものだ。
現に、悟美や夜叉が全く歯が立っていなかった。あんな狂人かと思った悟美が、妲己の宣告で戦闘不能まで追い込まれた。
そして、その他者を愚弄する処刑は悍ましく、相手を考えているなんて言えない。
だけど、俺は妲己が悪いとは思えない。
元と言えば、『妲己』という人間は実際に実在し、その人間が悪業に手を染め、人間に天罰を下されるように殺された。
『妲己』の最期は、あまりにも惨たらしく、本人ですら死に怯えたに違いない。
人間、元々人間も同じだ。俺だってそうだ。
死にたくないのは誰もが同じ。
俺だって、未練があったから死にたくないものだ。
なのに、目の前にいる彼女は死すらも軽視している。
他人の命を奪い続けた妖怪。その価値観は、伝承に引っ張られている。
俺も無理なことを言われたものだ。妲己は俺が出来ないことを突き付けてきた。
「あんた、俺が死と同等を与えろって…正気か⁉︎」
拒んだ。そんな事、俺に求めないで貰いたい。
「正気で何が悪い?貴様がワレに要らぬ情をぶつけたのが原因だろ。一人勝手に欲情してワレを堕とすなど甚だしい!ワレが堕とされるぐらいなら、この命を賭けても良いだろ?貴様がワレに手をかけることで全てが終わる。簡単な話だろ?」
「正気じゃねえ。そんなもん、今すぐ中止しろ!」
そう言えれば簡単だ。
だが、現実は違う。
「なんだ?もうワレとの契約は成立している。降りるというなら、先程食べられたいという願いを叶えてやろうか?」
妲己の形相は険しく、当然のように敵心を剥き出しにして睨む。
俺は妲己の覚悟を見て、心底から震え上がってしまった。
命を投げ捨てる覚悟をした妖怪を初めて見た。
「どうした⁉︎喋れないではないか!何か訴えたい顔をしているが、喋れないか⁉︎」
凄い形相になって俺を罵倒する妲己。
あまりの剣幕に、俺は口を開けなかった。
怒りが解き放たれたような姿。黒い尻尾がそれを物語っている。
黒く揺れる尻尾は、強い怨念を表しているように禍々しい妖気を放ち、他の者を寄せ付けない。
畏怖ある姿を見せられて、俺自身はその姿の前で立ち尽くしている。
攻撃されれば終わる。そう分かってしまうと体が竦む。
「怖いんだな?そうだ、貴様はただの人間だ!妖怪などよりも、自分を優先する臆病者だ‼︎ワレに向けた感情は一時の気の迷いだったか⁉︎ワレの恐ろしさを前にして、欲情する心は消えたか‼︎」
好き勝手に言われる。でも、仕方がない。
妲己が俺に何か求めているのに、俺はそれを口にしていないからだ。
なんで分かるかって?
俺の心を読まれてないからだ。
來嘛羅の読唇術のような思考を読んだ時とは違い、妲己は俺を感情や顔の筋肉で読み取っているんだと思う。
思考が読めているなら、もっと冷静を取り繕っていられる筈だ。
妲己は人間味がない残虐性の妖怪だが、憎めない一面を見せてくれた。
ちゃんと、俺と向き合おうとしてくれているんだ。
その証拠に、幾千幾万の人間を殺した彼女が、たった一人の俺の為にすべてを賭けにきた。
自分の命・他者の命を両天秤にかける事など、伝承の『妲己』ならやらない。
妖界は妖怪を縛らない。それは、妖怪である妲己も縛られないことを意味する。
俺が妲己に言わなければならない。
「ガキ、貴様には定めたルールでやって貰う。ワレを追い込む間、貴様に容赦なく攻撃をする。異能を使い、貴様の命を奪ってやる。それまでに、ワレを追い込めるかな?」
空間から剣を取り出す。
その剣は古いが七つの宝珠が煌めき、赤・青・黄・緑・白・紫・黒の七色が刀身に埋め込まれている。それぞれが発光し、命が宿るように美しく光る。
その輝きが神話の産物を思わせ、実在したとは思えない素晴らしい輝きだ。
初めて見る剣だ。でも、この剣は俺も見たことがある。
「初めて見たぜその剣。……死ぬ前に、【七星剣】、見せてくれたのか?」
「ようやく口を開けば……そうだ、冥土の土産となるかも知れないからな。この剣を見せたのは、あの女以来だ。人間に見せたのは貴様が初めてだが、どうでもいい。もう…剣を抜く事は二度とないからな」
「妲己、話を聞いてくれねえか?」
俺は望みを捨てず、どうしても何事もなく和解を提案する。
しかし、妲己は和解を受け入れるつもりはなかった。
「人間如きがワレに物申すな。既に刑は執行され、貴様に残された時間はないぞ?死にたくなければ、ワレを倒すしかない。それが何か?無様な死に様をワレに見せてくれるのか?」
睨み、不敵に笑う妲己には交渉は無理と断念した。
俺は妲己に剣を向けなければならないと後悔し、【絶無】を握る。
「悔しいな…。こんな、好きな妖怪と剣を交えないといけねえのかよ…」
俺はつい本音をぽろっと言ってしまった。
聞こえてしまったみたいで、妲己は俺を冷たく睨む。
「……何故だ?貴様、こんなワレにそんな恥ずかしげもなく羞恥を言える?」
「だってよ、俺は人間よりも妖怪が好きなんだ。だから、九尾狐に会えるなら、幾らでも危険を冒せる勇気があったんだよ。でも……折角なら、初対面で会ったあんたと敵対せずに、仲良くしたかったんだ」
妖界は妖怪の住む受け皿として生まれた世界。この世界がなければ、妖怪の行き場所はない。
伝承によっては嫌われる妖怪や恐れられている妖怪がいた。
俺はこの世界を呪いたい。
こんな不都合な状況に怒鳴りたかった。心の底から溢れるこの怒りを知りたくなかった。
妖怪と仲良くなるのが拒まれる世界だと、今日、はっきり知ってしまった。
妲己だけじゃない。“三妖魔”の三人も怒っているに違いねえ。こんな差別的な世界を作ったせいで、本当の自分を曝け出せねえ奴がいるんだ。
「くだらない戯言を……貴様はこの世界を甘く見ている。ワレは貴様の遊びに付き合えるほど、良心は持ち合わせていない。憎き女の加護を受けた愚かな人間よ、貴様の言葉が出鱈目だと証明してやる!」
妲己は自分を曝け出せていない。
でも、今は強く訴えてきている。俺はただそう思うなら勘違いも甚だしい。
「妖界っていう世界は思ったよりも狭過ぎる。妖怪のあんたが誰にも明かせられない強い悲しみを感じるんだ。人を惨虐したことは、他は許さないかも知れない。でも、それを悪女と罵った人間も悪いよな?あんたが他の人間を信用できなくなったのは、あんたを悪く書いた奴らが人間だからだ。俺はこの身命を挺して誓ってやる。俺は……あんたが幸せと思えるまで向き合ってやる‼︎」
俺は殺さない。
妲己の苦悩を消し去ってやる。
助けてやる。だから、俺を見ていてくれ‼︎
戦闘意思を奮い立たせる。俺もやるべき時は戦わなくちゃならない。
「ほう?遂にやる目になったな?」
「違うな。俺はあんたを正気に戻させてやる。殺さない!」
「腑抜けたことを抜かしおって…まだ言うかガキ‼︎」
妲己の怒りを鎮めるだけじゃない。俺は思い出さなくてはいけない『妲己』の伝承を伝えなければならねえ。
それを伝え、妲己の目を醒させてやる。
俺は【絶無】に聞いた。
「こっから本番だから、準備してくれ」




