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妖界放浪記  作者: 善童のぶ
古都・妖狐救済編
105/272

104話 刑執行

いよいよこの章の本題へと突入します!

妲己の強さはまだまだ序の口です。一応、妖怪としての実力は凄まじいですので。呪言のような感じですが、それとはまた違った能力です。

完全に意思疎通が途絶え、俺は仕方がなく【絶無】に手をかけようとする。

妲己は俺達に強い命令を下す。

「剣に触れるな‼︎罪人に触れてよい凶器ぶきはない!」


俺はその言葉に手が止まった。


触ったらとんでもない事が起きる。俺には思えた。

動かそうと思えば動く。だが、それ以上は自分の意思では動かせなかった。


悟美は自身の影から取り出し、三節棍を片手に握る。

「シシシッ!そんな言葉になんの意味があるのかしら〜?」

振り回し、上機嫌に笑う悟美。

そんな悟美に妲己は告げる。

「その腕、貴様には要らぬだろ?」


その瞬間、妲己の能力が発揮する。


告げ口をした直後、三節棍を持つ右手が地面に落ちた。

「え……?」

「えっ?なんだ…今のは?」

俺は何が起きたのかを理解できなかった。

妲己は告げただけ。悟美は三節棍を握っていただけ。それなのに、攻撃がされたわけじゃないのに悟美が傷を負う理由が分からなかった。

次に告げられたのは夜叉だった。

「貴様も腕など要らないだろ?」

今度は、夜叉が持つ長刀を握る両手が地面に落ちた。

「くっ……⁉︎使われてしまいましたか…」

痛みは伴うようで、夜叉は苦痛な表情を浮かべる。痛みのあまり、遂には膝をついてしまう。

「夜叉⁉︎」

「ククククッ。さて、次はどのようにしてやろうか?」

夜叉は妲己を睨み、カナは慌てふためいて震える。そんな様子を、妲己は妖艶に頬を紅潮させる。


「どういうことかしら?」

悟美は不安な表情を見せずに聞く。腕を落とされたのに平然と立っている。

「ワレは執行人、貴様らは罪人。罪人が武器を手に持った行為は反逆と見做し、罪手を切り落としたまでよ。妖術を使わずとも、貴様らにはコレで十分」

武器を手に取れば切り落とされる。

つまり、武器による攻撃が防がれたと言うまでもない。

悟美と夜叉の攻撃の手が封じられ、最強戦力を失ったのと同じ。

なんていう能力だ。

恐ろしく、無慈悲な能力だというのが、嫌でも解らされる。

妲己の処刑を甘く見ていた。いや、これほど無慈悲な宣告があるとは思いたくなかった。

「罪人が武器ね…。シシシッ!手加減があった方が面白いわ‼︎」

悟美には恐怖心がない。腕を落とされたとて、その顔に恐怖の文字は見えなかった。これを見ると、萎縮している暇はないと思わされる。

落ちた腕を拾い、自分の体にくっ付ける。

切断された箇所は綺麗に繋がり、一瞬で指が動くようになる。

再生能力があるお陰で、悟美が死ぬなんて考えてはいなかったが、あまりの戦闘復帰欲に驚いた。

「ほう?貴様はワレに武器を向けずに勝てると?」

妲己は悟美の能力に驚く様子はなく、戦闘意欲に感心する。

「そうよ、私なら勝てるわ。武器を取れば吹き飛ぶ光景は面白いけど、味気ないわね」

「味気ないか。では、貴様にはもう一つ良い刑を下してやろう」

妲己は不敵に笑い、地面に尻尾を着く。尻尾は悟美の方に向いている。

そして、妲己は告げる。

「穴の具合はどうかな?敵意を向けたからには、その穴はこじ開くぞ?その穴は体液を吹き出す為に存在する」

「へ?………がはっ⁉︎」

突如、悟美が吐血し出した。

血が噴き出るのは口からだけではない。鼻や耳、目からも血が搾られるように出てくる。

まるで疫病に侵されたような症状が、悟美の身に起きている。

「クッハハハ!よい血飛沫を吹きおる!よき赤い血なことよ。やはり刑は血が見れる血抜きが適しているな!もっとだ。血に染まる死舞しまいを踊って見せてくれるか?」

何か能力を発動させたみたいで、悟美の顔色が青褪めていく。血はどんどん体の穴から漏れるように流血し、服や地面が血に染まる。

悟美がフラつき始めた。まともに立つのもままならず、悟美は足元に力が入らない。

地面に伏し、その顔は自分の血で赤い。

「意識……あれ?私、何してるんだ…っけ?」

「おい悟美!しっかりしろ‼︎」

「え、へへっ…なんだが、意識が……」

俺は意識を向けて貰う為に声をかけるが、意識が朦朧としているみたいで、俺の声に反応しない。

俺は駆け寄り、顔を叩いてやるが、まったく俺を見てくれない。

目が虚になり、意識も切れそうになっている。


悟美の様子に妲己が絶望を告げる。

「無駄だ。ソイツはじきに失血死で死ぬ。人間という生き物は血が無ければ生きられぬ生き物だからな。生物として、これほど未完成な存在ものはない」

血を見て狂喜に笑う妲己。

悟美はなんとか立ち上がろうとするが、出血の方が酷く、息が絶え絶えになっていた。

俺はこの光景を前にして、何もできない自分を呪いたくなった。

あまりにも理不尽な状況と能力による支配力。

「くっ!どうすれば…」

俺が少し動揺していると、妲己がこっちに顔を向ける。

「貴様、その娘を助けたいか?」

「っ⁉︎」

「驚く必要はない。ワレも一方的に殺すのは悄々する。しぶとく生きて貰わなければならないというのに、この程度の流血で死を彷徨うとは情けない」


怒りが込み上げてこない。

妲己に敵意を向けられないんだ。

こんな状況でも俺は、九尾狐の一人である妲己に牙を向けられる勇気がなかった。


俺は素直に妲己の話に耳を傾ける。この状況が分からない今、下手に動けない。


雪姫はまだ待機してる。俺が勝手に出れば、妲己を救えない。

「貴様はワレに先程、欲情しただろ?ワレが命奪う者にそんな感情を誰も見てこなかった。貴様はその欲情する心でワレを乱した。初めてだったぞ、ワレに発情する男は…」

空気が痛い。妲己の表情に笑みは消え、殺意剥き出しに凝視してる。

笑ってない。しかも、かなり嫌悪視してるよな…。

怒ってるのに、俺はその表情が良いと思ってしまってる。

來嘛羅が穏やかだとすれば、妲己は激情な妖怪だ。

ちょっと気を抜くとこうなる。

「聞いているのか貴様?何故口が緩む…?」

「い、いや……凄く反応が怖い筈なのに魅力的だなって」

「……頭が壊れてしまっているのか?二十と若い肉体を持ちながら、精神は既に狂ってしまっているんだな。そうであろうなぁ⁉︎」

早口で俺を否定してくる。怒りを露わにし、俺を否定するのはどう見ても尋常じゃない。

でも、なんか俺と話す時、動揺しているのがよく分かる。

もしかしたら、これはチャンスなのかも知れねえな。

「なあ妲己」

「気安くその名を呼ぶなガキが‼︎」

「嫌、なのか?」

「っ……」

妲己は黙り込んだ。

俺は妲己の目をずっと見続ける。

睨み合いというかより、俺の一方的な視線を送る。

ここで、満更でもないという仕草でもあれば、可能性はあるんだが……。




妲己は再び正気に戻る。




——気持ち悪い。




(なんだこのガキは…?ここまで血を見せ、肉が落ちるのを見せた。これで強者であろうが畏怖に顔を歪める。なのになんなのだ⁉︎この純粋無垢な欲情は……)

幸助に訴えられる感情に左右され、幸助を見る度に行為に愉しんでいた自分が目を覚めてしまう。

悦楽に歪むことを是とする妲己にとって、幸助の恐れない心は気味が悪くて仕方がない。

(消してやる。あの女のせいで消えるこの男を滅茶苦茶に殺したい‼︎だが…なんだこの得体の知れない胸の締め付けは?ワレがこの男に言われてから感じる雲がかった感情は一体…)

自分に気付けない。妲己はこの頭に来るような苛々の正体を味わったことがない。

殺意や恨みとは違う感情をぶつけられ、妲己の心情は乱れ、幸助に訴えられる気持ちに更に拍車がかかる。

(不愉快、不愉快…あまりにも不愉快!むしゃくしゃだっ‼︎この男が原因だ!ワレに余計な考えを持たせたこの男には相応しい極刑を与えてやらねば‼︎ワレを不快にさせるこの男を今すぐに亡き者にしなければ!)

もはや、この感情を昇華するにはこの方法しかない。

感情の乱れをなんとか制御し、怒りを底上げする。


ここで幸助の命を潰す。そう強く決心する。


表情に余裕が現れ、意気揚々とした笑みをする。

「貴様…ワレが好きなのだろ?」

吹っ切れるように聞く妲己に、幸助は違和感を感じる。

「あ、ああ。九尾狐の伝承に載る奴ら全員好きだぜ?」

迷いなくそう返答する。

妲己はその返答も見透すが、嘘が見えない。

「そうか。貴様は九尾狐に連なる者に魅力を感じるのだな?」

「そうだ、俺が嘘を言っているなら殺すのか?」

「いや。貴様が嘘偽りもなく『九尾狐キュウビキツネ』という妖怪そのものを愛するという心意はよく分かった。恐怖に屈せず、ワレにその欲情をよくぶつけられたものだ。そんな貴様に敬意を払い、ワレが直々に刑の執行人と囚人を担うとしよう」

「…ん?あんたが執行人で俺が囚人ってことだな?」

妲己が言い間違えたのかと思い、幸助は疑問を投げる。

しかし、その勘違いは間違っていた。

「違うな。ワレが言ったのは、ワレと貴様は互いに執行人と囚人の役目を背負い、刑を執行する。ワレはそう申した」

幸助には理解不可能な返答だった。

「それって、あれだよな?二人とも、執行人と囚人の行動をするってことだよな?それとも、何か変わり鬼みたいになるのか?」

「前者だ」

妲己が提案する刑は、互いが執行人としての役割と囚人としての役割を交互に行うのではなく、二つの役割を同時に担うというもの。

刑を執行する者は囚人でもあり、囚人の者は執行人でもある。

どちらも刑を受ける者と執行する者。

妲己は幸助のある事を探る腹だ。

幸助という人間性を知り、その上で罰を与える。

初めて、人間に対する温情な態度を見せる。

「まさか、何かヤバイやつじゃねえだろうな…?」

妲己は不敵に顔を歪める。

「そうでなければ面白くない。賭博…いいや、それ以上の賭け事をする。ワレも貴様も利益あり不利益ありの大博打を執行する!」

「博打⁉︎なんだそれ?」

「ククククッ、貴様が勝てば望みを叶えてやる。そこの娘の命も救ってやる。貴様がワレに望むものをくれてやるし、この国を欲するならそれも叶えてやろう。ワレの体も好きにしてやる」

勝利品を幸助に提示する。それに幸助は驚きながら嬉しそうだった。

「ホントか⁉︎」

「勿論だとも。だが、これは殺し合いとも言えよう。負ければそれなりの代償は伴うがな」

妲己は幸助の人間性を利用した刑を執行しようと目論む。その刑は、幸助に不可能に近い勝利条件を提示する。

「なんだ?」

「貴様という人間を測る。その純愛ともいえる欲望をどう選択するか、貴様が持つすべてを使い、ワレに挑むがいい」

妲己には勝つ自信がある。だからこそ、この刑を執行する。

妲己は自身の異能を知り尽くす。その力は覚醒者として開花し、相手を意のままに支配するほど。




妲己の異能は《獄罰》。


主な能力は、自身が告げた罰を強制的に執行させるもの。

地獄に存在する刑罰、実際に執行された刑、空想上に創り上げられた刑を支配し、その力を自身が代役して行使ができる。

また、どんな存在に対しても効果を発揮する。

口と指さえあれば、妲己の前にいる存在は無力と化す。


妲己は自身と幸助に指し向け、刑を告げる。


「死と同等の価値を持つ何かをワレに与えよ!制限時間はこの場で貴様が死ぬまでだ。貴様の命が潰えた時、古都の妖怪と人間、貴様を慕う者を皆殺しにしてやる。貴様が出会った者全てを滅ぼし、貴様の血縁を探し出し、血縁すらも根絶やしにしてくれる‼︎」


幸助に死刑宣告を言い渡す。


それを受け取った幸助の心情は、想像を絶するものだった。

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