103話 衝突不可避
ここからはまともな戦闘描写が多くなります。一応、妲己の異能は公開していますが、改めてどんなものなのか想像してみて下さい。九尾狐である妲己と主人公の対戦は如何なるものか。楽しみにして下さい!
快楽を求め続けた彼女は、幸助の純粋な好意を受け入れられなかった。
殺す者に抱く感情など、快楽以外感じられなかった。
好感・恋慕・狂恋・溺愛といった想像出来ない想いが、幸助の体の節々から伝わってくる。
殺意や恨み、呪いなど幾千も受けてきた。妲己はその程度の感情は寧ろ、悦べるものである。
負の感情は妲己にはご馳走であり、最も欲する感情である。死を彷彿させる感情はとても気に入り、こよなく愛する。
妲己はその反対の感情を向けられた事がなかった。故に、幸助の今の感情が本物だと知ってしまい、惨虐を好む妲己でさえもたじろいでしまう。
首に当てていた剣を手放し、幸助の異常さに片手で顔を抑える。
「なんだ⁉︎この吐きそうなもどかしい気は?ワレが人間に同情された…だと?あり得ない、そんな出鱈目はあり得ぬ!この、この醜い姿を見たものはワレに恐怖した。なのに…このガキは、ワレに欲情してるだと⁉︎」
恥ずかしげもなく、戸惑いながら言う妲己。
その動揺は酷く、威厳すら感じないその様子は、幸助の目に当然映る。
縛られた身体をなんとか動かし、俺は妲己に訴えた。
「なんで俺の気持ちを気持ち悪そうにするんだよ⁉︎俺、あんたを悪く思ってねえんだよ!これマジで言ってるぜ?」
「だ、黙れ小僧‼︎ガキがワレの気持ちに入り込むな‼︎そんな目で見るな!」
混乱しちまってるじゃねえか。來嘛羅は受け入れてくれたのに……。
「そんな風に言わないでくれよ!俺はあんたに会えて嬉しかったんだ!そして、今日はあんたと話したい。その為に此処に来たんだ!怪我してたのは——」
俺がなんで怪我を負っていたのかを話そうとしたが、妲己の体内から破天荒のように妖力が溢れ出していた。
俺の声は掻き消され、妲己の殺意が咆哮となって全身に叫ばれた。
「舐めるなよガキがぁっ‼︎ワレが望まぬ感情を見せおって‼︎何故苦に顔を歪めない⁉︎これから殺すというのに貴様は…‼︎その命、奪うだけでは飽き足らないぞ‼︎」
黒い尻尾が俺を睨み付けるように殺気立ち、俺に攻撃する。
クソッ、動けねえ!これじゃあヤバいぜ⁉︎
逆に怒らせちまった。俺はただ正直に口が動いただけなのに。
俺がそう思っていると、カナと夜叉が動き出す。
「やれやれ、貴方はナンパ下手なのでしょうか?お陰で、叛骨心を晒す羽目になりましたね」
カナが精霊を十体喚び出し、俺を刺そうとした尻尾を防いでくれた。その隙に、夜叉が拘束している鎖を解いてくれた。
「っ⁉︎貴様もか!華名‼︎夜叉め‼︎」
妲己は醜悪な形相で、一瞬のうちに精霊を滅した。同時に、カナの悲鳴が聞こえた。
「あぁーーーっ‼︎私の精霊が消えました‼︎貴方のせいですよ!私の精霊全部返して下さい‼︎」
「仕方がねえだろ‼︎本人を前にすると気持ちが抑えられねえんだよ!」
互いに今の心情を言い合い、一瞬、妲己を無視してしまった。
そんなやり取りを仲介するように、夜叉が俺とカナを摘み出す。
「フッ、それにしては随分ダメージを与えましたよ?今、相当混乱しております。マツシタコウスケ、貴方はある意味、狐殺しの人間なのでしょう」
恥ずかしい事言いやがって。
好きだから、俺の気持ちを聞いて欲しかったのに。
「なんで俺の気持ち伝わなかったんだよ?」
「松下幸助!そんな話は後です‼︎今は妲己さんが暴れています。切り替えて下さい‼︎」
俺の作戦は失敗。今度はカナ達の作戦が始まる。
俺は最初、俺が説得して妲己と和解をしたかった。
だが、それは失敗すると全員に言われた。
文句を言い、なんとかさせて貰えるかを説得して了承を得た。
その代わり、失敗したら妲己を倒すという手段を取らざる得ないと約束させられた。
俺は悟美、カナ、夜叉に容赦なく叩きのめして貰い、死にかけるまで痛めつけられた。雪姫は最後まで拒み、すね子と一緒に目を逸らしていた。
妲己を騙す為とはいえ、俺は本気で死にかけた。
治療は本当に賭けだった。妲己が俺を治癒しなければ、雪姫以外には治癒できる奴はいない。
俺がその場で殺されたのなら詰み。生かされ、別の空間へ誘われれば勝機がある。
途中までは成功した。だが、俺が原因で失敗してしまった。
失敗した今、夜叉が提案した案を実行しなければならない。
複雑な心境が俺を乱す。しかし、ここで躊躇っていたら妲己との和解など叶わない。
好きな妖怪に牙を向ける。最大の屈辱感が襲う。
俺は初めて、好きな妖怪との殺し合いをしなければならなくなった。
拷問で俺を殺そうとされた。それなら、俺は叛骨心を見せなければ死ぬ。
本気で殺したいと思ったのなら、真っ先に妖術でその命を潰せた。動けない俺に殺す事は容易な状況で、一番殺傷能力のない尻尾で攻撃した。
來嘛羅の尻尾を知る俺だから分かる。
尻尾には大した殺傷力はない。
つまり、気持ちは伝わっていたのだ。
気持ち悪いと嫌悪感を抱いたようが、何処か憎めない部分を良く思っていたに違いない。
しかし、余計な介入のせいで、その可能性は潰えた。
妲己は夜叉を見るなり、狂ったように笑う。
「ククク、クハッハッハッ‼︎当然のように裏切ったな夜叉⁉︎貴様がワレを嵌めたとはなぁっ‼︎」
夜叉の介入が、俺の作戦の失敗を決定的にしてしまった。
怨念の如く妖狐となった妲己の感情は殺意に満ちる。
俺は妲己に再び訴える。
「待ってくれ!こいつは俺をあんたの元に連れてきただけだ!裏切ってはねえよ!」
妲己は邪気の笑みを浮かべる。
「ほざけ人間が!貴様を此処へ連れてきた事自体が既に大罪に値する。この場に集う貴様ら全員を処刑してくれる‼︎」
理不尽に俺達を敵視する。その眼差しは一層赤く染まっている。
「俺が連れて行けって言ったんだ‼︎夜叉は悪くねえ。殺すなら、俺だけにしてくれ!」
「黙れ人間のガキ。貴様の言葉は偽りに過ぎない!ワレを弄ぼうとした罪、誑かそうとワレを乱した罪を償って貰うぞ‼︎」
「クソッ、なんでだよ…」
伝わらず、悲痛に嘆く。
來嘛羅と全然違うじゃねえか。
「仕方がありません。こうなってしまった以上、救う選択肢は一つしかありません。そろそろ、彼女達に出てきて貰いましょう」
原因を作った夜叉がそう言う。
カナの影から悟美が現れる。
紗夜の能力で息を潜めていたが、悟美は自ら影を抜ける。
「シシシッ‼︎來嘛羅とは似つかない顔。野生の狐ね。でも、これがまた良いわね!」
妲己を狐呼ばわりし、相変わらず絶やさない笑みを見せつける。
悟美は戦う気だ。
「人数は幾らいても足りない。今の戦力でどれぐらい抗えるか、試すしかありません」
余裕な態度で夜叉は長刀を引き抜く。
収拾が着かない状況に入れば、妲己の説得も皆無になっちまう。
俺は最悪だと、失望を露わにした。
火に油を注いだようで、妲己の妖気が禍々しく滾る。
「よい。ワレは所詮、狙われる立場。恨まれるのは当然か。ワレは死の快楽以外要らないのだ。せっかく望めたかも知れなかったのに……もうよい。ワレが執行人として貴様らの刑を執行する!」
その口から発する言葉は怒りが突き刺すようで、完全に敵として認識された。
説得を試みたが、それを勝る殺意を俺達に向ける。思わず、体が震えてしまい、それ以上説得は無理だと、当然の如く考えるしかなかった。




