99話 本当の目的
お久しぶりです。随分と休ませていただきました!
学生生活最後の夏休みだったので、かなり身勝手にしていました。
3章は少し長めですので、ここから20日程は投稿が続く状態です。その後は、転すらの二次創作へ暫く移行しようかと思います。『妖界放浪記・長編』は随時、挟んで投稿しようと思っています。
カナの行動が突然過ぎて戸惑う。
「なんだよてめぇ、ビビったのか?」
俺は威嚇する。しかし、雪姫は華名の様子を察したのか、手で静止を促してきた。
「どうして?私達を試す真似をしたの?」
「おい、それって…」
「答えなさい。あなた達の目的は何?」
この状況の訳を知らず、無意味な戦いに雪姫は腹が立っている。
戦闘を好む傾向はなく、無意味さしかないこの状況に、雪姫はカナを睨み付ける。
「怖い顔をしないで下さい雪女さん。私達は…」
「私がお話致します。重要な話ですので、腰を下ろして語り合いましょうか」
どうやら、俺達は試されていたようだ。
華名の口を挟むように、木の上から夜叉が降りる。
俺と雪姫は『妖怪万象』を解き、疑心を解いた。
悟美も木の上から降りて座り込む。
短いスカート、流石にちょっと見えそうで気不味い。
悟美は別に気にする素振りは見せず、ニヤニヤ笑う。
「シシシッ!幸助君のエッチ」
悟美の影から殺意を感じた。恐らく、後でこっぴどく捌かれるに違いない。
「はしたないですよ貴女。女の子は正座しないとパ…下着が見えちゃいます!」
「やだ。私の好きに座っていいでしょ?」
「駄目です!ここに性欲を有り余す男がいるんですから」
何話してんだよこいつら。今から大事な話を聞くって時に、なんで変な話題を挟むんだ?
俺がそう内心呆れると、雪姫がこの場を収める。
「そんな男は居ません。幸助はその程度で興奮しない」
疑いなく言い切る雪姫の横で、俺は悲しくなった。
確かに合ってるんだけどさ?俺は悟美に興奮するのはほぼ無いのは間違っていない。
けどなんだ?俺って、そんな風に思われていたのかな……。
「どうしたのですか?松下幸助。随分、悲しげな表情してますが」
カナが余計な心配を聞いてきた。さっきまで俺を酷い目で見てた癖に、好きな妖怪に言われて絆されやがって。
「言わないでくれ…。俺、そんなので興奮しないから……」
俺が聖人みたいに紹介され、迂闊に変な行動はできねえな。
言っちまうと、雪姫だけはそういう風に思わなくもない。一緒に住んでいたから気にしてなかったが、ここ最近、近くにいるせいか、雪姫に接触する度に頬を赤らめる自分がいた。
雪姫が俺の横でいつも寝るし、歩いている時に強引に体を引っ張る。またそれが近過ぎるんだよな。
俺が異性として認識されてないぐらい、体が密着する時がある。思考が悶えそうになる。
胸、意外とあるんだなと、悶える思考で思ってしまうことがある。まあ、美人や美女で知られている妖怪だからな、それぐらいは当然なんだろ。
妖怪に欲情する同級生を知っている。そいつは偉く女の妖怪を本を見せつけて興奮した様子で語っていたな。
「胸デカいのかな〜」や「こういうの実際に触ってみたいと思わねえか⁉︎」を女子にも聞いてドン引きされてたな。
俺は「無理な話かもな」と笑い飛ばしていたが、今、こうして体験している俺がいる。
『雪女』の容姿がこれほど男殺しなのは、実際に体験しないと分からねえものだな。
「性に関する話をする為にあなた達に声を掛けた訳ではありません。そこで哀れな表情をするマツシタコウスケに、妲己の目を覚させて頂く為に声を掛けたのです。そこのところは忘れずにお願いします」
夜叉が場を改め、淡々と話す。無駄がない姿勢で、全く隙がない。
聖女ではないかという心持ちで、感情の起伏を感じない。
だが、夜叉は人間に残虐であるが、カナの奴を主人と認めていると見る限り、良い妖怪だと信じたい。
「分かった。俺達も古都へ向かっていたんだ。來嘛羅に古都へ向かって欲しいと言われ、ある人から妲己を頼まれて、ここまで来たんだ。あんたらは俺らを捕まえる為に来たんだろ?」
「おっしゃる通り。私とカナ様は、妲己に命じられ、貴方を半殺しにして捕らえてこいと言われました。私も久しぶりに殺気立つ彼女を見て死を覚悟しましたが」
怖っ!機嫌悪いとかの話じゃねえな。
「何か理由とか…あるのか?」
夜叉は特に表情を変えずに答える。
「貴方に加護を与えた來嘛羅様が原因で癇癪を起こしています。どうやら、マツシタコウスケを生かした訳を何か思っている思惑でした。何か、心当たりはありますか?」
それは心当たりがあるとは言い切れねえが、來嘛羅が俺に危害を加えなかった理由は俺の能力と関係しているのだろう。
俺の能力について、カナ達に話すことにした。
「俺の能力は《名》で、妖怪に名を与え——」
「いいえ、そんな事を聞きたいのではありません。マツシタコウスケ、貴方が持つ異能ではなく、貴方が何故、『妖怪万象』を使っていたのかを知りたいのです。純妖の禁術を容易に見せた貴方の力を知りたいのです」
目を細めて俺を睨む蒼い目に冷たい圧を感じる。
何を理由に、俺にその事を質問してきたのかを呑み込めない。
「困惑しているようですね?しかし、貴方は力を認識して使っています。代償を伴う禁術を頻繁に使っていて無事である筈がありません。人間の身で使うのは初めてですが、その力をどうやって身に付けたのか、教えて欲しいものです。それと……彼女からも」
夜叉はそう言い、俺の横にいる雪姫にも目を向けた。
俺が使ってる『妖怪万象』の存在はもう知っている。來嘛羅と雪姫にも驚かれていたが、自然と受け入れている様子だったから、特に気にしてなかった。
夜叉がここまで俺に対して強い圧をかけてくるのは、『妖怪万象』を使えるのが可笑しいということだろうか。
「俺、秋水を倒す時に初めて使えるようになったんだが……」
「秋水…あの地獄へ堕ちたとされる人間ですか。あの時、つまりあれから、4ヶ月程前から使っていたことになります。三回もそれを使い、貴方は何も代償を支払わない。不思議ですね」
夜叉は考え込み、何か凄い機嫌が悪いように見える。
やらかしたつもりは……あるな。
俺が妖怪の禁術を容易に使ったのに、夜叉は警戒している。
そもそも代償自体が、まず分からない。知らないに等しいな。
妖界って代償を伴う物が多いな。
『契り』・“妖怪裁判”・“ある禁忌”・『妖怪万象』、どれも何かしらの罰が伴ってる。
これら全て、俺は経験済みだ。笑えないが、ここまで法を犯しているのに代償が“放浪者”だけっていうのも不思議なもんだ。
「その事だが、俺もよく分かってねえんだ。妖術を使えるのも俺だけだし」
「……分かりませんね。自分でも能力を理解していないとは。いいえ、來嘛羅様が嘘を吐いたとも言うべきですかね」
「おい、それはねえだろ。來嘛羅が嘘を……」
考えながら否定しようとするが、俺は喉で言葉が詰まる。
疑っていた。來嘛羅は本当の事を話していない、と心の何処かで疑っていた。
『九尾狐』は他者を騙す伝承がある。もしかしたら……。
「やはり動揺しているようですね?來嘛羅様が何を吹き込んで貴方を古都へ向かわせたのかは知りません。一応、“三妖魔”を隈なく探す為としての言い訳にはなります。ですが、残念ながら“三妖魔”は……」
夜叉が何か重要な事を言い掛けたが、雪姫がその言葉を遮る。
「夜叉、幸助の心を抉るつもり?目的を話すというのに今は関係ない筈。異能を知りたいのなら、全て片付けてから話せばいい」
雪姫は俺のことを探るより、今しなければいけないことを聞く。現状の解決に今すぐにでも取り組もうとする姿勢は雪姫らしい。
俺はその先を知りたかったが、片付いた後でも出来ると切り替える。
夜叉も納得し、表情が穏やかになった。
「そうですね。目的に関係ない話は後日、そろそろ本題と入りましょうか」
夜叉がそう仕切ると、俺達全員は何も口にせず、静かに話を聞く姿勢をする。
話す内容は、これまでの妲己の悪事と屈辱だった。
「では話しておきましょう。元々、実在した彼女は死後、人間の彼女が怨みより妖怪へと変化し、『妲己』という名の妖怪として生を受けました。その後、2000年前まで、妲己が古都を手中に収め、それはそれは地獄に行った方が楽だという処刑や拷問、殺戮が行われました。妖怪や人間を問わず、気に入らない存在を自分で裁き、多くの命を喰らい奪った。閻魔大王の手が届かないことをいいことに、その残虐性は増していき、太古の妖怪や災禍様すらもその脅威に震えた。事実、1000年などとなれば、古代の中国で知らぬ民が居ないほど、その伝承は血肉のように身近な伝説となり、人間であったが故に、その力は増していった。純妖へと進化を果たし、異能すら獲得した彼女の力は桁違いへとなり、もはや、妲己に対抗できる者はいなかった。そう思うしか皆が絶望から背けた……」
夜叉の語りに出てくる妲己は、俺の想像通りの妖怪であった。




