9話 妖都:夜城へ
展開早いですかね?一応、順を踏んで書いてはいますが、内容について来れている人達であるということで書き進めています。今後、早く書き進めると思いますので、何か質問があれば受け付けます。こちらの方では、最小限でネタバレをしないで書いていくつもりです。
歓楽街、摩天楼、魑魅魍魎、百鬼夜行。妖都には、人知を超えた妖怪が人間のように振る舞う。人の世とはかけ離れた妖都:夜城はいつも夜。朝と昼は存在せず、この妖界の理に適った場所とも言える。
暗闇の空間に眩い祭りのような街明かり。
天上人が住まうような高層な建物。
妖怪の満ちる中での活気ある騒がしさ。
空中を舞い、常夜を楽しげに飛翔する。
享楽に満ち溢れる妖都・夜城は、幸助の心を掴んだ。
俺は今、この妖都に来て初めて感動している。
「おおっ…‼︎」
震えながら周りを見渡す。東京や大阪の景色とかと比べられない。
人じゃあ生み出せない常識を逸脱した建造物に感動し、妖怪達が人間のように楽しんでいるのに感動し、常に夜なのにそんな雰囲気を思わせないような振る舞いに感動した。
「凄え!凄えっー‼︎凄えよ‼︎」
そんな興奮する俺を雪姫が鎮める。
「あまり興奮すると目立つ。私達は、他の者からは異様とも思われている」
「別に大丈夫だろ?この町なら普通だろ?」
「町じゃない。此処は妖都、私達は来訪者。あまり軽々しく行動するのは禁物。ほら…」
小さく囁く。俺は辺りを見ると、その行動の浅はかさを理解した。
俺を凝視する妖怪がいた。この視線を俺は知っている。殺気が俺だけに集中している視線だ!
またこんな目に。妖怪は人間を嫌うのか?
天邪鬼に引き続き、俺は他の妖怪にも敵に回るのかよ⁉︎
冗談じゃねえ……。また俺がやらかしたようじゃねえか!
周りから殺意を向けてくるのをいち早く感じた雪姫は、一瞬で殺意を相殺するような妖気を放った。
「っ‼︎」
妖気は殺意を向けてきた妖怪だけに放たれたのだ。他の妖怪に敵意を向けようならば、ここで襲われてしまう。それを熟知しているからこそ、殺意を的確に感知し、その者にだけ放つ。
並の妖怪でも難しい離れ業の凄さに、妖怪達は恐れを成してその場を去る。
雪姫は其処らの妖怪とは違うのだ。名を新たに持った事で知名度は上がり、それでも驕らず世才に長けた妖怪なのだ。
妖怪とは妖力以外にも強さの基準が存在する。
それは知名度だ。
都市伝説や伝承で名が広まれば強さを増すみたいで、恐怖のみが力になることはなく、逸話や何らかの伝説の数だけ強さを増す。
その中でも古来より伝承の多い妖怪ほど、その力は絶大。
雪姫、元々雪女だったその知名度は広く知れ渡っていた。俺も調べていたぐらいに詳しかったし。それだから、混妖であってもその強さは逸脱していたわけなんだ。
よく知られている妖怪は厄介なのだ。
俺は、逃げていく妖怪を見て思った。雪姫、かなり怖いな…。
そんな幸助に構わず、雪姫は気にする素振りなく手を握り連れて行く。
だが、雪姫は穏やかではなかった。
(これで、問題はなくなった。でも何故か……恐ろしい何かが幸助に向けていた。これは一体…)
そう、雪姫は感知していた。殺意ではないものを。その一人は敵意を向けた瞬間消えたが、何か嫌なモヤが掛かる。
まるで、自分達を見張っている存在がいるのだと。
存在を警戒しながら、雪姫は幸助の安全を確保するように行動する。しかし、幸助には警戒心というものは存在しない。
安心に浸る油断。危機と非常識は隣り合わせ。
「なあ雪姫、少し飯にしようぜ?俺腹減って疲れた」
俺はとりあえず見える店を指差す。
「寿司、食べたいの?」
「食べたい!」
少し食い気味で言ってしまった。
だってさ?ずっと生きた魚を食わされてたんだぜ?偶には馴染みある物が食べたいのが正直なところだ。
俺達は寿司屋に入った。
「へいらっしゃい!」
大将らしき妖怪が笑顔で出迎えてくれた。
「二人で頼む」
「かしこまり!」
案内されるがままに席へ腰をかける。
「御注文は如何になさいますか?」
寿司のユニフォームを着た女性と目が合った。
これは驚きだ。まさか、俺と同じ人間と会えるだなんて思わなかった。
密かに安心感を抱いたが、何か食べたいと空腹が腹を襲う。
「じゃあ俺はマグロとサーモン、生エビと……あとは油揚げ入りの味噌汁ください。雪姫はどうするんだ?」
「そうね。マグロとサーモン、鯖にする」
俺は注文を伝える。すると女性はくすっと笑った。
「お客様、油揚げの味噌汁を頼む方は初めて見ましたよ?」
「え?でも、書いてるだろ?」
「書いておりますが、そんな代物を頼む方はこの妖都ではいません」
「美味しいのに?」
「もしかして、お客様はこの妖都の人間の住民ではないですよね?」
そう女性が聞くと、この妖都に伝わる噂を口にする。
「妖都:夜城には災渦様が住まれているという伝承が御座いまして。妖都は数千年前から常に形を変えて発展しているのも、その災渦様の気紛れと言われているのです。土地は肥え、建物は高く、妖怪と人間が生きていく上で必要な土地をご加護して下さる神の狐と崇められています。それに模した油揚げはお供物として使われるのですが……」
この妖都では土地神として崇められている妖怪がいるんだな。
「じゃあ油揚げはやめた方が…」
崇められてると言われ、俺は怖くなった。食べたら嫌われそうな気がして…。
俺は注文を取り消そうとした。
「それはあくまで噂で、私もこういう噂話を常に耳にしているだけです。お味噌汁、注文キャンセルはなしでいいですね?」
そう女性は微笑んだ。
俺は注文した寿司と味噌汁を堪能した。
何故か、俺の更に寿司が一つ多く追加されていた。
まずはサーモンを一口で頬張る。
「美味え…」
思わず涙が出てきた。
雪姫の手料理よりも美味い。
ちゃんとしたご飯が半年ぶりに食べられた気がして、俺は感動の涙が止まらない。
「泣くほど美味しいの?」
と、俺の気持ちが知らない雪姫は相変わらずだが。
この味を実感して寿司と味噌汁を堪能した。
「御会計は十銭です」
この妖界の通貨は明治時代を基準としているようで、一銭が二百円に該当するとか。
相当人気店だという寿司店なのでなかなかの値段だ。お陰で、俺の腹は久しぶりに落ち着きを取り戻した。
「私が払ったのに…」
雪姫が不満げに俺を睨んでいた。
「それは悪かったよ。俺の手持ち、全部あんたに没収されてるんだから」
俺は以前、町で買い食いしたのがバレて、財布も金銭も管理されたんだよな。すね子の件を頑張って説得したが、買い食いとして処分が下された。マジで地獄だ…。
てか、普通に俺の金使われている気がするんだが……。
「腹ごしらえしたし、服探しに行こうぜ」
俺達は食後の運動も兼ねて、服屋を探し回る。
幸助達が気ままに妖都を散策している中で、彼女は目を見張っていた。
妖艶な舌舐めづりをし、幸助達を興味深々に凝視する。
「ほう?彼奴が名を付けた人間かの。不思議な人間もおるみたいじゃな?どうやって攫おうかのう…。さて、どうしようかの〜?」
再び視線が襲う。
その視線は敵意か殺意か?それとも………。




