頼もしい相棒
それから、今までと同じ修業を地道に続けた。
基礎鍛錬。剣術、魔法、氣。モンスターとの戦闘。
睡眠時間は五時間程度(本当は睡眠は要らないらしいんだけど、異世界に行ったらそうはいかないので、生活リズムとして老子はサービスで俺に寝ることを許してくれた)
それ以外は全て修業に当てた。
そんなある日。
今日、老子が用意してくれたモンスターのボスは巨大な狼だった。
美しい銀色の体毛に覆われた狼。
この狼はとても強く、ドラゴン等よりもよほど苦戦を強いられることとなり、数時間において戦いは繰り広げられた。
ようやく狼は膝をつき、戦いは終わったかに見えた。
「手強かったな。だが、これで終わりだ」
軽く息が乱れている。
こんなに苦戦したのは久しぶりだ。
剣を振りかざし最後の一刀を浴びせようとした時。
「強き者よ」
「ん?」
老子の声じゃない。
誰だ、誰が今・・・。
「強き者よ」
「ひょっとして、お前か?」
俺は目の前にいる狼が語りかけているのだと察した。
モンスターって喋るんだ。
「我は敗れた。ここで命を失っても仕方がない。だが、頼みがある」
「頼み?」
「強き者よ。貴方を主として我に仕えさせてもらいたい」
「あ、主? 俺を?」
「そうだ。我を倒した貴方に、どうか、どうか」
こいつは急な展開になってきたな。
まさか、こんな風に仲間にしてほしいってモンスターが出てくるとは。
「ほっほ。仲間にしてはどうかの」
「老子」
聞いていたのだろう。
老子が近寄って来てそう言った。
「そのモンスター、飛び切り強力じゃが、忠誠心は高い。一度付き従えば地獄の底まで付いてくるタイプじゃ。異世界に行く君の助けとなるじゃろう」
「で、でも、こんなでかい奴は連れて歩けませんよ」
「お主、小さくなれるじゃろ?」
「可能だ」
そう言うと、狼の姿が縮んでいき、俺と同じくらいのサイズになった。
おお、便利だな。
「これで構いませぬか、主?」
もう主って呼ばれちゃってるよ。
「お前さん。名は?」
「フェンリルと言う」
フェンリル。
なんか滅茶苦茶かっこいい名前だ。
感動していると、老子が俺の手を触る。
「老子?」
「ちょっと待っとれ」
老子が何やら念じると、手の甲に、なんらかの紋章が出現した。
それは淡く輝きを放ち、狼と包む。
「勢馬君。こう、言うんじゃ『汝、我との契約に応じるか?』と」
「はい。汝、我との契約の応じるか?」
「応じる」
狼がそう言うと包み込んだ光は狼と共に消え、俺の手の甲に吸い込まれていった。
「わわ、老子。これってなんですか?」
「『召喚紋』と言う。君は先程契約したモンスター、フェンリルをこれでいつでも呼び出すことが出来る」
「へ、へぇ。本当にモンスターを仲間に出来るんだ」
「そんなモンスターは稀じゃろうがな。だが、君は倒したモンスターの数が数じゃ。中にはそんなモンスターもいるだろうよ」
「じゃあ、これからも俺の仲間になってくれるモンスターもいるかもしれないってことですか?」
「可能性はあるの」
おお、なんだそれ。
ちょっと楽しくなってきたじゃないか。
モンスター使いとか名乗っちゃうか?
「さて、今日はもう終わりでいいじゃろ。食事にしよう勢馬君」
「はい、老子」
それからも俺はモンスターと戦い続け、何体かのモンスターを仲間に加えることが出来た。
そんな日々がいつ終わるともなく続いた。
そして、七百年目。
「君に教えることはもうない」
とうとう老子から免許皆伝を授かった。
「ほ、本当ですか老子!」
俺は老子に認められた感動で思わず目に涙を浮かべてしまった。
「うむ。まあ、修業しようと思えば終わりなどはないし、『成長限界突破』のスキルを持つ君なら、何処までも強くなれるが。十分強くなったからの。まあ、良しとしよう」
「あ、ありがとうございます!」
「では、最終試練」
喜びもつかの間。
老子の眼光が光った。
俺は思わず息を吐いた。
老子がこんな顔をするところを長い間、接してきて初めてだったのだ。
老子は、一本の刀を取り出すと、抜いて構える。
「わしから、一本取ってみよ」