報告
戦争が終結し、凱旋パレードの準備に追われる中で、砦を守護していた将軍の一人が王に報告を行っていた。
その内容は余りにも現実離れしたもので、誰もが耳を疑った。
「一万のモンスター・・・」
「この王都全てを飲み込むほどの大魔法?」
本当にそんなことがあり得るのか?
半信半疑でいることは罪ではないだろう。
「本当です。この目で見ました。私だけではありません。多くの者が目撃したのです。あの奇跡を!」
将軍は何かに魅入られたような表情で続ける。
「あのお方に逆らってはなりません。逆らえば国が滅びます。あのお方は、きっと神の御使いに違いない」
何が御使いだ。
馬鹿馬鹿しい。
だが、目撃情報は多数ある。
この報告は事実。
考えられないことだが事実なのだろう。
アルバレス王もこんな結末になるとは思いもよらなかった。
如何にセイマといえども、十五万の大軍をすぐにどうにか出来るとは思っていなかった。
S級冒険者と協力し、何日かかけて戦えばあるいは何とかなるのではないかという希望的観測の元で頼んだのだ。
それが、たった半日で戦争を終結させてしまった。
一つはっきりしたことがある。
報告した将軍の言う通り、セイマに逆らってはならない。
逆らえば、誇張抜きに国が亡ぶ。
王国滅亡は回避できたが、代わりに大きな爆弾を背負ってしまった。
セイマは王の上にあり、何者も逆らうことのできない存在となってしまったのだ。
(だが、きっと大丈夫だ)
セイマは善良な人間だ。
そもそも奴隷解放運動も為政者から見たら困った活動だったが、一人の人間としてみたら、感心する行動ではあった。
方法は暴力を含み、褒められたものではなかったが、憲兵たちには死者を出さないという気配りが見て取れた。
この国が正しい道を歩む限り、そう大きな衝突はあるまい。
今はそう、信じることにしよう。
遠い地。
帝都の城でも同じような報告がなされていた。
当然、信じられる内容ではなく、皇帝オデニーはナワナワと震えていた。
「ふ、ふ、ふざけるなーーーーーーーー!!!!」
玉座を叩いて立ち上がる。
「一万のモンスターだと? 帝都を飲み込む大魔法だと? 何を夢見ているのだ。そんなことがある筈がないだろうが!!」
報告した幕僚は震えながら続けた。
「ほ、本当です。確かに見ました。見たのは私だけではありません。逃げ帰った多くの兵がその光景を目の当たりにしております。あ、あいつは、悪魔の化身に違いない・・・」
味方であれば頼もしい神の御使いでも、敵であれば恐ろしい悪魔の化身だ。
セイマは出撃した帝国兵の中で恐怖の対象となった。
「こ、こんなことがあってたまるか。どれだけ準備に金と時間を費やしたと思っている? 各国から非難の声も多数届いているというのに!」
血管が浮き出し、歯ぎしりをしながらオデニーは気がおかしくなりそうだった。
逃げ帰って来た兵士たちは皆、戦意を喪失しており、とても使えたものではない。
退役を望む者も後を絶たない。
しかも、今回の挙兵で帝国内のほとんどの兵を使ってしまった。
一度しか使えない大々的な作戦だったのだ。
もう次はないのである。
「そんな、たった一人の男の為に余は敗れるのか!」
振り上げた拳の落としどころがないまま、オデニーはどうすることも出来なかった。
と、何やら騒ぎがする。
それがどんどん大きくなっていく。
何事かと思えば、一人の兵が飛び込んできた。
「何事か!?」
「陛下。お逃げください。て、敵襲です!」
「なっ、王国か!?」
王国が反撃し、領土を奪いに来たのか!!
そう思ったが。
「ひ、一人です。一人のやたら強い男が!!」
一人。
強い男。
「・・・まさか」
オデニーが身体を強張らせていると、その男が悠々と謁見の間に入って来た。
その男を見た報告を終えた幕僚は、悲鳴を上げる。
「ひぃーー! 陛下。こいつです。こいつがセイマです!!」
やはりか!
こんな、こんなどこにでもいそうな男の為に我が軍が。
「やあ。邪魔するよ」
「無礼者! 控えろ! ここを何処だと思っている!」
オデニーが叫ぶもセイマはまるで気にした風もなく、オデニーの方に歩いてくる。
そのまるで緊張感を持っていない男にオデニーは不快感を露わにした。
「この痴れ者めが! お前たち何をしている? この男を捕え、いや、殺せ!」
オデニーの命で、部屋にいた騎士たちがセイマを囲み、一斉に飛び掛かった。
しかし、
一閃。
セイマの剣が振るわれ、数人の騎士が吹き飛んだ。
オデニーは目を見張る。
・・・本当に、強いのか?
「さて、皇帝。俺がここに来た理由が分かるか?」
「・・・ふん。損害賠償でも求めに来たのか?」
「それは国同士でやってくれ。俺はあんたに釘を刺しに来たのさ」
「何ぃ?」
「今後、王国に手を出すことは許さない。俺がさせない。それを伝えに来た」
オデニーの怒りは頂点を超えた。
こんな若造に上から!
「ふざけるな若造がーーーーー!! 貴様などに言われて、はいそうですかと聞くと思うか!」
オデニーは持っていた腕輪を高く掲げる。
それには確かな魔力が込められており、謁見の間に魔法陣が出現した。
「出よ。アダマンタイトゴーレム!!」
カッと魔法陣が光り輝き、ずるずると下から巨大な一体のゴーレムが出現した。
「はっはっは! 見よ。世界最硬の金属といわれるアダマンタイトから作られたゴーレムよ。何者にも破壊することが出来ん。無敵のゴーレム。我が帝国の守護神。一万のモンスターだか何か知らんが、この一体さえあれば、全て薙ぎ払ってくれるわ! がははははは!」
斬!!!!
「はははは・・・あ? あ、あ あ〝 あ ぁ あ あ - !!」
ガランガランと音を立てて、四肢を斬られたゴーレムが床に転がる。
頭だけがグルグル動いているがもう何も出来ない。
オデニーは現実を受け入れられず、固まっていた。
「終わりか?」




