大魔法
「なんなのだ! なんなのだこの状況は!?」
一万のモンスターによって、帝国軍は瓦解していく。
戦況は完全に覆ってしまった。
まだ、持ちこたえている部隊もいるが、敗走を始めている部隊も見受けられる。
「サウンドマスターが喚びだしたと思わしきモンスターの消滅を確認! サウンドマスターの生死不明!!」
「あ、あの役立たずがあーー!!」
何がサウンドマスターだ。
全くなんの役にも立たなかっではないか。
サウザーはサウンドマスターを呪った。
(こ、このまま負けてしまうのか? 十五万もの大軍を揃えたのに。こ、ここで負けたらわしはどうなる?)
帝国各地から兵を呼び寄せ、魔族の侵攻によって、各国が一丸となっていこうとサミットで呼びかけがある中での乱暴な作戦決行だ。
各国から叩かれるのを承知で攻め込んだのも、勝ってしまえば、採算は取れると踏んだからだ。
それが負けるとなると、どうなる?
大惨敗し、各国から責められ、王国からはおそらく多額の損害賠償を請求される。
その責任を誰が取る? 自分だ。
自分はどうなる?
決まっている、あの無慈悲な皇帝のことだ。
間違いなく斬首だ。
嫌だ!
せっかくここまで上り詰めたのだ。
こんなところで終わるなど。
「たった、たった一人に・・・」
なんという理不尽!
こんなことがあっていいのか!?
その時、巨大なドラゴンからブレスが吐かれ、それが一条の道となった。
そこに、
一人の男がゆっくりと歩いてきた。
その男が進む先にいるモンスターたちは皆、一様に跪いている。
その異様な光景に、兵たちはどうしていいのか分からずに、動けずにいた。
それはまるで聖者の行進の様に、炎で分かれた道の真ん中を悠々と歩き、その男はサウザーの元までやってくる。
こいつだ。
こいつが、契約者だ。
サウザーは怒りを燃やす。
こいつさえいなければ!
「き、貴様がモンスターの主だな!?」
「そうだ。勢馬っていう」
男はセイマと名乗り、更に続けた。
「D級冒険者だ」
D級。
D級だと?
これだけのことをしておいて、そのランクがS級ではなくD級だと?
「ふざけおってぇ!」
サウザーはかつてないほど憤っていた。
「断じて許さん!」
「それはこっちのセリフだ」
セイマはサウザーの声に被せるように怒りをぶつける。
「何故、村々を焼き払い、村人を殺した? そんなことをする必要がどこにある?」
その質問にサウザーは鼻を鳴らす。
「帝国は逆らう者には容赦しない。食料も渡さず、女も提供出来ない。そんな村は焼いてしまうに限る!」
「・・・そんなことで」
「従順な者には寛容を、逆らう者には死を与える。これが帝国。皇帝が目指すべき覇道よ!」
「分かった。もういい」
それ以上、言葉は要らない。
聞きたくないとばかりにセイマはサウザーの口を塞ぐ。
そして、二人は示し合わせたように剣を抜いた。
構えを取り、両者相手に向かって走り出す。
そして、激突!
交差して分かれ。
倒れたのはサウザー。
セイマは残身し動かない。
「さ、サウザー将軍がやられた!?」
「そんな、将軍はユリアール剣術免許皆伝だぞ!?」
「もう駄目だ。おしまいだ!」
他の幕僚たちが騒いでいる。
中には逃げ惑う人間もいた。
「動くな」
セイマが短く言葉を発すると、それは呪いの様に伝播し、兵たちの動きを封じる。
完全にこの場を支配していた。
「このまま逃げ帰るなら追ったりしない。だけど、その前に見せておきたいものがある」
「見せたいもの、だと・・・?」
セイマは辺りを見渡すと、地平線を見やり、そこが何もない荒野であると確認する。
そのまま魔力を練り上げた。
ゴゥ!! という音と共に練り上げられる魔力。
その余りに余波に、兵たちは驚いて尻餅をついた。
大気が振動し、地面が揺れ、局地的な地震が起こる。
空を見上げれば雷雲が立ち込めている。
まるで世界の終りのような光景だ。
「其は終わりを告げる者なり」
それは呪文だ。
魔法の定石として、今は無詠唱が主流になっている。
そちらの方が断然早いからだ。
だが、中には詠唱が必要な魔法もある。
主に複数人で行わなければならない大魔法だが。
今、この男はその大魔法を使おうとしているのか?
「誘うは破滅への序曲。
求めるは破壊と崩壊。
来たれ、世界を分かつ雷よ。
来たれ、この世を埋め尽くす大海よ。
来たれ、全てをなぎ倒す狂嵐よ。
我、ここに神を弑逆せしめん。」
突き出される手。
目標ははるか先の荒野。
そして、魔法名が告げられる。
「神を滅ぼす破壊の魔法」
瞬間。
破壊が巻き起こった。
広い荒野全てを飲み込む強大な破壊の渦が巻き起こり、全てが崩壊した。
全てが爆ぜ、倒壊し、飲み込み、埋め尽くす。
大破壊、大崩壊、天変地異。
もうもうとする煙。
巨大なキノコ雲が出来上がり、大気を震撼させる。
正にこの世の終わりのような光景だった。
しばらくすると光は収まり、後には何もなかった。
あらゆるものが破壊され、消滅していた。
帝都を飲み込むほどの広い面積全てが魔法の対象内。
そこで生存出来る者など皆無であった。
ある者は空いた口が塞がらず。
ある者はその場で失神し。
ある者は失禁し。
ある者は震えながら蹲り。
ある者はその場で何やら祈りを捧げている。
それを引き起こしたセイマはその光景を眺め。
「手加減が過ぎたな。まあ、これ以上は不味いか」
そんなことを言った。
誰も何も言えなかった。
これで手加減。
現実味がなさ過ぎだ。
「俺はいつでもこれを撃つとこが出来る。お前達の帝都でも、街でもどこでも。皇帝に伝えろ。もし、これ以上王国にちょっかいをかけるようなら、これを撃ちに行くと」
誰もが蹲るようにその場で膝をついた。
ここに戦争は終結した。
帝国側、死傷者 十万三千九十八人。
王国側 死傷者 五百六十二人。
セイマのモンスター 死傷者 ゼロ。
この日、神の御使いが降臨したと、所々で囁かれるようになった。




