呼び出す
王都を離れた俺は、まず戦場に行くのではなく、離れた村に降り立った。
そこは帝国の侵攻途中にあった村。
帝国が侵攻の最中に訪れた村をどうしたのか気になったのだ。
そこにあったのは殺戮の跡だった。
焼き払われた家々。
略奪された食料。
転がっている死体、死体、死体。
ほとんどが男だ。
女は慰みものにされたのだろう。
「酷いな」
これが戦争か。
ここまでしないといけないのか?
人間とはここまで出来るものなのか?
辺りを見渡し、生存者を探したが発見出来なかった。
「これが帝国のやり方か。容赦する必要はなさそうだ」
俺は空を見上げる。
老師、今も見てくれていますか?
「十五万人の殺害か。どんな極悪人でも言い訳出来ないな。老師、俺が死んだら遠慮なく地獄行きにして下さい」
俺は風を纏い、戦場に向かった。
王都から離れた場所に位置する堅牢な建物。ローグ砦。
難攻不落と讃えられた頑強なその要塞は歴史上、多くの侵攻者を防いできた。
ここが正真正銘最後の砦だ。
ここを抜かれると、王都までは平原が続き、帝国を阻むものは何もない。
そんな中、砦を守る二人の守護神がいた。
「はああああああ!!」
「おらーーーーー!!」
カルラが小刀を振るうたび、敵が斬り刻まれていく。
ゴラムの戦斧が敵を吹き飛ばす。
この二人も戦争に駆り出されていた。
いや、この二人だけではなく、王国に所属する多くの冒険者と言うべきか。
二人は敢えて砦に籠るのではなく、外に出て白兵戦を挑んでいた。
少しでも敵の数を減らそうと思ったのだ。
これで敵の士気を少しでも挫くことが出来れば万々歳である。
だが、その思惑も芳しくはなかった。
「はあはあ、何人倒した?」
「さあ、百人くらいまでは数えたけどね」
倒しても倒しても減っていく気がしない。
見渡せば、うんざりする程の敵、敵、敵。
周りは敵だらけだ。
「十五万人いるからね」
「チッ、まだまだ働かねーといけないってわけかよ」
ゴラムはカルラに近づきボソっと呟く。
「カルラ。いよいよとなったら俺はフケる」
「ゴラム・・・」
「俺は兵士でも騎士でもねー。冒険者だ。こんな所でくたばるのはごめんだ」
正直、気が滅入ってくる。
普段、冒険者が相手にするのはモンスターだ。
人を相手にするのは、護衛などで雇われた時に遭遇する山賊相手が精々。
こんな集団戦の経験はない。
ここまで人を殺したことはない。
精神がすり減ってくるのを感じる。
慣れればいいのかも知れないが、慣れるのもどうなんだ? という気持ちもある。
こんな戦場には一秒だっていたくなかった。
「そうだね。あんたの気持ちは分かった。まあ、あたしはここで最後まで戦うけどね」
「おいおい、正気かよ?」
ゴラムは目を瞬かせてカルラを見た。
そんな義理などないだろうに。
「あれを見な」
カルラが視線を送った先には砦の城壁でこちらを見ている兵士たちの姿があった。
皆が自分たちに希望を見出している。
この人たちがいるなら自分たちはまだ戦えると、そう思っている。
「あれだけ期待されちゃね。頑張りもするさ」
「・・・クソが。しょうがねーな」
ゴラムは戦斧を担ぐ。
「やる気になったかい?」
「死ぬのはごめんだ。撤退のタイミングを絶対に見誤るんじゃねーぞ」
それを聞いてカルラは苦笑した。
その時だ。
頭上から何かが降ってきた。
二人は目を丸くするが、それは二人の知る人物だった。
「や、お疲れさん」
「あ、あんた!」
セイマだ。
先日散々やられたあのセイマだ。
二人は距離をとって警戒した。
「ああ、警戒しなくていい。ここに来た目的はあんたらと同じだから」
「なんだって?」
「あんたらも王国軍の手伝いに来たんだろう? 俺もそうなんだ。王様直々のご指名でね」
それを聞いて二人は肩の力を抜く。
「あんたが手を貸してくれるなら心強いよ」
「そうだな。がーはっは! なら肩を並べて戦おうぜ!」
セイマは一騎当千だ。
敵はまだまだいるが、スタミナ配分を間違えなければ、もしかしたら、もしかしたら可能性があるかも知れない。
そう、淡い希望が胸に灯る。
「休んでいいよ。ここからは俺がやる」
「「は?」」
二人は虚を突かれてポカンと口を開けた。
「いやいや、いくらあんたでも敵は十五万だよ?」
「そうだぞ。ぶっちゃけ、個人でどうにかなる数じゃねーって」
二人が慌てて忠告するも、セイマは酷くマイペースで「いっぱいいるなー」と、周りを見渡している。
「そうだね。一人でもなんとかなると思うけど、ここは俺も数に頼ろうかな」
「いや、他の兵士は前には出てこないよ? 砦に篭って守りを固めた方が堅実」
「いや、兵士じゃなくてね」
どうにも要領を得ない。
この男は何が言いたいんだ?
セイマはクスリと笑うと手を前に突き出した。
「出ろ、俺の仲間たち」
そう言った途端、セイマの手の甲が光り始め、そこから何かが出てきた。
ギョッとして見つめるとそれはモンスターだった。
思わず武器を構える二人。
「ああ、攻撃しないでね。俺と契約したモンスターだから」
「契約?」
「あんた契約者コントラクターだったのかい!?」
ずっと魔法剣士だと思ってた。
あまりの意外性に二人はたじろぐ。
二人が驚いている間に、次々出てくるモンスターたち。
次々と、次々と。
「お、おい・・・」
「一体、どれだけ・・・」
出てくる。
溢れてくる。
湯水の如く、止めどなく。
驚いているのは二人だけではなかった。
帝国側も当然困惑していた。
「お、おい。あれってモンスターか?」
「な、なんで王国側にモンスターが?」
「あっちにも契約者コントラクターがいたのか?」
「ど、どんどん出てくるぞ!?」
「いっ、一体どれだけ!?」
「ひ、退けえ、一旦退却!!」
帝国は慌てて本陣に戻っていく。
その間にも出てくるモンスター。
本当に一体どれだけいるというのか?
砦に籠っている兵士たちも困惑していた。
この溢れ出るモンスターの大軍はいつ止まるのか、と。
そして、
「全員出したのは、初めてか」
セイマは辺りを見渡す。
モンスター、モンスター。全てモンスター。
その数ざっと、
「俺の仲間。万のモンスターたち。俺に力を貸してくれ」




