戦争の足音
今日はクレアと一緒に買い物だ。
この間のワルアークが絡んだ誘拐事件を反省して、俺の仲間を何人か喚び出して警護につかせている。
これで戦力は万全だ。
誰が来ようとそうそう遅れをとることはない。
市で食材を物色していると、あるものに目がいった。
これって・・・。
「ほお、兄さんそれに目をつけるか」
「おじさん。これってもしかして」
「醤油だよ」
やっぱり!
※本当は異世界の言葉で別の名前だが、統一するために醤油としている。
この世界にも醤油があったのか!
「これ、セイマお兄ちゃんが使ってたソース?」
「ああ、そうだ」
これならこの醤油を使ってラーメンを作ってもいいかもしれない。
更に驚くべきことに、その隣に置いてあるものに俺は度肝を抜かれた。
「こ、これって味噌!?」
「ああ、味噌さ」
おじさんは笑う。
醤油も味噌も大豆から作られるもの。
加工技術が進めば出来ないことはないと思ったけど。
「おじさん。醤油と味噌をください」
「毎度」
やった。
味噌ラーメンや味噌汁が作れる!
俺は浮かれて財布を取り出して、落としてしまった。
おっと、うっかり。
財布を拾い上げてなんとなく辺りを見渡すと、市にいつもの活気がない事に気がついた。
「おじさん。今日ってなんかあったの? 人通りがいつもと違うみたいだけど」
おじさんに尋ねると、笑っていた顔を顰め、ため息をつく。
「兄さん知らないのか? 戦争だよ。戦争が始まったんだ?」
は?
「戦争! この国が!?」
「ああ、隣国の帝国とな。旗色はどうも悪いらしい。だから、引っ越しをする奴らといるって話だ」
「そう、なのか」
「俺もよ。引っ越そうかと考えてるんだ」
戦争。
日本で育った俺には馴染みのない言葉。
だが、いま足元でそれが起こっている。
「セイマお兄ちゃん。せんそうって何?」
クレアが首を捻って尋ねてくる。
そうか、まだ戦争という言葉を知らないか。
一瞬誤魔化そうとも思った。
だけど、戦争が起こっているのはこの国だ。
他人事ではない。
「大勢の人と人が殺しあうことさ」
「え、やだ。怖い」
クレアは怯えた様子で俺にしがみつく。
俺は優しくクレアの頭を撫でた。
「大丈夫。クレアも孤児院の皆も俺が護る」
「うん!」
クレアは目を細めて頷いた。
必ず、皆を護る。
これは俺、高梨勢馬の誓いだ。
王城では軍議が開かれていた。
王の他にも軍部を預かる元帥や将軍。宰相など、多くの貴族が集まっている。
だが、軍議は難航していた。
「敵は十五万騎の大軍勢。既にアーロン砦まで抜かれ、尚も進軍中」
十五万。
その言葉が全員の肩を重くのしかかる。
「それは、あちらの全兵力なのではないか? そこまでして我が国を落としたいか!」
貴族の一人が憤りを露わにする。
「更にそれとは別にモンスターの姿も確認できるとのこと」
ざわりと、会議室が揺れた。
「モンスターだと? どういうことだ!?」
「おそらく、召喚師か契約者がいるのでしょう。完全にモンスターの動きを掌握しているらしく」
「なんということだ」
会議室の空間が更に重くなった。
十五万の軍勢だけでも頭を抱えたくなるというのに、そこに加えてモンスターまでとは。
「可能性ですが、音に聞くサウザンドマスターが裏で糸を引いているのではないかと」
「サウザンドマスター!? あの千のモンスターを操るというあいつか!!」
モンスターが千匹。
ものによっては人間よりも厄介だ。
「こちらの兵力は?」
王が尋ねると、元帥は眉に皺を寄せる。
「各地から招集をかけている所です。現在すぐ動かせるのは二万。集結させても、十万に届くかどうかといったところです」
「・・・そうか」
総勢十万。
五万の開きがある。
分かっていたことだが、軍事力に置いて、大きく水をあけられた形となった。
宰相が発言する。
「集まった兵から随時投入するというのは如何か?」
「それは、愚策でしょうな。圧倒的な数の差で埋め尽くされてしまいます。こちらも数を揃え、総力戦で挑むべきかと」
別の貴族が発言する。
「しかし、それでも数の上で負けているではないか。それに帝国兵は精強と聞くぞ」
数では抜かれ、質でも敵わないかも知れない。
一体どうすれば。
アルバレス王が尋ねる。
「このまま行くと、敵はどれ程で王都まで到達する?」
「早ければ、十日程で。対してこちらの兵が集結するには最低でも二週間はかかります」
王は唸る。
「陛下。ここは王都を捨てる覚悟も必要かと存じます」
「余にこの王都を捨てよと申すか」
「はっ。苦渋の決断ではございますが、兵の集結を待ち、勝負に挑んでも、遅くはないかと」
確かにそれも一つの策だ。
仮に、領土をいくらか取られようとも、取り返すことは出来る。
ここで生き延びさえすれば。
しかし、この時アルバレス王は全く別のことを考えていた。
一つの妙案。
上手くいけば一石二鳥の手を。
「ライアスよ」
「はっ」
「お前に使いを頼みたい」
「使い、ですか?」
「そうだ、あの男を連れてきて欲しいのだ」
「あの男・・・まさか、陛下」
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