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人質

 薄暗い倉庫でクレアとカイは縄で手足を縛られていた。

 何故こんな事になってしまったのだろうか?

 買い物途中で突然攫われた。

 何がなんだか分からないままにここにいる。


 怖い。

 これから自分たちはどうなってしまうのだろう。

 クレアはカイに話しかける。


「だ、大丈夫だよ。きっとセイマお兄ちゃんが助けてくれる」


「う、うん。そうだね」


 セイマなら、こんな状況を打破してくれる。

 あの時、カイを助けたように。


 二人の話を聞いていたのか、拉致したグループのリーダーと思しき人物が笑った。


「ふっ、セイマが来てくれるか。こっちとしても、来てもらわなくては困るからな」


「な、何?」


「お前たちは人質だ。お前たちが側にいる限り、セイマは何も出来ん。ただなぶり殺しになるだけだ」


「ひ、卑怯者!」


 なんとなく分かる。

 こいつらは一度はセイマにやられたことがあるのだ。

 だから卑怯な手を使ってセイマを追い詰めようとしているのだろう。


「黙れ! ふっ、大人しくしていればお前たちは返してやるぞ。だが、手間をかけるようなら足の腱を切る。静かにしていろ」


「く、くぅ」


「どうしよう。僕たちのせいでセイマお兄ちゃんが」


 自分たちが大好きなセイマの足手纏いになる。

 それは絶対に嫌だ。


 身を動かして縄を解こうとするも、縄は食い込むばかりで緩む気配はない。

 悔しくて怖くて涙が出てきた。


「はっはっは。怖いか! お前たちもセイマなどに関わらなければよかったのだ!」


「セイマお兄ちゃんを悪く言うな。悪者め!」


 カイがムキになって怒鳴るとリーダーと思しき人物の顔色が変わる。


「悪者? 悪者だと!? ふざけるな! 悪はセイマの方だ。正義は我にあり!」


 誘拐犯が何をほざくのか。

 少なくとも二人にはここにいる人物たちが正義の味方だとは到底思えなかった。


 その時。


「ダッツニール様。来ました、セイマです!」


「来たか!!」


 顔をこわばらせたダッツニールは、緊張した面持ちで頷く。


 セイマが来た。

 来てくれた。

 それだけでとても嬉しい。

 だけど、駄目だ。

 人質となっている自分たちがいる限り、セイマは自由に戦えない。

 二人の子供たちの心にそれが重しとなって押し寄せてきた。


「ようし、ここに連れてこい! 奴め、今度こそこの手で」


 ドオォーーーーーーーーーン!!


 倉庫の厚い扉が吹っ飛んだ。外から現れたのは、やはりセイマだ。

 俯いていて顔がよく見えない。


「セイマお兄ちゃん!」

「駄目。罠だよ!」


 二人はセイマに呼びかけた。

 セイマは二人を認め、縄で縛られていることを確認すると、光っていた目の光がなくなり、黒で染まる。

 そして、鋭い眼光でダッツニールを睨んだ。


「うっ」


 ダッツニールはその圧に押され一歩下がる。

 二人の子供たちはゾッとした。

 普段、穏やかなセイマしか見ていなかったからだろう。

 こんなセイマは初めて見た。


 怒っている。

 怒り狂っている。

 あのセイマが激怒している。


「・・・ふっ、来たかセイマ。これを見ろ! この子供に危害を加えてほしくなくば、そこでじっとしていろよ」


 ダッツニールは呼吸を荒くしながらセイマに命じた。

 正直セイマに睨まれただけで生きた心地がしないだろうに、なんとかそれに耐えている。


「お前、ワルアークの所の兵士長なら貴族だろう? そんな小さな子供を攫って、何も感じないのか? この恥知らずが」


「だ、黙れ! 貴様を殺す為ならどのような犠牲も厭わぬ」


 殺す。

 セイマが殺される。

 二人は心を鷲掴みにされ、恐怖にかられた。

 その様子を見たセイマはダッツニールに見せる顔とはまるで別の優しい顔を見せる。


「二人共。大丈夫だよ、必ず助けるからね」


 そう言ってセイマはリストバンドを外しながら、一歩前に出た。


「おっと! それ以上動くなよ? 動けば子供がどうなるか分かっているだろうな!」


 ダッツニールは取り出したナイフをクレアの首元に突き立てる。

 クレアは恐怖で目を瞑った。


「ははははは! これまでだセイマ! これまでコケにしてくれた礼をここが あ ぁ あ あ あ ー ー ー!!」


 ダッツニールの悲鳴が上がり、クレアは目を開けた。

 すると、先ほどまで離れた場所にいた筈のセイマがダッツニールの腕を捻っている。


「ば、馬鹿な! この一瞬で移動しただと!? スキルか!?」


「いや、走って移動しただけだ」


 セイマはそう言うと更にダッツニールの腕を捻る。


 ボギン!!!!


 ダッツニールの骨が折れた。


「あ あ あ あ ぁ ーー!」


 セイマは容赦なく折った腕を更に捻る。

 あまりの激痛にダッツニールは白目を剥いて発狂した。


 人質はあっさり奪われた。

 この時、ダッツニールが連れていた部下数人は既に逃げ出していた。


 セイマが腕を離すと、ダッツニールは股を広げたまま座り込み後退りした。

 セイマはこの隙に二人の縄を解く。


「「セイマお兄ちゃん!」」


「もう大丈夫だ」


 セイマは優しく二人の頭を撫でる。

 その後で、ダッツニールを睨み、刀の鯉口に手をかける。


「ひっ!?」


 ダッツニールはカタカタと震えながら、命ごいをする。


「す、すみませんでした! 全てはワルアークに命じられてやったことです! どうかお許しを!」


 さっきまでの態度が嘘のような低姿勢だ。

 セイマは構わず刀を抜く。


「わ、私はもうワルアークと縁を切ります。もう二度と貴方様の前に現れません! だ、だからどうか!」


「・・・」


 セイマは無言。

 無言のまま、刀を振り上げる。

 ダッツニールは死を覚悟した。


 その時、


「セイマお兄ちゃん」


 セイマの服を摘んで呼び止めるクレアの声がした。

 黒一色に染まっていたセイマの瞳に光が灯る。


「・・・子供の前で血を見せるのもな」


 セイマは刀を鞘に戻した。

 よく分からないが助かったと悟ったダッツニールは涙を流しながら喜んだ。


「これからワルアークの所に行く。お前もついて来い」


「は、はい。分かりましたー!」


 元凶のワルアークは絶対に許さない。


 セイマはワルアークの元は急ぐのだった。


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