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神の速度

 カルラがセイマに肉薄する。

 セイマがカルラの方を向くと、カルラの体がブレた。

 いくつもの残像が浮かぶ。

 一、ニ、三と更に残像が増えていく。


「スキル発動! 神速、十影斬!」


 十に及ぶ残像がセイマを襲う。

 カルラ必殺の一撃であった。

 今度こそ決まった。

 そう、思った。


 その時、セイマの体もブレた。


「なっ、消え!?」


 見失った。

 振り向くとそこにはセイマがいた。

 百を超える残像を生み出したセイマが。


「ーーーーーーっつ!?」


「剣神雷鳴流。朧月夜」


 腹に衝撃を受けて吹き飛んだ。

 軽く攻撃を喰らったらしい。

 しかし、今は攻撃を受けてことよりも自分より遥かに多くの残像を生み出せたことの方がショックは大きかった。


「まさか。あたしの神速よりも速く動けるとはね」


 カルラは汗を拭う。

 まさか、ここまでの化け物とは。

 試すなど、とんでもなかった。

 いや、試されているのはこちらだった。


「神速?」


 カルラの言葉がセイマの何かに触れた。


「あれが神速か?」


「そういうスキルだし、あたしの二つ名でもあるんだけどね」


 セイマは無言で装着していたリストバンドを外す。


「神速。神の速度。なら、最低でも」


 セイマから何かが吹き出した。

 なんなのかはわからない、ナニカだ。

 カルラは目を見開き、どんな攻撃がこようと対処してみせると、緊張感を最大に、五感を尖らせた。






 次の瞬間、セイマの刀が首筋に当たっていた。


「ーーーーーーーーーーーーー!?」


 斬られてはいない。

 ただ当たっているだけだ。


 だが、反応できなかった。

 見えなかった。

 気配も感じなかった。

 知覚できなかった。


 気がついたら首筋に刀があった。


「神速というなら、これくらいは出来ないとね」


「・・・」


 カルラの中でポッキリと何かが折れた。


「・・・引くよ」


「あ? おい、カルラ?」


「分かるだろ! あたしらはこいつに生かされてたんだ。こいつがその気なら百回は死んでる。あたしらじゃ手に負えないよ」


「・・・ああ。そう、だな。そのまま戦っても勝てそうにねーしな」


 カルラは両手を挙げて降参の意思表示をする。


「あたしらはもうあんたとは関わらない。それでいいかい?」


「そう。まあ、楽しめたよ」


 セイマはにこやかに笑う。

 二人はドボドボと足取り重く去っていった。








 セイマから離れ、しばらく歩き、人気が無くなったところまで来ると、


「ーーはぁ! はぁ!! はぁ!!」


 カルラは大量の汗をかき、息荒く膝をついた。


「お、おい。カルラ。大丈夫かよ?」


「大丈夫じゃないよ・・・」


 あれ程の恐怖を味わったのは初めてだ。

 ドラゴンの巣穴に潜り込んで三匹同時に相手した時だってこれ程の絶望感を感じたことはなかった。

 まだ震えが止まらない。

 正直、ゴラムと一緒じゃなければ、本気で失神していたかも知れない。


「あんたもあの速度で剣を首筋に突き立てられてごらん? 生きた心地がしないよ」


「いや、あれは勘弁だ。近くで見てただけでも震えがくる」


 そうだろう。

 その気になればカルラなど、粉微塵にされていた筈だ。


「あーあ。クエスト失敗か。こんなの久しぶりだぜ。ギルドになんて報告すっかな」


「ギルドとしても信じがたいだろうが、あたしら二人で証言するんだ。信じざるを得ないだろうね」


「しかし、俺らが失敗したとなると、あの公爵どうするんだろうな?」


「あれをどうにかするのは無理だね。S級冒険者全員でかかっても無理だよ」


「そりゃー、流石に・・・いや、無理だわな、あれは」


 思い出しただけでも震えがくる。

 二度と関わるのはごめんだ。


「あいつ、ランクDだっけか? 詐欺じゃねーか」


「ギルドもこれで本気でセイマのランクを見直すかもね」


 二人は気が重いままギルドに報告に向かった。


 ちなみに何故ワルアークではなくギルドに報告に行くのかというと、ワルアークがギルドを通して二人に依頼したからである。


 報告を受けたギルドが仰天したのは言うまでもない。





「ま、また失敗しただとう!?」


 ワルアークは目をむいて怒り狂った。

 S級冒険者二人も雇ったというのにまた失敗。

 何故だ。

 何故うまくいかない。


 数でも駄目。

 質でも駄目。

 毒も効かない。

 一体どうしたらいいのだ。


「閣下。もう奴に関わるのは止めましょう。相手が悪かったのです」


「馬鹿を言うなダッツニール! ここまでコケにされておめおめと引き下がれるか」


 とはいえ、どうすればいいのかが分からない。


「何か、何か弱点はないのか弱点は・・・はっ、寝込みを襲うというのはどうだ?」


 ナイスアイデアとばかりにワルアークは指を鳴らす。


「寝込み、ですか。確か孤児院に寝泊まりしていると情報が入っておりますが」


「孤児院か。孤児院・・・孤児院?」


 しばらく考えをまとめていたワルアークは閃いたとばかりに破顔した。


「いける! これならいけるぞ!」


 カカカと笑ったワルアークはダッツニールの肩を掴む。


「ダッツニール。お前にも働いてもらうぞ」


「ご、ご勘弁下さい閣下。もう、あの男と関わるのは・・・」


「まあ、聞け。必ず上手くいく。この作戦とは」


 ワルアークはダッツニールにある考えを披露した。

 ダッツニールは渋々、もう一度セイマと相対することを決めたのであった。

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