サバイバルをしよう
「はあはあはあ、や、やった。やったぞ」
安堵のため息を漏らし、俺はその場に座り込んだ。
本気で死ぬかと思った。
正直モンスターなめてた。
これだけ修業したんだから楽勝なのではないかと思ったが全然そんなことはなかった。
腕はでかい代償だった。
腕がないとこれからの生活が非常に不便だ。
悔やんでも悔やみきれない。
俺がもっと慎重に立ち回っていれば、こんなことにはならなかっただろうと思うと悔しさが滲み出てきた。
「ほっほ、やったの」
「老子」
戦闘も終わり、老子がにこやかにやって来た。
随分と楽しそうだが、こっちはそんな気分じゃないんだよ。
「老子。俺の腕が・・・」
「ふむ。綺麗に撥ね飛ばされたの」
老子は俺の腕を拾い上げる。
「もう戻りませんか?」
ダメもとで聞いてみた。
「ん? 簡単じゃよこんなもの」
「えっ!?」
そう言うと老子は、落ちた俺の腕を欠損部にくっつけた。
するとどうだ。
みるみるうちに腕が綺麗に接続していくではないか!
「うえええええ!?」
「君、肉体はあるが、まあ死んでいるようなもんじゃからな。何をやっても死なんし、傷ついてもすぐに元通りじゃよ。よかったの。文字通り死ぬような修業でもここでなら耐えることが出来るぞ」
「い、いや、それはよかったのかなぁ・・・」
空笑いしか沸いてこない。
でも、腕が治ったのは本当に良かった。
だが、これが地獄の始まりだった。
「さて、では次のモンスターを呼ぶぞ。準備は良いか?」
「え、もう次ですか?」
「なんじゃ、まだ体力は残っておるじゃろう。さあ、どんどん出すぞ」
相変わらずのスパルタだなぁ。
それから毎日、今までのメニューを凝縮して、残った時間はモンスターとの戦いに費やした。
最初は一対一の戦いだったのだが、慣れてくるとそれが二体になり、三体になり、数はどんどん増えて大多数対一の戦いになっていった。
一体どれだけ戦っただろう。
もう気が遠くなるくらい戦った気がする。
毎日毎日。
身体がボロボロになるまで戦い続けた。
百体倒し、二百体倒し、五百体倒し、そして。
「い、一万匹。討伐完了」
俺はとうとう一万匹のモンスターを討伐した。
合計で一万ではない。
今日のノルマとして一万匹を討伐したのだ。
俺が周りを見渡すともう死屍累々となっており、見るに堪えない光景が広がっていた。
「ふむ。よくやったの勢馬君」
「老子・・・」
へへへ、やり遂げたぜ。
俺は空元気で手を振った。
「これまでの五百年ようやった。これからもバリバリと鍛えていくからそのつもりでな」
「はい、お願いします老子」
俺は姿勢を正して頭を下げた。
それからも俺の修業は過酷を極めた。
何もない闇の空間に放り込まれたこともあった。
なんでも人間は上下の感覚も無くなるほどの闇空間にずっといると精神に異常をきたすらしい。
俺もご多分に漏れず、しばらくその生活を続けていると心が病んでいった。
壊れるんじゃないかと思うギリギリで老子に開放され、少し休憩したらまた再開と言う鬼サイクルをやり続けた。
拷問を受けたこともあった。
これは文字通りの拷問で、老子ってば顔色一つ変えずに俺を縛り付けて殴り続けた。
死なないのをいいことに本来ならば死ぬような苦痛を味合わせ続けた。
なんでも痛みに耐える精神修業の一環だとかなんとか。
ほんとにそんなの意味があるのかと言いたいが、黙って従うしかなかった。
傷の痛みならモンスターとの戦いで嫌って程経験したっていうのに。
まあ、だからこそ耐えられたって部分もあるんだけどな。
老子が創り上げた無人島に放り込まれたこともあった。
ありがたいことにサバイバルの教本を一緒に持たされ、しばらくここで生活しろと言う。
あの白い空間にいた時、俺は食事も睡眠も規則正しく行ったけど、本来は必要がないという話だったのだが、この無人島ではその特権が取り上げられ、食事をしないと空腹が襲ってくる仕組みになっていた。
水魔法があったから飲み水の確保は簡単にできたが、食事はそうはいかずに、俺は野山を駆け回り、うさぎを追い回した。
捕まえたら捕まえたで、殺すのが嫌で目を瞑りたくなった。
はやり、こんな小動物を殺すのは、モンスターを殺すのとは勝手が違った。
それでもやらなければ生きていけなかったので、俺は死に物狂いでうさぎを捌き、それを糧にした。
キノコを採って食べてみたのだが、どうもそれが毒キノコだったらしい。
三日三晩苦しんだ。
もう二度とキノコには手を出すまいと誓ったのだが、そこに老子が現れて、こんなことを言った。
「どうせなら毒耐性を身につけよう。君の『成長限界突破』のスキルがあればそれが出来る筈じゃ。これから率先して毒を食べなさい」
この爺さんとんでもないことを言い出したぞ。
食えと?
毒を食えと?
俺は顔面蒼白になったが、老子の命令は絶対。
逆らえば何をされるか分からない。
ええい、死なないからってなんて無茶を言い出すんだこのじじいが。
俺は一心不乱で毒を食った。
毒キノコ、毒草、毒魚。
とにかく何でも食って、その度に寝込んだ。
その寝込みの間隔が徐々に狭まっていき、遂に毒を食べてもなんともなくなった。
俺は毒耐性を手に入れたのだ。
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