奴隷解放
暗い地下室で子供たちが泣いている。
ここは人攫い一味のアジトであった。
ここで奴隷となった子供たちは奴隷商に売られていくのだ。
攫われた子供たちは不安と恐怖で一様に泣いていた。
これから自分たちはどうなってしまうのか?
もう家に帰ることは出来ないのだろうか?
何故自分たちがこんな目に遭わなければならないのか?
明るい未来を描くことが出来ず、子供たちは泣いた。
「ママ〜」
「ひっく、ひっく・・・」
「誰か助けて・・・」
「お腹すいた」
そこに一人の男が降りてきた。
カシラと呼ばれていた男、おそらくはこの人攫いの一団のリーダーだ。
「おーおー、泣いてんじゃねーぞ餓鬼ども。これからてめーらには新しい生活が待ってるんだぜ?」
新しい生活。
両親から引き離されて奴隷として生きる生活。
誰がそんな生活を望むというのか。
「くっくっく。そう悲観するな。もしかしたら貴族に買われるかも知れねーぞ。そうなったら今よりもいい生活が出来るかも知れねえ。あー、羨ましいな」
男は心にもないことを言う。
勿論羨ましくなどない。
誰が好き好んで奴隷などに落ちるものか。
確かに貴族に拾われれば人並みの生活は出来るだろうが、そんなのはごく一部の幸運な人間だけだ。
大抵は悪辣な環境で馬車馬の様に働らかされる。
そして、成人を待たずして、過労か病気などで死ぬだろうことは目に見えている。
男はこの子供たちに同情など微塵もしない。
子供を攫い、金を貰って美味い酒を飲み、美味い肉を食い、娼館でいい女を抱く。
そんな刹那的な快楽に溺れてこの男、この人攫いの一味は生きてきたのだ。
だが、それも今日までだった。
男は上から物音を聞いた。
激しい物音で、何やら争っている様な声が聞こえ、ここまで響いている。
仲間内で喧嘩でもしているのか?
あるいは・・・
「カシラ!」
子分の一人が慌てて降りてくる。
ただ事ではなかった。
「どうした!? まさか、憲兵か?」
このアジトを嗅ぎつけられたのか?
男は焦燥であぶら汗をかいていた。
「ち、ちがいやす。男です。一人の男がアジトに飛び込んできやがって」
「一人だあ? そんなもん、全員で袋にしちまえばいいだろうが!」
男はほっとした。
一人ならどうにでもなる。
「そ、それが滅法強い奴でして、上の連中、もうあらかたやられちまって」
「な、なんだとう!?」
やられた?
たった一人に?
何がどうなってる?
と、上が急に静かになった。
そして、カツン、カツーンと階段を降りてくる音が聞こえてきた。
手下は慌てて逃げようとしたが階段は一つ、逃げ場などない。
遂に降りてきたのは痩躯の一人の男。
腰には見慣れない剣を佩剣している。
その男は辺りを見渡し、鉄格子に入れられている子供を見て、眉間に皺を寄せる。
「なんだぁ、てめえは?」
リーダーが尋ねると男は眉間に皺を寄せたまま、吐き捨てる様にリーダーたちを見た。
「子供たちを解放してもらう」
「てめえ。憲兵ってわけじゃねーよな。冒険者か?」
リーダーは油断なく男を見ると、大体の当たりをつけた。
「俺のことはどうでもいい。鍵を渡せ」
「悪いがそうもいかねえ。こいつらは大事な商品なんでな」
「・・・クズが」
男はもう問答するつもりはないようだった。
リーダーたちの元にゆっくりと歩いてくる。
「お前は右から攻めろ。俺は左だ」
「わ、わかりやした!」
リーダーは残った手下に簡単な指示を出すと、ナイフを手にした。
この男、出来る。
伊達に裏の世界にいるわけではない。
強者の気配を感じるのだ。
こいつは強い。
この際、ここの奴隷は諦めてもいいと思い始めた。
一合交えて、そのまま階段へ、そこから逃げる算段をリーダーは立てていた。
「死ねクソがあーーー!!」
手下が飛びかかった。
その隙に後ろに回って斬りつける。
それがリーダーの作戦だったのだが、男は瞬時に手下を一撃で殴り倒してしまった。
あっという間だったので、斬りつける隙もなかった。
思った以上に出来る。
こうなれば逃げるしかない。
「クソが!」
階段目掛けて一目散に走る。
が、服を掴まれた。
「離せやコラァ!!」
振り向きざまに拳を振るう。
しかし、それよりもはるかに速く、男のボディブローが深々と突き刺さった。
あまりの痛みに一撃で行動不能に陥る。
リーダーは倒れ込み、もう立ち上がることはなかった。
「子供たちに感謝しろ。この子たちの前じゃなければ斬っていた」
そう言うと男はリーダーの服を弄り、鍵を手に入れると、鉄格子を開けた。
子供たちは歓喜して飛び出してくる。
「ありがとうお兄さん!」
「あたしたち帰れるのね!」
男は優しく笑う。
「ああ、帰れる。家は何処かな? 送ってあげよう」
先ほど人攫いたちと相手をしていた人間と同一とは思えない優しい声だった。
その声を聞いて子供たちは安心する。
「お兄ちゃん、お名前は」
尋ねられ、男は気さくに返してくれた。
「セイマ」
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