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アルトス憤慨

「アルトス。先に帰って帰りが遅れると伝えてくれる?」


 ステラにそう言われて、アルトスは硬直したがしばらくしたら回復したらしく、目を肥大化させる。


「な、何を馬鹿なことを! 私が姫様から離れることなどありません! 第一姫様のお世話はどうするのですか?」


「リーゼがいるわよ」


「ご、護衛が」


「セイマがいるわ」


「そ、そんな。私の存在意義が・・・」


「大袈裟ねえ」


 アルトスは肩を落として塞ぎ込んでいる。

 ちょっと可哀想だが。


 だが、アルトスは弾かれたように顔を上げた。


「姫様。この件が終わったらこの人間を連れて里まで来るのですか?」


「ええ、そのつもりよ」


 アルトスは顎に手を当てて何かを考えている様だ。

 うーん、悪巧みかな?


(このまま一緒にこの人間を里に入れるよりも、里の保守派と意見の擦り合わせをしておいた方がいいかもしれぬ。そうだ、先に帰って人間が来ることを伝えておけば、保守派と連携してこの人間を追い出すことも出来るかもしれん)


 何か考えていたアルトスだが、ニヤリと笑って俺を見ると大きく頷く。


「かしこまりました姫様。このアルトス、先に帰国致します」


「うん。よろしくねアルトス」


「はは!」


 多分よからぬことを考えてるんだろうけど、これで取り敢えずアルトスの方はなんとかなったわけだ。

 よし、これで王都に引き返せるぞ。





 こうして俺たちは王都に帰ってきた。

 この後、王様に会う為に俺たちは散々話し合ったのだが、ここでステラと意見が分かれた。

 即ち、俺が一人で王様に会いに行くか。

 あるいはステラもついて行くかと言う問題で意見が分かれたのだ。

 当然ステラは付いてこようとしたんだけど、俺が待ったをかけた。

 この国とエルフの国。

 両国の関係にヒビを入れるようなことをしていいのかと。

 それだけじゃない。

 王様との交渉が上手くいかなかった場合。

 俺は相当危ない橋を渡るつもりだ。

 流石にステラを付き合わせるわけにはいかないと思った。


 だから悪いステラ、ここは俺一人で行く。




 国王アルバレスはセイマという人間がどうしても謁見したいと知らせを受けた。

 セイマも言えば数日前中々楽しませてくれた冒険者だ。

 エルフの国に向かったと思っていたがまだ城下にいたのか。

 一体なんの話があると言うのか。

 興味が湧き、アルバレスは会うことにした。


 謁見の間でセイマを見た途端、これは楽しい話ではないなと、アルバレスは思った。

 セイマの顔は酷く真剣で、なんというか切羽詰まっている感じがしたのだ。


「久しい、と言うほど時間は経っていないなセイマよ。アレステラ姫の護衛をしたのではなかったか?」


「姫とは分かれました」


「ほう」


「王様、それよりも俺の話を聞いてください」


「ふむ、なにやら思い詰めているようだな。何があった?」


「奴隷制度を廃止にして欲しいのです」


 どぉっと、部屋にいる何人かの家臣、騎士が騒ぎ出した。


「なんだこの平民は!?」


「急に奴隷制度を廃止にしろだと!?」


「これだから平民は」


「馬鹿も休み休み言え」


 アルバレスは軽く手を上げて、周りを黙らせると、じっとセイマを見た。

 髭を触り、観察をした後にゆっくりと尋ねる。


「いきなりだな。何があってそんなことを言い出した」


「子供が鞭で叩かれるのを見ました」


「・・・そうか」


 アルバレスは小さく息を吐いた。

 セイマを初めて見た時、善良に見え、常識を持ち合わせているとも思った。

 が、一部見立てが違っていたと思い知らさせた。


 まず善良すぎる(・・・)

 子供が鞭で叩かれる。

 確かに良い気分はしないだろう。

 だが、それを見たからと言って実際に行動に移す人間は稀だ。

 次に常識人かと言えば全く当てはまらない。

 奴隷制度の廃止を訴えるなど、ましてや王に直談判などと、まともな神経の人間の考えることではない。


「セイマよ」


「はっ」


「却下だ。一考にすら値せん」


 セイマはそれ程落胆した様子もなく、体を軽く揺らす。


「子供が鞭で打たれています。女性は嫌々慰み者となっている例もあるでしょう。それを見過ごせと?」


「セイマよ。お前のそれをなんというか知っているか?」


 少し考えた後、困った顔でこう答える。


「義憤などでしょうか?」


「いや、独善というのだ」


 セイマは硬直した。

 すぐに反感を抱いて反論してこないところを見ると、全く考えていなかったわけではないのだろう。

 アルバレスは唇をなぞる。


「奴隷制度はなるほど悪い面もある。が、奴隷はなくてはならない労働力だ。奴隷なくしてこの国は回らない」


「賃金を払えばいいでしょう」


「払いたくないから奴隷なのだ」


「買う時に払うでしょう。安くない金を支払うといいます」


「それでも雇い続けるよりはずっと安い。それに奴隷ならば多少強引にでも言うことを聞かせられる」


「それは暴力と言うことですよね」


 アルバレスは手を額に当てる。

 セイマの眉間に皺が浮かぶ。

 あまり良くない傾向だ。

 このままでは。


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