エピローグ
キレた。
セイマに突進し、斬撃を見舞う。
だが、先程と同じだ。
剣はまるでセイマに届かない。
「何度やっても同じだ」
冷めた声だった。
何の期待もしていない、そう言っている。
だが、だからこそチャンスだ。
「舐めるなよ小僧! スキル『爆刃』!!」
「ん?」
デザイヤの奥の手。
スキル『爆刃』。
持っている剣を爆発するかの勢いで分裂させ、小さくなった刃の破片を相手にぶつける技である。
小さくなっても威力はある。
これでデザイヤは単騎でドラゴンを倒して見せたこともあるのだ。
それを剣を交える至近距離で放った。
完全な初見殺し。
「はぁ! 死んだぁ!!」
そう確信した時、上空から不可視の何かが猛スピードで砲弾となってやってくると、爆砕した刃を地面に叩きつけた。
「なっ!」
「それがお前の奥の手か?」
「うっ」
ビクついたデザイヤは急ぎ、距離を取る。
「い、今のは?」
今の薄い緑色の何かは、おそらくは風魔法。
圧縮した風の砲弾を上から叩きつけたのだ。
まさか、あの初見殺しをこうも一瞬で、完封するとは。
「で? 次はどうする?」
「くそがああああ!!」
遠距離から『爆刃』を振るう。
しかし、全て弾かれる。
「そんな距離を取ってやっても普通の魔法と大して変わらないだろう。全然活かせてないぞ」
その通りだ。
これでは遠距離魔法とやっていることに大差はない。
「だったら、もう一度剣を振りながらやればいつか当たるってなぁ!!」
本気で剣で斬るつもりで振るう。
しかし、空振りしたがそれはそれでよい。
その瞬間、ゼロ距離で『爆刃』を発動する。
これならば!!
「ぬるい」
セイマの剣が霞む。
次の瞬間には『爆刃』は全て叩き落されていた。
「・・・嘘、だろ?」
信じられない。
こんなことが出来る人間がいるわけがない。
瞬きする間に何十回も殺せる速度と量の刃だぞ。
それをいともたやすく。
「どうやらタネは出し尽くしたか」
「ひっ!」
言った後で羞恥心で顔を歪めた。
自分が言ったのか?
今、情けなく『ひっ』って言ったのか?
この裏社会でも誰もが道を開けるS級冒険者のこの自分が!
「じゃあ、そろそろ終わりにするか」
「ち、ちくしょう!」
逃げるしかない。
デザイヤは振り返って逃走しようとするが、気がついたら足を持ち上げられていた。
「うっく、くそが!」
そのまま関節を決められた状態で投げられる。
ボキリと足の骨が折れた。
「うがああぁぁああぁああああーーーーーー!!」
「これで逃げられないな」
「こ、殺さないでくれ」
もうデザイヤにはみっともなく命乞いをするしかなかった。
こんな依頼を引き受けるのではなかった。
こんな化け物と関わるのではなかった。
デザイヤは心底後悔していた。
「デブホイとやらの商会が何処にあるのか言え」
「そ、それを言えば見逃してくれるか?」
「それはお前の口次第だ」
もう反抗する気力も起きない。
素直に白状するしかなかった。
*********
デブホイはニタニタ笑いながら今日の帳簿をつけていた。
もうそろそろデザイヤが嬉しい報告を持って帰ってくる頃だろう。
二度にわたり失敗したが、今度は間違いない。
あの悪名高きS級冒険者に依頼をしたのだ。
金は飛んだが、その価値はある。
今か今かと待っていると、部屋のドアがいきなり開いた。
「な、なんだ。デザイヤか? 急に開けるな。さあ、報告を・・・を?」
この時間に部屋に入るのはデザイヤしかいないと思って彼の名を呼んだが、入って来たのは全く知らない黒髪の男だった。
「な、何だお前は! ここを何処だと思っている!」
「知ってるさ。エルフの姫を殺そうとしたデブホイの屋敷だろ?」
「っつ! 貴様」
何故それを!
デブホイの警戒心が一気に高まった。
「何者だ。何故それを知っている?」
「報告、聞いていないのか? エルフの姫が雇った冒険者だよ」
「なっ、貴様が!」
もう一度男を見る。
確かに、外見的特徴は一致する。
本当にこいつが例の冒険者なのだろう。
だが、何故こいつがここに?
「な、何故貴様がここにいる? デザイヤは・・・」
「俺がここにいることから察しろよ。あいつは俺が片付けた」
「なぁっ!」
そんな馬鹿な。
あのデザイヤまでも!
デブホイはこの男がここにいる理由を知り、恐怖に震えた。
「お、おい。侵入者だ。お前達さっさと出てきてこいつを片付けろ!」
後ろ暗い仕事をしている為、デブホイは数多くのボディーガードを雇っている。
それも腕利き揃いだ。
数で押せばこんな奴ーー。
「あー、全員寝てるな」
「・・・は?」
「ここに来るまでに邪魔されたから片付けた」
そう言って男は血に染まった変わった形の剣を一振りして、血を払う。
「ひっ!?」
そうだ。
ここに来るまでに絶対に誰かと遭遇する。
それなのに、ここまで来た。
それの意味するものはつまり、そういうことだ。
「ああ、死んではいないと思うけどな。多分、確認してみないと何とも言えないけど」
カタカタと震えた。
もうどうにもならない。
デザイヤもやられ、ボディーガード数十人が気が付かないうちに全員やられた。
こんな化け物を相手にどうしろと言うのだ?
「か、金ならやる。だから見逃してくれ!!」
「ああ、金は貰おうか。貯めこんでるんだろ。全部貰う」
「ぜ、全部?」
サーっとデブホイの顔が青くなる。
思わず壁の後ろに目が行く。
「ああ、その後ろか。隠し金庫は」
「ま、待て。五百、いや、一千万やる。だからそれで見逃してくれ!」
「へえ、一千万は払えるのか。その中にはもっとあるのか? もしかして億単位? 全部貰うぞ」
立ち上がったデブホイは壁にもたれ掛かる。
「や、止めてくれ。金はわしの命だ。奪わないでくれぇ!」
涙を流して頼み込む。
しかし、男の目には一切の光がなかった。
「お前に命はないよ」
「は、はへ?」
「今、デザイヤが王様の前で証言してる筈だ。お前が黒幕だってな」
ズルズルと、デブホイは崩れ落ちる。
もう全く力が入らない。
「こ、国王、に?」
「これから友好関係を築こうとしている国の姫君を暗殺しようとしたんだ。当然死罪だろうな」
「・・・あ、はは、は、ひひっひっひっひいきぃ」
遂にデブホイは痙攣し、失禁して泡を吹き、そのまま失神した。
「欲をかくからこんなことになるんだよ」
心底軽蔑した目でセイマはそう言った。
*********
一夜明け。
デブホイとデザイヤは王様の前で証言し、そのまま牢屋に入れられた。
デブホイは密輸や密猟を始めとした数多くの犯罪に手を染めており、デザイヤもS級冒険者でありながら、裏の仕事をいくつも請け負っていたらしく、余罪を追及されているとのことだ。
友好国の姫を自国で殺そうとしたのだから、間違いなく死刑だろう。
アルトスの怪我は大したことはなかった。
危なかったのは確かなのだ。
もし、俺が庇わなければ、致命的な傷を負っていたことだろう。
今はステラの回復魔法で完全に完治している。
そのアルトスだが、俺に礼など言う筈もなく、不貞腐れてぶすっとしているが、ステラにこっぴどく怒られてしまい、今は静かだ。
そして、俺達は王都を離れ、エルフの里へと向かっている。
「さあ、行きましょう。エルフの里まで一直線!」
ステラはやっとお役目を終えて帰れるのが嬉しいのか、元気に声を上げた。
エルフの里か。
一体どんな所なのだろう?
そこには強い奴が果たしているのだろうか?
正直、デザイヤにはがっかりした。
あれがS級なのか。
本当にあれが最弱であってほしいと思う。
だってまったく歯ごたえがなかったのだ。
氣も開放していないし、リストバンドも外していない。
それでもあれ程簡単に勝ててしまった。
あれでは修業にもならないではないか。
俺は馬車の速度に合わせつつも、足を高速に動かして修業を行っている。
「相変わらずの修業馬鹿ねぇ」
ステラは呆れて馬車の中から声をかけてきた。
「ああ、もっともっと鍛えないとな」
これだって修業時代に比べればまるで足りていないのだ。
俺には『成長限界突破』がある。
努力は決して裏切らない。
まだまだ高みを目指せる筈なのだ。
エルフの里には何百年も生きている人達が何人もいる。
その中には必ず強い奴らがいる筈なんだ。
それに期待したい。
俺よりも強い奴と心ゆくまで戦いたい。
そしていつかーー。
(老子。いつか貴方に勝ちたい)
拳を握る。
もう二度と会えないかもしれない師匠に想いを馳せて、俺達は街道を行く。
さあ、目指すはエルフの里。
俺の冒険はまだ始まったばかりだ!
ご愛読ありがとうございました。
セイマの冒険は一度ここで終了です。
構想はあるので、先を書くこともあるかもしれませんが、一度筆を置かせていただき、他作品を書いていこうと思っております。
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など。
読んでもらえたら嬉しいです。
それではまた他作品でお会いしましょう。




