やってきました王都
とうとうやって来ました王都。
事前に話が通っているのか、あっさり都の中に入れた俺達は、その大きさに驚かされた。
なるほど、アストロの街は大きいほうだと思っていたが、流石に王都は別格といったところか。
それにしても人、人、人。
人が多いこと多いこと。
この世界の人間はモンスターがいるからなのか、一軒家がぽつんと建っているようなことはあまりなく、完全に人口密集地帯にぎゅっと押し込まれている形で形成されている。
だから、王都の外には家の一軒もなく、この中に全てが揃っている感じだ。
高い城壁に守られて、中に要る人間たちは安心して暮らしているといったところか。
人口、十万? いや、もっといるか?
そりゃ東京などと比べてしまうと少ないが、それでも多い。
まず都に入ると、ここは商業区か? 店が沢山並んでいる。
異世界人の俺では見たことのない食べ物もあり、目移ししてしまうが、アルトスが冷ややかな声で呼び止める。
「キョロキョロするな。すぐに王宮に向かう。寄り道している時間はない」
分かっていますよ。
観光したいけど、仕事で来たのだしね。
仕方ない仕方ない。
俺達はここからでもよく見える高く聳え立っている王宮へと向かった。
*********
城内に通された俺達は待合室で呼ばれるのを待っていた。
その間、ステラはリーゼを伴ってお着替えをしている。
流石に王族に会うのに旅装束というわけにはいかないだろう。
アルトスも着替えているが、俺はそのままだ。
「貴様はただの護衛だ。会談に臨む必要はない。しばらくじっとしておけ」
だそうだ。
まあ、ここで襲われることはないだろうから、しばらくぼーっとしていることにしようかね。
コンコンとノックの音がするので、「どうぞ」と言って促すと、ステラが入って来た。
美しいドレスに身を包んだステラは正に絶世の美女といった風格があった。
瞳と同じ色の薄い緑色を基調としたドレスはステラに似合い、胸元に添えられた花柄の飾りは彩を鮮やかにしている。
「お待たせ。そっちの準備はいい?」
「はっ、準備は出来ております姫様」
アルトスはびしっと決まったエルフの氏族が身に着けている正装をしており、元々の美男子が更に極まっている。
後ろにいるリーゼも、ステラのドレスと喧嘩しないように、落ち着いてひっそりとした感じなんだけど、清潔感がある衣装に身を包んでいる。
俺だけ変わらない。
うん、いいんだけどね。
ただちょっと寂しいよね。
「ふふふ、どう? セイマ」
一瞬ステラが何を訪ねているのか分からなかった。
一拍置いてドレスの感想を求められていることに気が付いた俺は、コクコクと頷く。
「とてもよく似合っているよ」
「ありきたりだなあ」
「う、でも本当だ」
くっ、語彙力!
圧倒的女性を誉めることへの経験不足。
何故だ。
何故老子は女心の修業をさせてくれなかったのだ!
俺がうんうん悩んでいると、ステラは苦笑して指で額をつつく。
「嘘。褒めてくれてありがとうね」
「お、おう」
額をつつかれて、俺は昨夜のあのキス事件を思い出した。
ステラは何であんなことをしたんだ?
一体あのキスに何の意味があるんだ?
挨拶?
挨拶的な意味合いか?
それにしたって急だ。
どうしていきなり。
あれは愛情表現だったのか?
あれか、ステラは俺のことが、す、す、すき、なのか?
いやいやまさか。
落ち着け俺。
男は少しでも仲良くされると相手の女の子は自分が好きなんじゃないかと誤解をしてしまうと聞いたことがある。
これも一種の「あの子俺のことが好きなんじゃね?」勘違いかも知れぬ。
そうだ。
たった七日間でそんなすぐに好きになるなんてことがそうそうあるわけがない。
映画やドラマじゃないんだ。
ちょっと苦難を共にしたからと言って、人間そんな簡単に恋には落ちないだろう。
うん、自意識過剰だ。
落ち着け俺、そんな筈がない。
だとしたら、あのキスの意味とは?
分からん。
圧倒的経験値不足。
誰かに相談できればいいんだが、アルトスは論外。
聞くとしたらリーゼだが、リーゼにしたって「お宅の姫様にキスされちったぜ。これってどういうこと?」とは聞けないだろう。
どう言えばいい?
上手く聞き出す方法はないのか?
「セイマ殿。どうかなさいましたか?」
「うおっ、リ、リーゼ。ああ、うん。何でもない何でもない」
考えている最中に声をかけないでいただきたい。
とっても驚きました。
だが、リーゼがせっかく来てくれたのだ。
これは聞き出すチャンスだ。
俺は手招きをして部屋の隅にリーゼを引っ張り込む。
「どうなさったのです。セイマ殿?」
「あ、あのさ。ちょっと聞きたいんだけど、エルフにとってキスって何なの?」
「は? キス?」
唐突な質問に面食らうリーゼだったが、真面目な彼女は、質問で返すことなく簡単に答えてくれた。
「愛情表現ですが、それが何か?」
やっぱりか。
地球と変わらないか。
じゃ、じゃあ、やっぱりステラは俺のことを?
い、いや待て。
焦るんじゃない。
まだ慌てるような時間じゃないぞ。
俺は呼吸を整えて次なるステップに進む。
「キスする位置について、何か意味があるのかな? た、例えば額とか」
「はあ、額ですか。それですとエルフの間では契約。もしくは絶対の信頼の証。でしょうか」
「---」
絶対の信頼の証。
そうか、そういうことか。
あのキスは、俺への信頼を示していたのか。
たった七日間一緒にいた俺にそんな信頼を寄せてくれているなんて、思いもしなかった。
ならばそれに応えなくてはならないだろう。
「他には、勿論愛情表現で、口づけが恥ずかしくて出来ないから次点でするなどの意味もありますが。セイマ殿?」
「ん? ああ、分かったありがとう」
「なんなのですか?」
「いや、なんでもない。ちょっと聞いてみただけ」
「・・・はぁ」
リーゼは俺の質問の意味を図りかねているが、それでいいのだ。
間違ってもバレるわけにはいかない。
まあ、信頼の証のキスなら、それ以上の意味はないんだろうけど、それでもキスだからな。
自分の国の王女様が、何処の馬の骨とも知れない人間にキスしたなんてスキャンダルになりかねないし、いくら誠実なリーゼであってもアルトス程じゃないにしても怒るかもしれないし、こいつは墓まで持っていく。
コンコンコンとノックがして、身なりの良い人間が現れた。
「国王陛下の準備が整いました。どうぞ、アレステラ王女殿下」
コクリと頷いたステラはすっと姿勢を正す。
こうしてみると一気に威厳が出てくるな。
流石王族ってところか。
「分かりました。行きましょう」
ステラが前に出てアルトスとリーゼがそれに続く。
「じゃあ、セイマ。ごめんね、待っててね」
申し訳なさそうにそう言うステラに俺は手を振って「頑張れ」とエールを送った。
ドアが閉められ、俺一人だけが残された。
さて、どれだけかかるのかね。
落ち着いて待つとしますか。
読んでくださりありがとうございました。
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