アルトスの想い
アルトスは部屋に入ってベットに丸まっていた。
どうかしている二人共。
相手は人間だというのに心を許すなど、まったくどうかしている。
自分はステラを生まれた時から知っている。
成長するにつれて美しくなるステラをずっと見守ってきた。
自分にはステラをこれまで支えてきたという自負があるのだ。
だというのに、ぽっと出のどこの馬の骨とも知らぬ人間の青二才に心を許すなど、お人よしにも程がある。
何かある。
あの男には絶対に裏があるに決まっている。
或いはあいつこそが、裏で糸を引いている暗殺者ではないのか?
これまでの行動は、全てこちらを信用させるための罠。
可能性はある。
いや、そう考えると全ての辻褄がピタリとハマる。
何が聖人だ。
ふざけるな。
奴は薄汚い人間に過ぎないというのに、あのリーゼも随分と甘いことだ。
それにも何かトリックがあるに違いない。
あの狂暴そうなモンスターが神獣だというのも信じられない。
どうせ大したことのない雑魚モンスターだろう。
アルトスは人間が大嫌いだった。
昔は緑がもっと豊かだった。
エルフが伸び伸びと暮らせる世界だったというのに、繁殖力だけは旺盛な恥知らずの人間が人口を増やしていったおかげで領土は拡大され、森林は伐採されていき、エルフは徐々に後退していった。
エルフは誇り高い一族。
百年も生きない脆弱な人間とはそもそも次元が違う領域にいる存在なのだ。
そんな人間を旅の共とするなど虫唾が走る。
二人の信用を得たからといって、にやけるあの顔をぶん殴ってやりたい。
だが、奴は強い。
頭にくるが強い。
・・・いや待て、本当に強いのか?
全てはやらせのトリックだったということはないか?
考えてみれば、あの強さは異常だ。
全てが狂言と言われたほうが余程納得できる。
そうだ。
そうに違いない。
「二人共、あの男に騙されているのだ。早く、早く何とかしなければ、取り返しがつかないことに」
ステラを護るのは自分だ。
断じてあんな穢れた人間などではない。
アルトスはベットの中で、セイマを排除できないか真剣に検討を始めた。
暗殺者が襲来してからというもの、警護は更に緊張感を増し、ピリピリした空気が流れる中、旅は続いた。
あれから、襲われることはなかったが、緊張感がずっと続いていた為、お世辞にも楽しい旅とは言えなかったが、ようやく明日には王都に到着という所までやって来た。
その日の夜。
近くに街が無かった為に、今日は野宿をすることになり、馬車の中で寝泊まりをすることとなった俺達一行。
簡単な食事を済ませ(ステラの食事はちゃんと毒見をして)、みんなが寝静まった深夜。
俺はいつものように見張りをしながら筋トレに励んでいた。
ステラに注意を払いつつ、何時いかなる時も身体を鍛えることを忘れない。
この世界に俺よりも強い奴がいるのかどうかは正直分からないが、可能性はある。
その時の為に常に身体は鍛えておかなければ。
移動中も、馬車には乗らずに、馬と歩調を合わせながら、高速足踏みをしながら鍛錬に励んでいた。
アルトスには真面目に警護についていないと怒られたが、俺はいつだって真面目である。
もし少しでも気配があればすぐにでも対応できるように氣を張り巡らせていた。
今だってほら、誰かが馬車の中で動いているのを感じる。
起きてしまったのかステラが馬車から出て来た。
俺は一度筋トレを中断し、汗をぬぐう。
「どうした? 起きちゃったのか」
「うん。明日には王都に着くのかと思うと、緊張しちゃって」
まあ、旅の終着点だもんな。
無理もあるまい。
ステラは柔らかそうな草の上に腰を下ろす。
「セイマ。座らない?」
ぽんぽんと隣の草を叩き、誘ってくるステラを無視するわけにもいかずに、俺は隣に座った。
「星が綺麗ね」
「ああ」
本当に綺麗だな。
周りに光がないから余計に綺麗に見える。
都会っ子の俺では中々お目にかかれない星空だ。
俺はしばし、その絶景に見惚れていた。
ずっと白い空間で修業ばかりの日々だった。
景色を楽しんだことなど終ぞ記憶にない。
この世界はこんなにも美しいのか。
感動しているとぽつりとステラは口を開く。
「明日で、セイマとの旅も終わりね」
「・・・そうだな」
そうか、明日で終わりか。
長いようで短い七日間だった。
「ねえ、考えてくれた?」
「何を?」
「とぼけないで。帰りも護衛してくれるかって話」
「ああ、それか」
考えていなかったわけじゃないんだ。
ただ、あれからアルトスはますます俺との壁を作り、俺を無視するようになった。
本当はあれこれ言いたいことはあるのだろうが、それも言わずに俺と極力関わろうとしなくなっていた。
まあ、小言を言われないだけましだけど、空気はずっと重いままだ。
だが、状況は変わった。
ステラの命は今も狙われたままだ。
一体誰が狙っているのか分からない以上、護衛は確かに必要だ。
依頼は果たしたからさようならでは余りにも薄情というものだろう。
ステラを護ると誓った。
あれは嘘じゃない。
生涯とは言わないけれど、期間限定で護ることは出来る筈だ。
「そうだな。ステラの命を狙う者がいる以上、ここで見放すのも目覚めが悪いし、いいよ。帰りも護衛引き受ける」
「ほんとに!」
ステラは手を合わせて喜んだ。
本当に嬉しそうだ。
俺は大分信頼されているようなので、少しでも安全度合が上がったと思えば安心もするだろう。
それとも、俺と旅が続くと分かってただ嬉しいだけか。
いやいや、自意識過剰は止めておこう。
「ただ、アルトスが何て言うかな。多分あいつ、ようやく俺と別れられるって思っているだろうし、まさか、帰りも一緒ってなったら、どうするかな?」
おそらく猛反発するだろう。
「私が説得するわ」
「ステラが言えばそれは聞くだろうけどさ」
「ごめんね。頭が固くってほんと」
「いや、ステラが謝ることじゃないよ」
ステラのせいではない。
種族の壁というのはどこの世界にもあることだ。
地球だって同じ人間だというのに争いは起こる。
完全に生物学的に別種の存在となればそりゃ、衝突も起こるだろう。
「エルフは保守的な人が多い。これは確かなんだ。でも、そうじゃない人達も沢山いるの。私はそれを知らせる為に王都まできたんだ」
そういえば、王都に何をしに行くのか、今まで聞いていなかったな。
聞こうとしたらアルトスに「貴様には関係ない」と突っぱねられたから。
「王都に、何をしに行くんだ?」
「簡単に言うと、今まで閉鎖的だったけど、少しづつ門を開いていきますよって話。先ずはエルフの里と近いこの国と和平交渉をしようという話になって、元々不可侵条約は結んでいたんだけどね、物流とかこれからちょっとづつ行っていこうと思っていて」
「へぇ。エルフの国と貿易か」
それは面白そうだ。
「エルフの里にはそりゃ、名物や特産品とか、沢山あるからね。こっそり密売とか密漁とかしている人間も少しはいたんだけど、これを機会にそういうのが無くなってくれればいいなと思って」
「素晴らしいことだと思うよ」
ラブアンドピースが一番である。
もしそうなれば、俺もエルフの里に赴くクエストなんかが発生するかもしれないしな。
そうすれば、ステラともこの旅が終わった後でも繋がりが出来るかもしれないし、そういうことなら是非、今回の会談は成功させてほしいと思う。
「セイマには送ってくれるだけじゃなくて是非、里の中にも入ってほしいな。お父さんやお母さんにも紹介したいし」
嬉しそうにそう言うステラであるが、俺はちょっと動揺する。
するとエルフの王と王妃に会うってことか?
なんか大ごとになってきた感じがするけど、まあ、こっちは神様と千年一緒にいたんだ。
今更王様に会うからって緊張するっていうのも可笑しな話かな。
「分かった。紹介してくれ」
「うん。楽しみ」
「お父さんとお母さんてどんな人?」
「ふふ、それは会ってからのお楽しみだよ♪」
「ええ、なんだよそれ・・・」
前情報がないとどう話していいか分からないじゃないか。
「ねえ、セイマ」
「何?」
「記憶喪失って嘘なんでしょ」
読んでくださりありがとうございました。
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