刺客
「ステラ、リーゼ、起きろ!!」
大声を張り上げて二人を起こす。
飛び上がって叩き起こされた二人は何事かと俺を見るが、それを無視して窓に向かう。
黒ずくめは作戦失敗と判断したのか、慌てて窓から離れて去っていく。
「待て!」
すぐに追いかけようと窓に手を伸ばしたが、ここに皆を残していいものだろうか?
他に仲間はいないか?
わずかな迷い。
追うべきか、止まるべきか?
次の瞬間、天啓が降りてきた。
咄嗟に右手をかざす。
「来い! リル!!」
右手の甲が輝き、そこから一匹の狼が出現した。
そう、俺がかつて修行時代に仲間にしたフェンリル。
名を「リル」と命名した。
「主、呼びかけに答え参上しました」
「詳しい説明は後だ。リル、ここにいる三人を護れ」
「御意」
俺は三人に向き直り、
「俺はさっきの奴を追う。説明不足で悪いけど、こいつは味方だから攻撃しないでね。それじゃあ」
「あっ、ちょっとセイマ!」
後ろからステラの声が聞こえてきたけど、それを無視して俺は黒ずくめを追った。
かなり距離が開いてしまったが、俺なら追いつける。
加速して黒ずくめを追いかける。
さして時間もかからずに追いついた俺は、風の刃を飛ばした。
まさか、追いついてくるとは思っていなかったのか、黒ずくめは慌てて回避。
屋根の上で俺と対峙した。
「何者だ? 何故ステラを狙う」
「・・・」
黒ずくめは無言。
ただ黙ってダガーを構える。
手慣れてるな。
プロの暗殺者か?
暗殺者は飛びかかってきて真っ直ぐに俺の首筋を狙ってダガーを振るう。
迷いなく、一撃で俺の命を刈りにきている。
それを交わした俺は、その手首を切り落とした。
「!?」
驚いた暗殺者は大きく飛び上がって後方に退避。
手首を押さえている。
「諦めろ。お前じゃ俺を殺せない。誰かに雇われたんだろう? 言え、誰がステラの命を狙っている?」
もう一度尋ねるも暗殺者は無言。
俺は凄みを効かせる。
「殺すぞ」
「・・・」
それでも無言。
くるりと方向転換すると、暗殺者は再び逃走を図る。
「逃すか!」
風刃を足目掛けて発射。
足首を切断し、逃走を阻止した俺はゆっくりと近づいていき、もう一度問いかける。
「このままだと出血死するぞ。助かりたければ雇われて人間を言うんだ」
「・・・」
こんな状況になっても無言を貫き通すとは、相当鍛え抜かれた暗殺者だ。
拷問しても口を割るかどうか?
俺が手を講じていると、暗殺者は懐から何か取りだし、それを飲み込んだ。
すると、急に吐血して、そのまま倒れた。
「しまった!」
毒を飲んだのか。
まるで忍者だ。
脈を測るが、既に息絶えている。
手がかりを失ってしまった。
無念に思いながら、仕方なく戻ろうとしたら、視線を感じ、辺りを探ったが、視線は一瞬のことでもう何も感じなかった。
成否を見届けようとしていた者か?
依頼主に報告するつもりだろうか?
だが、もう追う手がかりがない。
肩を落として成果なく、俺は宿に戻った。
宿に戻った俺は非常に気まずい沈黙の部屋に入った。
全員がリルから距離を取り、無言で警戒している。
リルは俺の命令を忠実に守り、三人を護衛しているだけなのだが、いかんせん説明が足りなかったので、三人が警戒するのは仕方のないことだ。
「戻ったよ」
「セイマ!」
戻った俺の袖を引っ張って、ステラは視線をリルに移す。
「ねえ、この子なんなの?」
「ああ、説明不足でごめん。リルって言うんだ。俺の大切な仲間さ」
「モンスターだよね?」
「まあ、モンスターなんだけど、俺に従ってるんだ問題ないよ」
「モンスターなどではありません!」
途端にリーゼがでかい声を上げた。
おお、なんぞ、なんぞ?
「この方は、もっと大きな霊格を保有しているお方。そう、神獣クラスの」
はい?
神獣?
なんですかそれは?
リーゼは何かが分かるらしいけど、何が分かるの?
「リーゼは巫女なの。だから、私達では分からないことが分かったり視えるみたい」
「ほう」
まあ、よく分からんが、リルは凄いってことか。
まあ、凄いよな。
ドラゴンなんかより全然強いし、一緒に戦ったこともあるけど、リルに勝てる奴は中々いなかったし。
リルの奴、まんざらでもなさそうだな。
「ご苦労様リル。戻っていいよ」
「また何かあればお声がけ下さい、主」
「うん。また何かあったら頼むよ」
俺が右手をかざすと、リルは召還紋の中に吸い込まれていった。
それを呆然と見守る三名。
さて、暗殺者のことを報告しようとしたら、何かリーゼが俺にじりじりと寄って来た。
え、ちょっと怖いんですけど。
「セイマ殿。あんな神獣を従えるなど、もしや貴方は天の御使い様なのでは?」
「いやいやいや、俺はただの人間で」
まあ、神様の所から来たわけだから御使いという言い方も出来なくはないけどね。
俺が人間だというのは変わりないわけだし。
「まあ、セイマのことは驚いてもしょうがないと思っていたけど、これは驚くわ。剣も魔法も人間のレベルぶっ飛んでるし、尚且つ、神獣クラスと契約してるなんて、どう考えても規格外すぎるでしょ」
何故かため息をするステラ。
俺が悪いのか。
いや、俺は悪くない、はずだ。
「私も巫女の端くれ。人ならざる者を数多く見てきましたが、あれ程の霊格を有する獣は見たことがありません。しかも、セイマ殿とあの神獣はとても強い繋がりで結ばれていました」
「繋がり?」
コクリと頷くリーゼ。
「契約を交わした者同士は霊的なパスが結ばれます。セイマ殿が契約者だったとは。これ程はっきりと、強い結びつきがある関係は見たことがありません。この強がりは神獣の力を何倍にも増幅させます」
へえ、それじゃあリルは俺と戦った時よりも強いんだ。
俺も初めてリルと戦った時より遥かに強くなってるけどさ。
じゃあ、他にも俺が契約しているモンスター達はどうなんだろう?
まあ、それは追々かな。
「セイマ殿。貴方は一体何者なのですか・・・」
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