恋バナ
簡単に旅の話をした後で、俺達は食事を取って、その後、それぞれ大浴場へと向かう。
「覗いちゃ駄目よ?」
「はいはい」
「そんな不埒な真似は致しません。この人間はどうか分かりませんが」
「しないよ」
ステラが女湯に消えた後、俺も男湯に向かおうとしたら、アルトスが声をかけてきた。
「おい、貴様」
「なんだお付き」
「私の名前はアルトスだ!」
「なら、俺にだってセイマって名前がある」
売り言葉に買い言葉で俺達は険悪な雰囲気になった。
もう、こいつと二人なんて最悪だ。
さっさと風呂に行こう。
「いい気になるなよ」
「ん? 何が?」
俺は訝しんで聞き返すと、アルトスは鼻で笑った。
「姫様は誰にでもお優しい。だから、貴様だけが特別などと決して思うな。貴様など七日間だけの関係だ。それを努々忘れるなよ」
「・・・そんなのは分かってるよ」
ステラがとてもいい子だってことぐらい、付き合いが浅くたって分かるさ。
まあ、ラノベじゃないんだし、これでお姫様といい関係になんかなるわけないんだよな。
しかも、人間とエルフじゃあな。
「さっさと風呂に入ろう」
「私はここで姫様が出るのを待っている」
「は? この大浴場の前で?」
「当然だ。何があるのか分からないからな」
「何かあれば、女湯に飛び込んで、ステラの裸を見ようと?」
俺がからかうとアルトスは分かりやすく顔を赤らめた。
「ば、馬鹿なことを言うな。そんな劣情に負けての行動ではない! これはれっきとした任務だ」
激しく動揺したアルトスは、必死に弁解した。
愛い奴だな。
「お前さ」
「なんだ」
「好きなの? ステラのことが」
「な、なぁ!!」
どうやらアルトスにとって特大の爆弾だったようで、その反応は非常に顕著だった。
口をパクパクとさせ、顔は耳までトマトの様に真っ赤となり、身体は小刻みに震えている。
「そ、そそそそんなことがある筈がないだろう! 私は姫様を生まれた時から知っているのだぞ。そんな考えが及ぶはずがない」
「そうなのか? それでも恋は自由だと思うけどな」
「う、五月蠅い。とにかく私はそんな想いは抱いてはいない。いいか、こんな下らないことを間違っても姫様の前で言うなよ。言うんじゃないぞ」
「はいはい」
まさか、これ程分かりやすいとはな。
ステラの前で言ったら一発でバレるんじゃないだろうか?
いや、既にバレているのかもしれないが、ステラは恋愛方面に関してはどうなんだろうか?
敏感なのか鈍感なのか、まだ付き合いの浅い俺にはイマイチその辺は分からない。
まあ、どちらにせよ俺には関係のないことだ。
この調子ではアルトスの密やかな恋は叶わないだろうが、それもまた人生だな。
恋か。
俺もこの異世界で恋が出来るのだろうか。
彼女いない歴千と十数年。
恋愛かー、してみたいな。
俺は風呂に入りながら、まだ見ぬ誰かとの恋を思い描いたのだった。
*********
見張りを交代ですることになった俺とアルトスは、まずアルトスが見張りにつくことになり、俺は自室で軽く仮眠を取ることとなった。
俺の特技。
サバイバルを何十年もしてきたので、どんな所でもすぐに眠れることと、何かあった時にすぐに対応できるように眠りが浅く、わずかな気配ですぐに起きることが出来る。
しばらく寝ていた俺だったが、誰かが部屋に入ってきたのですぐに起きた。
「む、起きたか。そろそろ交代だ」
アルトスだった。
どれくらい寝ていただろうか。
多分、四時間くらい?
「後は俺が見張るからお前は寝ていいぞ」
「そうか。いいか、分かっているとは思うが、決して姫様に不埒なことをするなよ?」
「はいはい」
「もしすれば、どんなことをしてもお前を殺す!」
「分かった分かった」
適当に相手をすると、ステラの部屋の前に立って、俺は見張りに付いた。
しかし、何もしないでただ突っ立ってるっていうのは、かなり暇なもんだよなあ。
これからのことを考えるか。
まずは七日かけてステラを王都まで送らなければならないわけだけど、地図を見た限りでは、人口密集地帯はそれ程なかったので、何回かは野宿しなければならないだろう。
となると、明日はキャンプ道具を買いに行かないといけないかな。
あの二人はキャンプ道具とか持っているんだろうか?
ここまで馬車で来たのかな?
モンスターに遭遇するトラブルがなければ、今頃馬車で夜を明かしていたのかもしれない。
そうか、馬車か。
これからは馬車で移動と言うことになるだろうか。
となると、馬車を買わないといけないのかな?
だけど俺は、馬車を引いたことなんてないから、誰かにやってもらわないといけないわけだけど、アルトスは出来るのかな?
それとも誰か雇うのだろうか?
その辺、明日にでも相談しないといけないな。
もう二人はプランがあるのかもしれないけど。
ただ黙って突っ立ってるのも退屈だ。
俺は筋トレを始めた。
もう完全に習慣になってしまっているので、やっていないと落ち着かない。
そういえば、この異世界に来てまだ二日だけど、強い相手と全然戦えていないんだよな。
全く歯ごたえのない相手との戦いで、俺の身体はなまってしまうんじゃないかと少し不安になってきた。
老子程ではないにしても、それなりに歯ごたえのある相手と戦いたいといおもいが俺の中で芽生え始めていた。
参ったな、俺がバトルジャンキーになるとは夢にも思わなかったぞ。
戦い続けての千年だったもんな。
その生活習慣をそう簡単に変えられる筈がない。
強い相手、どこかにいないかな?
お読みくださりありがとうございました。
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