ギルドのお約束
「じゃあ、俺が宿まで案内してやるよセイマ」
「いいんですかアズルさん?」
「ああ、どうせ稽古場に戻るしな。ついでだ」
「ありがとうございます」
助かった。
まだ、この街、右も左も分からんからな。
「お金は後日お渡ししますので、声をかけてくださいね」
「はい。改めてクエストを受けに来ますので。今日はこれで」
俺はセーラさんに一礼をすると、アズルさんと一緒にギルドを出て行こうとしたのだが、それを誰かが通路を塞いだ。
「おいおい。こんなガキがドラゴンを倒しただと? そんな筈があるかぁ?」
そこにいたのは如何にも荒れくれと言った風情の男だった。
わぉ、肩にトゲトゲのショルダーガードをつけているじゃありませんか。
ここは世紀末ですか?
「よお小僧。ドラゴンを倒したなんてフカシこいてんじゃねーぞこら」
「いや、倒したよ。あ、多分」
「嘘つくなって言ってんだろうがよぉ!」
これは、あれか。
ギルドで絡まれるお約束のイベント発生か。
俺はなんだか楽しくなってきて、胸を膨らませた。
「いるんだよなぁ。てめえみてえな見栄を張りたがる奴。俺そういうの大嫌いなんだわ」
確かに見栄を張る奴は嫌われるな。
意外と正義感の強い人なのだろうか?
「拾ったんだろ? 誰かからガメたんだ。そうに決まってるぜ」
「いや、違うけど」
「その袋、怪しいなぁ。俺が貰ってやるよ。さ、こっちに渡しな」
あ、なんだこいつ。
単に俺のをかっさらおうとしてるだけじゃないか。
全然正義感なかった。
「おい、お前、悪いことは言わんから止めときな」
「ああん。引っ込んでろや」
アズルさんが世紀末野郎を止めたが、聞きはしなかった。
完全に俺を舐めているらしく、もうこの袋は自分の物とでも言いたげに手を伸ばしてきたものだから、俺はその手を軽く叩いた。
「いてぇ!」
「気安く触るな。これは大事な物なんだ」
「この野郎。俺が笑っているうちに渡した方が身のためだぜ?」
「こっちも言っておく。止めておいたほうが身のためだ」
「あ、てめえ今死んだぞ? ひひ」
世紀末野郎はニヤけると拳を振り上げた。
隣でアズルさんが小さくため息を吐き、セーラさんが合掌している。
俺の心配はしてくれないんですね。そうですか。
俺は向かってきた拳を捻り、腹に向かって一発パンチを入れてやった。
「ぐふ!」
世紀末野郎は飛び上がって、大きく呻く。
そのまま倒れてビクンビクンと身体を痙攣させて気絶した。
「さ、行きましょうかアズルさん」
「にこやかに言うなお前。結構容赦ないんだな」
「ああいうのは口で言っても分かりませんから」
伸びている男を記憶の彼方に追いやり、俺達は宿に向かって歩き出した。
「ここが『うさぎの草』だ」
アズルさんに案内されながら、俺は『うさぎの草』なる宿屋に到着した。
うん、昔ながらの宿って感じか。
味わい深い。
「じゃ、俺は戻るからな」
「案内ありがとうございましたアズルさん」
「いいってことよ。いつかパーティー組もうぜ」
そう言い残してアズルさんは戻っていった。
さて、と。
宿屋に入ると俺より少し幼いくらいの女の子が笑顔を向けた。
「いらっしゃいませ。『うさぎの草』にようこそ」
元気のいい子だな。
看板娘って感じか。
俺は気を良くしながら、接客の応じる。
「一人です。とりあえず二泊お願いします」
「はい。ありがとうございます。こちらにご記入ください」
俺は受付で手続きを済ませ、鍵をもらって部屋へと向かう。
元気のいい子だったな。
前世では女の子と話す機会もあまりなかったし、セーラさんに続いてあの女の子とも会話出来て楽しかった。
え、接客は会話に入らない?
そんなことないよ、会話は会話だよ。
部屋に入るとそこはベットと机と椅子だけがちょこんとある簡素なものだ。
勿論テレビなんかは置いていない。
俺は剣を置くとそのままベットにダイブした。
ちょっと硬いベットが俺を受け止める。
うん、まあ、これくらいでいいや。
俺は野宿も出来るからね。
何十年もそんな生活を続けていたからね。
ベットがあるだけでもありがたいよ、うん。
ゴロンと仰向けになってこれからのことを考える。
取り合えず、当初の目的通り冒険者になることは出来た。
資金も出来たし、しばらく食いっぱぐれはなさそうだけど、それでダラダラ過ごしていたらニートに逆戻りだ。
それではいかんし、老子に申し訳がない。
しっかり活動しなければならないんだけど、どんな活動をしようか。
取り合えず明日起きたらギルドに行ってみよう。
それで何が受けれるかどんなクエストがあるのか見てみることにしようかな。
俺としてはモンスター討伐のクエストがいいかな。
ずっとそればっかやってきたんだから、それ以外のクエストは敬遠してしまう。
逆にモンスターを討伐する仕事なら自信があるぞ。
D級ってどれくらいのモンスターが討伐できるんだろう?
ドラゴンはS級の人間が苦労するって言っていたから、間違ってもD級の俺じゃ受けられないだろうが、オーガくらいだったらいけるかもしれない。
まあ、資金はあるんだし、そう急がなくても大丈夫だけどね。
そうそう、セーラさんに任せてしまったお金だけど、一体いつくらいに貰えるんだろう?
なんと言っても大金だからな。
そう簡単に揃えることは出来ないだろうけど、まあ、十万貰ったし。
これでしばらくはなんとかなるだろう。
「あー、疲れた。夕飯て何時くらいだろう。てか、この世界って時計あるんだろうか? お腹減ったな」
俺は腹をさすりながら、身体を起こして部屋を出た。
一階に降りてきた俺は、さっきの女の子に夕飯のことを聞いた。
「あの、夕飯てもう貰えるのかな?」
「はい。ちょっと早いですけど、ご用意出来ますよ」
「お、ほんとに? だったら作ってくれないかな?」
「分かりました。厨房に行ってきますので、お客様はあちらのお席でお待ち下さい」
「分かった」
俺は頷くと、席について料理が来るのを待った。
考えてみれば十年ぶりの食事か。
想像しただけで唾液が分泌され腹が鳴った。
こんな時、スマホでもあれば時間が潰せるんだけど、何もないからな。
本でも買うか?
この街には本屋があるんだろうか?
本て高いかな?
時代によっては高そうだよなあ。
後日散策してみようか。
そんなことを考えながら時間を潰していると、待ちに待った料理がやって来た。
出てきたのはパンと肉とサラダだった。
うーん、肉、これは塩を振りかけただけですね?
まあ、肉の素材は悪くないぞ。
結構いける。
パンは硬いな。
まあ、これはしょうがないだろう。
多分これがこの異世界のパンのレベルなんだろうさ。
前世のふわふわパンを期待してはいけないってことだね。
サラダは悪くないぞ。
シャキシャキしているし、お酢をベースにしたドレッシングも好みだ。
俺は空腹もあってぺろりと完食してしまった。
「あ、もう食べ終わったんですか? 早いですね」
「ああ、美味しかったよ。ご馳走様」
「喜んでくれたなら良かったです。それじゃあ片付けちゃいますね。すぐに部屋に戻りますか?」
「うん。そうしようかな」
「一階に、当宿自慢の大浴場がありますので、お試しください」
「え、風呂? 大浴場があるの?」
「はい。評判いいんですよ」
それは嬉しい。
正直、中世ヨーロッパはなんとなく不潔ってイメージがあったけど、ありがたいな。
やっぱり異世界は中世ヨーロッパそのままの文化レベルじゃないのだろうか?
それともこの街、この宿だけ?
そう言えば、路地を歩いていた時も、特にゴミとかは散らかっていなかったな。
やっぱり綺麗にしてくれている人がいるんだ。
少なくともここを拠点にする分には清潔な生活を送れそうだぞ。
日本人、お風呂大好き。
大浴場なら足も延ばせるしね。
「じゃあ、さっそく入らせてもらうね」
「あ、それじゃあ、タオルをお渡ししますので受付にどうぞ」
俺は看板娘ちゃんからタオルを受け取ると、大浴場へと向かった。
大浴場は旅館並みの大きさで、十分に足が延ばせるものだった。
身体を洗ってさっぱりした後は、ゆっくりと湯に浸かって、一日の疲れを取る。
「は~、極楽極楽♪」
鼻歌なんか歌っちゃいそうになりながら、たっぷりとお風呂を堪能した俺は、結構長湯して、風呂から上がると大満足で部屋に戻った。
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