買い取りお願いします
魔法訓練所にやって来た俺達は先程と同じレーンを確保し、ここで魔法を試し打ちすることとなった。
「じゃあ、セイマさん。さっきと同じようにあの的に向かって魔法を撃って下さい」
セーラさんは的目掛けて指をさした。
うーん。撃つのは構わないんだけど。
「ねえ、セーラさん。この壁の向こうってどうなってます?」
「はい? この壁の向こうですか? 特に何もなかったはずですよ?」
「ほんとですね? 建物とか人とかいないですね?」
「はい」
じゃあ、まあ、いいか。
俺は首を軽くひねると、三人が、いや、なんかギルマスがいるものだから、周りが注目してる中で、手を突き出した。
はぁ、嫌だなあ。
もうどうにでもなれだよ。
間違っても本気を出さない。
さっきよりもちょっと強い力でっと。
魔力を練り上げてそれを腕に、手に伝わせて、それを放つ。
「行け」
ドッ!!
巨大な水の塊が、超スピードで的を巻き込んで破壊し、大きく壁をぶち抜き、遥か彼方まで飛んで行った。
ああ、やっぱり白い空間じゃないと被害が出るな。
これは力の使い方に気をつけよう。
でも、本当に後ろには何にもないみたいだ。
良かった。
「こんなもんですが、いかがですか?」
振り返ると、口をあんぐりと開けている皆さんの顔が。
ああ、かつてニートだった俺が夢見たリアクションだよそれ。
だけど、今は全然嬉しくない。
虚しい。
「・・・こ、これがセイマさんの本気」
セーラさんが、絞り出すようにそう言った。
や、全然本気じゃないです。
本気出すともっとえらいことになるんで。
「これは、驚いたな・・・」
「・・・ギルマス。今からでもこいつをS級にすることをお勧めするよ」
うん、止めてくれ。
これ以上目立ちたくないし、そんな高ランクになったら面倒事を頼まれるだろう。嫌だよ。目指せB級辺り。
その後、ギルマスは俺をC級にしようか検討すると言っていたけど、どうなるんだろう?
一度ギルドに戻ることとなった。
*********
「はぁ、セイマさんには驚かされっぱなしです」
「あはは。すいませんね」
「別に謝ることじゃないですけど。それで、セイマさんは晴れて冒険者になったわけですけど、これからどうしますか?」
「うーん。今日はもう宿で休みたいんですけど、どこかに手ごろな宿はありますか?」
「あ、そうでしたね」
セーラさんはポンと手を叩く。
「なんだ、セイマ。お前宿なしか?」
「はい、セーラさんに紹介してもらおうかと」
アズルさんが尋ねてきたので、正直に答えた。
「セーラ。なら、『うさぎの草』でいいんじゃないか?」
「そうですね。そこを紹介しようと思っていました」
二人は頷き合う。
「その宿がお勧めなんですか?」
「はい、値段もお手頃。朝と夜は食事も出ますし、ギルドと提携していますから冒険者というと何かと優遇してくれますよ」
それはありがたい。
是非そこにしよう。
と、その前に重要なことを思い出した。
「そうだ。これなんですけど、ここで買い取りって出来ますか?」
俺は次元収納袋から一本の牙を取り出した。
「なんですかそれ?」
「何かの牙みたいだな。だが、でかいな。こんなでかくて、鋭い牙となるとかなりの大物。って、おいおい、まさか!?」
「ドラゴンの牙です」
「ド、ドラゴンだとぉ!!」
ざわりと周りの人たちが一斉にこっちを向いた。
ああもう、目立ちたくないのに、アズルさんの馬鹿。
いや、あれを出した俺が馬鹿なのか?
いやだって、こんなに騒ぐとは思わなかったんだ。
「今、ドラゴンって言ったか?」
「あいつが狩ったのか?」
「いや、まさか、あのドラゴンだぞ」
周りがひそひそなんか言ってるよぉ。
「おいセイマてめえ。どんだけ俺を脅かせば気が済むんだ。よりによってドラゴンだと。S級冒険者でも苦労するあのドラゴンを狩ったっていうのかお前!」
「い、いやー、記憶がないもんでなんとも。なんか袋に入ってて」
ブンブン上下に揺さぶんないで下さいますかねアズルさん。
気持ちが悪くなります。
「か、鑑定します」
セーラさんがそう言うと、彼女の目が光った。
何あれ?
「セーラさん、なんですかその目?」
「ああ、『鑑定』のスキルを使ってるんですよ。待っててください。今鑑定しますから」
ああ、そんなスキルもあるんだな。
てか、便利だな『鑑定』。
俺も欲しい。
「ま、間違いなくドラゴンの牙、です」
「マジもんかよ・・・」
アズルさんが絶句している。
え、この世界でドラゴンてそんなに手強い相手なの?
一日に百匹くらい倒し続けてたんだけど。
オーガの素材位にしておけばよかったかな。
だけど、そこそこまとまった金がないと宿代が払えないじゃないか。
「これ程上等な物になると、五百万ルピンはしますね」
「それって高いんですか?」
「高いですよ! って、ああ、セイマさんは記憶がないんですっけ。そうですね。この街で働く人の平均月収が十五万から二十万ルピンくらいですので、相当高いです」
え、マジで。
じゃあ、あの『ルピン』て、そのまま円とたいして変わんない金額なんじゃないの?
つまり、五百万円(適当)
「因みに、これからセイマさんの泊まる『うさぎの草』は一泊五千ルピンです」
それならしばらくはそこでのんびり暮らせそうだ。
「困りました。そんなまとまったお金はギルドにはありません。セイマさん。この牙はこちらでお預かりしますので、しばらくお金は待ってもらっていいですか?」
「あ、それは構わないんですが、少しでも貰えませんか? 今手持ちが無いもので」
「ああ、そうなんですか。じゃあ、十万をお渡ししますので、取り合えずこれで宿を取って下さい」
「助かります」
そう言うと、セーラさんは、受付の後ろにある金庫から何やら硬貨を取り出して俺に手渡した。
「はい、十万ルピンです」
ほお、この硬貨がルピンか。
紙幣は流石にないのか。
俺はそそくさとそれを次元収納袋にしまった。
よし、これで宿に泊まれるぞ。
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