セイマ対アズル2
アズルは今、深い泥沼の底にいるような感覚を味わっていた。
なんだ、なんなんだこいつは?
最初は軽くあしらってやるつもりだった。
だが、いくら剣を振るってもこいつはまるで揺るがない。
本気になってみてもそれは変わらなかった。
死に物狂いで剣を振るっても涼しい顔をしていて、まるで雲を掴むかのように実態が見えてこない。
こんな相手は初めてだった。
嫌でも理解してしまう。
あまりにも実力差があり過ぎる。
差があり過ぎでどの程度の力量か全く推し量ることが出来ない。
どんなに振るっても振るっても柳を相手にするかの如く、軽く流されてしまう。
悔しまぎれに攻めろと言ってやったが、攻めてきたら攻めてきたで防ぐのが精いっぱいになって他の余裕がまったくなくなる。
それでも理解できることがあるとすれば、こいつが本気で攻めてきていないということだ。
わざと木刀の上に叩きつけるように振るってくる。
これだけ乱れてしまえば、隙をつくくらい簡単なことだろうに、ガードの上からしか攻撃してこない。
そうでなければとっくに終わっている。
と、セイマと名乗った男は、距離を取り、終わりでも構わないかと言ってきた。
屈辱だった。
まるで相手にされていなかった。
こっちが汗をかき、息が上がっているというのに、あちらは呼吸が全く乱れておらず、汗一滴とてかいてはいない。
体力面においても、自分は足物にも及んでいない。
悔しい。
だが、それ以上に見てみたい。
この男の本当の実力を。
それが剣士としての自分の願いであった。
「お前、全然本気で戦ってねえな?」
「え、いや、そんなことは・・・」
「とぼけるな! ふざけてんのかてめえは!」
セイマは気まずそうに、頬をかきながら返答に窮している。
「まあいい。強者は爪を隠すというからな。だが、それじゃあ合格を出すわけにはいかない」
「えっ」
セイマは分かりやすく動揺して見せた。
ちょっと気持ちが良くなる。
「本気で来い。そしたら合格にしてやる」
アズルは構えを取って、セイマに催促した。
セイマは考えるそぶりを見せたが、その後で小さく頷く。
「じゃあ、ちょっとだけ」
セイマが構えを取った。
それだけで、アズルは完全に呑まれた。
空気が重い。
この稽古場はこんなにも狭かったか?
息苦しい。
周りの連中もそれは同じ様で、皆が同様に汗をぬぐって唾を飲み込む。
汗が滝のように吹き出し、それが酷く冷たい。
服にびっとりとくっつき気持ちが悪い。
誤りだった。
これ程の実力者だとは流石に想像外だ。
カタカタと震えが来た。
「じゃあ、いきます」
息を呑む。
片時も目を離すまいと思っていたら、突風が吹いた。
セーラのスカートがはためき、後ろに抜けて行った。
同時に、木刀が自分の首元にピタリと当たっていた。
「---!」
まったく知覚出来なかった。
眼で追うことも、気配を探ることも出来なかった。
気が付いた時には、木刀が首元にあったのだ。
もし、仮令それが木刀であろうとも、もし首に到達していれば……。
そう考えた時、不覚にも小便をちびりそうになった。
誰もが言葉を飲み込み、その有り得ない現実に呆気に取られている。
「これでいいですかね?」
「・・・・・・・・・あ、ああ。合格、だ」
セイマは木刀を引き、ゆっくりと降ろした。
*********
「・・・今の、見たか?」
「いや、見えなかった」
「なんなんだよ、あいつは・・・?」
皆注目しちゃってるよ。
まいったな、目立たない作戦見事失敗じゃないか。
だが、本気を出さないと失格って言われちゃったし、かと言って本気で本気を出すわけにもいかないから、加減はしたけど、それでもこれか。
もうさっさとここから離れたほうがいいな。
「じゃあ、試験結果はどうなるんでしょうか?」
俺はセーラさんに尋ねると、彼女はぼーっとしていて返事が返ってこない。
「あのー、セーラさん?」
「・・・あ、は、はい! これから筆記テストと合わせて支部の方で採点しますので、セイマさんは一緒に来てください」
「はい」
うん、さっさと離れよう。
俺は急いでセーラさんの後に続く。
「・・・俺も行く」
あ、アズルさんも来るの?
この人も報告に行くのかな、今「合格」って言ったけど。
俺達三人はギルドに戻ると、セーラさんは先程俺が筆記テストをした部屋で俺を待たせ、採点するから待つようにと言って出て行った。
うーん、大丈夫だとは思うけど、筆記テストは全然自信ないな。
でも、魔法もアズルさんとの試験も及第点は貰っているはずだから、きっと大丈夫。
大丈夫なはず、だ。
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