手加減
「凄いですね。的を破壊してなお、壁をへこませるほどの威力の水弾を使うなんて」
お姉さんは手をぱちぱちと叩きながら称賛した。
「い、いやー、それ程でも」
俺は頭をかいてお道化てみせた。
周りを見ると、何人かが俺を見ており、口笛でヒュ~、なんて吹いてる奴もいる。
ちょっと目立ったかな。
だが、際立って目立っているって程じゃない。
これがベストだ。
「いいですね。セイマさん。優秀ですよ」
「そうですか?」
「はい。それじゃあ、魔法の試験は終了です。最後に試験官との模擬戦です」
お姉さんに促され、俺は隣の施設にやって来た。
そこは稽古場のようで、何人かが、稽古をしている様であった。
受付のお姉さんが美人だからか、俺が変に目立つのか、チラチラ視線を向けられながら、お姉さんは一人の男の元へと向かう。
「アズルさん。冒険者志望の方をお連れしました」
「む」
椅子に座って休んでいる男。
歳は三十くらいかな。
身長は百七十の俺よりもちょい高いくらい。
引き締まった筋肉は見事で、近接タイプの人間かな?
「おお、セーラ。冒険者志望ってこいつか?」
「はい。セイマさんです」
ほぉ、受付のお姉さんはセーラっていうのか。
アズルと呼ばれた男は、ジロジロと品定めする様な視線を俺に向ける。
「ほう。鍛えてるな。締まった身体してるじゃねーか」
「どうも」
「試験官のアズルだ。セーラに聞いているかもしれんが、今から俺と立ち会ってもらうぜ。もし負けたとしても見込みがあれば合格だ。簡単だろ?」
「負けてもいいんですね?」
「ふっ、俺もB級冒険者よ。ひよっこには負けねーよ」
B級、ね。
ランクのこと、今聞いておこうか。
「冒険者のランクってどうなってるんですか?」
「あ? セーラ、説明してないのか?」
「はい。合格したらお話ししようかと思ってました」
アズルさんはセーラさんに視線を向けて尋ね、セーラさんはほんわかと答えた。
「ふん。ま、ここで教えても問題ないだろ。てか、お前も冒険者のランク位知っておけよ。冒険者志望なんだろ?」
「すいません」
怒られてしまった。
まあ、本当ならそうだよな。
でも、俺はこの世界に来たばっかりなもんで、すいませんね。
「冒険者は下がEランク、D、C、B、A、Sと六段階ある。Bランクは中堅よりも上のベテランってポジションだな。俺はそのBランク。このランクになると周りから一目置かれるぞ」
なるほど。
なら、俺はEランクからのスタートってことか。
がんばらねば。
「お前、その体、近接戦闘タイプだよな。獲物は何使ってる? って、それは剣か?」
アズルさんは俺の持っていた天羽々斬に視線を向けた。
「はい。そうです」
「見慣れない型の剣だな。この辺りで打ったものじゃねえだろ」
「そうですね。どこで手に入れたかは秘密です」
そうか。
これ、刀だもんな。
西洋風なこの異世界には刀はないのかもしれない。
ちょっと目立つかな?
「ふん。まあいいさ。じゃあ、木刀にするか。これでどうだ?」
アズルさんは木刀が束になっている籠から一本を抜き取ると俺に放り投げた。
手に取ってみると、これは確かに剣だ。
両刃を模している。
振ってみると驚くほど軽い。
いや、本当に軽いぞ。
「どうした? 使えそうか?」
「はい。大丈夫です」
慌てて答えた後に、俺は自分が思い違いをしていることに気が付いた。
いや、この木刀が重いんじゃない。
今まで使っていたこの刀が重いのだ。
筋力を上げ続けた俺に合わせて、老子が重い刀を俺に寄こしたのだろう。
アズルさんも木刀を握ると、訓練場の中に入っていく。
「ちょっと場所空けてくれや。今から試験をするからよ」
アズルさんがそう言うと、周りの連中は面白そうに笑いながら場所を空けていく。
おっと、これって注目されるんじゃないのか?
弱ったな。
皆、俺を見てるぞ。
「アズルは新人でも容赦ないからな」
「あいつ、腕とか折れないか?」
「流石に大丈夫だろ」
「いや、分からんぞ、あのアズルだからな」
なんかひそひそ話してるな。
アズルさんてそんな容赦のない人なのか?
まあ、それを言ったら俺の老子なんて、本当に情け容赦のない人だったからな。
もう俺は慣れた。
ああ、でも、ここではもう、肉体が傷ついても簡単には治らないのか。
死んじゃう世界に来たってことを覚えておかないといけないな。
「構えろよ。小僧」
「はい」
アズルさんは構えを取って俺と向き合う。
その瞬間に解ってしまった、この人の技量が。
ああ、まあ、楽勝かな。




